ハサンと契約をした日、帰り道。
両手に市場で買った野菜やら肉やらの食料を入れたビニールを持ち、のんびり帰宅の帰路についていた。
ハサンとも契約ができたし、目的は達成したのだけれど…ハサンはカークスカンパニーを敵にする、ということをちゃんと考えているのだろうか?
あいつは馬鹿ではないはず……だし、多少は頭も回る男だった…戦っている時の感触だけど。
もしかして…戦闘以外ではまともな判断ができないタイプの人間なのだろうか……あり得る…。
「魔法従者だな」
急に声をかけられた。目の前にいる男から。
見た感じだと、わりと体を鍛えているといった印象の若い男性だけど…明らかに異様なものがあった。別に彼の体が異様というわけじゃない。
彼の手には、ピストルが握られていた。
「人違いじゃない?こんなに可愛い女の子がそんなよくわかんない物騒な名前をつけられてると思う?ほらほら、人違いだと思うしほかあたって!」
「……お前は間違いなくクラインである。それはデータ照合するまでもなく我には分かる」
「……」
どうやらこのまま無事に返してくれそうにはなかった。明らかに目には殺意が篭っていたし、声は穏やかじゃなかった。
私という可愛い少女を目の前にしてそのような態度ができるとは……いや……ハサンも可愛い点に関しては一切触れないな…もしかして私は可愛くな…
「では『魔法従者』、大人しく死んでくれ」
そう彼が低く呟いた瞬間、彼はピストルを私へ向けた。銃口が私を覗く。
「うああああああ!!」
なんだなんだなんだ!
何が起きている? んですか? はい?
一旦落ち着け、いや落ち着く暇もない。
それもそのはず、容赦なく、男は引き金を引いてきやがった。なんてやつだ。
急いで上へ急上昇した。帽子の力により空をも飛べる…のだが、仮にあのピストルで帽子を撃たれたりすればたちまちその飛行能力は失われ、後には歩行もできない愛玩ロボットが横たわることになってしまうだろう……。
もちろんそんなことになるのはお断りします。
上昇中にビニール袋を肩にかけ、『魔法少女が持っていそうなステッキ』(博士特許取得済み)を服から取り出す。
「こんにゃろー! やってくれたからにはやられる覚悟もあるよなー!? 」
やるからにはやられる覚悟も必要。ばっちゃが言ってた。ばっちゃなんていないけど!!
ピストルはすでに私を追って何発か発射していたが…まだ残っているのか、私へ向けたまんまだ。
あれだけは食らう訳にはいかない…逃げようと思えば全力で飛んで逃げられるが、それで拠点がバレたりしたりでもすれば最悪だ。
それにこいつを生かしておく理由もないしね。
敵のピストルの次弾が発射される。
私は左右に高速で移動してそれをかわす。
仮に相手が銃のプロなら避けられないだろうけど、単発の銃ぐらいで上手いとは言えないこの程度の腕ならかわすことだってできる。
そして、弾が切れたのか男は急いでビルへと走っていく。だけどそんなことは私はさせない。
ステッキを向け、スイッチを押す。
「えーっと、燃えろ!」
私の掛け声と共に、ステッキの先端から赤い炎が一直線に男を貫き穿つ。その炎は弾丸と言うほどではないけど、速度がありさしずめ炎の矢、とでもいったところか。
「がああああああああああああああああ!!」
その炎は見事に男の脇腹及び右腕に直撃したようで、身を炎に焼かれる苦しみを男は存分に味わっていた。その傷を描写するのは控えるけど、単純に爆弾か地雷を食らったかのような傷ができていた。
とても痛そうだけど…ぶっちゃけ私には痛いとかは感じられないので想像だけど……まあ痛いのだろう。ご愁傷様。襲うほうが悪いのです。
「あづっ、熱い!!あ゛あ!だずっ助けてぐれ!頼む!ごんな話は聞いてない!」
「………」
最初の威勢はどこへ行ってしまったのだろうか…悲しく敵に助けを求めるみっともない男がそこにいた。
とはいえ…同情する価値も無い奴だ。
さっさと終わらせるのも助けになるだろう。
はあ、なんでこんな事しないといけないんだろう。
「じゃあね」
私は再度ステッキを起動した。
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そこから紆余曲折あってなんとか家に辿り着いたのだが…まあ同じような奴が数人いただけの話である。
そのすべてをステッキで…博士が適当な名付けをしたステッキで蹴散らしてきた。
科学の結晶とも言えるそれは、単純に言えば多機能便利アイテムだけど、それだけじゃ済ませられない機能がいくつかある。
その一つが、先程使った炎の噴射。本来はライター代わりとして使ったり調理で使うものなのだが、最大出力はこの通り殺傷能力の塊である。
他の機能も出力が抑えられていれば日常生活に役立つ便利アイテムなのだけど、あろうことか私は攻撃の手段として愛用していた。
実際に戦闘でも便利なので仕方ない。
博士に戦闘でも使えることを伝えた時は返せ返せと言い合いになったな……。
「ただいま!御主人様!」
玄関の扉を開けるやいなや、大きな声でそう叫ぶ…。
が、その声に答える意思、どころか、応える声すら感じなかった。
いや、感じたものは……違和感は凄まじくあった。
『本来とは違う』。そう私に対して訴えかけるものがある…いや、ロボットの私からすれば違和感なんて物は本来感じない……人間としての機能を再現する為の演算中にその違和感の元が曖昧になってしまっていることはわかるのだけど。
こうなると非常に面倒だ。機械なのに機械の利点を使えないという事になる。
いや、使おうと思えば使えるけど……その時の私は特に危機感なんて感じてなかったし、使うことはなかった。
なお、それを非常に後悔することになる。
「……はかせ…? 」
玄関から廊下を進んでいく。
日も傾いてきた時間帯であり、いつもなら書斎で本を読むのが日課になっているはずである。
しかし、廊下の先の書斎には、博士はいなかった。
「あれ…?流石におかしいな」
日課なんて変えることもあるだろう…と考える人もいるかもしれないが、うちの博士はスケジュール人間と言っていいほど決めたことから変更するということは非常に少ない。それこそ、非常時ぐらいしか変えることは……?
書斎の机の上に何か書かれた紙があるのを見つけた。
「うー?ダイイングメッセージですかね?」
もちろんそんな事あるわけ無いと思いつつ気をはぐらかすためにふざけて言ったのだが…。
その紙は 血で染まっていた。
「え…?」
おそるおそる近づいて、紙を手に取る。
血は温かく、紙はぐっしょりしていたが少し固まり始めていた。この血が付いたのはそんなに前じゃない。
いや…血は元々固まりやすい…というかどろどろしていた…はず。
それなら…これは……
「『資格あり』だな」
次の瞬間
私が認識したのは
私が認識できたのは
宙を舞う私の腕だった。
「………っああああああああああああああ!!!」
何が起きたか、何が起きているか。
一体私に私の私のうでが腕腕が何を
「……やけに硬いと思ったが、お前はロボット…か。あーすまんすまん、切っちまった」
そう言って博士の机の下から少女が出てくる。
ゴスロリの格好をしていたが…その手には禍々しい漆黒の斧が握られていた。
その斧で…腕を、切ったのだろうか。
私の腕を分割したのだろうか。
「あっ…いやぁ…腕、腕がぁ…」
「…泣くこたないだろ……ロボットなら新しいの作ってもらえばいいじゃん……ごめんって」
はー、はー、と息を吐いて落ち着く…よし。
「燃えろぁ!」
ステッキを謎のゴスロリ少女に向けて…向けて?
「お探しのものはこれかい?」
どういうわけか少女にステッキを奪われていた。
いつの間に…
ゴスロリ少女は悪そうな笑みを浮かべながらステッキをペン回しの要領でくるくる回している。
「んー、これは俺が預かっとく。説明……は面倒くさいな、後でするからついてこい」
「………」
「ついてこないならステッキも返さないし俺への依頼通り八つ裂きにするがどうだ?」
「ついていきます…」
よし、と少女が言い、書斎からさっさと出ていってしまった。たやすく腕を切られてしまったことから本当に八つ裂きにされそうだったので大人しくついていくことにした…。
私の腕……直せばいいってものじゃないよぉ……愛着とかあるよ……健康な体から義手とかに好んで変える人なんて普通いないよぉ……つらい……。
「詳しい説明は後だけどよ…名前だけでも教えてやるよ。呼び名も知らないと面倒だろ…?俺の名はナル、ナル・イーターっつーんだ、よろしく」
廊下を歩く少女はかったるそうにそう言った。
ナル……はて、どこかで聞いたことがあったかしら?なんて思う時点で聞いたことはないだろう(ロボットだし)。
じゃあ私も…と言ったところで、彼…いや彼女は私の口を人差し指で塞いできた。さながら静かに、のジェスチャーを私の口でやるように。
「お前の名前は知ってる。クラインだろ?
知ったのはついさっきだけどよ……まあ赤の他人のことを詳しく知っててもおかしな話だけどな。
それにしても…なーんか、似てるんだよなぁ……」
あ、今のは気にしなくていいぞ、と言った後ナルは話すことなく先へ先へと廊下を進んでいく。
私から声をかけるのもはばかられたので無言が続く。
しかし…廊下には所々血痕や果ては誰かの体のパーツが転がっていたりした。
拠点に帰るまでに嫌に遭遇するな、と思っていたけど…既に割れていたということか。
だけどデータ照合の結果、死体やら体のパーツやらには博士の、あるいはカイのものはなかった。安心はできなかったけど。
辿り着いた、というかナルが向かっていたのはこの格納庫だったようだ。
「じゃ、説明としゃれこもうか。」