ようこそ、ナースカフェへ 作:ピラサワ
暗い曲が多すぎて明るいムードに持っていくのが難しいです。
お気に入りに登録してくださった方々、読んでくださった方、ありがとうございます。ヘボ文章の馬の骨ですがこれからもひっそりと、ステルスな感じでやっていくので宜しくお願いします。
IS学園の食堂。
その隅には、生徒の殆どが知らない喫茶店がある。
何故か気づかない不思議な扉。
IS学園内でも生徒や教師の一部しかそれを知ることはない。況やIS学園外の人間でこの喫茶店を知るものはほぼ皆無と言っていいだろう。
……ただし、ごく一部を除いて。
扉が乱暴に開かれ、唐突に現れた一人の女性。
「やあやあやあやあ! シンくん、今日も元気にやってるね!」
「…………貴女はまたセキュリティを抜いてきたのですか、元気ですねぇ」
『私もいますよ、進一様』
「マスターと呼んで下さいと言っているではないですか」
彼女(たち)こそが、そのごく一部である。
そしてそのごく一部は唐突に表れるのがまた質が悪い。ちゃんとアポイントメントを取るべきではないのだろうか、社会人として。
いや、社会人……? まあ、博士だから社会人だろう。
兎も角、そんな彼女とはこれまた学校の先輩に当たる。千冬さんと違いれっきとした接点は無かったものの、ある時から色々とちょっかいを掛けられるようになった。なってしまった。
そんな彼女が言うには、「凡人の癖に狂ってる。狂ってる癖に凡人でいられる。キミは頭がおかしいよ」。
なんて失礼なのだろうか。ワタシは自らを凡人であると認めたことはあっても狂ってる等と思ったことは一度もないのに。
閑話休題。
さて、そんなごく一部である彼女たち。篠ノ之束さんとクロエ・クロニクルさん。
天才はどこか頭のネジが一本抜けている、などという話を聞いたことがあるが、彼女の場合は一本どころではない。多分十本くらいは抜けているのではないだろうか。
そんな話を千冬さんにしてみたら、「奴に関して真面目に考えたら負けなんだ」とのこと。それ以来、彼女に関してはあまり考えないようにしている。
「儲かりまっか?」
「いえ、そんなに。如何せんここ、目立ちませんしねぇ」
「むー……相変わらずシンくんは面白くないなあ。ここは『ぼちぼちでんな』って言うのが定石でしょ?」
「ぼちぼち程も儲かってないからなんですよ。それに」
「それに?」
「初見様が少なくとも、リピーターのお客様が多いのでそれでいいのです。これも一種のステルスメジャー、ですよ」
*
「んー、やっぱシンくんの煎れるお茶は美味しいね! まぁ箒ちゃんのお茶のほうが美味しいんだけど!」
「ありがとうございます。以前に箒さんに好評だったお茶を淹れてみました」
「さっすが分かってるぅー!」
『さえみどり』を少し箒さんに譲ってみた所、一夏くんからも高評価だったとか。喜んでくれて何よりである。
その姉である束さんも美味しそうに飲んでくれているようで良かった。一方、こちらに来ていないクロエさんは少し不満顔に見える。
「……少し茶葉を渡しますので」
『いえ、私はヒ……マスターの煎れたものを飲みたいのです』
少しだけ表情が明るくなるかと思いきや、直ぐに元の不満顔。やれやれ、やはり子供は難しい。
「……タンブラーでよろしいですか?」
『はいっ!』
普段はポーカーフェイスを心がけているらしい彼女だが、こういった所は年相応だ。感情の発露がないと子供の発達に悪影響が出ることがあるため、彼女にはもう少し喜怒哀楽を表に出してもらいたいものなのだが。
「それで、人気者の貴女がどうして夜更けにこんな所へ?」
「自分でこんな所って言う辺り、実にシンくんっぽくていいね! そんで、目的だっけ?
――――――昔話でも一緒にしようかなあ、ってさ」
▽ ▽ ▽
思えば、彼は最初から奇妙な人間だった。
私がいくらちーちゃんから彼を遠ざけようと邪魔をしても、いつの間にか現れて、いつの間にかちーちゃんとお話をしている。
気に喰わなかった。あんな男がちーちゃんと仲良くしている所が。
だから何時かは忘れたけど、兎に角人気のないトコで待ち伏せたんだよね。
「ねぇねぇ、そこの凡人さん」
「……貴女は確か篠ノ之先輩、でしたか? 何か御用でしょうか」
「まどろっこしいのは嫌いだから単刀直入に言うよ。……ちーちゃんの前から消えてくんない? オマエみたいなのが邪魔すると、ちーちゃんが輝けないんだよ。幸せになれないんだよ。だからさ、消えてよ」
あの時の私は、兎に角この凡人を彼女の前から消すことしか考えていなかった。他の有象無象の雑魚なんかどうでもいい、私と箒ちゃんと、ちーちゃんといっくん。この四人で幸せになれればそれで良かった。まぁ、今でもそれはあんまり変わんないんだけど。
ともかく、もしこれで彼が拒否したなら、多少暴力的な手段を使っても無理やりなんとかしようと思っていた。寧ろ、自分の手で邪魔なやつを消せるのならそっちの方が楽しいだろう、とも。
――――だけどそんな私に対する彼の返答は、酷くあっけないもので。
「はぁ。では部長にその旨を説明して参ります」
これだけ。特に狼狽するでもなく、落ち込むわけでも怒るわけでもなく、ただ淡々と変わらぬ、腹が立つほど優しい声音でそれを言って、とっとと剣道場へと向かっていってしまった。
もっと違うリアクションを期待していた私も、「あっうん」としか言えずにそれを見送って。
なんだか分かんないけどラッキーと思って。
ちーちゃんとの未来図に思いを寄せて。
「あれ、今の剣道部の部長って……あ」
それに思考を巡らせた瞬間、全てを理解した。
「……あぁぁぁぁんの、クソガキイイイイイ!!」
そりゃもう焦った焦った。
だって当時の剣道部部長、ちーちゃんだったから。
そして結局少しも追いつくことが出来ずに企みは崩壊、日の下へ晒された。……私、相当全力でトバしたはずだったんだけど。
目の前には鬼。まさに鬼神。……そして、その後ろには汗一つかいていない、ヤツの姿。
「た・ば・ね?」
「ヒィッ」
「何か言いたいことは?」
死刑宣告を前にして。
「なんであんなに素早いんだよ、雑魚の癖に……」
最後に言い残したのは、奴への呪詛だった。
*
「さて、束。説明してもらおうか」
「だから、さっきから言ってるじゃん! 邪魔なんだよコイツ!」
そんな私に向けて、ちーちゃんは青筋を立てたまま笑顔で此方を向いた。こういう時は本気でヤバイ時のちーちゃんだ。だけど、どれだけ怖くても私は私達の未来の為に張り合うしか無かったのだ。
「ほう…………この部で唯一私と
「そうだよ、邪魔――――――――え?」
今、ちーちゃんは何と言った?
「そうか、そうか」
確か今、ちーちゃんは互角と言った。
アイツが?
あの、凡人が?
「お前はそんなに私の邪魔をしたいみたいだなぁ、束ぇ?」
この規格外と、互角と言ったのか?
「おい、どういう事だよ!なんでお前なんかが、ちーちゃんと互角なんだッッ!」
「束ッ!」
「いやいや、私は織斑先輩と互角などではありませんよ」
どんなに怒鳴っても、彼は全く動じなかった。ただただ平然と此方を向くだけ。それが余計に気に入らなかった。
「はぁ!? この期に及んで何とぼけて……」
「ただ、
いいですか? と生意気にも奴は私の前で人差し指を立てた。その少し気取った動作がもっと腹を立たせる。
「そもそも先輩の剣は雑念のない、澄んでいる剣です。
それはまるで静かな海のよう。
そのリズムに歪みはなく、淀みはない。
不規則の剣技の中にも規則を見いだせる、真っ直ぐな剣。誰にでも出来ることではありません」
当然、親友を褒められて悪い気はしない。それに奴は嘘を言ってはいないようだった。つまり本気でコイツはちーちゃんを褒め称えていたのだ。ここで少し、機嫌を治した。殺さないでおいてあげようかな、程度には。
「当然だよ。ちーちゃんは天才なんだから」
ねっ、と横を向くとちーちゃんは顔を赤らめて「うるさいっ」の一言。
だけど、そんな良くなった機嫌も次の言葉で直ぐに悪くなることになる。
「――そう、天才。だからこそ、私は先輩に対抗出来るのです」
まるで意味が分からなかった。
「相手が天才なら、雑魚が勝てるわけないじゃないか。ちーちゃんなんだぞ?」
「…………人の話を聞く時」
「は?」
「私のような凡人が人の話を聞く時は、話す相手のリズムに合わせて聞くのです。それが出来るからこそ、会話のやり取りは上手く噛み合い、繋げる事が出来ます」
ここで私は、こいつは頭がおかしいのだ、狂っているのだと判断した。いきなり関係のない話をし始めるなんて、私じゃあるまいし。
だけど私は優しいし、何よりちーちゃんの前でこれ以上何かすると殺されそうなので話を促してやる。
「……だから?」
「簡単なことです」
――この時、私はようやく理解した。
「相手のリズムを理解出来れば、会話も剣も変わらないでしょう? 合わせるだけで良いのですから。つまり私はただ、織斑先輩のリズムに合わせているだけなのですよ」
コイツは狂ったんじゃない、元から狂っていたからこそ、狂っていないように見えるんだ、と。
*
「ホント、キミも大概頭おかしいよね」
そんな話をしてみたけれど、この目の前のマスターくんの反応は薄い。というか冷たい。酷いよね!
「貴女は自分の黒歴史を掘り起こすのが本当に好きですねぇ」
「う"……いいんだよ、今は今、昔は昔ってねっ!」
「昔も今も良くも悪くも、本当に貴女は変わっていませんよ」
都合の悪いことを一々考えるのは間抜けのやることなんだよね。そうやってウジウジしてるから雑魚はどう足掻いても雑魚にしかなれない。ヒントさえあれば抜け出せそうなそこそこ頭のいい人間もいるっちゃいるけどね。
ま、勿論そんな事は教えませんけど?
教えるのはいっくんやちーちゃん、箒ちゃんみたいな大切な人達。
「あ、そうだ!」
それと。
「そんなにチンタラしてちゃ、何時まで経っても捕まえられないよ、ハンターさんっ」
彼のように自力で凡人の域を抜けた、結構面白い人間だけだ。
「…………」
「じゃあね~!」
そう言い残してから、黙りこくるシンくんをよそにとっとと退散。ちーちゃんと鉢合わせてもマズいしね。
さーて、帰ったら早速アレの続きだ! 待っててね、箒ちゃん!
「ふ……ふフ、アハハハハハハハハハハハハハ!!」
ああ、楽しいなあ! 世界なんてクソつまんないけど、追いかけっこをするのは本当に楽しい!
シンくん、ちーちゃん、いっくん、箒ちゃん。
速く捕まえに来ないと……ウサギは寂しくて、死んじゃうんだよ?
▽ ▽ ▽
彼女が消えた後。
「フ…………クク」
握りこぶしに力を入れながら、もう片方の手で頭を押さえる。そうでもしないと、この感情の行き場が混ざり合ってしまうからだ。
また、逃げられた。
科学と幻想が入り混じった月のウサギとは、いやはや面白いものもあるものだと思う。幻想ははるか昔、百年以上前に科学に殺された。静かの海でさえも、かぐや姫の諸説さえも、皆科学に殺された。筈だった。
だがしかし、ウサギは生きている。科学により殺されることなく、今、こうして生きているのだ。
……いや、それは恐らく正確ではないだろう。きっとウサギは一度死んだのだ。科学によって、その幻想は消された。
しかしソレは蘇った。「蘇り」は「死からの再生」、そして「死」とは科学によって消滅させられた概念の一つ。つまりウサギは幻想として科学に勝ち、そして取り込んだのだ。それが、彼女なのだろう。
さて。
貴女が科学と幻想に生きるヴァーチュアル・ラビットであれば、私達はそれを追うヴァーチュアル・ハンターだろう。
ウサギを捕まえるためには餌がいる。ならば私が餌となり、あの人が狩人となろう。そして貴女を捕まえてみせる。貴女は私達から逃げ続けてみせる。……そう互いに決めたあの日から、未だに彼女は捕まえられていない。
ああ、笑いが込み上げてくる。あんなに迷惑だったのに、いざ帰ってしまうととても寂しくなるのはきっと、口惜しいからなのだろう。そんな悔しさを思い返すと、何故だか笑いが止まらないのだった。
「またのご来店、お待ちしております……天災様」
何処かで、口笛の音がした。
これからもこれくらい支離滅裂な文章を書いていこうと思いました。
使用曲:ヴァーチュアル・ラビット
作者コメント:某ステルスメジャー氏の中では少し珍しい、軽やかなリズムの曲。ヴァーチュアルといいラビットといい、この曲と言えば彼女しか思い浮かびませんでした。