ようこそ、ナースカフェへ 作:ピラサワ
あと、ヒラサワっぽさを全く出せないのが悔しい。
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歌詞の解釈は独自のものであります。ご了承下さい。
IS学園の食堂、その隅も隅の方にあるこじんまりとした扉の奥にある喫茶店。ワタシの勤務地であり、身や心を疲れさせた方々が訪れる静かなカフェだ。そこでマスターであるワタシは一体何をしているのか?
「全く、一夏の奴はまた……」
「まあまあ落ち着いて下さい」
「分かってはいるのです! ですが、むむむむ……」
絶賛箒さんの愚痴を聞いていた。彼女、少し愚痴が多すぎやしませんかねぇ。基本、重い女性というのは中々好き嫌いが別れるものなのだが、彼は一体どちらのタイプなのだろうか。
……彼の話を聞く限り、周りに重い女性しかいないようではあるが。箒さんを筆頭に、シャルロットさん、鈴音さん、あとは更識姉妹も相当重そうだ。セシリアさんとラウラさんはまだ寛大な方だろう。まだ。
誰も彼もが美人、若しくは美少女であるために傍から見れば羨ましいのであろうが、こうして見ている側としては一夏くんがとても心配になってくる。女難の相でもあるのではないだろうか。
ここまで来るとワタシとしても全然うらやましくない。まあそもそもワタシは別に鈍感ではないので、ああなることはないと思われるが。
そもそもこんな事をしているのには、ちょっとした作戦があったりする。
名付けて、『(一夏くん)救済の技法作戦』。その初めの標的が彼女なのだ。
▽ ▽ ▽
最近、よく一夏が行方不明になる。いつも留守なので一時間後くらいにまたドアを叩いてみるといつの間にか帰ってきている。何処に行っていたのだと聞いても、
「なんでそこまで俺が教えなきゃいけないんだよ」 の一点張りで全く教えてくれなかった。
怪しい。非常に怪しい。
そう思った私が一夏を尾行し、それを見つけるまでさほど時間はかからなかった。
殆どの人が気づかないような、隅の方にある扉の向こう側。
一夏はそこに通っていたのだ。
どんな女が一夏を誑かしているのかなどと思いながら扉を静かに開けてみると、そこには柔らかな表情で皿を磨いている男性が一人いるのみだった。
「いらっしゃいませ。夜分遅くに珍しい」
「あ……」
「ああ、これはこれは篠ノ之箒さん。こんばんは」
「ええ、こんばんは。あの……」
一夏はどうしてここに? という疑問をそのまま初対面の人間に言ってしまうのはどうにも気が引ける。だが、聞けなかったそれをなんとなく彼は察してくれたようだった。
「ああ、一夏くんですか。彼はよくここにお茶を飲みに来てくれるのですよ。マスターとしては嬉しい限りですねぇ」
「マスター……?」
「申し遅れましたね。ワタシはこの喫茶店『Nurse Cafe』でマスターを勤めさせて頂いております。一応ヒラサワという名前はありますが、どうぞマスターとお呼び下さい」
「分かりました。あの、他に従業員の方はいらっしゃらないのですか?」
「はい。まあご覧の通り狭く静かな空間ですので、他に従業員を雇う理由も特にないのです」
成る程、ということは一夏が他の女に靡いた、などということはまずないだろう。いやそもそもよく考えろ、アイツが簡単に女に靡くか? 小学校の頃から人気があったが、そんな印象など何処にもない。
つまり、私のこの行動はただの空回りだったということだ。
今までの勘違いで少し恥ずかしくなってきた。今すぐにでも帰って寝たい気分だが……。
「取り敢えず、お茶など如何ですか?」
……マスターの言葉に従おう。
「日本茶はあるか?」
「勿論御座います。少々お待ちを」
そう言うとカウンターの奥にある棚、冷暗室だろうか? から一つの筒を取り出し始めた。待っている間にでも落ち着こう、そう思いながら目を閉じた。
暫くして、「お待たせしました」の声。
それに釣られて目を開けると、私の目前には上品な柄をした湯呑みが一つ置いてあった。そしてそれにマスターが急須から茶を流し始める。
とても透き通っているキレイな緑色が湯呑を満たしていく。雰囲気が違うせいか、普段よりもそれはとても美味しそうに見えた。
「では頂きます」
マスターが笑顔で頷くのを合図に一口含んだ。
「静岡県は掛川の『さえみどり』を淹れさせて頂きました。どうです?」
「どうですって……それって確かかなり高いお茶だと思うのですが」
「はい」
「そんな高級品を一生徒に出して大丈夫なのですか……? まあ、兎に角。とても上品な香りがします。渋みが少ないから飲みやすいし、何よりとてもまろやかだ。淡い甘みが落ち着きますね」
「……お家の環境もあるのでしょうが、ここの生徒はやけにお茶に関してのレビューが細かいですねぇ」
「はい?」
「いえ、独り言です。お気になさらず」
ニコリと笑うマスターになんとなく圧されながらお茶を飲み進める。全く飽きがこない味だ。これが高級茶、篠ノ之家で高級茶を淹れていた事も稀にあったが、その時もとても美味しかったのを覚えている。あの時は珍しく姉さんもお茶だけ飲みにきたのだったか。
「そういえば」
と前置きしながらマスターが他所を向いて喋り始めた。
「最近、また一夏くんが傷を増やしていましてねぇ。苛められているのかと考えもしたのですが話を聞く限りどうにもそういった気配も感じない」
「う……」
図星、それも思わずいじめ問題にまで発展しそうになっていた事に気づいて思わずうめき声を上げてしまった。気づいてくれるなと思ったりもしたが、そう都合よくなど行きはしない。
「ほう、何かがあるとは思っていましたが……成る程、そういうことだったのですね」
……第三者にジト目で見られるとかなりの罪悪感が押し寄せてくるものだ。だが、そもそも一夏に問題があるだろう。少し目を離せば他の女に囲まれて……全く!
なんてことを思っていると、いつの間にかマスターの目はハッキリとこちらを向いていた。
「箒さん。お聞きしますが、男性が女性を殴るのは果たして許されるでしょうか?」
「許されるわけがないでしょう!」
……いきなり何を当然の事を言っているのだこの人は?
「そうですね。では、女性が男性を殴るのは許されるのですか?」
「……っ」
一瞬、返答に詰まった。
当然だ。同じく許されるハズがない。だが、もしそう答えてしまえば私自身がその許されない事をしていることになってしまう。
そんなプライドが邪魔をして、「許されない」と口に出すことが、出来なかった。出たのは誤魔化そうとする浅ましい言葉だけ。
「……それは、でも!」
「どのような理由があるにせよ、暴力はいけません。感情を爆発させる度に手が出るようでは、それは男性女性以前に人として問題アリ、です」
「別に誰彼なく手が出るわけではありませんっ!」
「彼なら許されるのですか? 彼なら殴っても蹴っても良いと考えている、そう判断させて頂いて宜しいのですか?」
何も返すことが出来ない。
「貴女が学んだ篠ノ之流というのは、想い人に対し気に入らないことがあると暴力に走ることを許す流派だったでしょうか」
反論すら許してくれない。
「勿論、貴女のお気持ちも分からなくはありません。時は全ての人に波を立て急激な勢いで襲ってきます。いつの間にか皆が大きくなっている。全てが変わっている。特に白騎士事件があってから、時間というものはまさに津波となりました」
「…………」
「政府保護プログラム、でしたか。あれにより心の拠り所を失った事、事件に身内が関わっている事。ええ、貴女は激動の人生を送っている。それも、中々生きづらい人生を」
と、ここで一つの疑問が浮かんだ。
何故この人はこんなに沢山の情報を持っているのだ、と。
だが、そんな思考を目の前の彼は許してはくれなかった。
「ですがそれは、彼を殴る理由にはなりません」
そして、気配が変わった。殺気が生まれた。寒気がするくらいのソレに思わず呑まれそうになる。
「オマエはただの
オマエの力は何の為にある? 何の為に力を得たのだ?
自らの信念の元に力――Forceは使われるべきなのだ。決して
チカラとは責任だ。大いなるチカラには大きな責任が伴う。
撃たれた鳥のような優雅さを忘れてはならない」
「撃たれた鳥、優雅さ……?」
最後の一文だけが分からない。
撃たれた鳥。恐らく鉄砲か何かだと考える。だが、優雅さとは何だ?
思考に没入したいのに、胸を打つマスターの声がそうさせてくれない。
雰囲気が、そうさせてくれない。
「オマエの舵を取るのはオマエだ。
どの道に生きるのか。何を成そうと努むのか。
全て、オマエが決めなければいけない。
だから舵を取れ!
オマエが目指す自身になれるように。
舵を取れ!
オマエの憧れへ追いつくために。
舵を取れ!
誤った行き先から針路を変更する為に。
――――そして最後に、正しくあれ。
どれだけ失敗しようとも。どれだけ悔いようとも。どれだけ妬んだとしても。
オマエが望む未来は、まだ遠い。だからこそ、負の感情に操られてはならないのだ。操られれば操られるだけその未来は遠くなる。決して訪れなくなってしまう可能性もある。
オマエの想い、オマエの信念。オマエの苦しみ、喜び、哀しみ。
無限に道は広がっている。オマエを構成する全てが道標になるだろう。
さあ、選べ。オマエたちの目指す未来の為に!」
最後にひときわ大きな声で叫んだかと思うと、そのまま数秒ほど動かなくなった。
私も、動けなかった。
自分に問う。
あの日決めた私の道は何処へ行った?
まだ私は小さな子どものような我儘な想いを彼に向けるのか? 素直になれないままで?
……いや、それではきっと駄目だ。アイツは鈍感だから、このままじゃ一生私の想いは届かない。
だから、まずは私が変わろう。私の舵があるとすれば、今が針路変更の時だ。
私が正しくあるために、正しき力を得るために。
一つ、大きな深呼吸。
そんな簡単なことさえ理解しようとしなかった、私に別れを告げるために。
「…………まだまだ、未熟、ですね」
「はい。ならば、貴女はどうすればよいでしょうか?」
「決まっているでしょう」
やるべき事は決まっている。
「頑張って謝ってきます。私は……その、中々素直になれないですけど。でも、今ならきっと出来る気がするんです」
「ふふふ、そうですか。ではワタシは成功を祈ることにしましょうかねぇ」
頭を静かに下げてお金を払い店を出た。
店に入る前、あんなに腹に溜まっていたドロドロとした怒りは、今では奇麗さっぱりと消えていた。
とても、清々しい気分だ。
そう、今ならきっと素直になれる。マスターにこう宣言してしまったのだから、きちんと有言実行せねばならない。
真っ直ぐに進むのが、私の道の筈だから。
▽ ▽ ▽
「で、今週は何回やらかしましたか?」
「言い方が失礼ですねマスター。0回に決まっているではありませんか」
「一夏くん」
「一回やられました!」
「お、おい一夏!」
その後。まあ、順調に箒さんは暴力に訴えかける回数を減らしている。願わくば0回を続けて欲しいのだが、二、三週間に一回は手が出てしまうようだ、とは一夏くん、つまりは被害者側からの証言。
「なんてことをしてくれたのだ!」「やったのはお前だろ!?」 という言い争いを尻目にグラスを磨く。……うむ、最近ワタシの技術がグングンと伸びている。良き傾向だ。
ま、そんなことより。
「箒さん」
「は、はい……」
「今週は一回との事なので、そうですね……。今日の一夏くんの会計は箒さんに払っていただきましょうか」
その瞬間、一夏くんの目が輝いた。
「マジっすか! じゃあマスター、チーズケーキと前のアールグレイ一つ!」
「ちょ、ちょっと待て一夏。落ち着こう。な?」
箒さんはそんな彼を見て冷や汗を垂らしながら、なんとか宥めようと肩に手を置いた。少し顔を赤らめているのがとても青春しているようで微笑ましい。
「いやー、ありがとうな箒! 俺、嬉しいよ!」
「全然嬉しくないのは何故だ……」
そんなやりとりを目にしながら紅茶の用意を始める。ケーキはすぐに準備出来るが、紅茶は中々難しいのだ。少し時間を掛けたほうが美味しかったりする銘柄もあれば、あまり濃くない方が評判が良いものもある。今回は前者なので、少し早めに準備をする、というわけだ。
最近、鈴音さんからの暴力も減っているという。どうやら箒さんが我慢を覚えたことにより危機感を覚えたようだ。と、これはあくまでワタシの予想。本当の所はどうかは知らないが、少なくとも低い確率ではないと思う。
ともかくこれはいい傾向だ。ただでさえ彼は精神的に大きく傷ついているのだから、肉体的にも傷を増やしていればその内彼は完全に壊れてしまうだろう。本来であれば大人が支えるべきなのだが、不幸な事にその大人が周りには殆どいなかった。彼女は実に難儀したことだろう。いや、現在進行形で難儀しているのか。
箒さんが舵をとる方向は、願わくば彼を支える方向であってほしい。そんなことを祈りつつ準備を進めていると、扉から鈴の音が聞こえた。今日のナースカフェは賑やかになりそうだ。
さて、今日もまた楽しい一日になりますように。
「いらっしゃいませ」
ちょっとした解説とか。
・重い女性
ISのヒロインちょっと重すぎませんかね 束縛激しすぎるのはNG
・さえみどり
今年の取引額がエグい有名なお茶。
・Berserker
適当な和訳。やっちゃえ!
・チカラ
なんでも出来ると思ったら大間違い
・なんでマスターは箒の家庭環境知ってるの?
マスターだから
・なんでマスターは色々と一夏に気をかけてるの?
肉体的にも精神的にも彼を守るため。あの環境で羨ましいとか思えるのは馬鹿だけだと思います。誰も男友達がいない学校とか冗談でもワタシは行きたくありません。
使用曲:BERSERK ~Forces~
作者コメント:ステルス某といえばコレ! という曲に挙げられる一つだろう。正直ここで使うか織斑姉で使うか悩んだ。でも何時迄も(暴力系ヒロインじゃ)いかんでしょ、とのコトでこれを採用。
使用曲その2:舵をとれ
作者コメント:上の元ネタ。ニコニコ動画に挙がっていた動画になんかいいMADがあったはず。