しふと✡ぎあ   作:takurai

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第2話

「思い出せないの?」

 記憶喪失。

 健忘の一種。

 外的要因や心的要因などによって引き起こされる記憶障害である。

 何かの拍子で思い出すこともあるが、思い出すこともなくそのまま一生を終えるのも珍しくない。

 めんどくさいな…全く神は私に何というものを押しつけてくれたのか…

「…ダメですね…自分が何をしていたかも何故ここにいるのかも思い出せない…」

 目の前の少年は言葉につまりつつもそう答えた。

 …もう見なかったことにして帰ってもいいかな…。

 いや明らかに怪しい場所で倒れている人間に関わろうとした私の責任でもある。

 責任というか不運というか。

「まあいいや…分かんないなら私についてきなよ。

どうせ行くアテもないんだろうしさ」

 流石に記憶喪失の人間を放置して変えるほど私は腐っていない。ついさっきまで似たような事を案として考えていたのは秘密である。

「分かりました…すみません迷惑かけて」

 迷惑かけてると思うのなら最初からそこで倒れるような事をするなと言いかけたがここはぐっと堪える。

 何しろ記憶障害なのであれば自らがなぜなにをしてそこで倒れていたのか、覚えている訳もないのだからただの八つ当たりになってしまう。

 所謂二重人格で一方の人格がしたことはわからないのと同じだ…二重人格によっては一方のしたことを理解している場合もあるがここでは割愛する。

「ほら立って…行くよ」

 そう言って引っ張って立たせようとする…ここで気がついてしまった。

 こいつ自分より身長高い。

 浮いている自分とほぼ同じ目線である。

 恨めしい…妬ましい…

 神はなぜ私をこの様なボディにお入れなさったのか、何か私に恨みでもあるのだろうか…もしかして私は前世で何かやらかした極悪人なのかもしれなかった。

 少年はそんな私の恨みがましい視線に気がついたのかオロオロし始めた。

「あの…?なんか…すみません」

 何も悪くない少年を謝らせてしまった。

 屑である。

 ひょっとすると本当に前世でやらかしているのかもしれない。

「何か気に触ることをしてしまったでしょうか…」

 言わせてもらうならこんなところで倒れていたことが気に触ることであるが…

 「いいやいいや!気にしないで!ごめんね!」

 強引に話題を切っていく。

 空気は悪くなっていくのであった。

 この状況なら10人中8人くらい私が悪人だと言うであろう。

 もうめんどうにめんどうが重なってうんざりしてしまう。

 さっさと帰ってしまおう。

 今現在周りは荒野で視界は広く、見当たる不審物はなかったが早く離れるに越したことはない。

「ふーむ…あのロープに掴まっててくれる?」

 そういってコックピットから垂れ下がるごく一般的なワイヤーで編まれたロープを指さす。

「分かりました…」

 彼がロープに向かってよろよろ歩いている間に私はコックピットに入り、システムを起動する。

『システムオンライン、おはようございます。これより各部チェックを開始いたします。しばらくお待ちください』

 合成音声が装置の状態を確認していることを伝える。

 コックピットから身を乗り出して下の少年の様子を見ると、もう既にロープに掴まっていた。

「引き上げるよー」

 少年からの返事を待つこともなく引き上げ装置のスイッチを押し機能をオンにする。

 動かない。

 チェック中なのを忘れていた…私も健忘症なのかもしれない。

 仕方がないので引っ張って引き上げることを思考したがか弱い女の子がそんなこと出来てもどうかと思うし実際不可能であった。

 再度コックピットから身を乗り出して叫ぶ。

「ごめんちょっとまっ…」

 その光景に驚く。

 少年はロープを伝って登ってきていた。

 恐るべき回復力…さては君はFPSで操作する自キャラだな!とかなんとか頭をよぎったが声には出さない。

 さっきまでよろよろ歩いていたのにそんな体力があるとは思えなかったが、あるのなら仕方がない。

 疲れているのは足だけという可能性もある。

 そして私はまたミスをやらかしている事に気がつくことになった。

『チェック完了。スタンバイモードに移行します。』

 その声が聞こえると同時にロープ巻き上げが始まった。

 さっき機能をオンにしたときスイッチを押し込んだままであった。

 もうコックピット近くまで来ていた少年は急に動き出したロープを手を滑らせて危うく話してしまうところであった。

「ごめーん!!!大丈夫?」

「だ、大丈夫です!」

 両腕だけでロープに掴まる体制になってしまっていた。

 幸いすぐコックピットまで到着したが危うく殺してしまうところだった。

 人間は1メートルから落ちても当たりどころが悪ければ死ぬのだ。その2、3倍の高さから落ちたら目も当てられない。

 まあ落ちてないし死んでないし問題ないと割り切った。

 コックピットのハッチを閉じた。

コックピット内では少しぎゅうぎゅうになっていたが、コックピットの椅子でなく後ろの荷物スペースに座らせることで事なきを得た。

 荷物扱いである。

 荷物スペースには食料や医療品のはいったダンボールが積まれていたがそのダンボールに挟まれるように彼を座らせた。

「シートもベルトも何もないから気をつけてね。

では出発進行…!」

 Qi3はスラスターから炎を吹き出して推力を発生させ、機体を前へ進めていった。

 サンド迷彩に塗装されたQi3が道路の上を進んでゆく。

 少年は動き出した時の揺れに少し驚いていた様ではあったが冷静でもあった。

 そして安全圏へ向かってQi3は進んでいたが…

 会話がない。

 絶望的なまでに静かである。

 さっきの視線のせいで少年は萎縮してしまっていたし、私からは別段聞きたいことも何もなかった。

 とはいえ私はこの苦行空間で時間を過ごしたいだなんてマゾではなかったし、相手も同じく気まずいだろう状態はあまりよろしくないと思った。

「あー…うん、名前は分からないんだったっけ。

なんて呼べばいいかな?っと」

 そう適当に考えついた質問を口にした。

 口にした、次の瞬間私はQi3を戦闘態勢へ移行させた。

 移動には使用されていなかったスラスターが稼働を始め、機体は加速する。

『システムコンバットモードへ移行します。』

「別に何で呼んでも…?どうしました?」

 私はその言葉には答えず、右手のライフルを前方へ向けて構える。

「大人しくしてて…掴まってて。

『死にたくないのなら!』」

 前方には…まだ距離があったが、それは見えた。

 倒れていた人間の方がよっぽどマシであった。

 『それ』は…防術機だった。

 防術機は対エルフ用の兵器であったが、勿論と言うべきか、当たり前でもあるが『対人』も『対防術機』も可能なのである。

 所詮兵器、何かを壊すことには変わりがないのだから。

 多少距離がある為視認しづらいが、多分SEITA社のブラスタだった。

 赤いメインカメラの光、特徴的な頭部や胴体などの流線形から判断したものである。

 しかし各部のパーツが見たことの無いものになっており、手のこんだ改造がなされているのが理解できた。

『そこの傭兵、これ以上近づくな。

警告を無視した場合発砲する。』

 通信が入った。

 傭兵用のオープンチャンネル番号にしていたので、受信できたのだがもしこれが秘匿回線番号に設定されていたのなら…寒気がする。

 Qi3のスラスターを逆噴射し、ブレーキをかける。素晴らしい制動性であったが今はそんな事を考えている場合じゃない。

 前方の機体だけでなく、全方位に神経を集中させる。

 いた。

 後ろからも何かが向かってきている。

 地面に僅かな不自然な振動があっただけであったが、ディスプレイに後方を表示した所同じく防術機の様だった。

 挟まれたわけである。

「…何が目的?」

恐る恐る質問を投げかけてみたところ、すぐに返事が来た。

『私は今ある『仲間』を探しているのだ。

事故で行方不明になってしまったのだが。

お前には質問がしたかったのだ。

誰かここで少年を見なかったか?』

 ……どうしよう。

 仲間というのならここで少年を渡してしまってもいいだろうけども…果たして、『彼の言葉を信じて良いものか』。そもそも生身の人間が戦場で普段着で放り出されるなんて一体どんな事故なんだよ。

 拾った少年に多少の情がないわけでもなかったのでもしかしたら少年の敵かもしれない相手に少年を引き渡すことは出来なかった。

 いや、選択肢になかった。

 私が悩んでいるのはこの状況をどう解決すべきか、である。

 敵からすれば2対1、相手は一人であったし、何かの気まぐれで襲われる可能性は高い。

 でもとりあえず返事はもう決まっている。

 

「知らないね、そんな人は」

 

 あなた達の仲間なんて知りません。

 

『そうか、時間をとらせてすまなかったな』

 なんだ、襲われるなんてなかったかと安心した次の瞬間

『ではここで死んでもらおうか』

 平和でいたかったな。

 

 

 Qi3をスケートをしているかの様にホバー機動で縦横無尽に滑らせていく。

 敵のブラスタは横移動しながらこちらへ向けて射撃してきていた。

 後ろから迫っていた防術機はFASRという人型にも輸送機にもなる多目的飛行機といえる変形機だった。

 だが、FASRは私を狙わず高高度まで上昇していた。

 ナビゲートに徹しているのだろうか。

 もしかしたら非武装なのかもしれない。

 そして地上ではQi3とブラスタの戦闘が行われていた。

 ブラスタは一発、また一発と確かめるように狙いを定めて撃ってくる。

「甘いねぇ!まだまだそんなんじゃこの機体は捉えられないさ!」

 こちらは右手にショットガン兼ライフル、左手にはレーザーブレード、両肩にウイング状のレールガンを装備していた。

 それに対してブラスタの兵装は固定マシンガンのみであった。

『ちょこまかと動きおって!』

 そしてその固定マシンガンをリロードし始める。

 撃ちすぎだ。

 いや、狙って撃ってはいたし撃ちすぎというよりは当てなさすぎと言うべきだ。

 まあ、『その瞬間を待っていた』。

 肩の2つのレールガンを展開し、奴へ向けて素早く射撃した。

 がぃん、と低い金属音が響き渡る。

 レールガン、別名電磁砲。

 加速した弾頭はいとも容易くブラスタの胴体を貫いた。

 まるで包丁が豆腐を貫くように。

 レールガンはリチャージまでかなりの時間を要するが最初の射撃で仕留めればその時間も関係ない。

「ようし…おやすみどこかの傭兵さん。」

「凄いですね…こんなに圧倒的に倒すだなんて」

「偶々だよ…相手側の武装が少ないことや使い慣れてなさそうだったのが幸いしたよ。

それよりも…FASRの乗ってる人。どうするの?」

 返事はすぐに来た…そしてやらかしに気がついた。

『いや…俺は戦わんさ。

だが…仲間はそれに乗ってるようだな。

なあ傭兵の『魔法従者』さんよぉ…

舐めた真似をしてくれやがって…』

 通信が通じたままで声で居ることがバレてしまった。

 それどころか私が何者なのかすらバレてしまっている…つまりは狙われるということだ。

「たははーごめんね!

君たちがそもそも何者なのかこっちはわからなかったんだしさー。

もっと平和的にやってくれればよかったのにぃ」

 別に私は肝っ玉というわけではない。

 何度かさっきから声が上ずっているが、我慢して答える。

『…ふむ、我々が何者か伝えていなかったか。

いいだろう、伝えておこう。

そして考えを改めて我々に仲間を引き渡すんだな。

我々は『カークスカンパニー』、傭兵会社だ。』

 …小耳に挟んだことがある気がする。

 確か雇用依頼を出すとその依頼金額に応じた傭兵を派遣する会社だったか。

 傭兵は会社に入社した者が多いが、傭兵として登録してバイトの様な関係の者もいるという。

 だが…そんなカークスカンパニー様が何をしているのだろう。

 雇用主の依頼なのかもしれないが…

「考えを改める…うーん一応考慮しておくよ。

私は戦うのは面倒なんだけどまた君も戦うの?」

 嘘だ。

 もうカークスカンパニーに渡す気はないのであるがさっさと帰りたかったのでそう答えた。

『…いいだろう。今回は下がらせてもらう。

引き渡さなかったのなら再度訪問させてもらうぞ』

「へいへーい」

 そしてFASRは私の向う方角とは別の方角へ飛んでいった。かなりとばしていたように見えたが…。

「……なんだあいつら…。」

 小さな声で呟いた。

 そして漸く邪魔者はいなくなり二人は帰路へつくことができた。

 なお終始無言で最悪の空気であったことは付与しておく。

 

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