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十八話 とある日の訪問者
※※※
宴会から数日が過ぎた。いつも通りの幻想郷の日々が訪れる。
太陽は相変わらず、全てを包み込むように、温かい日差しを地上に送り続けている。その日差しを浴び、今日も頑張ろうと。様々な者達は動きだす。
仕事へ向かう者も居れば、遊びに行く者、勉学に勤しむ者、日頃の疲れを癒す為日向ぼっこをする者、皆それぞれである。中には、いつもの事と思い暇を持て余す者も居る。
皆が皆、それぞれの日々を過ごしていた。
そんな中、博麗神社と人里の中間に存在する森の中では、朝早くから鉄と鉄を強く打ち付けるような騒音が鳴り響いていた。
その原因となっているのは、その森に住んでいる人間の少年『氷鉋乖離』と、お面の付喪神『秦こころ』が刀と鉈をぶつけ合っていたからであった。
二人の勝負は早三十分以上にわたり繰り広げられていた。両者共に一歩も引かず、ただただ楽しそうな表情(こころお面)を浮かべ、刃を交え続ける。
この森には乖離以外にも、中級妖怪達が住み着いているが、その妖怪達であさえこの二人の戦いに水を差すような真似はしない。例え自分たちのテリトリーを荒らされいたのだとしてもだ。何故なら、妖怪達は知っているのだ……この二人の強さを。そして、それが自分たちを遥かに上回っているのだと。
ただ妖怪達にもこの二人の戦いにはある種の喜びを感じている。それは何か……。それは、この戦いの果てに、場所の提供代金として、乖離の手料理をお裾分けしてもらえるのだから。
※※※
既にこころは乖離に六十四度槍撃を打ち込んでいる。その全てはどれも並の人間や妖怪が喰らえば致命傷は避けられない威力があった。にも関わらず、乖離には傷一つ存在していない。それもその筈だろう。乖離はこころが打ち込んでくる全ての槍撃を捌ききっているのだから。
だがそれはこころも同じであり、乖離の繰り出す斬撃を眉一つ動かさず同威力の斬撃で相殺してしまっているのだから。
こころは人の目では追えない速度の連撃を繰り出す。その一撃だけでも、乖離の肉体を引き裂き細切れにするには十分な威力だ。しかしその連撃全てを乖離は的確に見抜き、先程と同じように捌ききってみせる。
乖離は一度後退を図るが、それを見逃すこころではない。瞬時に乖離に近づき縦に鉈を振り下ろす。流石に避けきれないと判断した乖離は能力を使用し、こころから数メートル離れた位置に転移した。
こころから離れた乖離は刀を握っている右腕に自然エネルギーを集中させ、大きく跳躍をし、横薙ぎにしてこころに切りかかる。こころはそれに応えるかのように、自身の鉈に妖力を注ぎ、真向から打ち合う。
自然エネルギーと妖力がぶつかり青と紫のオーラが辺り一面に飛び散り凄まじい衝撃波が生じた。
威力は互角。同威力の技の打ち合いにより彼らの周りに生えていた木々はその衝撃波に耐えきれずバタバタと折られていく。それは打ち合った二人も例外ではなく、お互い真逆の方向へ数メートル吹っ飛んでいった。
乖離は吹き飛ばされた際地面を転がった時に付いてしまった土を払いながら、ゆっくりと立ち上がり楽しそうに口を開く。
「いや驚いたな。こころちゃんがこんなに強かったなんてさ!」
乖離に呼応するように、こころも立ち上がり口を開いた。
「私も驚いた。乖離がこんなに強かったなんて……。それも片手でこの強さ……羨ましいなぁ」
「そうか?俺は普通だと思うけどね」
そう言って乖離は使い物にならなくなった左腕を見ていた。この左腕は先の異変で使った『クラスターカード』の影響で神経と筋繊維がほぼ全て死滅してしまっている為、今はまったく動かないのだ。
そんな乖離を見て、こころは我先にと必殺の構えをとる。
「乖離、そろそろ決着を着けよう」
そう言うとこころは再度鉈に妖力を注ぎ始めた。その量は先程のものとは明らかに違い、鉈から青い妖力の稲妻が走っていた。それを見た乖離はというと、刀を構えようともせず逆に刀を仕舞ってしまった。
「こころちゃん、悪いが今日はここまでだ。これ以上は流石に怪我では済まなくなるからね」
「そう?乖離がそういうなら……」
こころはそう言って構えを解き、鉈に妖力を注ぎ込むのを中断する。鉈は青い粒子のように消えていった。
鉈を仕舞ったこころはステップを踏んで乖離の下に駆けより、乖離と手を繋ぐ。こう見ると、まるで兄妹のように見えてしまう。事実こころにとって乖離は優しい兄のような存在であり、気の許せる友でもある。それと同時に、将棋の師でもあるのだから。
「乖離、朝ごはんは何?」
「ん~、ビーフシチューかな?」
「やったー!乖離のビーフシチュー大好き」
こころはさぞ嬉しそうにはしゃぎ出した。そんなこころを乖離はにこやかに眺め、共に家へと帰還したのだった。
※※※
Side乖離
こころちゃんとの暇つぶしから帰って来て早三時間が過ぎていた。二人で朝飯を済ませ、こころちゃんは勉強があると言って慧音さんの下、寺子屋へ行ってしまった為俺は一人自室に籠って読書に興じていた。本は良い、色々な知識や考え方などが得られる。特に歴史系の本は偉人関係が沢山あって面白い。
「つーか、もう昼前じゃん」
本を読むのを一時中断し、俺は時計を確認する。時計の針は短い方が11時と12時の中間辺りで、長い方35分辺りまで来ていた。要は11時35分ってところだ。
さてどうしたものか。そろそろお昼になる。自分で昼ご飯を作るのもいいし、人里に食べに行くのもいい。金ならあるしさ。
そんなこんなで首を捻っていると、玄関のチャイムが鳴った。感じられるのは霊力、それもかなり強いものだ。これだけの霊力所持者はおそらく霊夢だろう。
「はいはい今出るよ」
俺は来客を確認する為自室を出て、玄関へと向かった。
玄関の扉を開けると、やはりと言ったところだろうか、案の定霊夢が立っていた。
「こんにちは乖離さん」
「やあ霊夢、久しぶり。一人か?」
「ええ、まあ……」
霊夢はどこか落ち着きがないようにそわそわとしている。
「まあ、上がって行きなよ」
「いいの?」
俺は肯定の意を込めて軽く頷いてみせる。霊夢は靴を脱いで俺の後ろを付いて来た。その間物珍しそうに辺りをキョロキョロと見渡していた。
俺は霊夢を客間に案内し、座布団とお茶を出してやる。
「ほい」
「ありがとう」
お茶を受け取った霊夢はゆっくりお茶を啜った。
しかし、霊夢はこの時間帯にどうして俺の家に来たのだろうか。気になった俺は霊夢に聞いてみる事にした。
「霊夢、今日はわざわざどうしたんだ?こんな面白味の無いところに」
「え?ああ、それは『これ』を渡しに来たのよ」
そういって霊夢は五枚の札のような物を差しだしてきた。
「これは?」
「これはスペルカードの素になる物よ?紫が乖離さんに渡せって言って置いて行ったのよ」
スペルカードか……確か、この幻想郷の揉め事や勝負事に用いられる道具のような物だっただろうか。しかし、何故俺になのだろうか。
「紫が言うには、乖離さんにもこの幻想郷に居る以上、こっちのルールに則ってもらわないと困るらしいのよ」
俺の表情を見て察したのか、霊夢はこの札のような物を持ってきてくれた理由を説明してくれた。まあ確かに、俺も今や幻想郷で生きる者の一人である以上、この世界のルールに従うのは当然の事だ。だがしかし、この世界のルール『スペルカードルール』や『弾幕ごっこ?』は俺には不向きな気がするのだが。
「なるほどね、分かった。ありがとうな霊夢!」
「べ、別にいいわよこれくらい」
俺の礼に対して、霊夢は少し照れくさそうに顔をそむける。
俺は霊夢から受け取った札を自室の机の中に転移させ、立ち上がる。
「そうだ霊夢、折角だし昼飯食って行く?そろそろお昼になるしさ」
「えっ!いいの?!」
昼飯の誘いをするやいなや、霊夢は目を輝かせてグイグイと近寄って来た。てかマジで近い近い。鼻と鼻がくっつきそうなんだが。
「いいけど……とりあえず離れようか?近いから」
「あ、ごめんなさい……」
霊夢は落ち着きを取り戻し、ゆっくりと後ずさりをした。離れた後も、霊夢は少し赤面しているようだったが、まあ気にしないでおくとしよう。
それはそれとして、一応昼飯は家で食べる事になったのだが、何を作ろうか。ここは霊夢に聞いてみるとしよう。
「霊夢、何か食べたい物でもあるか?」
「そうね~……あ!冷やし中華とか。かしらね」
「あいよ!んじゃ、少し待っててくれ」
俺は客間を出てキッチンへ向かう。
キッチンに着いた俺はエプロンを着て冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の中から麺とキュウリ、卵にハムを取り出し調理に移る。
麺は鍋で80℃~90℃で湯がき、キュウリとハムはまな板に置いて細かく刻んでいく。卵はボールで解いてからフライパンで焼きあげる。この時醤油と砂糖を少し入れておくと良い味付けになる。因みにこれは藍から教わったものだ。俺は基本卵焼きなんかは塩だけで食べていたので、ありがたい知識だ。
卵焼きはフライパンからまな板に移し、まだ湯気が出ている間に細かく刻んでおく。
最後は汁になるが、これには冷やし中華の素があるが、折角霊夢に出すんだし、一から作るとしよう。
俺が汁のベースを何にしようかと悩んでいると、突然スキマが開き紫が出て来た。
「こんにちは乖離様」
「やあ紫、今日はどうした?」
「仕事を急ピッチで終わらせてしまいましたので、乖離様のご様子を窺おうかと思いまして」
要は暇になったから遊びに来たということでいいのだろうか。それとこいつは玄関から入ってくるという作法を知らないのかな。
俺がそんなことを思っている中、紫はジーっと鍋と刻まれた具材達を見ていた。
「あの、何か作っておられたのですか?」
「ん?ああ、今丁度霊夢が来ているから昼飯を一緒に食べようって事になったんだよ。作っているのは冷やし中華ね」
「冷やし中華とは?」
「あれ?知らないの?」
少年説明中~★
「なるほど、そのような食べ物があったのですね」
俺は作業に戻りながら紫に説明してやると、興味深々といったように俺の手際を拝見しながら頷いていた。
ベースは決まったので、後は鍋の中の麺を氷水で冷やすだけだ。
俺は別の鍋を用意して汁を作りながら、もう一方の鍋の中の麺をざるに移して氷水を用意する。これらの作業を全て右手一本でやっているが、結構面倒で疲れる。
氷水に麺を浸け、一旦俺は休憩を取る。すると、紫は感心したかのように拍手を送ってくれた。
「片手であれだけの作業をやってのけるとは……流石は乖離様です」
「世辞いらんよ。こんなもん慣れだからね」
とは言うものの、実際にはまったく慣れない。片手での生活ってのは想像以上に面倒で不便だ。特にこういった料理の時とかはね。でもそれを完璧にやってのける俺スゲー!
俺が自己自賛に耽っていると、鍋からいい匂いがしてきた。ということはもう出来上がったという事だろう。
鍋の蓋を開けると、一気に湯気が立ち込め鼻孔を燻る甘い香りがした。どうやら本当に完成したらしい。後はこれを別の容器に移して、二、三分ほど冷やせば冷やし中華の完成という訳だ。
汁を大きめの容器に移し、冷凍庫に入れると不意に紫の腹の虫がグゥ~~!っと大きな音を上げてお腹空いたアピールをした。
「…………」
「…………」
紫は今のがさぞ恥ずかしかったのか、真っ赤な顔を引きつった笑みで誤魔化していた。まったく誤魔化せていないけどな。
「腹が減っているんですね?分かります」
「も、申し訳ございません///はしたない真似を……」
腹が減っているのなら腹の虫が鳴るのも仕方ない。それは自然の事だし、生きている証拠だ。はしたないなんて事は一切ない。しかしどうしようか、冷やし中華は二人分しかない。麺の余りもないし、困ったな。であれば、やっぱり男ならこうするしかないよね?
「俺の分で良ければ食べるか?俺カップ麺で済ますし」
「え?」
「『え?』っじゃねぇよ。食べるの?食べないの?」
俺が問い詰めると、紫は深く考え込んだ末、ゆっくりと俺の目を見て言った。
「本当に……良いのですか?」
「無論だ。男より女の方を優先する。これ基本だから」
特にそれが紫であるのならば尚更だ。こいつ仕事を急ピッチで終わらせて来たと言っていたし、それなりに疲れているだろう。であれば紫には栄養を取ってもらわなければならない。
「乖離様がよろしいのであれば、ありがたく頂きますわ」
「うむ、それでよし!」
紫は納得してくれたようなので、冷凍庫から汁を取り出して確認する。
冷たさは充分、これならいい感じだろう。早速これを深めの皿に移し、そこに麺と刻んだ具材達をトッピングして完成。
「おーい霊夢!出来たから取りに来てくれ!」
『はーい!』っと返事が返ってきたのを確認した俺は、棚の中からカップ麺を取り出し、蓋を開けてポットからお湯を注ぐ。
「もう出来たの?早いわね」
霊夢は相変わらず目を輝かせながら皿を取りに来た。だが、紫が居るのを認識するやいなや、先程まで輝いていた目は無くなってしまい、代わりに面倒だという目に変わった。
「乖離さん、何で
「これ呼ばわりとは酷いわね霊夢……」
「仕事が終わって暇だったから遊びに来たようです」
「私そんな事言ってませんが?」
「一緒みたいなもんじゃん」
なんてやり取りをしながらも、霊夢は俺の代わりに二人分の冷やし中華を運んでくれた。かく言う俺は、情けないながらも三人分の箸と自分が食べる用のカップ麺を運ぶくらいだ。
客間に着いた俺達三人はテーブルを囲んで、食事を始めた。因みにテーブルを運んでくれたのは紫だ。それも片手で……。やっぱ妖怪の腕力って凄いわ。
「やっぱり乖離さんの料理は最高ね!」
「何これ!?美味し過ぎます乖離様!!」
という感想が一体何回連呼されたことやら……。喜んでくれるのは素直に嬉しいけどね。
「それよりも、いつこの使い物にならなくなった左腕を治そうかね~」
二人が美味しそうに冷やし中華を食べている中、俺は質素なカップ麺を食べながら小さく呟くのだった。
最近は暑いですね~。
皆さんは熱中症対策は大丈夫ですか?
そして次回は少し趣向を変えて、夏のイベントをやってみようと思います。
次回もお楽しみに!!