ようこそ、ナースカフェへ   作:ピラサワ

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 原作ヒロインが多すぎて色々と追いつきません。ファッキュー弓弦

 という事でおやすみ回です。

 
 お気に入り登録をしてくださった方、読んで下さった方、何時もありがとうございます。ゆっくりとした更新になりますが、どうぞお付き合いくだされば、と思います。


 また、歌詞については独自の解釈を含みます、ご了承ください。

 今回、時系列的には一話よりも少し前。


織斑 千冬①

 IS学園には門限が存在し、それ以降部屋の外を出歩くことは原則として禁止されている。通路には日々学園の教師たちが交代制で見回りを行っており、またその教師の中でも最もこの見回りをしている事が多いのが……。

 

「来たぞ、マスター」

 

「いらっしゃいませ」

 

 目の前にいる、第一回モンド・グロッソの優勝者である織斑 千冬さんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、随分と久しぶりの気がするな」

 

「そうですねぇ。お仕事の方は大変そうで」

 

「全くだ。今年の入学生も私を見るなりキャイキャイと喚き出すし……あれが若さなのか」

 

「いえいえ、あれは一流芸能人を見た時のギャラリーのようなものでしょう。先生はまだまだお若いですよ」

 

 唐突に雰囲気が暗くなった彼女に、慌てて声をかける。このまま酔われると実に面倒だからだ。普段から冷静であるように心がけているワタシであるが、彼女の悪酔いした時だけは必死にならねばならない。

 

「今はプライベートだ、()()

 

 ……全く。この人の仕事とプライベートの切り替えスイッチはどれ位のスピードで押されているのか。毎回毎回被害にある一夏くんとワタシ――いや、私の身にもなってもらいたいものだ。

 

 

 

 

 

「はいはい、分かりましたよ、せん……じゃなかった、千冬さん」

 

 

 そう、私にとって彼女――千冬さんは中高においての先輩であり、私がここで働くことになった切欠になった、そんな存在なのだ。良い意味でも、悪い意味でも。

 

 

 

「何を飲みますか?」

 

「ビールだ。プレミアムモ○ツを頼む」

 

「ここにはもっといいお酒があるんですがねぇ」

 

 もっと頼むものがあるだろうに。日本酒やワインは良いものを揃えているのだが、私はビールだけはどうも好きになれない為にどうしても手を出せずにいる。マスターとして、出来るだけ美味しいものをと考えながら様々なお茶やお酒を味見して仕入れる品を選んでいる私だが、どうにもビールには疎い。

 

 前に「中々ここには売られていないようなモノを仕入れてみよう」と考えてナギサビールや網走ビールの商品を仕入れてみたのだが、目の前にいる先輩に、

 

「プレミアム○ルツの方が美味いな」

 

 と断言された記憶があるため今ではビールはそれしか仕入れていない。

 

 

 決して拗ねてなんかいない。

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

「ああ。…………ッぷはぁ! やっぱりプレモルは最高だな!」

 

「一応サントリーから独自ルートで仕入れてますからねぇ」

 

「お前のコネは相変わらず謎だな……まぁいい、私が美味いビールを飲めているんだ、許してやる」

 

「……千冬さん、中学校の頃の暴君スタイル復活させたんですか?」

 

「あの頃の事は忘れろ!」

 

 付き合いが長いと、世界最強と呼ばれる女性の弱みなんかも握れることもあって中々悪くない。理不尽な要求に襲われることもあるが……まあ。

 

「まったく……」

 

 顔を少し赤らめ、目を逸らしながらビールを飲む千冬さんを見られるだけで私にとってはプラスなのだ。

 

 

 

「お前は今年もあの訳の分からない言葉を使うつもりなのか?」

 

「使うときが来れば使いますねぇ」

 

「そうか……」

 

 何故彼女は私の言動に気を遣うのか。これには理由がある。

 

 そもそも私が「ワタシ」を始めたのは十中八九この人のせい……というのは悪いか、切欠になったのは確かではあるが。まあ、事情が事情だったということだ。

 

 そしてそれを千冬さんは未だに気にしている節がある。というか間違いなく気にしている。この人の良くない癖は他人には頼れと言う癖に、自分は悩みや苦しみを一人で抱え込む所だ。そして先程目を逸らして恥ずかしそうにしていた顔は、今は少し落ち込んでいるようにも見える。

 

 ……こういうのを無視できないのは、私の悪い癖なのだろうか。

 

「それで、今回はどうしたんですか? 私で良ければ聞きますよ、今夜は他に誰もいませんし」

 

「……悪い」

 

 彼女は少し、甘えることを覚えるべきだ。環境が環境だったとはいえ、今ではきっと一夏くんも成長しているだろうし、周りに友人もいるのだから。それでも甘えられないのなら、私が甘やかす。

 

 やっぱり私も千冬さんのファンなのだなあ、としみじみ思わされる。

 

 

「……一夏がここに入ってきたのは聞いているだろう?」

 

「勿論。あの時は私も大層驚いたものですから」

 

「そうだ。あいつはISを動かしてしまった。奴が言っていた"ISには意志がある"という話から考えると、もしかすると初めにISに乗った私のせいで一夏も巻き込まれたんじゃないかと思うと、な」

 

 そう語る千冬さんの顔は赤らんではいるものの、暗い。今すぐ励ましたい思いもあるが、それはカウンセリングとしては悪手だ。

 

「成る程」

 

 まずは最後まで話を聞くこと。後悔や思いを全て吐露させた上でどうするかを考える。

 

 マスターの基本だ。

 

「それに」

 

「?」

 

「初日から、他の奴らが見ている前で思い切り頭を殴ってしまった」

 

「…………」

 

 それはちょっと貴女が悪いんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 その後も様々な話を聞いた。

 

 一夏くんになにもしてやれていないこと。

 

 頼れる友人がいないのにも関わらず放り込んでしまったこと。

 

 委員会の介入を阻止しきれなかったこと。

 

 他の人に素直になれないこと。

 

 

 全てを吐き出した時には、千冬さんはもうかなり酔っていた。

 

「随分溜め込んでいましたねぇ」

 

「…………悪い」

 

 ああ、全く。

 

「本当に、貴女は悪い御人だ」

 

「え……?」

 

「そんなところで謝られては許す以外ないではないですか。そうでないと、私はまるで悪人のようだ」

 

 そんなに悲しそうな顔をされては、笑って許す事しか出来ないではないか。

 

「一度責任を感じるとすぐ溜め込んだり謝ったりするのは貴女の悪い癖ですよ。

 

 私が聞きます。私が許します。だから、あまり自分を傷つけないで下さい」

 

「……しかし」

 

 ……少し、焦れったい。とっとと了承してくれればいいのだが、この人はどうにも頭が硬すぎる。こういう時は『ワタシ』の出番だ。

 

「大体、一夏くんはちゃんと分かってますよ。自分が、貴女に護られながら育ってきたことくらい」

 

「だが」

 

「彼が自分で言ってるんですから。ふふふ、こういう情報を得られるのは同性の強みですねぇ。まぁそれは兎も角。一夏くん、昔はこんな事を言ってましたよ。『何時か、千冬姉を守れるくらい強くなるんだ! 』」

 

「っ!」

 

「『俺はガキだからまだ護られてばっかだけど……でも、強くなる! 強くなって千冬姉に「今まで護ってくれてありがとう、これからは俺が守るよ」って言うんだ!』……と」

 

 これを聞いたのはもう何年も前だったし、ワタシはあの時と髪の色も雰囲気も違うから、彼はきっと暫くワタシには気づかないだろう。初見で見破れたら褒めてあげよう。

 

 さて、ここからだ。

 

「貴女は不思議な鏡なのです」

 

「……鏡?」

 

「ええ。影絵のようにも、月明かりのようにもなれる不思議な鏡。

 

 影絵は教えます。空の飛び方を。

 

 月明かりは教えます、夜の歩き方を。

 

 貴女のお陰で一夏くんは熱血漢な子に良い子になり、ワタシはこうして夢を叶える事が出来ました。ワタシ達は二人共、貴女という鏡、いえ……鑑を見て歩いてきたのです」

 

「……」

 

 彼女は何も話さない。今のワタシを知っているから。

 

「一夏くんが貴女を護るのなら、ワタシは月明かりになりましょう。

 

 貴女の道は霧一面の獣道。険しくて厳しい、孤独な道。

 

 だからワタシが照らします。獣道を抜け、幾つもの世界、幾つもの光が見られるように。

 

 雲を超え、霧を突き抜けて。

 

 貴女を良き道へと導けるような、そんなマスターとなりましょう。

 

 その後は貴女の弟が一緒についてきてくれる。

 

 護ってくれる。

 

 そして辿り着いた暖かな光の中で、ワタシ達は貴女に言うのです」

 

 

 

 

「『おかえりなさい』と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか」

 

 

 反応はたった一言。

 

 

 

 

 

「…………」

 

「ふふ」

 

 

 

 

 笑いに混じった、震えた声。

 

 

 

 それを聴いた時、私の瞳は自然と閉じられた。

 

「まったく、みじゅくもののくせにくちだけはたっしゃだなあ」

 

「ふふふ、すみません」

 

 下を向いて顔を隠す千冬さん。勿論私はそれを見ようとはしない。

 

 ここはナースカフェ。弱音も怒りも、全て吐き出せる場所。ここで私が干渉すると、きっとこの人はまた強がってしまう。

 

 だから、それが終わるまで。

 

 私はそっと、お茶を出した。

 

 

 

 

 暫くして、顔を上げた千冬さんはお茶を飲み始めた。まだ少し目元は赤いが、もう大丈夫だろう。

 

「すまな……」

 

「ストップです」

 

 迷惑を掛けてすまなかった、そう言いたかったであろう彼女の言葉を止める。私はこの人にこの場所について話しているはずなのだが。

 

「また謝ろうとしているじゃないですか。こういう時はお礼を言えばいいのですよ」

 

「お、お前! 私がそういうのが苦手だって……」

 

「知ってますよ」

 

「んなっ」

 

「ふふふふふ」

 

 そう言って笑ってやる。

 

 こうすれば、彼女は怒って私を殴る。それできっと元通り。全てを悟り、目を静かに瞑る。

 

 

 

「……全く」

 

 

 

 

 

 

 だが、予想していた一撃は何時までたってもやって来ない。

 

 訝しんで少し目を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには怒りの形相を浮かべた鬼の先輩の顔はなく。

 

 

 

 

 ただ、少しぎこちない、笑顔があった。

 

 クールな笑みではない、にこやかに笑おうとしている不格好なソレは、だがしかしあの時と同じ感覚を受けた時のもの。

 

 まるであの時と変わらぬ美しいもので。

 

 

 

 

「ありがとう、シン」

 

 その声はとても小さかったけれど。

 

 だけど。

 

 

 

 

 

 ああ、どうしようもなく私は彼女に惹かれているんだなあ、と。再度確認させられるような、ふんわりとした柔らかいものだった。

 

 




 実は、このヒラサワとかいう男。オリ主なのです。


 ちょっとした解説とか。

・千冬と平沢
本文の通り、先輩後輩の関係だった。ついでに部活も一緒。
更に言うなら練習の時は良く打ち合いを続けていた。平均1時間くらい。

・平沢のキャラブレブレじゃねえか
平沢はあくまで「ヒラサワ」を演じているだけです。あんなやべーオッサン(平沢進氏)をそのまま描写できる訳ないでしょう。

・プレモル
 美味いらしい。作者はアルコールに弱いので飲んだことはありません。

・マスターの基本
 カウンセリングはマスターの必須技能

・あの時
 どの時やろなあ

・シン
「ヒラサワ シンイチ」→シン  彼と仲のいい連中はこう呼ぶ事が多いらしい

使用曲:魂のふる里
作者コメント:本当はForcesを使いたかったのだが、前話で使ってしまったので話のムードとも合うこれを使用。ヴァイオリンの旋律がキレイで落ち着く曲調です。今回は楽に分かるのではないでしょうか。

 次回誰にしようかは未だ不明。馬の骨、早くもネタ切れ説。
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