東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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三十六話 正邪の思惑

Side正邪

 

 

 

「アハハハハッッ!!」

 

「クッ」

 

 とある森の一帯にて響き渡る少女の笑い声。それに合わせるように振るわれる業火の剣が草木を焼き払い周りを焼け野原に変えていく。

 私は焼けていない地を猛ダッシュで駆けながら迫りくる炎を寸でのところで回避しつつ迎撃を試みる。

 

「こん、のッ!」

 

 白銀に輝く剣『クラレント』を両手で構え、地を這う炎を切り裂きながらその発進元へと一直線に突貫する。

 対して、『彼女』はそんな私の行動が読めていたかの如く、得意げな笑みを浮かべながらただでさえバカでかい炎の大剣を更に巨大化させ待ち構えていた。

 

「もうその動きは通じないよ正邪ちゃん!」

 

 少女の叫びと共におよそ大木かと思える程にまで巨大化した炎の大剣は地を溶かし始める。その勢か、酸素濃度が薄くなり呼吸がしづらくなる。が、もう既に全速力で突貫しているせいで呼吸などそもそも関係などない。しかし、そうすることによって最早回避は不可能だ。

 

「反転しろ【魔剣クラレント】!!」

 

 クラレントに妖力を流し込み強化を施した後、私自身の能力によって本来の性質を『反転』させる。

 性質が反転したことによって、クラレントは美しい白銀の剣から禍々しい赤紫色の『魔剣』に変貌していく。それによって全身に走る妖力の稲妻が、更に私の突貫を加速させていく。

 

「いいわいいわ!そうこなくっちゃね正邪ちゃん♪」

 

「いつまでも私を舐めてんじゃねえぞフランッ!!」

 

 怒号の様に叫ぶ私を見て、吸血鬼の少女フランは楽し気な表情を浮かべつつその紅い瞳は確かに獲物を捉えた捕食者の眼に変わった。

 こうしてフランと弾幕ごっこならぬ、剣術ごっこで遊んだことは何度かあるが、ここまで互いに力を上昇させたのは今回が初めてだ。正直言うと私の剣とフランの剣とは明らかな性能の差が存在している。方や名剣、方や神代の魔剣・もしくは神剣。それだけじゃなく、私とフランには妖怪の種族としての格が違う。したがってここまで力を上昇させれば考える必要も無く私が敗北する。妖怪の上位種である吸血鬼と下位の天邪鬼ではそもそも勝負にならない。

 

 だが―――――そんなものが負けて良い理由になる訳がない!

 

「うおぉぉぉラアァァァァ!!!」

 

 咆哮と共に魔剣へと変貌させたクラレントを振りかざす。フランもそれに合わせるようにレーヴァテインを真っ向からクラレントにぶつけて来た。

 鉄パイプを思いっきり地面に叩きつけた際、手から全身へと駆け巡る痺れに似た感覚に襲われた瞬間、強力な衝撃波が生じ、私とフランを囲むように赤紫色の稲妻とレーヴァテインから派生した火の粉が辺り一面を破壊していく。

 炎の大剣と禍々しい雷を宿らせた名剣がギリギリと音を立てる。お互い剣と剣をぶつけ合った状態で地を離れ宙に浮いて行く。そんな中フランはいつも以上に楽し気な笑みを浮かべ笑っている。これぞ正に強者の余裕というものなのか………まったくもって忌々しいものだ。

 

「クッ……アアァァ!」

 

 剣に精一杯の力を込め、なんとかフランを弾き飛ばそうと試みるも、やはり種族の差が生じてしまう。私程度の腕力では吸血鬼のフランの腕力には到底太刀打ちできないようだ。

 対して、フランは相変わらずの笑みを浮かべたままじりじり押し返してくる。

 

「レーヴァテインと打ち合って尚折れないその剣には驚いたけど……これで終わりだよ正邪ちゃん!」

 

 そんな声が聞こえた瞬間、先程までの鬩ぎ合いが嘘のように一気に押し返され逆に私が弾き飛ばされた。

 抵抗虚しく、受け身も取れないまま地面に強く叩きつけられ、肺の空気と共に赤い液体が私の口から飛び出る。

 

「ゲホッ!ゴホッ!……う、おえ!」

 

 思わず吐血してしまう。どうやら力を使った反動と地面に叩きつけられたダメージが重なり私の身体を蝕んだのだろう……。それにしても、自分の血とは実に気色の悪い色合いをしていやがる。

 そんな自虐に耽りながらも、クラレントを確認すると、魔剣に変貌させていた筈が元の白銀の剣に戻っていしまっている。ということは、もう私に戦う余力はないな。

 

「大丈夫正邪ちゃん?ちょっと力込め過ぎたかな~」

 

「おかげさんでな……火傷だらけだよ」

 

「そうなの?じゃあ手当しようか?」

 

「いや、自分で出来るから」

 

 お前の場合は手当じゃないからな……。

 さて、これでまた私の敗北の歴史が増えてしまった訳だが……。どうにもこうにも、クラレントを手に入れたくらいじゃまだまだということなのか。

 やはり、種族の差は埋められないのか……。とか、思ってみたが博麗やあの白黒魔法使いはフランに何度か勝利している訳だし、やっぱ技量の問題ということなのか……。う~む、難しいな。

 

 私は未だ尚痛む身体に鞭を打ちよろよろな動きで立ち上がる。

 

「ふう……天邪鬼の私が真向勝負ってのはやっぱ向いてねえのかもな」

 

「そんな事ないよ正邪ちゃん!前に比べればとってもよくなってるよ」

 

 激励しているつもりなのか、フランは笑顔でそんな事を語り掛けて来るがお前にそんな事言われてもイマイチ実感湧かないんだよなあ。実際、ぬえも含めて起こした異変だって三人の中では一番私が弱かったわけだし。弱者は弱者なりに策を労しても所詮強者共には簡単に突破されるのがオチだからな。

 自分でもバカらしく思えて来る捻くれ思考だが、生憎と天邪鬼の私にはこの考え方が一番しっくり来ているんだよな。――――だから。

 

「明日もここに来いよフラン……。今度こそ勝つ」

 

「うん、いいよ!明日も遊ぼうね正邪ちゃん!」

 

 相変わらずの笑顔が癪に障るが、まあこいつの思考回路は幼女並だし仕方ないか……。歳でいえば一応私よりは上なんだがな。

 フランは「またね~♪」と別れを告げ飛んで行ってしまう。今日は快晴なのにあいつ大丈夫なのだろうか。吸血鬼であるが故太陽は苦手なんじゃなかったか?いや、でも前に日光反射魔法を使っているとかなんとか言ってたな。じゃあ大丈夫だろう。

 

「さて、私もいつも通りどこかしらフラつこうかね~」

 

 特に行く宛ても無く適当にブラブラとする、これがいつもの私の日常である。そんな事をしている内に退魔師やらクソうぜえ狼女やら首無しろくろっ首に追われていたりもするが、そいつらを出し抜てやるのが中々に愉快だ……。さて、一体今日は誰が私を捕らえにくるのか楽しみだよ。

 

 

 

 

※※※

 

 

 やる事も無くブラブラと歩き周り結局人里に訪れてしまう。案の定というかなんとういか、私も含めて皆無難な選択肢をとってしまうものなのだろうか……。

 まあ人里に来たはいいものの、結局のとこ特にこれといってやることの無い私は気ままに散歩をしつつ道行く人間達を観察していく。視線が合う者、露骨に視線を逸らすものと皆それぞれだが、中には妖怪に対する嫌悪感を隠そうともせず睨んでくる者も少なからず居る。だが結局は腑抜けばかりでそれ以上の事はしてこないし出来もしないのだろうが……。

 こういった厄介者を見る目は昔からの事だから別に気にも留めてないが、何故だろう……今日は妙に不可解な視線を感じる。嫌悪とか憎悪とか、そういった感情の類では無く、好奇心にも似た感情が籠った視線が少し前からずっと私の方を向いている。ここ人里では問題を起こせば色々と面倒になるので今は目立った行動をとるのは得策ではないだろう。

 

「……………」

 

 先程よりも私に向かう視線が段々と強くなっているのが分かる。近づいているようでどこか距離を置いているようで、結構あやふやな感じだ。付けられているのかとも考えたが、それにしては尾行が下手すぎる。

 ただ、近づいているようで距離を置いているように感じるということはおそらく……。

 

「さっきから一体何の用だよ……ぬえ」

 

「あらバレちゃった?流石ね正邪」

 

 視線を感じていた方向とは逆側に顔を向けると、妙にニヤついている大妖怪様が目に映る。その表情があまりにもイラつくもんで、一瞬クラレントで叩き斬ってやろうかとも考えたが、ここは人里である訳だし、問題行動は起こさないに限る。そもそも大妖怪相手にはまだ私じゃ対抗できないし。

 

「んで、何の用だ」

 

「別に~。正邪が人里にいるのが珍しいと思っただけ」

 

「そうですかい……んじゃとっとと失せてはくれませんかね?」

 

「相変わらずの減らず口で安心したよ雑魚妖怪」

 

「………安心してもらって嬉しいよマヌケ妖怪」 

 

 お互い笑顔を浮かべて上記のセリフをぶつけ合う。こういった意味の無い皮肉めいた挑発は私とぬえの間では挨拶のようなものだ。……無論殺気や怒りの気配を発っしている訳ではないが、妖怪同士が今のようなやりとりをしていては人間達も気が気じゃないだろう。横目で見ても分かる、人間達の不安げな顔……恐怖した表情。その恐怖や畏怖こそが我ら妖怪と人間の差だ。

 だがまあ、それが通じるのはこういった有象無象の類に限るんだが……。

 

「いつも通りだね」

 

「いつも通りだな」

 

 私とぬえはハハっと笑い、歩を合わせて歩き出した。

 

「お前こそ何してんだよこんなとこで」

 

「私?私は乖離に呼ばれて来ただけだけど」

 

「あいつに?」

 

 あの人間が一体何の用でぬえを呼んだかは知らないが、呼ばれたからといってむざむざ現れるぬえもぬえだろう……。仮にも妖怪であるのだから警戒くらいはしておけというものだ。だが、私も行く宛ても無くブラブラしているだけだし、暇つぶしに付いて行ってみようか。

 

「私もよくは分からないんだけどね、乖離が大事な話があるとかないとか言ってたから」

 

「場所は分かってるのか?」

 

「一応命蓮寺まで集合場所の地図は届けてくれているから分かるには分かるんだけどね……」

 

 そう言ってぬえは一枚の紙をポケットから取り出し、目を走らせていく。私も少しぬえに寄って地図とやらを覗いてみる。

 

「ん、この赤い印の付いてるとこが目的地か?」

 

「そうみたいね」

 

「それって………ここじゃん」

 

 人里全体が描かれた地図に一点だけ赤い印の付いている場所がある。そこは言うまでも無く、今現在私とぬえの横に建っている大きめの建造物。宿かよとツッコミを入れたくなる大きさだが、見た限り建ってそう時間が経っているようにも見えない。まるで、ここ最近出来上がったばかりのようだ。

 

「ここ?にしては随分と立派なとこじゃん」

 

「ぬえも知らない場所か?」

 

「たまに人里には来るけど、こんな建物があった記憶は無いわね」

 

 てことは、やっぱり私の予想は間違っていないということなのか?立派と言えば立派だし、少々この時代には会わない建築仕様だしな。どこか現代染みているというかなんと言うか。

 

「とりあえず、入ってみる?」

 

「そうだな」

 

 入口にはちゃっかり青紫色の暖簾があるし、扉はこの時代の物とは違って純木製の物ではなく硝子を使っている。 

 ぬえが扉を開け中に入って行くのに続き、私も同じくして建物の中に入る。

 建物の中は非常に良く手入れされており、正に新築感を醸し出している。広々とした空間の中に大小様々な固定された机と椅子が置かれてあり、瞬時にしてこの建物が飯屋というのが分かった。

 

「これは中々……」

 

 人里には沢山の飯屋があるが、ここまで立派で進んだ設計が施された飯屋はまず無い。カウンター席っていうのか?そんなものまでしっかり用意されている辺り、抜かりが無いなここの主人は……。

 

「あれ正邪ちゃん?」

 

「ぬえ、やっと来た!遅ーい」

 

 妙な声が聞こえたと思ったら、数時間前に別れた筈のフランとお面を付けた奴まで一緒にいる。お面の奴はいつぞや会った気がするな。

 二人は私とぬえを見るなり「こっちだよー」と言いたげに手を振ってくる。二人共子供用なのか、小さな椅子に座りながらジュース?の入った硝子のコップを手にしている。

 

「あれ?フランも呼ばれてたの?てっきり呼ばれたのは私とこころだけかと」

 

「私は館に帰ってる途中でお兄様に呼ばれたんだよー」

 

「ふ~ん、そうなんだ」

 

 ぬえは乖離に呼ばれたと言っていたが、こいつらも揃ってあいつに呼ばれたのか?だとしたら、一体何の意図があって……。

 なんて思っていると、どうやらこいつらを張本人様がご登場のようだ。

 

「皆集まってる?……あ、正邪発見」

 

 乖離は私を見るなり急に意味の分からん言葉を発した。私を発見?一体どういう意味だ。

 

「よかった、イチイチ探す手間が省けたよ。これで紫のスキマに頼らなくてもいいな」

 

 今なんか物騒な事を聞いた気がするが、その意味を追求するのは私の勘が危険信号を発しているのでやめておこうそうしよう。

 だが、こいつは私を探してたと言った。一体何の用があるかは知らないが……相手は私を然り、ぬえやフランですら太刀打ちできない化け物なんだ、下手な事はしない方がいい。

 

「でさ乖離、何で今日私達を呼んだの?」

 

「俺今週の金曜からこの『定食屋』を経営する事になっててさ、従業員を募らないといけないんだよね」

 

「つまり、私達にここで働けってのか?」

 

「言い方はアレだが、まあそんな感じ?」

 

 警戒していたのも束の間、なんという拍子抜けな事か……。驚いて危うく目が点になるとこだった。それに驚いているのは私だけではなくぬえやフラン、後お面被ってる奴も驚いた表情をしている。一名は真顔だが……。

 しかし、乖離は一体どういうつもりだ?そこのお面の奴はよく知らんが、私とぬえとフランは先の異変の首謀者であり、この幻想郷でもそれなりに危惧されている者だ。特に私なんか未だに指名手配されてるし。

 

「まあ別に働きたく無いってんなら断ってくれてもいいよ?人員は減るがなんとかやり通してみるし」

 

 天邪鬼の性分だからという訳でも無いんだが、私にはこれといって断る理由が無い。それどころかこいつの下に就けば私を追ってくる自警団の連中や妖怪共も下手に手出しできなくなる。私にとっては願ったり叶ったりなのだが、妙に上手く使われてる気がしてならない。

 そう思ったのはどうやら私だけではないようで、ぬえも同じ意見のようだ。

 

「別に働くという点には問題ないんだけどさ、何の意図があって私達なの?乖離が声を掛ければいくらでも人員は募った筈じゃないの?あの蓬莱人の連中とかさ」

 

「ん?単純に暇さそうな奴で真っ先に頭に浮かんだのがお前らだったってだけだが?あとあの二人は却下、喧嘩で店を破壊されたら困る」

 

「そ、そんだけ?」

 

「そんだけ」

 

 今日で二度目の拍子抜けだ。まさか本当にそれだけが理由だってのか?ただ暇そうだからという理由で……。人間って何考えてんだか分からんな。

 

「で、どうする?」

 

「私は賛成だよー」

 

「私もー♪」

 

 暢気に重要点を聞かずに手を挙げるロリ二人。何故お前らはそんな悠長なんだよ……。子供の思考回路ってどうなってんだ……。

 先が読めない奴だが、ここは敢えてこの話に乗ったほうがいいんじゃないか?こいつが私達を利用しようとしているようにも思えんしな……。それに、意外と楽な仕事かもしれないし。

 

「いいぜ……乗ってやるよ。その代わり、安全は保障出来るんだろうな?」

 

「客からのやっかみならこちらで対処するが、お前から喧嘩は売らないでくれるとありがたいかな」

 

 まあそういう事なら多分大丈夫だろうが、問題は私では無くフランじゃないか?あいつは何かと不安定な奴だし。というか、こいつもこいつでよく妖怪なんて雇おうなんて思ったな。こいつ自身が妖怪と真正面からやりあえる強さがあるから、そこからくる自信なんだろうけど。

 

「ぬえはどうする?」

 

 私を含め三人は了承しているが、残っているのはぬえだけだ。こいつも私同様にすんなりと首を縦に振ることはないだろうが、その何かを考えている様子を見るに何らかの意図があるんだな。

 そうこうしていると、ぬえがポンッ!と手を打ち、親指と人差し指で輪を作り乖離に見せつけるように、如何にも何か企んでる表情を見せた。

 

「『これ』と応相談だね~」

 

 こいつ、抜け目ないな……。幻想郷で生きていく限り野宿だけではまず不可能だ。必ず金銭面の問題が生じて来る。ぬえはそこら辺を良く理解しているようだ。流石は平安京の大妖怪!そこに痺れもしないし、憧れなんてクソ喰らえ。

 

「その辺はこの冊子に目を通してくれるといいよ」

 

 どこから取り出したのか、乖離はおよそ紙三枚分程度の冊子を四つ、それぞれに手渡してきた。真っ先に目に入って来たのは時給面だ。一番最初に一が一つとそれに並んで零が四つ………。ん?零四つ?

 

「「何イイィィッ!!時給一万だとぉぉ!!!」」

 

 あまりの桁数に私は腰を抜かして床にへたりこんでしまう。

 ありえない、こんな数字!一体どこの有名企業に主任採用されたんだ私達は……!時給一万とかそこらのサラリーマンより圧倒的に高額だろうに。乖離のやつ一体何を考えているんだよ。だいたい、そんな金どこに仕舞ってんだか。

 

「乖離……な、何かの冗談だよねこの数字?!ありえなくない!ただの定食屋のアルバイトでしょ?」

 

「……何か問題でもあるのか?」

 

 乖離はケロッとした表情でぬえに疑問符を返すが、当のぬえも金額が金額なだけに困惑と喜びがごっちゃまぜになって正常に頭が機能していないようだ。

 しかし、私達とは対照的にフランとお面女はこの金額がしっかりと理解できていないのか、『何それ?』とでも言いたげな表情で小首を傾げている……。嗚呼、お子様頭脳は色んな意味で羨ましいよ……。

 

「んで、ぬえの方はどうする?」

 

「ま、まあ乖離がそこまで言うなら働いてあげなくもないかな?」

 

 白々しい奴め……。目の中金に染めて何をいいやがるんだかこの大妖怪は。

 

「よし、これで人員は揃ったし早速役割分担を決めるぞ?」

 

 そう言って乖離は少し大きい紙を取り出し、そこにすらすらとペンを走らせていく。

 

「一応料理長は俺として、副料理長……まあ俺のサポートに回れる、というか料理できる奴挙手」

 

「「「ぬえ(ちゃん)」」」

 

「え?私なの!」

 

 ぬえはいきなり私を含め三人に推され戸惑った表情を見せている。とはいえ、ぬえの料理の腕は私もフランも体験済みだ。ああ見えてぬえは命蓮寺という寺で暮らしていた経験もあってか、精進料理はかなりのものだ。聞いたところによるとその命蓮寺では一番料理が上手かったとかなんとか。

 

「次は接客or料理を運ぶ役柄だが……これはこころちゃんとフランしかありえんな」

 

「頑張るぞー!」

 

「オ~♪」

 

 こころと呼ばれたお面女とフランは流石いうべきか、中身が子供であるが故に何の異論もなく楽し気にガッツポーズをとっている。

 しかし、そうなってくると後の私の役柄は何になるんだ。

 

「正邪は~……うん、店長でいいだろ」

 

「は?」

 

 ついつい間抜けな声が出てしまったが、今こいつ何て言ったんだ?私を店長に………?天邪鬼であるこの私をか?

 

「いやいやいや、店長はお前じゃないのかよ」

 

「料理長と店長は両立できんのでね。それに、お前は俺よりもあの三人をまとめ上げる事に向いている。逃亡者として培った観察眼とあらゆる状況にも対処できるその冷静さをかったまでだよ」

 

 どうしてそこまで私を信頼できるのかは知らないし、知ったような口を叩かれるのは非常に不愉快ではあるが、こいつの前ではあの八雲ですら頭が上がらないんだ……。ひとまずここはこいつの口車にのってやるとするか。

 

「へいへい……。やりゃあいいんだろ~」

 

 まあなんにせよだ。仕事という面でも乖離を観察しておくのは大事だろう。いずれは越えねばならん存在だ、むしろ好都合と解釈しておこう。

 

 

 

 

 

「そんじゃ早速、下準備を始めるぞ!!プレオープンは三日後。それまでに仕事の流れを体に叩き込んでもらう!」

 

 望むところだ。天邪鬼の采配ってのを見せてやろう!!いずれはその首をもらい受けるからな乖離。




グ、またもかなりの期間を空けてしまいましたか。
いよいよ日常編も次回で最後です!日常編終了後はいよいよ新章開幕!!

頑張ります!!

次回もお楽しみに!!
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