東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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もう三月、そしてやって来た受験シーズン!
テストにてんてこ舞でした。

ではどうぞ!!


三十五話 仕事探しは難題

Side乖離

 

 

 

「う~む、どうしたもんかなあ」

 

 日も落ち始めた夕暮れ時、俺は自室にて人里より集めたある物を並べながら思い耽っている。そのある物というのは仕事の求人票だ。

 幻想郷に来てから一か月が経とうとしているが、俺はこの世界で未だに職に就いていない。仕事を何かしらしなければとは思っていたのだが、いつもなあなあと流してしまっていた。実年齢はともかく、表向きの年齢は一応十八歳なのだから外の世界ではもう高校卒業を果たしている年頃。そうなれば就職か進学かに別れるが、幻想郷に大学など存在しないため必然的に就職に走ってしまう訳である。

 

「参ったなあ」

 

 いくつか取り寄せた求人票を比較しながら一枚一枚念入りに目を通しておく。だが、求人票の殆どが妖怪退治や人里近辺の調査ばかりだ。加えて言うならどれもこれも給料がそれほど高くない。一応金には困っていないし、ぶっちゃけ言うなら俺の持ち金は子々孫々遊んで暮らせるくらいの貯えがあるのだ。そうなれば仕事などする必要性は無いのだが、如何せんこの性格だ、遊んで暮らすという選択肢を俺は作れないのだ。

 どうしたものかと頭を悩ますも、いい案がまるで湧いてこない。妖怪退治をするにしても、無意味な殺生は嫌いだし、俺は別に人間の味方という訳でも無いので特別妖怪を退治する必要がない。紫辺りに相談すれば何かいい案を出してくれそうではあるが、費用対効果のなっていない無理難題を押し付けられそうで怖い。

 

「マジでヤバイ……」

 

 我ながら情けない。先程から口を開けば弱音や泣き言ばかり、こんな姿誰にも見せられないな。まあ仕事が決まらない以上仕方がないが、とりあえず口を開けば弱音を吐くのは止めよう。

 最悪守護者として復帰する事も考えたが、それはそれで幻想郷全土を敵に回しかねないのでそれは極限の非常事態案件として隅の隅まで置いておこう。

 妖怪退治は個人的にしたくない。かといって選り好みばかりしていると結局仕事が決まらず仕舞いとなる。プライドを捨てるか守るか………俺としては守りたい。こういった悩み事は我が人生において記憶にない。つまり初めての経験となるので全くもって打開策が見当たらない。

 

「ふう、こうなったら是非も無し。あれは使ってみよう」

 

 気を取り直して棚の上に置いてある一つの大きな鏡を手に取り机に置く。この鏡はこの世に二つしかない『死海の合わせ鏡』。つまり死者の世界と通信できる便利?アイテムだ。これはとある閻魔様から譲り受けた大事な品だ。……壊したら殺されるレベルの。

 椅子を引き鏡に向かい合うように座る。そして鏡にそっと手を伸ばし死者の世界・『地獄』と繋げる。本当はこんな事はやってはいけないのだが、事情を説明すれば赦してくれると信じよう。

 

 鏡の中はテレビ画面同様の砂嵐状態。ほぼ初めて使うので壊れているのかとすら思える。が、通信はどうやら安定していき鏡の向こう側には明らかに不機嫌そうな表情で閻魔の席に座するお偉いさんが映った。

 

「死海の合わせ鏡が急に光り出すので何かと思えば……あなたですか氷鉋乖離」

 

「お久しぶりですね、四季映姫・ヤマザナドゥ様」

 

 本当に久しぶりだ。ぶっちゃけ俺としても会いたくもないし顔すら見たくない相手だが、こういった悩み事には俺の知る限り一番の適任者であるので背に腹はかえられない。

 

「で、今日は一体何の用ですか?私は仕事で忙しいのですが」

 

「え~っと、今日はですね……仕事の事で相談がありまして」

 

 俺がそう言うと、映姫様は明らかに面倒くさそうな表情を浮かべた。相談したいのは俺だが、そんな露骨な態度を取られるとこちらとしても少々納得のいかないことがあるのだが……。

 

「仕事……ねえ。今更私に相談を持ち掛けてくる程の事ですか?」

 

「こっちは死活問題なんですよ(精神的に)」

 

「あなたには星の守護者という大役があるのでは?」

 

「それは数年前に引退しました~」

 

「ブフォッ!!」

 

 俺の引退という言葉を聞いてか、映姫様は唐突に噴き出した。慌てて手持ちのハンカチで口元を拭き、焦った表情で訊き返してきた。

 

「い、引退したんですか?!そもそも引退できたんですか!!」

 

「まああれやこれややってる内に……。そんな感じで、現在の俺は無職な訳でしてね」

 

 なるほど、と納得して映姫様は落ち着きを取り戻しいつもの態度に戻った。それからしばしの間考え込むような姿勢をとり、何か思い当たったのか手に持つ錫杖をパチンと鳴らした。

 

「仕事に励もうというその誠意は称賛に値します。では、閻魔秘書といのはどうですか?」

 

「閻魔秘書?」

 

「ええ、私の下に就き私が裁く亡霊や怨霊達をこの冊子に記録付けていくのです」

 

 そういって映姫様は一冊の分厚い冊子を取り出した。その厚さはなんと十センチ。俺の持っている本よりも厚く如何にも重そうな物だ。しかも見ただけで分かる、あれはイジメだ。

 

「一応聞くけどそれ何年分くらいあんの?」

 

「ざっと千年分ですかね?一日百名と考えても」

 

「謹んでお断りさせて頂きます」

 

 あんなの出来る訳がないだろう。余程のマニアかその道を進んだプロくらいしかやる気起きないだろ。だいたい、十センチの厚さにも驚いたがアレで千年分はおかしいんじゃないだろうか……。ただ、断ったせいか映姫様がまたもや不機嫌な表情に戻った。

 

「あなたから相談しておいて代替案を提示してやったというのに、私の厚意を無碍にするのですね」

 

「仕方ないでしょ?俺は人間なんだから千年も生きていられないんですよ」

 

「それはおかしいですね、あなたは不老不死の最上位者ではなかったのですか?」

 

「それ『元』だから……。大事だからもう一度言うが、『元』だがら!」

 

 二度目だけ少し強調しておいた。そうでもしないとなんだかんだと難癖付けられて納得してもらえそうにない。

 

「ハア……。厄介ですねあなた」

 

 不満気にタメ息を吐きながら映姫様は上記の言葉を口にする。敢えて口には出さないが厄介なのはあんただ!その格式ばった態度をどうにかできないのかこの閻魔様は……。

 互いに不満はあるにしても、それでも一応嫌々だろうが俺の相談は受けてくれている訳だから、こういう面には非常に好感が持てる。その他が非常に気に食わんのでその好感が霞むんだがな。

 と、そんな思考に耽っていると鏡からバタンッ!とひとしきり大きな音が聞こえた。その音を聞いてか、映姫様は鏡越しではあるがビクっと体を震わせ驚いた様子を見せた。

 

「映姫ちゃ~ん、お団子買って来たわよ~ん♪一緒に食べましょう」

 

 鏡の奥から聞こえて来るテンションの高い女性の声。加えて、映姫様をちゃん付け出来る者といえば、俺にはここ最近出会った一人の神様が脳裏を過ぎった。

 

「ヘ、ヘカーティア様!?もう、来るなら来ると連絡してください!」

 

 やっぱりヘカちゃんだったか……。 映姫様がこれほど取り乱す存在と言えば世界でも相当限られてくるし、地獄の総括者であるヘカちゃんなら納得できる。

 

「あら、お取込み中?なら出直そうかしら」

 

「お団子だけ置いて帰って頂いて構いませんよ?いっその事もう来ないでください」

 

「もう!映姫ちゃんったらツンデレさんね♪ホントは一緒に食べたいくせに」

 

 凄いなこの二人……。映姫様も閻魔の身でありながら地獄の女神相手にぶっちゃけた本音をぶつけるなどと……。それに対するヘカちゃんの対応も対応だ。二人の実力を知っている者からすれば傍から見れば肝が冷えるだろうよ。ただ、こういった関係は仲が良い証拠なのかな。

 

「ハア……。まあいいですけど、仕事が終わるまでそこで大人しくしていてくださいね?」

 

「アイアイサ~」

 

「すみませんね、急に……」

 

「………掛けなおした方がいいですかね?」

 

「ええ、そうしていただけると助かります」

 

 「それじゃあまた後で」と言って、俺は鏡の通信を切った。なんというか、映姫様って俺が考えていた以上に大変そうだな。そういえば、閻魔の席の後ろに胃薬があったのはやはり映姫様の物だったのか……。かなりストレス溜め込んでんだろうな。

 

「て、人の心配してる場合じゃないよなあ」

 

 相談を持ち掛けたはいいが、結局振出しに戻っただけだ。このまま仕事が決まらず仕舞いとなると、俺の精神的にくるものがある。いい歳してニートなんて俺は嫌だ。金には充分余裕はあるが仕事はしておきたい。

 妖怪退治の依頼が書かれた求人票を手に取り、渋々ではあるが承諾しようかと考える。もうプライドだのなんだのと言ってる場合じゃない気もしてきたし。

 俺は妖怪退治の依頼票に目を走らせる。退治対象は『八雲紫』と書かれているが、一体誰が何の目的で紫を退治してくれだのと依頼票を出したのか……。報酬面は他の退治依頼に比べて非常に高額だが、俺はこの依頼を受ける気には到底なれなかった。そもそも、全盛期ならともかく現状の俺では紫と対峙しても勝利の可能性は極めて低い。むざむざ死地に飛び込むようなものだ。妖怪退治などそんなもんなんだろうけどね。

 

「マジでどうにかならないかな~」

 

 口を開くなり弱音が出て来る。さっきそれがないようにしようと思った矢先これだ……。もういっそのこと開き直って仕事しなくてもいいかも……。

 と、半ば諦めムードに陥っていた矢先、不意に死海の合わせ鏡が光出した。

 

「あれ?」

 

 俺はまだなんの操作もしていないのに勝手に鏡が映り、再度の砂嵐が見えた。そうして待っていると段々砂嵐も治まり、鏡には紅い髪を靡かせた少女が映った。

 

「ハァーイ乖離クン、元気してる?」

 

「申し訳ありません氷鉋乖離、ヘカーティア様に鏡の所有権を強奪されました……」

 

 鏡の奥には先程と変わらずテンション高めの神様と、言葉通り申し訳なさそう表情で渋々団子を頬張る閻魔様が見える。……まあ大体察した。おおかた連絡を取っていた相手を問い詰められ、仕方なく答えてしまった結果無理やり鏡の所有権を奪われたという事だろう。それにしても、難儀なものだよ映姫様。

 

「久しぶりだねヘカちゃん……」

 

 予想外の展開におもわず苦笑してしまう。誰だって地獄から強制的に通信が飛んで来たら驚くと思う。しかもそれが地獄の女神様ともあれば尚更に。

 

「で、何か用な訳?」

 

「映姫ちゃんから大体話は聞いたわよん!お仕事をお探しのようね」

 

「まあ、うん」

 

 話を聞いたか……ほんの一分くらいしか間は空いて無かったと思うがね。

 

「そんな就職活動真っただ中の乖離クンにいい仕事のお報せよ!」

 

「何?」

 

 興味はある。が、就職活動真っただ中とヘカちゃんは言ったが、ぶっちゃけ今はそんな時期ではないだろうに……。それとヘカちゃんの後ろで美味そうに団子を頬張る映姫様よ、仕事は?

 

「実はね、十席ある内の閻魔の席が一つ空いてしまっているのよ。そこで、乖離クンに空いてしまった閻魔の座にどうかなあと思ってね?」

 

「断る!!」

 

 つい強めに反応してしまったが、断固拒否である。閻魔という役職は俺には向かないし霊を裁く度量など俺にはない。そもそも閻魔とは通称『十王』と呼ばれる地獄の王である。十王の一角である映姫様とは幾度となく覇を競い合った事があるのでその役職の重みも責任も重々承知している。……結局何が言いたいかというと。

 

「そんな面倒なもの俺は嫌だね!仕事は欲しいがそういった類の職種は俺には合わない」

 

「そう?乖離クンにはピッタリだと思うのに」

 

「お言葉ですがヘカーティア様、私は氷鉋乖離が閻魔の座に就くことは反対です」

 

 と、ここで団子を食べ終わった映姫様も会話に参加してきた。

 

「彼は元を糺せば我々閻魔を然り、あなたの敵だったのですよ?」

 

「確かにそうだけれど、それはもう過去の話じゃないの?」

 

「いいえ!過去も現在も未来も氷鉋乖離という人間は我々の敵であることに変わりはありません。そうでしょう氷鉋乖離」

 

「そうでしょうね」

 

 映姫様の言う事は確かに正しいものだ。故に肯定することになんの不満も無い。が、ならどうしてその敵である俺なんかの相談事を親身に聞いてくれるのかね~。それは本人にしか分からない事だが、大方それが映姫様の優しさということなんだろう。なんだかんだ言ってもこの閻魔様は情に深いからね。

 

「オホンッ!当初の目的から逸れてしまいそうなので戻しますね。ええっと、氷鉋乖離あなたは仕事を探しているのですよね?」

 

「無論……」

 

「では、料理人というのは如何でしょう?お団子を食べている際ふと思ったのですが、そういえばあなた小町に手作り弁当を拵えていたことがありましたよね。小町は随分あなたの作ったお弁当を称賛していましたし、料理人であればあなたも納得できるのでは?」

 

 なるほど、その発想は無かったな。しかし料理人か……確かにいい案ではあるのだが、店を開くとなると従業員然り、空き地も必要だし、店のデザインや建築費用も随分掛かりそうだ。その点は紫に相談すれば問題は無さそうなんだが、やっぱり大事なのは店のデザインと従業員だ。一人で経営するのも悪くないが、初めてという点を考慮すればやはり一人では無理があるな。

 

「料理人、その案頂きましたよ映姫様」

 

「そうですか……それは良かったです。しっかりと仕事に励むのですよ?ええ、それがあなたの積める善行です」

 

 相変わらずの上から目線の物言いではあるが、代替案を提示してくれた事に感謝してその点には目を瞑っておこう。それに、そこを指摘してもややこしい問答にしかならないだろうしね。

 

「あらん?結局決まっちゃったの?いい機会だと思ったのに」

 

 ヘカちゃんは残念そうに肩を落とす。彼女も彼女で一つの案を提示してくれたのだ感謝はしておくのが礼儀というものだろう。

 

「悪いねヘカちゃん、俺やっぱ閻魔様になるのは無理だよ。でも、俺の店が完成したらプレオープンするからさ、そん時は映姫様と一緒に試食しに来てよ」

 

「そう……分かったわ。美味しい料理、沢山振舞ってねん?」

 

「ああ、もちろん!」

 

「話は纏まったようですね。ではここらで失礼します」

 

「バイバイ乖離クン♪」

 

「二人共、ありがとうね」

 

 別れを告げて鏡の通信はプツンと音を発し切断された。

 

 さてさて、これからの課題は決まった。とりあえず空き地探しと従業員の確保、後は店のデザインと経営に必要な器具を揃える。………うん、なんだか充実して来た気がする。

 

「それじゃまあ、早速買い物行きますかねぇ。そろそろ夜になるけど」

 




思えば私も去年は受験に悩まされていました。
頭悪いので志望校一度落ちているんですよね~。

まあそんな話はどうでもいいとして、最近投稿が非常に滞っていますね……。
次回は出来るだけ早く投稿するようにします。

では次回もお楽しみに!!

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