東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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これで特別篇はラストです


ではどうぞ!!


特別篇 サマー・メモリーズ⑤

 何はともあれ、結局のところ乖離にとってこの夏の海は地獄でしかなかった。

 スイカ割りのスイカ役を押し付けられたり、逆恨みでスペカを放たれたり、助けてもらったと思ったら斬られかけたり、仕舞いにはタックルで気絶させられたりと、散々な目に遭っていたのだ。

 

 しかしだからと言って、乖離がそれらの事に対し怒りや恨みといった感情を抱くことは無かった。乖離にとって、それらの全ては彼女らが楽しむためには必要は犠牲であると理解していたのだから。

 故に、彼女らに怒りの感情を向ける事はないし、ましてや恨むことも無い。乖離も乖離で、その状況をそれなりに楽しんでいたのだ。

 

 

 ただ、一つだけ思う事があったとするのならば………『せめて釣りだけでもさせて欲しい』と、いうことだろう。

 

 

 

※※※

 

 

 あれからというもの、乖離は自分の下に集まって来た者達の要望を全て叶えて回った。頭が痛くなるのを我慢しながらも、乖離は出来るだけ彼女らの機嫌を損なわないようにすべく、動き回ったのだ。

 やれビーチバレーをしろだの、砂の城を創れだの、一緒に泳げだの、弾幕ごっこをしろだのと、あれやこれやと引っ張りダコにされながらも、乖離は懸命に彼女らを楽しませる為に尽力を尽くした。

 

 

 結果は……語る必要もないだろう。あれだけの人数をたった一人で捌ききったのだから、その後どうなるかなど……言わずと知れたことである。

 

 

 現在の乖離はというと、小船で沖の方まで出ていた。というのも、既に疲労困憊でのびてしまった乖離を、面白半分で小船に乗せ島流しの如く捨て去ってしまったのである。(主に魔理沙が)

 

 

 

 小船で沖を漂いはや数十分が経とうとしている。乖離は未だ疲れが抜けておらず、指一本動かせない状態で空に輝く太陽を眩しそうに、目を半開きにして眺めていた。

 これがいつもの休日であったのなら、このまま寝てしまうのもやぶさかではなかったのかもしれないが、今の乖離にとって『寝る』という行為ですら最早苦痛である。しかし寝むりたいのはやまやまであるのだが、如何せん身体がそれを拒絶している。

 

「うぅ………」

 

 小さな苦悶の声が零れ落ちる。それはこれまでの面倒事を処理してきた乖離から零れ落ちたものだ。全身に走る苦痛と疲労が、現在の乖離を作り上げてしまった。自然エネルギーの回復力を持ってしても、この苦痛と疲労が抜けきるには数日と必要になるだろう。

 それをなんとなく理解していた乖離は、明後日の仕事に支障が出ないか心配になり、ストレスが溜まってしまう。ストレスが溜まるということは、無駄にエネルギーのを消費してしまうので、治るものもなかなか治らなくなるし、身体も動かなくなってしまうかもしれないのだ。

それはそうと、一体どれほど岸から離れてしまっているのか、それを考えてしまうと、乖離は全身の疲労とともに頭痛にまで苛まれてしまいそうになった。あまり考えたくはなかった。数十分も経っているのだから、相当沖の方まで漂っているに違いないからだ。

 

 全身に走る苦痛と、疲労に苛まれながらも乖離はゆっくりと身体を起こし、吐きそうな気分を我慢しながらもギリギリ海岸を視認できた。見れば見る程に、色々と諦めてしまいそうになっていく。

 

「も、もう……あんなに離れたのか?」

 

 小船の際にもたれ掛けながら、乖離は嫌そうに呟いた。

 何故こうなってしまったのか、などと一々考える余裕すらなく、若干の涙を浮かべて片腕を海に浸けた。

 冷たくも、天から注がれる陽光によっていい按配の取れた感覚が、疲労した身体を癒してくれるような感覚があり、乖離はその心地よさに眠りへ落ていく――――

 しかしその時、不意に乖離の浸かっていないもう片方の腕が、誰かによって握られた。

 

「お疲れ様です、乖離様」

 

 眠りに落ちそうになった乖離の意識は、上記の声によって寸でのところで留まった。

 乖離は眠そうに、目を半開きにして声のした方向を確認する。するとそこに居たのは、紫色のフリルのついた水着を着た紫が微笑んでいた。

 

「紫……?」

 

「はい、私ですよ」

 

 痛む身体に鞭を打ち、無理にでも起き上がろうとする乖離を、紫はそれを静止させ、もう一度寝転がせる。

 

「無理をなさらなくとも構いませんよ、相当お疲れなのでしょう?」

 

「そうか……なら、そうしようかな」

 

 紫に説得されて、乖離は潔く小船の底に背中を預けた。

 再度寝転んだ乖離を見て、紫はまた和やかに微笑む。それを見た乖離も、安心したように小さく笑う。

 紫はいつもとは違い、紫眼ではなく金色の瞳で、隣で身体を休める乖離を幸せそうに、それでいてどこか楽しそうに見つめている。

 紫が金眼になる時というのは、主に妖怪としての本質が強く出ている時である。それ即ち、並の人間ならば餌となり、妖怪であるのなら玩具の如く惨殺されるものである。この状態の時の紫は、霊夢や他の者達からもかなり恐れられている。

 だというのに、紫は乖離を襲う気配は無い。それだけではなく、そんな凶悪な妖怪が直ぐ傍に居るというのに、乖離は何の不安も恐怖も抱いていない。それどころか、一種の安心感すら乖離と紫にはあった。

 傍から見れば、この上なく異常な光景であるのだろう。餌を前にした妖怪と、その餌である筈の人間が、幸せそうな表情で手を繋ぎ微笑み合っているのだから。

 

 それもこれも、きっと乖離と紫の間に存在する……古くからの縁と絆によるものなのだろう。

 でなければ、紫の幸せそうな表情と、乖離の安心しきった表情に、説明が付かないのだから。

 

 

 

※※※

 

Side乖離

 

 

 

 結局のところ、この夏の海は俺を殺すために用意されたイベントだったらしい。でなきゃ俺がこんなにも傷つく筈は無いのだから。

 いつも定食屋で百人近くの客を捌いているが、今回は相手が相手なだけに、真面目に死を覚悟したかもしれない。マジでそう思えてしまう程に苦しかったんだよなぁアレは……。

 

 さて、最上記までの被害妄想は放っておいてだが、現在の俺は金眼に変わった紫に手を握られている状態である。

 しかも小船で二人っきり……ハッキリ言ってメチャクチャ緊張している。緊張の勢で身体の疲労を忘れてしまい兼ねない程に………。

 

 だって仕方ないと思わない?紫ですよ?スタイル抜群な上に誰が見ても芸術かと思わせる程の美貌を持ち、整った綺麗な顔をしているんですよ?極めつけは童貞殺しの紫のフリルの着いた水着を着ているのだから。……しかも、結構おっきいよな………(何がとはいわないけど)

 ついでに言っておくなら、俺は女性経験が乏しいので、こういった水着やスタイル抜群の女の子にはめっぽう弱い。ああ、この事が永琳に露見した時どれだけ色仕掛けで頭を抱えさせられたか……あれは一種のトラウマだよ。

 

 俺がそんな回想に耽っていると、不意に握られている手が更に強く握られ、我に返った。

 そっと片目だけ紫の方に向けると、俺の視線に気付き、柔らかな笑みを向けて来た。

 何だか気恥ずかしくなり、ついつい視線を逸らしてしまう。向けられた笑みにきっと耐えられず、顔が赤くなったからだろうな。

 

 本当に、参ってしまう。こういう時に限って俺には女性経験がないのだから、見つめ合うことすら恥ずかしくて目を背けてしまうのだ。だからといって女性経験を増やそうなどとは思っていないけどな。だって俺にはそんな難易度ルナティック級な事できる筈ないしね。

 

「太陽が……眩しいなぁ~」

 

 ふと、そんな言葉がなんのまいぶれもなく出て来た。

 確かに太陽は眩しいが、何故唐突にそんな言葉が出て来たのか分からない。もしかしたら無意識の内の照れ隠しに出てしまった言葉だったりして……いや、無いな。

 

 俺の呟きが疑問に思ったのか、紫は小首を傾げながら聞いてきた。

 

「眩しいのですか?」

 

「ん?まあ、うん。眩しい……かな?」

 

 俺の返答を聞くやいなや、紫は口元には怪しさ満点の笑みが浮かんでいた………スゲー嫌な予感がするんですが……。

 そして、俺の予感は恐ろしいほどに的中した。

 

「―――なら、私が日光を遮りますわ」

 

 紫はそう言うと、文字通り、紫が俺を押し倒したかのような体制で、日光を遮った。

 

 

 

 

 

 

 ちょっと待て……どうしてそうなるんだ?いや、どうしてそうする必要があるのか……日傘でも差せば万事解決だっただろうに、何故こう……押し倒したような体制で

日光を遮ったんだこいつ。

 ヤバイヤバイ!心臓の鼓動が尋常じゃなく速い。それに顔もなんだが熱い……何でだろー。それに、この体制では目を逸らそうにも逸らせない。否が応でも紫の怪しげな笑みと若干ハイライトが消えかけの金色の瞳に釘付けになってしまう。

 

 目と目が合う。気恥ずかしさのあまり引きつった笑みが浮かんでしまう。

 対する紫は更に口元を怪しく歪め、太陽を背にしたおかげで逆光も相成りますます妖怪らしさを醸し出していた。

 金色に輝く瞳は、確かに獲物を捉えているようであった。そして口元では小さく舌なめずりし、どこから獲物を喰らおうかと吟味しているようであった。

 

 

 

 

 ヤバイヤバイ!妖怪の本領を発揮した紫は色々とヤバイ!物理的に喰われる事は多分……無いと思うが、それ以外の、何か大事なものが喰われてしまいそうな気がしてならない。

 

 俺は抵抗するように腕に力を入れようとするが、忌々しいかな……ここに来て今までの疲労があるのを忘れていた。

 つまりまったく身体が動かない。疲れが溜まり、ストレスも蓄積されていた勢で身体の自由がまったく効かないのだ。将棋言う詰み、チェスで言うチェックメイトというやつだ。

 

 まさに万事休すである。

 最後に、俺は冷や汗を掻きながらもこの行動に走った紫に問いかけてみた。

 

「あ、あの~……紫さん?何をしようとしてらっしゃるので?」

 

「さて……何でしょうね……フフフ…」

 

 ヤベー!マジでヤベーよこいつ!本気だよ!こいつの目マジで俺を喰う気の目だよ!!

 

 

 俺の物語もここで終結になるって事だな多分。よし、潔く受け入れようそうしよう!どうせ抗ったところで無意味だしな、この身体じゃ。

 

「せめて、痛くしないでくれるとありがたい……」

 

 俺がそう言うと、紫は一瞬驚いた表情に変わったが、すぐさま先程通りの笑みに戻り、ゆっくりゆっくりと顔を近づけて来た。

 

「ご心配なさらずとも、痛くはしませんわ。―――きっと、これ以上ない程の快楽が乖離様を癒すでしょう」

 

 そう言って、紫は若干息を荒くしながら近づいて来る。

 

 俺は一度だけ瞬きをして、全てを受け入れる体制を整える。もう為す術無しだな。

 俺は紫に喰われておしまいになるのだろう。(色々と)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――て、んな訳ねえでしょうが!!

 

 俺は握られていない方の腕を素早く動かし、迫りくる紫の顔を掴んだ。俗にいうアイアンクロウだ。

 

 アイアンクロウを受けた紫は、非常に驚いた顔をして、俺の表情を見て引きつった笑みを浮かべ始めた。

 

「アホゥが……そう簡単にご馳走にありつけるとか思ったのかよ?!……舐めんな!」

 

 握られていなかった方の腕を海に浸けていて幸をそうしたというところだろう。おかげで気休め程度だが、自然エネルギーを回復できた。それも神代の海だからできたんだろうな。

 

「さてと、覚悟は出来てるかね?ゆ・か・り?」

 

 慈悲は無い。俺を喰おうとした輩には、それ相応の仕置きが必要だ。

 

 俺の言葉聞いた紫は、冷や汗を掻きながら、赦し懇願して来た。

 

「も、申し訳ございません。つい、調子に乗り過ぎました……。なので放してください!痛いです!凄く痛いです!!」

 

 痛いのは当然だ。アイアンクロウだし、それなりに力も入れてるしな。そして放す気はない。諦めたまえ紫よ……ここから先は一方的な制裁タイムだ!

 

 

 

 

 

 ――――なんてヒドイことはしないけどね。

 

 俺はアイアンクロウを解き、その手で紫の頭を抱いた。

 

「きゃっ!」

 

 上記の可愛らしい声とともに、紫は俺の胸に抱きかかえられる体制になった。

 紫は驚き戸惑いながらも、身動き一つ取ろうとはしなかった。俺的にはありがたい。

 

「か、乖離様?!」

 

 紫は困惑したような声で俺の名を呼んだ。唐突の事だから、無理もない事だろうがそこは出来れば察してくれてもいい気がするな。

 

「どうせ、せっかくの海で遊べなかったからこんな行動に出たんだろ?……なら、今はこれで我慢してくれ。ちゃんと体力が戻ったら遊んでやるからさ」

 

「乖離様……」

 

 紫は俺の言葉に納得してくれたのか、気恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋めた。

 

 体力が戻ったらとは言ったが、ぶっちゃけると……実はもう全回復してたりするんだけど……ま、今はこの状態が心地よいから、黙っておくとしようかな。

 

 

 

 

 

※※※

 

 そして、最終的に乖離は紫と共に数時間ほど他愛も無い会話で盛り上がりながら、二人だけの漂流を楽しんでいた。

 兎にも角にも、彼にとって、この夏の海というのは地獄でしかなかった筈が、知らず知らずに楽しい思い出になっていたのだろう。

 

 友達と来る海というのも、悪くないと思える程度には楽しめたのだろう。

 

 だが、決してこれが終わりという訳でもなかったりもする。

 

 

 なにせこの後、乖離と紫は岸部に戻り皆で一緒にBBQを愉しみ、夜になればまた皆で弾幕花火を上げたりと、なんやかんやで楽しんでいた。

 

 その際ヘカーティアが誤って【ルナティック・インパクト】を落とし、砂浜と海が消し飛んだのは一生忘れない思い出となるだろう。

 

 だが、最後は皆笑顔であったのは嬉しいことでもあった。

 そして乖離は思うのだった。

 

 

 

『海、二度と来ない!』

 そう心に刻んだのであった。

 

 

 

※※※後日談(別話)

 

「結局あの海ってなんだったんだろうな?」

 

「さあね~、私には分かんないかな」

 

「まあ、お前の頭じゃ無理だよなぬえ」

 

「何気に私をディスるな!」

 

「まあ、それはそうと……俺は何してたんだ~」

 

「知らんがな」

 

「………釣りしたかった」

 

「そだね~」

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ乖離!」

 

「なんだよ、急にテンション高くなって……」

 

「何か言う事あるんじゃない?」

 

「ああ、そうか、もうそんな時期かぁ」

 

「ほらほら、早く!!」

 

「へいへい……」

 

「いくよ?せ~の!!」

 

 

 

 

「「十六夜やと大先生、コラボありがとうございます!!」」

 




遅くなり申し訳ございません。あれやこれやとやっていると、全然執筆が進みませんでした(;´д`)トホホ

そして、どうだったでしょうか、夏イベの方は……。自分では「あれ、内容が薄い?」と思ってしまいました。反省せねば……。


後日談でもお二人に言ってもらいましたが、ここでも改めて―――

十六夜やと大先生、コラボして頂き本当にありがとうございます!
もう感極まっております(´;ω;`)ウゥゥ
本当嬉しいです!

いつか私も色んな方とコラボしてみたいですね!
その為にはもっと技術を磨かねばなりませんけどね……(白目)

最後に、登場して来た本編未登場のキャラについて―――

八意永琳及び蓬莱山輝夜達は直ぐにでも登場するでしょう。
ヘカーティア・ラピスラズリや四季映姫は本編の日常回にて登場します。
豊聡耳神子及び東風谷早苗は【月の姫と少年編】後の新章、【三陣宗教編】にて登場します。

これからも応援よろしくお願いします!
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