しふと✡ぎあ   作:takurai

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第4話

 

  『おはようございます、朝の6時です。今日も元気にいきましょう!』

 

 ラジオから女性アナウンサーの元気はつらつとした声が響いてきた。

「ほらお前も起きて仕事をせんか!」

 部屋の外から博士が私に向かって怒鳴る声が聞こえる。無視しても構わないが今日はやることがあるのでこのままスリープしている訳にはいかない。

「はかせぇ!ちぃっとだけ待ってー!」

 寝間着を脱いでいつもの魔法使いっぽい白衣を着る。

 ちなみに寝ている時は寝間着を着てはいるが、折れ曲がった白いとんがり帽子は被りっぱなしである。

 このボディは歩行ができないのは知ってのとおりだが、この帽子によって飛行能力を得ているのだ。

 歩行をしたことがないので何とも言えないが思ったところに飛んでいけるのは便利である。

 急制動は思考に負荷がかかるのであまりできないのだけども。

 洗面台の前へ行き、寝ている間にボサボサになってしまった髪の毛をくしやらで整える。

 別にそのまま寝癖がついていても気にしないのだが、博士は寝癖がついているとすぐ直そうとしてくる、その対応が面倒なので自分で仕方なくとかしている。

 水をすくい顔へ浴びせる。

 ちべたい。

 タオルで顔を拭いたらおしまいだ。

「今行くよー!」

 

………

 

「じゃあ行ってきます!」

 大きな声で玄関から中へ向かって叫ぶ。

「おぁ!?待て待て待て!!どこへ行くんじゃ!!」

 奥からドタバタした音と博士の悲痛な声と質問が飛んできた。恐らく何かに押し潰されているのだろう、本棚か何かだろうか。

 本で潰される、という表現は良く聞くのだが実際に遭遇する事はなかなかに少ない。

 そもそもそんなに本が存在してなおかつきちんと纏められていない、そんな場所でしか起こりえない…例えば今博士が居るであろう本が乱雑に積み重ねられている書斎だとかとかとか。

「市場に行って来るだけだよー!色々買ってくるよ」

 言ってしまえば買い出しである。

 現在いる博士の拠点の近くは森で覆われていて離れた所まで行かないと食料やらが買えないのだ。

「おお、そうか。気をつけるんじゃぞ!」

「博士はカイ君を見といてください!」

 昨日はカイは借りてきた猫のように大人しかった。

 記憶喪失した人間の行動というものは皆似たようなものなのだろうか…?

 単純に頭が混乱して大人しくなっているだけなら良いのだが…。

 彼は何か考えていそうな顔をしていた。

 目は虚空を見つめていた。

 変な事を考えていないといいけれど。

「今度こそ行ってきまーす」

 

………

 

 市場へ向かって木の上ぐらいの高さを飛行していた。

 今回することは主に2つある。

 まず一つが食料品の買い出し。

 私は必要ないけど博士を飢え死にさせるわけにはイカンのである。

 でも博士のことだし数日間食料与えなくても生き延びそうな気がする…博士は生身なのにどこか有り余るパワーというものを感じさせてくれる。

 少しづつ薄くなってきている髪にそのパワーを回せばいいのに、もちろんそんなことは不可能だ…。

 なんの意味があって人間は頭の髪を禿げるようにしてしまったのだろうか、甚だ疑問である。

 いつか毛という毛がなくなる、いや無くすための進化なのだとしたらなかなかに悲惨な進化を歩もうとしている。

 もっさもさに進化してしまえばそれはそれで面白そうだな、なんて考えていると森を抜けて市場が見えてきた。

 市場は街の入り口の大きな道路の両側にずらっと屋台や移動販売車などが連なっているのだ。

 出来合いの物やすでに調理済みの食料なんかは少し高いが、原材料は野菜だろうが人工肉だろうがどれもこれも安くて美味しいのだ。

 すでにここからでもいい匂いが漂ってくる。

 見た感じ今日はかなり出店も多く、また買いに来た人もかなりの数のようだ。

 道はぎゅうぎゅうであった。だけども車道へは飛び出さないよう踏ん張っているのがなんだかおしくらまんじゅうの様で面白かった。

 自分がそのおしくらまんじゅうに入ることを理解して笑いは消えたが。

 というか入りたくない。

 なぜあんな人を人でなくするような空間に入らねばならないのだ…。

 とりあえず飛行高度を下げて、市場へ繋がる道路に降り立った。浮いてるけど。

 市場独特の騒音にも近い売り声が混ざって騒々しい環境音となって耳に響き渡る。

「あーほんと行きたくない…。

だけどここでぐだぐだ言ってるわけにいかないのも事実だし…」

 ええい、女もロボも度胸!

 過去数回もこんな感じで心を決めて入ってる気がする。

 

 

………

 

「いらっしゃあい!このカマスが安いよぉ!見ていきな!」

「こっちじゃ出来立てのヤキソバが売ってるよ!今ならサービスで目玉焼きも載せてやるぞ!」

「サミダレラーメンをお待ちの客はこの列でお待ちください!」

 うるさい。

 この一言に尽きる。

 左右から響く大音量の売り子の声が鼓膜…いや音声録音ユニットを傷めつけているようだ。

 何度も人の壁を押しのけてやっと野菜売り場方面へ辿り着いた。

 横へ逸れた道には野菜、日用品、などなどジャンルに分かれて配置されている。

 食料品にも要はあるが、もう一つの目的を先に消化する。

 その為に一つのテントを探しているのだが…よく移動しているためすぐには見つけられない。

 だけども今回は運が良かった。

「おっ!クラインじゃねえか!」

 後ろから若い男性の声がかかった。

 振り向くとそこにはアロハシャツを着てサングラスをかけた、いかにも私は怪しいものですと自己申告しているような高身長のスキンヘッドの黒人が立っていた。

 今の時代でもこんなファッションはないし昔もそうそう見るものではないだろう。

「また随分と派手な服装になったねハサン…」

「ん?ああこの服か!

昨日見たビデオの主人公がこんな感じだったわけよ!

ちなみにタイトルは…なんだっけかな?

面白くはなかったし見なくていいぞ!」

 このはっちゃけた黒人…ハサンは映画好きでよく登場人物の格好を真似するのだ。

 この前会った時はどういうわけか和服を着ていた。それと比べればかなりマシではあるのだけれど…正直かなり目立つのは変わりない。

「はいはい…店はどこに出してるの?」

「こっちだ!ついてきてくれ!」

 するとハサンは私の前でズカズカ進んでいく。

 ハサンはデカイのでまるで重戦車が進んでいくかのように周りから人が離れていく。

 私だけだと周りはぎゅうぎゅうなのでとても楽だ…決して彼を除雪車のような何かのようには思っていない。

「最近どうよクラインよぉ!

こっちはひっでえ企業と組織の争いに巻き込まれて無駄金使っちまったわ!

確か…R&GとSIDOAだったか?全く急に始めやがるもんだからアイギスの依頼を受けて物資輸送の護衛をしていたこっちはたまったもんじゃねぇぜ!」

 ハサンは私と同じ傭兵で、よく同じ仕事をしたり協力したりしていて仲がいいのだ。

 そして彼の話に出てきたアイギスというのは、端的に言えば世界を平和に導くため色々やってる組織だ。

 『戦争』でエルフが支配するようになってしまった未探索地域の探索やら軍事力としてその兵器が使用しても良いかなどの審査とか…。

 ご苦労なことだと思うが果たして平和になった時彼らはどうするのだろうか。

 戦争屋が戦争がなくなって廃業するのと同じように散っていくのだろうか…。

 ちなみにR&GとSIDOAは一つの企業と組織だ。

 どちらも防術機を開発していて、特にR&G社は広く手がけていてそのシェアも多い。

 私はそんな企業やらはどうでもいいのでいまいち知らないのだけれど…。

「へぇー…それは災難だったねぇ。

……んー、私のは店で話すよ」

「ふん、分かった。

と言ってもここなんだがな」

 そう言って彼が立ち止まったのはコンテナを牽引する大型トラックの前だった。

 コンテナの側面には扉がついており、その上に『相談無料!』との文字が書かれている。

 だがこのトラック、道路の脇に停めてあるがそのサイズは大きく十分邪魔だ。

「去年にこのトラックを買ったんだが最近調子悪くて動かなくなっちまって以来ここでやってるぞ」

「金はあるんだから直せばいいのに…」

「金は中でのサービスに費やす、それが俺の流儀だぜ!」

 立派な事だがこんなトラックを放置されても邪魔になってしまっていい迷惑だろうけど…。

 周りで店を開く人へのサービスも良くしてあげて欲しい…。

「じゃあ入るぞ」

 コンテナの扉が開く。

 私とハサンはその中へ入っていった。

 

………

 

 中は小さな個室のようになっていた。

 パソコンが置かれた机にそれを挟むように置かれた2つのソファ。

 運転席側には冷蔵庫のようなものが置かれている。

「まあ座ろうぜ…こっちは昨日連絡受けてからウズウズしてんだ」

「はいはい…じゃあ…」

 彼には昨日寝る直前に連絡を入れておいたのだ。

 ただ一言、『手伝って』と。

 そして彼に昨日起きた出来事を洗いざらい話した。

 話している間彼は真剣な表情で私を見つめていた。

 見つめていたのは私でなく、その話している内容…そして、その出来事の裏に何があるのか、だろうけど。

 

「んーあぁ…こりゃ面白そうだな。」

 彼は私が話し終えるとすぐにそう答えた。

「俺はカイに関しては全く知らんが、カークスカンパニーへの関わりはないわけじゃあない。

俺がお前さんの敵になる前に…」

「先に仲間に勧誘しておくってこと」

 私はそうはっきりと伝えた。

「別に敵になって貰っても構わないよ?構わないけど私は手加減無しで襲いかかるからうっかり殺しちゃうと後味悪いしさぁ…」

「…俺がお前に負ける前提かよ全く。

依頼内容がお前を生け捕りに、とかなら確かに俺が分が悪い勝負だろうけどな…はっきり言われると傷つくぜ…。」

「でも物事ははっきり言っとかなきゃ!

はっきり言わないで互いに勘違いとかしてたら悲惨だよ…!」

 傭兵間ではライバル意識もあり、通常なら襲わなかった相手でも何かの勘違い一つでその襲わなかった、自制していた心を何かが上回って襲いかかってしまったりするのだ。

 ハサンもこういうことは分かっているので、茶化すように答えたのだろう。

 その図体でおどけてもらっても不気味なだけなんですけど。

「あぁ、全くだ。

ようし…カークスカンパニーは敵対する奴らもいたはずだからそいつらと協力すれば資金はいずれ集まるだろう。」

 

「じゃあ一緒にカークスカンパニーとの戦闘を手伝ってくれる?

私からもたんまりお金を出すよ?」

私はいやな笑みを浮かべる。

 

「その契約、乗った!」

ハサンもいやな、だけど清々しい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

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