東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

24 / 48
十六話 過去の少年

side文

 

 

 

 今宵は宴会。先の異変のお疲れ様会に取材半分暇つぶし半分で出席させていただきました。

 今回の異変は、今までの異変に比べて最小規模とのことだったので取材をする価値もないと思ってました。しかし、我らが天狗の里の長であらせられる天魔様曰く『今回の異変は実質的に紅魔異変と遜色ないレベルだった』とのことです。

 最初は信じられませんでしたが、里の情報機関に問い合わせてみると天魔様と同じ答えが返ってきたので、流石に信じるしかありませんでした。

 

 

 異変から三日が経った後、私は一度博麗神社に赴き霊夢さんに今回の異変の事を聞いてみました。

 異変の首謀者は紅魔の吸血鬼の妹さん、正体不明の大妖怪、指名手配中の天邪鬼だったとのこと。異変解決に乗り出したのは霊夢さんを筆頭に、魔理沙さんや竹林の案内人さん、更には寺子屋の先生にあの面霊気だとか。

 

 『流石は霊夢さん!相変わらず仕事だけは上手いですね~ 』

 

 みたいなノリで冷やかしてみたのですが、私の冷やかしは蚊を叩くかの如くあっさりと無に散ってしまったのです。なにせ―――

 

『バカじゃない文?今回の異変解決者は私じゃないわよ』

 

『へ?』

 

 私は霊夢さんの返答に驚いていまい、ついつい間抜けた声をだしてしまったのです。

 しかし、霊夢さんでなければ一体誰が異変を解決したというのか。私は霊夢さんではない異変解決者に少しばかり興味が湧き、霊夢さんにその異変解決者を聞いてみたのです。返って来た質問の返答は。

 

『大体一週間くらい前に幻想入りしてきた外来人よ』

 

 私はその言葉に更なる興味が湧かされてしまったのです。ていうか、それは最初に言って欲しかったですね。

 

これまでの長い幻想郷の歴史の中で、外来人などさして珍しくもない。何せ紫さんの遊び心で月に数人くらい幻想入りさせられているのですから。

 だが、そんなものは問題ではない。問題なのは、その外来人が異変を解決してしまったということです。こんなの幻想郷始まって以来一度も無かったことなんですから。

 しかも、その外来人の方はとんでもない強さの持ち主らしく、異変解決のエキスパートである魔理沙さん相手に圧勝してみせたのだとか。

 

 しかし私には少し気がかりな点が一つ。それは――――それ程の実力者を、何故紫さんが何もせずに放置しているのか、ということです。

 

『何故紫さんはそんな方を放置しているのですかね~?』

 

『さあね…………ただ、紫が言うにはその人……その気になれば幻想郷を破壊できるそうよ?」

 

 あの瞬間―――私の体内時計が数秒ほど止まってしまいました。頭が、脳が、意識がその一瞬だけその言葉の意味の理解を拒んだのです。

 幻想郷を破壊……なるほど、それで紫さんは敢えて放置という手段をとっているんですね。むやみに刺激すると幻想郷を消され兼ねない。

 私がもし紫さんならきっと同じ手段をとっているに違いありません。それに、あの紫さんが意味のない冗談を言う筈がない。だとするならば、きっとその情報は正しいのでしょう。そしてこの事は絶対に口外しないようにしましょう。幻想郷全土でパニック状態なんてシャレになりませんし。

 

 正直パニック状態は観てみたいですがね?

 

 

 

 そして実際にその外来人に会ってみると―――なんのことはない、ただの気さくで面白おかしな人間の少年でした。少年だったのはビックリしました。

 百聞は一見に如かずとはこういった事を言うのですね。

 

 ただ一つ気掛かりなのは、彼からは何の力も感じないということですかね?本来人間であるならば、少なからずその身に霊力を内包している筈ですが、この人からはそういったものが全く感じなかったのです。

 

 何故なのでしょうね?とても気になります。

 

 

※※※

Side乖離

 

 

 

 

 射命丸文と言う名の鴉天狗が来てからといもの、俺はその文によってずっと取材(尋問)を受けていた。内容は色々とあるが、代表として挙げるならば―――

 

 身長体重の事。

 住んでる家と場所の事。

 毎日の朝昼晩の御飯の事。

 好きな人はいるかどうかの事。

 結婚はしたいかどうかの事等々。

 

 挙げていけばキリがないが、大体こんなものだろう。正直こんなつまらんことを聞いていて面白いのだろうか。俺なら絶対飽きるだろう。―――だが何故だろう?文がしてくる質問(特に女性関係の事)を紫と藍が逐一手帳に書き込んでいる。俺に対する嫌がらせかなんかだろうか。

 

 そんなことを考えていると、文から次の質問が飛んできた。

 

「乖離さんは幻想郷に来る前は、何をされていたのですか?」

 

「隠居……」

 

「はい?」

 

 はい?じゃないよ。俺は事実を言ったまでだ。実際に俺はこの幻想郷に来る前は隠居生活を貪っていたのだから。それとぬえさんや、クズを見るような目はやめてくださいお願いします。

 

「え、えっと……隠居ですね。……ん?隠居って事は、隠居以前は何をしていたのですか?」

 

 これは中々に痛いところ突かれてしまった。確かに隠居ってのは、仕事を辞めて静かに暮らすことでもある。まあ、答えられない訳でもないし別に俺は構わないのだが―――

 

「文……それ以上の深入りは許さないわよ」

 

 俺は別にいいとしても、紫はそうではないらしい。その証拠に、先程まで楽しそうだった顔が嘘のように変わっていたのだから。

 

「え?ど、どういうことですか紫さん!?」

 

 文は少し怯えたように紫に聞き返すが、紫の返答は簡素はものだった。

 

「あなたは知らなくてもいい事よ……」

 

 紫の威圧に流石の文も渋々ではあるが、諦めたようだ。俺としては別に知られたからどうということでは無いのだが、何故紫はそんなにあの事(・・・)を隠したがるのか俺には分からなかった。紫にも紫なりの考えがあるって事なんだろうか……。

 文が諦めて手帳を仕舞おうとした時、話題を掘り返えさんとする声がした。その声の主はレミさんだった。

 

「何よつまらないわね。折角の宴会なんだから別にいいじゃない?」

 

「興味本意などで聞いていい話ではないと言っているのよ」

 

「それを決めるのはあなたではなく乖離じゃないのかしら?」

 

 レミさんの言うように、確かにその通りだ。あの話をするもしないも俺次第。だが、おそらく紫が皆にアレを知られまいとしているのは、ソレを話した後俺が幻想郷の()になるのを恐れているからなのかも知れない。無論俺からは幻想郷の敵になる気はないが、必然的にそうなりうる可能性があるのは否めない。

 

 紫とレミさんのいがみ合いを見ていると、後ろからまた誰かの気配を感じた。

 確認の為振り返ってみると、両手一杯の宴会料理を持った妹紅が帰って来ていた。

 

「妹紅じゃないか、もういいのか?」

 

「ん?ああ、慧音達の事か。慧音は子供達を連れて先に帰ったよ?それより……なにあれ」

 

 妹紅はワーキャーと喚き合う紫とレミさんを見つめながら、呆れるように聞いてきたので事の顚末だけを簡潔に説明してやった。

 

 

 

「なるほど、取材でねえ」

 

「そう。それでああやって喧嘩してんのさ」

 

 妹紅は机に置いた宴会料理を食べながら俺と一緒に二人の喧嘩を観賞していた。その間他の皆は紫とレミさんの仲裁に追われていた。

 そんな中、妹紅は小さく俺に呟いた。

 

「……私も、乖離の過去を聞いてみたいかな」

 

「そうか?なんの面白みもないと思うぞ?」

 

「場の賑やかしにね」

 

 そっちだったか。しかし妹紅、アレを話すとなれば賑やかしではなく、逆に場が冷めると思うのだが。まあ、レミさんに従って折角の宴会の席なのだから、話しておくのもまた一興だろう。

 そう決めた俺は、今も喧嘩をしている二人の仲裁に入る事にした。

 

「はいお二人さん、その辺にしときなさい。周りがビビッて逃げちまうだろ?」

 

 俺が声を掛けると、さっきまで随分と喚き合っていた二人がまるで嘘のようにピタリと喧嘩を止めた。

 これで少しは大人しくしてくれると信じ、俺は文に声を掛ける。

 

「文、さっきの取材……まだ続いているのなら、俺の過去を話すよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 文は驚き半分嬉しさ半分で懐から再度メモ張と羽ペンを取り出した。

 

「乖離様……」

 

 紫は心配そうに俺を見つめてくる。そんな顔で見られたら心が若干痛いが、我慢しよう。

 

「大丈夫さ紫。流石に全てを話しはしないから。それと文、これから言う事は口外しないでくれるか?」

 

「わ、分かりました」

 

 文の了承を得たことで、俺は近くにあった座布団を二枚重ねで座る。そうすると、俺を囲むように皆が座り始めた。

 

「じゃあ私ここにするわ!」

 

 そう言ってフランは俺の膝の上に座った。うん、もう何も言うまい。

 

 皆が席ついたのを確認した俺は、小さく深呼吸をする。

 

 

「そうだな……まずは俺の出生と―――『あの日』の話からしていこうか……」

 

 

 

 

※※※

 

 どれくらいの前の事だったかは、今はもう憶えていない。というより、最早そんな事など当の昔に忘れてしまっている。

 だがそれでも、『その日』の光景だけは……今も尚、記憶の底に深く……深く刻み込まれている。

 

 

 

 

 

 俺という人間……氷鉋乖離という人間は、今の時代の人間ではない。正確には西暦の人間ではなく、紀元前の人間であった。

 ただ、紀元前に生まれた俺だが、育ちは西暦1990年代なのだ。

 そうなれば、当然矛盾が生じてしまう。紀元前の人間が、どうして西暦1990年代の育ちなのか……と。

 

 それは、俺の持って生まれた能力に深く関係する。既に周知の事だと思うが、俺は生まれついて霊力や妖力、ましてや神力や魔力を持っていなかった。代わりに、俺の中にあったのは、自然エネルギー・世界のどこにでもある空気や水、火や土に雷などの源となる力のことだ。おそらく、自然エネルギーを持って生まれたのは世界の何処を探しても俺だけだと思う。

 

 俺はどうやら、その紀元前の時代では自然エネルギーを持つという事が異端だったようで、その時代の魔術師や魔法使いによって世界の果てに飛ばされたらしい。俺自身まだ生まれたばかりの赤子だったから、そんな事は知る由もなかった。故に、俺は自分の親の顔も名も知らない。

 

 

 世界の果てに飛ばされた俺は、赤子という身で『世界の中枢』に触れた。

 それが切っ掛けだったと思う。

 

 世界の中枢とは、この世全ての情報・あらゆる法則や概念の集合体であり、神々すら触れることの出来ない絶対領域だったそうだ。

 

 だが俺はソレに触れられた。

 理由としては、俺が生まれつき自然エネルギー持っていたという事だった。さっきも言ったが、自然エネルギーは世界の根源とも呼べる力であった為、姿形、種族が人間であっても、俺は世界に触れる事が出来たのだ。

 

 それが原因だっただろうか。俺は世界に蓄積された大量の情報を元に、最も優れた人間(生物)として、世界の『抑止力』に仕立て上げられたのだ。

 そもそも抑止力とは、世界が歪みと判断した存在を排除し、世界の継続を促す存在である。

 

 そして俺は西暦1990年代の日本のとある山奥にて、今の姿より少し若いくらいの姿で元の世界に戻って来たのだ。年代はかなり進んでいるけどな。

 

 言語やその土地の歴史はすでに知識として与えられていたから、すぐにその環境に適応した。

 それから数年経ち、俺は西暦1990年代の日本の山奥で、ある程度の知識と知恵・戦う為の能力を身に付けたのだ。

 それから直ぐに俺は世界の中枢へと戻り、初めての任務に出た。 

 

 

 そこからだった―――地獄の始まりは……。

 

 

 世界の抑止力としての力を身に付けた俺は、まず始めに―――人間を殺した。

 俺が殺した人間は、極悪非道な者ではあったにせよそれまで人を殺した経験の無い俺には とてつもない苦痛だった。

 初めて人を殺した時の感覚は今でも憶えている。

 

 ―――先程まで温かかった体がみるみる内に冷たくなっていく感覚。

 ―――手にこびり付いた血の色。

 ―――武器として使っていた刀から感じる人を斬ったという手応え。

 ―――人を殺したという絶望感。

 

 初めて人ろ殺した時はほぼ際限なく口から胃酸や汚物をまき散らした。

 普通なら、『どうして自分がこんなことを』なんて思うのが当然の事だろう。だが俺はまったくそんな事を思わなかった。寧ろ、これは俺に対する試練なのではないか、と思ったくらいだ。

 今ならば、バカげた発想だと心底思う。

 俺は口元を拭き、恐怖で動かぬ身体にムチを打ちなんとかして奮い立たせた。

 

 そして次に殺したのは妖怪だった。―――本来妖怪は西暦1990年代にはほぼ存在していない。ならば何故俺が妖怪を殺したのか……。

 ―――それは任務として過去へ飛んだからだ。

 それがどの時代だったのかなんて知りもしないが、兎に角俺は命じられた通り世界の歪みの対象となった妖怪を殺した。

 その時も耐えられずに吐いてしまったがな。

 

 

 そんな事をもう数えられない位続けて来た。最早命の感覚すら薄れ、人を殺しても…妖怪を殺しても何も感じなくなっていった。最初はこれでもかって程に吐き続けていたのにだ。そして、俺の中では一体何の試練を受けているのかという意識すら消えていった。それでもただ命じられるがままに殺していった。

 そこに正義や悪がある訳でもなく、ただただ機械のように……俺は殺していった。

 

 救いも無く。

 希望も無く。

 理想も無く。

 

 ただ無意味に……世界の奴隷として、歪みを抹消し続けた。

 

 

 そんな事を続けて来たある時、初めて俺に護衛という任務が与えられた。それが、俺にとって初めて理想を持つという切っ掛けになったものだった。

 

 護衛対象は一人の聖女だった。

 年代がいつかなんて知らないが、まだ妖怪が居た時代だった。その聖女の特徴と言えば、色々と挙げられるが……敢えて挙げるなら、彼女は人でありながら妖怪を愛していたという事だろうか。

 彼女の名は『アルニウン・レイシュラード』俺に道徳と名を与えてくれた、恩人ともいえる若き少女だ。

 彼女はまだ成人していなかった筈だ。おそらく見た目からして16~19歳くらいだろう。

 

 そして彼女は言うまでもなく、能力保持者であった。その能力が確か『癒しを与える程度の能力』だった筈だ。流石は聖女と呼ばれるだけの能力だと思った。

 彼女の能力は身体的にも、精神的にも、あらゆることに癒しを与えた。

 

 彼女と話をするだけでとても心が癒されいく者達を見た。

 彼女に触れられただけで傷ついた身体が癒えていく者達を見た。

 

 ただ彼女にも癒しを与えられない存在が居た。そう―――それこそが俺だ。

 彼女とどれだけ言の葉を交わそうと、彼女にどれだけ触れられようとも、俺は一切癒されなかった。そんな俺に、彼女は涙を流しながらこう語ったのだ。

 

『私ではあなたを癒せない。私ではあなたを守れない。―――あなたはこんなにも傷ついているというのに……私ではあなたを救えない。ごめん……なさい。ごめんなさい』

 

 彼女は何度も何度も俺に涙を流しながら赦しを乞うてきた。情けない話だが、守らなければならない者に守られようとしていたのだから、お笑いぐさだ。

 

 だが、その代わりに俺は彼女から名を貰った。それが『乖離』という名だ。本より俺には名など存在していなかった為、とてもありがたい事だった。彼女曰く『東洋の殿方にそっくりでしたので、似合うと思いました!如何ですか?』だそうだ。

 

 初めての自分の名に、俺は生まれて初めて笑うという体験をした。

 

 その後も彼女と色々な話しをし、これからの事を語り合った。俺には理想も夢も無かったから、彼女を手本に誰かを救いたいと思うようになった。

 笑ってしまう話だが、あの時の俺はまだまだ幼過ぎたのだ。だから、まずは誰かの真似事から始めようと考えた。

 

 ―――しかし結局、俺は彼女を死なせてしまった。

 俺の一瞬のミスで、彼女は妖怪に殺されてしまったのだ。

 その時初めて、怒りという感情を覚え、同時に悲しみという感情も覚えた。怒りもあったし、悲しみもあった。だが、俺は報復は考えなかった。そんなものは彼女が望んでいる筈が無いと考えたからだ。

 

 任務を終えた俺は、一度頭の整理を行い今の自分が何者なのかを確かめた。その時だったかな、自分が不老不死だと知ったのは。

 刀で腕に切り傷を入れても瞬時に回復し、首を刎ねても無意味の如く元に戻ったのだから。

 

 俺の中にあったのは不老不死に対する嫌悪感ではなく、寧ろ幸福感であった。

 俺が死なないのなら、彼女とは違い無限に誰かを救えるのではないか、という想いだった。まあ、現実そううまく行く筈が無いって事は後ほど嫌という程思い知らされたがな。

 

 つまるところ、俺は彼女との出会いと『死』を感じたあの日を切っ掛けに、あらゆる世界を観て聴いて知って、沢山の感情や知識、経験を得ていった。そしてその果てに、俺はいつしか世界の歪み抹消する抑止力という存在ではなく、『乖離』という名の人間として生きていこうと思うようになった。

 

 因みに、紫と出会ったのも任務の一環であった。おそらく、俺は紫と出会ってから大きく変わっていったと思う。念の為に再度言っておくが、アルニウン・レイシュラードとの出会いはあくまで切っ掛けに過ぎないので、彼女を死なせてしまったのに対して、過去はどうあれ今は後悔も無念も無い。

 

 

 

※※※

 

「ってのが、俺の過去の一部の話となる訳だ」

 

 全てでは無いにしろ、俺は要点となる部分の話を彼女等に聞かせた。話している中で、何度も何度も俺の中であの日の光景が脳裏にフラッシュバックしていた。辛いこともあった。苦しい事もあった。ただそれ以上に―――誰かを救うという行為(偽善)に、幸福を感じていたのも事実だ。

 

 俺が話終えるているいうのに、その場に居る彼女達は未だに一言も口を開こうとしなかった。紫はや藍、魔理沙にレミさんといった帽子を被っている連中は、顔が見えないくらいに帽子を深く被っていた。

 流石に話が重かったのだろうか。

 

「乖離は……強いんだな」

 

 開口一番は、半泣き状態の妹紅だった。何故彼女からそんな言葉が出て来たのかは分からないが、妹紅は俺の過去の一部を聞いて俺が強い人間だと思ったのだろうか。

 

「強くなんかないさ。俺はある意味で、自分の弱さから逃げていただけだからね」

 

「でも乖離は戦い続けた………そうだろ?」

 

「まあ、そうともいうかな?」

 

「私とは……やっぱり違うんだな。―――覚悟の重さが」

 

 妹紅はそれだけ言って、涙顔のまま猪口にお酒を注いで一息に飲み干した。別にそんなになるまで俺の話など聞かなくてもよかっただろうに。

 そして次に口を開いたのは、俺の膝に座っているフランだった。フランは少し悲しそうな表情のまま俺に問いかけた。

 

「お兄様は……楽しい思いはできなかったの?」

 

「楽しい思いは後から沢山できたぞ?」

 

「そうなの?」

 

「うん」

 

 フランは俺の答えが意外だったのか、唖然として俺を見つめていた。だが直ぐに先程までの笑顔に戻り「そっか!」と言って俺に抱き着いてきた。フランもフランなりに考えて、俺の答えに納得してくれたようだ。俺はとりあえず、感謝の意思を籠めてフランの頭を優しく撫でてやることにした。

 

 俺がフランの頭を撫でていると、次々と口を開く者達が増えていった。

 

「……壮絶な過去だったのね。ごめんなさい乖離さん。私は興味本意の軽い気持ちで聞いていて後悔したわ」

 

「私もだぜ……なんか、ごめんな?乖離……」

 

 霊夢と魔理沙は申し訳なさそうにに謝ってきた。俺としては別段気にすることでもないので謝る必要は無いと思うのだが、彼女等にも思うところがあるのだろうし、ここは黙って謝られておくことにしよう。

 そんな事を考えていると、今度はレミさんとぬえが同時に口を開いた。

 

「「フム、乖離にも暗い過去があったのね………はあ?」」

 

 面白い事にお互い同じセリフでハモってしまった。そしてそれが気に入らなかったのか、レミさんとぬえは互いに睨み合っていた。喧嘩にならなければいいのだが。

 まだ何も言っていないのは、紫と藍、そして文とこころちゃんだけとなった。俺はこの四人が気になり、確認の為最初に紫の方へ目を向けると、紫も同じ事を考えていたのか、お互いに目が合った。

 すると紫は申し訳なさそうに、俺から目を逸らし「少し席を外します」と言ってスキマの中に入っていった。

 

 仕方がないので今度は藍の方へ目を向けると、苦い表情のまま何かを考えていた。

 という訳で一度藍はスルーして、今度はあの話をする発端となった文に目を向けると、俺の視線に気付いたのか、慌てて正座をとった。そして次に取った文の行動が―――

 

 

 土下座だったのだ。

 

 

 唐突な文の行動に、俺は理解できなかった。というか、マジで今日で何度目なんだろうか、女性に頭を下げられるのは………。とりあえず、俺は文に自分の取った行動の真意を聞いてみる事にした。

 

「何で土下座してんのさ文?」

 

「あ、あややや……いえ、その~………私はなんて軽率な行いをしたのだろうと思いまして……それでせめてもの謝罪と思いましてですね?」

 

「それで土下座なんてする理由あるの?」

 

「日本の作法として、相手に誠意を見せる行為は土下座しかないと思いまして」

 

 なるほど、そういう事なのか。確かに筋は通っている。―――が、しかしあれだな。霊夢も魔理沙も文も、どうして皆俺に謝りたがるのかまったくもって理解不能だ。俺自身本当にそんなものどうでもいいというのにさ。でもまあ、『ジャパニーズ・ドゲザ』は珍しいから絵になりそうではある。

 

「とりあえず頭を上げてくれ文。俺は別に君等に謝罪してもらいたい訳じゃないから」

 

「あ、そうなんですね!なら良かったです。はい!」

 

 さっきまでの申し訳なさは何処へやら。文は俺の言葉を聞いて笑いながら土下座を止めた。なんて奴だ!やっぱり焼き鳥にして食ってしまおうか!

 

 冗談はさておいて、俺は最後にこころちゃんの方へ目を向けた。

 

 するとなんとビックリ!こころちゃんは首を小さく縦に振りながら、スヤスヤと眠っていた。これには流石の俺も驚いた。あの空気でよくもまあ寝られるものだ。俺なら絶対に出来ない事をこの子はやってのけた。本来なら失礼極まりない行為だが、もしかすると俺の過去の話はお子様であるこころちゃんには難しかったのかもしれない。であれば、眠ってしまうのも仕方ないだろう。

 

 

 

 そんなこんなで、気付けばもう宴会も終盤だ。もう帰り始めている妖怪達もちらほらと見えてきた。

 思えば、長いようで短かった宴会だ。いや、俺の過去話が無駄に長かっただけなのかもしれないな。

 

 俺は最後にコップに残った麦茶を一息に飲み干したのだった。

 




≪文のメモ帳≫

取材者『氷鉋乖離』

種族:人間(外来人)
能力は不明


身長:176cm
体重:58キロ

住処は博麗神社と人里の境にある森・白い屋根が目印

趣味はゲーム・将棋・読書・釣り・料理とのこと。
       尚将棋においては紫さんを上回る程の実力者

毎日の朝昼晩の御飯はランダム

好きな人は今の所はゼロ(恋愛対象としての意味)

結婚はしてみたいらしい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。