しふと✡ぎあ   作:takurai

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第3話

──夕方

「…ルーペンス・カイねぇ……」

 私は格納庫に置かれたソファに座っている少年…がシャツの中に入れていた物を見ながら呟いた。

 あの後再度の接敵もなく、無事に拠点…博士の自宅兼研究所兼うんぬんかんぬんへ辿り着いた。

「名前は分かったわけじゃ、こっちで独自に調べてみるぞい。

とりあえずは防術機のメンテが先じゃがな、手伝えクライン!」

 ツートー博士はそう怒鳴った。

「えー…いいよ手伝うけど…休みたいわぁ」

「こっちはお前がそんな疲れたやら面倒だとか文句を付ける意味がわからんわ…」

「ブラック企業はんたーい!

あぁ…カイ君はそこで座ってなよ。

身体検査したら頭に打撲傷があったんだし働いて怪我が酷くなってもらってもこっちとしてはたまらないからね」

「分かりました…」

「ほらぺちゃくちゃ喋っとらんで手伝え!

そこのスパナとジャッキ持ってこんか」

「あいよー」

 少年…カイはソファに座って俯いていた。

 いろいろ思うところがあるのかもしれないしそっとしておく。

 博士から頼まれた物を持って博士を探す。

 見回すと博士はどうやら高さを調整できる台車に乗って背中のレールガンを弄くっているようだった。

 このレールガンは博士がどこからか仕入れてきた物をQi3に取り付けたものだ。なので純正品にはこのレールガンは存在しない。

 それ以外は今のところ純正品と変わらないのだが。

 ふよふよ飛びながら近づく。

「ほら持ってきたよ博士」

「ふん、よろしい。

……あの少年についてどう思うか?クラインよ」

 声を潜ませて博士は尋ねてきた。

「どうもこうも滅茶苦茶裏がありそうだなって思いますよ。

カークスカンパニーの連中が探してるのはともかく、なんで彼らの言う『仲間』を探していることを伝えた相手を殺しにかかるのか…

何か隠したい事でもあるんでしょうねぇ」

 私は思ったとおりのことを伝えた。

「わしもお前と同意見じゃよ、クライン。

わしはあの小僧が気に入らんが、それでもあやつらに渡してはいかんと思う。

まあ、ほんの思い過ごしであると良いのじゃがね」

 博士はため息をつきながらそうぼやいた。

 私もそうだったらどれだけ安心できることか…。

 だがどうも平和に終わりそうにないのが本音だった。

 …一つ頼んでみよう。

「ねぇ」

「なんじゃ」

「Qi3を少しカスタムしない?

このままだと某かの傭兵に襲われるのは確定してるようなもんじゃん。

それも傭兵ということは手練もいるはず…このままだとちょっと不安だよ。

レールガンはともかく速度がもっと欲しいな」

 折角なので襲われた事を理由におねだりしてみる。

「…カスタムするのはわしも賛成じゃ。

だがな、クライン。

お前さんはちっともわかってないぞ」

 途端に博士の言葉に力が篭もり始めた。

「スピードより装甲!!!高耐久高火力がナンバーワンである事を理解できないのか!!!!

いいや!!今日という今日は理解させてやろう!!

わしはタンク型のQi2を勝ってこんかったお前さんの判断が未だに理解できんわ!!!!」

 いつもの発作が始まった。

 だが私もこうなってしまっては負けられない。

「何をこの耄碌爺さんめ!!スピードこそがナンバーワンだろう!!

スピードで敵を翻弄し、鮮やかに、そしてしめやかに潰す!

この良さが何故わからないのだ博士!!!

Qi3を買ったのは博士の為でも有るんですよ!!

本当ならフロート型のQiFを買うつもりでしたが博士がカスタムしやすいようにバランス的に性能の良い二脚にしたんですよ!!!この博士のすかぽんたん!!」

「言ったな…?私の発明品でしかないお前はまだそれを理解できずに反発しおる…!!

いや!!反発するのはいい事だ!だが!!

高耐久高火力こそが至高であることは断じて譲れん!!!」

 …そう、私は博士の開発した『ロボット』である。

 とはいえ彼の開発した歩行の出来ないAIだとかが一切入っていない失敗作の義体に私が何故か入り込んでいたのだが。

 なので発明品とはまた違う様な…。

 ちなみに私が人並みに感情があるのは…人間の思考も所詮プログラムと同じで決まった事を必然的に考えるもの、プログラムで人格が再現できない訳がない…今の時代電子頭脳やクローンやらあるのに…というのが私の予想である。

 ちなみに彼は私を解析しようと挑戦したことがあるがどういうわけか私の頭脳への書き込みも読み込みも封じられていて諦めたそうだ。

 私は解析されそうになっていたことに気がついていなかったので何とも言えないが…。

 ちなみにそれを聞いた後ぶん殴った。

 女性の体を許可もなく触る変態みたいなものだからだ。

 というかその変態性がボディにも現れていて、見た目や感触ではロボットである事に気がつくことは出来ない程の出来なのだ。

 それを理解した時の私は彼にドン引きしてしまったが感謝もした。

 多分青っぽい黒髪や青く蒼く、碧く澄んだ目も博士の趣味なのだろう。

 それはさておき。

「ぎゃーぎゃー喚かないでください!!

高耐久なんて装甲の厚さのせいで鈍くて攻撃を避けられないんですよ!?

いつか壊れちゃうじゃないですか!!

それならスピードで避けてダメージ自体を受けない方がいいに決まってます!!

それと私はあなたの発明品のボディに入っているだけで人格はオリジナルですよ!!!」

「ええいごちゃごちゃ言いよる!!

ほら!スパナ!!

そこの螺子を寄越せ!」

「はい!どうぞ!!

この螺子ちょっと損傷ありますし新しいのに変えるべきでは!?」

「それぐらいならまだ壊れん!!

平気だ!!それに予備の数が少ないから買って補充しておけ!!」

「あいさー!!」

 怒鳴り合いながらメンテするその異様な状態はメンテが終わる夜まで続き、カイはメンテが終わるまでソファでその怒鳴り合いを聞き続けることになった…。

 

………

 

「いただきます」

「いただきます」

 博士とカイはテーブルに座って私が適当に作ったスパゲティを食べていた。ミートソースである。

 ちなみに博士はペペロンチーノの方が好きである。

 私は食べることも出来るが動力が結晶電池という延々と動き続けるもののため、エネルギー補給は別段必要ないのであった。

 博士は豪快にバクバク食べていく。

 カイは一般的なスピードで食べていく。

 どうやらフォークでのパスタの食べ方は覚えているようで…日常的な行動は覚えているようだった。

「ミートソースのトマトが濃くないかクライン」

 トマトが余っていたので腐りかけのも含めてたくさん使ったのだが。

 内緒にしておくことにする。

 返答はせずにただ笑い返した。

「……。」

 明らかに嫌そうな顔をこちらに向けてきたがそれ以上何も言ってこなかった。

 暇なので『魔法少女が持っていそうなステッキ』(博士の付けた公式名称)をペン回しの要領で回していた。

 …気になる。

「ねぇ…カイ君。美味しくないの?」

 カイは食べていて全く笑うこともなく、また悲しむこともなく無表情で黙々と食べていた。

 それが私は気になってしょうがなかった。

「いえ、美味しいですよ、ありがとうございます」

 彼は答えた。

 だが、それを言う彼の顔はやはり笑わなかった。

 思えばここまで彼はまだ表情を私に見せていないように思う。

 人のくせに無感情。

 対する私はロボットのくせに豊かな感情。

 なんだかあべこべで気に入らなかった。

「うーん…なんだかなぁ…」

 なんというか、何かが拗れているように思えた。

 まるで一つ噛み合わない歯車のせいですべての歯車がおかしな動きをするような。

 記憶喪失のせいだと言われればそうなのかもしれないけど、私は彼の何かが問題あるのかも…と考えはしたがそれを博士に主張したり暗に示すような事は言わなかった。

 ひょっとしたら博士も同じことを感じているかもしれないけども。

 

………

 

「カイ君おやすみなさい」

「おやすみなさい、クラインさん」

 カイは部屋を一つ用意してそこで生活させることにした。

 中はベッドやら本やら机やら椅子やらいろいろあるので生活には困らないと思う。

 それに必要なものがあれば与えるつもりだった。

 会釈をしてドアを閉めた。

「さて、と」

 廊下を進んで奥の部屋に向かう。

 扉の前に立ち、声をかける。

「博士、入りますよ」

 ドアノブを掴んで中へ入る。

 その部屋は中央に巨大なディスプレイが一つ、左右に2つづつそれよりは小さいディスプレイが並べられていた。

 そのディスプレイの前で博士は椅子に座り、キーボードを叩いていた。

「…何をされているんです?」

「いや、昔のツテであの少年の名前で調べて貰ってるんじゃが」

 画面には欠陥鳥社とだけ書かれたアイコンが映っており、別ウィンドウには会話の内容が書いてあった。

 話しながら博士はキーボードをカタカタと打ち続けていた。

「薄っすらとしか掴むことができんかった。

カークスカンパニー社のデータベースに名前はあったそうだがそれは三日前までで今はどこにも残ってない、削除されていたそうじゃ。」

「へぇー…ではもう彼の経歴とかは掴めないってことですかね?」

「いや、それを何とかするのがわしの友人なんじゃが…というかなんとかさせるつもりじゃ。

時間はかかりそうだがの」

 会話しているディスプレイを見ると激しい言い争いになっていた。

 原因は主に博士が煽っていることのようだったが見なかったことにする。というか指摘しても博士は相手に対する態度は変えないだろう、そういう人なんだ。

「ふぅん…分かりました。

明日からも別に普通に傭兵稼業やってて構わんですよね?」

 ちょっと気になっていたことを問いかける。

 止められる危険もあるだろうし、聞いておきたかったのだ。

 なんだって傭兵会社…カークスカンパニーに狙われている可能性が高いというのだから。

 すると博士はキーボードを打つ手を止めて、顔をこちらへ向けた。

「別に構わん。

お前の事は信用しとるからな…。

死ななきゃ別に何しても止めはせんよ、変な危害が加わることでなければな。

そう、死ななきゃいい。」

 それを言うと言いたいことを全て言い終えたというような顔になり、再度ディスプレイに顔を向けてタイピングし始めた。

「私は死にたくないし死なないよー。

生きる為ならなんだってするさ。

私が傭兵稼業なんかで死ぬようなタマだと思う?」

 いや、思っていないのは分かってる。

 だけど、聴いておきたかった。

 少し心につっかかりそうなことだったので聞きたかった。

 そして、博士はディスプレイに顔を向けたままだったが、嫌らしい笑みを顔に浮かべ、言った。

「思ってるわけがあるか?

お前は出来る子だからな」

 それだけだったが私はとても満足した。

 

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