FAIRY TAIL 未知を求めし水銀の放浪記 作:ザトラツェニェ
よく晴れた日の昼下がりーーー水平線の彼方まで広がる青い海と僅かな雲のみが浮かぶ青空の下、一隻の船が海上を悠々と航海していた。
「ああ……船って潮風が気持ちいいんだな」
その船に乗る青年ーーーナツ・ドラグニルは僅かに塩の香りがする風の香りを嗅ぎながら、そんな事を呟いた。
先ほどの発言ーーー何やら船に初めて乗ったかのような物言いに聞こえないだろうか?
よくよく考えればそのようにも捉える事の出来るその言葉は実際、的を得ていた。
「……彼は船に乗った事が無いのかね?」
「いや、そういうわけでは無いのだが……」
「ナツは乗り物に乗ると酷く酔っちゃうんだよ。それこそ倒れて顔をオイラの毛並みみたいに青くする位に」
「乗り物酔い……ならば今彼が酔っていないのはなぜ?」
「それは私が魔法を掛けているからだよ」
そう答えて微笑むウェンディを見た男ーーーメルクリウスはそのような魔法も使えたのかと言ったような視線を向けた。
「あ、でもそろそろかな?」
「何がかな?」
「乗り物っていいモンだなーオイーー!!」
「ナツさんに掛けてる乗り物酔いの魔法がもうそろそろ切れます」
「おぷぅ」
楽しそうに甲板を駆け回るナツはウェンディがそう言った途端、顔を真っ青にして甲板に倒れ込んだ。
どうやら彼に掛けていた魔法が解けたらしい。
「おぷ……も、もう一回掛けて……」
「……ウェンディ、もう一回掛けてあげてはどうかな?これではかなり彼が哀れに見えるのだが……」
「でも、連続で使用すると効果が薄れちゃうんですよ?最終的には効かなくなってしまうし……」
「ふむ……ならば仕方が無いな。我慢したまえ」
そう言ってメルクリウスはナツを切り捨てた。最も、彼がその気になれば半永久的に持続する酔い止めの魔法など片手で他所を見ながらでも作り上げる事が出来るのだが、メルクリウスにそれをする気は無いようだ。
どうやらこのまま放置した方が面白いと判断したらしい。それが証拠にメルクリウスはニヤニヤと小馬鹿にするかのように笑っている。
「ち、くしょう〜……おぷ……」
「放っておけよ、そんな奴」
「あはははっ」
そして彼らは隅で顔を青くして倒れているナツを無視して、ウェンディ、シャルル、メルクリウスを見る。
「それにしても本当にウェンディもシャルルもクラフトも
「私はウェンディが行くって言うからついてくだけよ」
「私も似たようなものだ。ウェンディとの約束もあるしね」
「シャルル、カール……ごめんね?私のわがままに付き合ってもらって……」
あの後ウェンディはシャルルとメルクリウスも一緒に
「構わんよ。それと既に何度も言った事だが、別に君が謝る事はない。シャルルは君が心配だから、そして私は君との約束と頼みを成す為についてきたのだからーーー」
「……私は別にウェンディの心配なんてそれ程……」
「しているだろう。今回の作戦の志願理由とて、ウェンディの事が心配だったのだろう?」
シャルルは本来、今回の作戦に参加する予定では無かったのだ。しかしウェンディが心配だからと、ローバウルに軽く掛け合ってウェンディの後を少し遅れてついて行った事をメルクリウスはローバウルから聞いていたのだ。
「わざわざローバウル殿に直談判した時点でそれ程心配してないとは言えないと思うが?」
「……クラフト、なんでそんな事知ってるのよ」
「蛇の道は蛇ーーーと言いたい所だが、実際はローバウル殿が教えてくれたのだ」
「マスターが!?」
「楽しそうに話してくれたよ。曰く、「シャルルもまた、ウェンディと同じく仲間思いに育ってくれた。なぶら嬉しい事だ」と言っていたよ」
「ぷっ……あはははははっ!」
「くっ……!ク、クラフト……!そ、それは……ローバウル殿の真似か……!?」
「然り、似ていたかね?」
「に、似すぎだろ……!はははははっ!」
メルクリウスのどこか似ているモノマネが面白かったのか、ルーシィやグレイ、ハッピーも笑い出す。
さらに少し離れた場所で話を聞いていたエルザもメルクリウスに問いかけながら、顔を背けて笑いを堪えていた。
「ふむ、そこまで似せるつもりは無かったのだがね」
「結構似てたよ。後ろから声を掛けられたら、分からない位に」
「そこまでか」
そうして先ほどまでのどこか重苦しい雰囲気は一変し、船酔いで完全ダウンしているナツ以外の全員が楽しそうに笑い始めた。
無論ウェンディも笑っているし、シャルルもどこか興味無さそうにしているが、笑いを堪えようとしているのか、顔を少し背けて若干プルプルとしている。
そうしたどこか楽しげな雰囲気に包まれながら、彼らは自分のギルドへと帰る。
新しい友、仲間を連れてーーー
ハルジオン港で船を降り、そこから列車へと乗り換えて約二時間ーーー彼らはついにマグノリアへと帰還した。
そしてそのまま彼らは自らの所属するギルドへと向かいーーー新たに加わる仲間を紹介する事となった。
「……と、言う訳でーーーウェンディとシャルル、そしてカール・クラフトを
「よろしくお願いします」
今回の作戦の報告を終え、エルザの紹介を受けたウェンディは
一方、シャルルは腕を組みながら興味が無さそうにしているし、メルクリウスに至ってはギルド内を興味深そうにキョロキョロと見渡している。
そんな三人に対して、ギルドのメンバーたちはーーー
「かわいーっ!!!」
「ハッピーのメスがいるぞ!!」
「みんなおかえりなさい」
「あの軍服着た人、かっこいい!」
「おジョーちゃん、いくつ?」
まるで学校の自分のクラスに新しい転入生が来た時のように、全員がテンション高く三人へと一斉に話しかけ始める。
それを見たエルザや
「マスター」
「うむ、よくやった。これでこの辺りもしばらくは平和になるわい。もちろんウェンディとシャルル、クラフトも歓迎しよう」
一方、一部のギルドメンバーたちは今回の作戦から無事帰ってきた他のメンバーたちへ思い思いの行動をしていた。
「ルーちゃん、おかえり〜!」
「きゃっ!レビィちゃん!!」
「よく無事だったな」
「だんだんルーシィが遠い人に……」
ルーシィの方へはレビィ・マクガーデンが抱きついて無事に帰ってきた事を喜び、レビィと同じチーム、「シャドウ・ギア」に属しているジェットとドロイは今回の作戦でまた強くなったであろうルーシィを見て、どこか遠い目をして呟いていた。
「ジュビア……グレイ様が心配で心配で目から大雨が……」
「グレイ止めろ!」
「おぼれる!!」
「何でオレが……!!」
そしてまた別の所では、ジュビア・ロクサーがグレイを思うあまりに発生した局地的な大津波にウォーレン・ラッコー、マックス・アローゼ、そしてグレイが巻き込まれていた。
「んでよォ、ヘビが空飛んで……」
「ヘビが空なんか飛ぶかよ!!漢じゃあるめーし」
「漢?」
船酔いと列車酔いから復活していたナツは、エルフマン・ストラウスや他のメンバーに対して今回の作戦の事を、身振り手振りで表現しながら話していた。
それらを見て楽しそうな顔をしていたウェンディに対して、ミラジェーン・ストラウスが話しかける。
「シャルルは多分、ハッピーと同じだろうけどウェンディはどんな魔法使うの?」
「シャルル!!本物のミラジェーンさんだよ!」
「ちょっと!!オスネコと同じ扱い!?」
(実際同じだろう)
未だにギルド内を見渡しながら、メルクリウスは内心そう突っ込んだ。
「私……天空魔法を使います。天空の
『!!!』
ウェンディが自らの魔法を告白すると、つい先ほどまで騒ぎ立てていた者たち全員が静まり返る。
「あ……」
目を見開いて驚いたような面々の顔を見たウェンディは少し顔を俯けて、自傷するかのように薄く笑う。
(信じてもらえない……か。かなり珍しい魔法だから、仕方ないかな)
そう納得し、顔を上げようとした刹那ーーー
「おおっ!!」
「スゲェ!!」
「ーーーーーー」
誰かがそう言ったのを皮切りに、ギルドメンバーたちが笑いながら再び騒ぎ出す。
「ドラゴンスレイヤーだ!!!」
「すげーーーーっ!!!」
「ナツと同じかっ!!」
「ガジルもいるし、このギルドに三人も
「珍しい魔法なのになぁ……本当にすげぇもんだ」
自らの事をすんなりと受け入れてくれたーーーその事実が伝わったウェンディもまた、花が咲くような綺麗な笑顔を向ける。
「今日は宴じゃー!!!ウェンディとシャルル、クラフトの歓迎会じゃー!!!」
『おおおおっ!!!』
それを見たマカロフはそう叫び、メンバーたちは歓声と共に宴を始める。
「ミラちゃーん、ビール!!」
「はいはーい」
「うおおおっ!!!燃えてきたぁぁ!!」
「きゃあああ!あたしの服ー!!」
「いいぞールーシィ!」
「グレイ様、浮気とかしてませんよね?」
「な……何なんだよソレ!!」
「なぜどもるし」
「シャルル〜オイラの魚いる?」
「いらないわよっ!」
仕事の依頼書が、酒の入ったビンが、そして果てはギルド内に置かれているイスなどが宙を舞い、すっかりいつもの騒がしい日常へと戻ったギルドを見て、ウェンディはテーブルの上で腕を組みながら座っているシャルルに言う。
「楽しいトコだね、シャルル!」
「私は別に……」
「もう!そんな事言って……カールも楽しいよね?」
そして今この時、ウェンディとシャルルはある事に初めて気が付いた。
周りを見渡しても、どこにもメルクリウスがいない事にーーー
「あれ?カールは……?」
「……見る限り、どこにもいないわね。どこに行ったのかしら?」
そんな二人の疑問の声は、誰の耳にも入る事無く喧騒の中へと消えていった。
「…………」
宴と表したいつもと変わらない日常を繰り広げていた
(ウェンディ……まさか君がこのギルドにやってくるとは……これも運命なのか)
彼の脳裏に浮かぶのは、先ほどギルドの二階からちらりと見た一人の青色の髪をした少女の姿。
彼女はまさしく今から七年前、自らともう一人の魔術師と共に一ヶ月という短い期間ながらも旅をした少女だった。
(あの時、別れてからもう七年か……。随分と大きくーーーそして綺麗になった)
彼は件の少女が成長していた姿を見て嬉しく思う反面、どこか複雑な心境でもあった。
(本来ならば……久しぶりだと声を掛けるべきなのだろう。七年も姿を
生憎とーーー自分にはまだやるべき事が残っている。
なんとかしなければならない罪が残っている。
それは決して投げ出す事が出来ない事だからこそ……彼は彼女と会わないのだ。
もし彼女と話すのならば全てが終わった後か、あるいはーーー
「やあ、久しぶりだね。ジェラール」
「ーーーーーー」
そんな大事な事を考えていたからだろうか。
彼は背後から気配も無くそう声を掛けられた事に驚きを感じながらも振り返った。
そして振り向いて、その人物を視界に収めた瞬間ーーー彼の顔はより一層驚愕する事となった。
なぜならそこにはーーー
「ふむ、こうして会って話すのは七年ぶりか。ウェンディを久しぶりに見た時も思ったが、君もあの時より随分と大きく立派になったね」
「……カール……さん」
七年前、自分とウェンディと一緒に旅をした例の魔術師があの時と何一つ変わらない笑みを浮かべて立っていたのだから。
「……なぜここに?」
「愚問だな。私が七年前のあの日、何と言って別れたかーーー忘れたわけでもないだろう」
元いた世界に一旦戻り、七年程経った頃に戻る。確か彼はそう言っていた。
ああ、確かになぜここにいるかなんて聞くのは愚問中の愚問だった。
それを自覚したミストガンは一つ苦笑いを浮かべてから、自らの顔を覆っていたマスクと帽子を外しーーー彼にジェラールと瓜二つのその顔を晒した。
「忘れていませんよ。……本当にあの時言ってた通り、戻ってきたんですね」
「当然だろう。私の目的は未だ成し得てないからね。それとも私がこの世界に戻ってこられる事に何か不都合でもあると、君は言うのかな?」
「まさか」
少なくとも目の前にいる彼が戻ってきて、都合の悪くなる事などジェラールには何一つ無い。それどころか久しぶりに再会出来て嬉しいと思っているのだ。
「またお会い出来て嬉しいです。あの時と変わらないお姿のようで安心しました」
「それは重畳。そういう君はかなり凛々しい顔立ちとなったね。まあ、つい先日君と全く同じような顔をした男と出会ったが」
「……
「然り。こちらの世界の君はどうやら過去に大罪を犯していたようだね。……もしや先ほどまで君が顔を隠していたのもそれが理由かね?」
「確かにそれも理由の一つですが、本当の理由は別にあります」
「そうか……」
そう返した魔術師はそれ以上の詮索は野暮かと思い、話を変える。
「ところで君は彼女には会わないのかな?どうやら先ほど、ほんの僅かな間だけ彼女を離れた場所から見ていたようだが……」
「やはり気付いていましたか……。本来なら会って謝罪をするべきなのでしょう。しかし、私にはまだやるべき事があります」
「アニマか……。あの時と比べて最近はどうなのかね?」
そう問われ、ジェラールは難しい表情を浮かべる。
「……あまり芳しくありません。アニマは日を増す毎に大きくなっています。いずれそう遠くない将来……私一人の力では抑えられなくなるでしょう」
「……もし例の魔法が発動した場合、対象となった魔導士ーーーひいてはその対象となった街や人たちはどうなる?」
「……前例が無いので確かな事は言えませんが……おそらく残らず消滅するかと」
「発動後、例の魔法を止める事は?」
「……ほぼ不可能だと思われます」
「…………」
およそ考えうる最悪の結末を予想するジェラールに魔術師は黙って考え込む。
そしてーーー
「……最後にもう一つ聞こう。もし仮に、アニマによってどこかの街が消滅したとしよう。そのアニマの残痕からエドラスに入る事は可能かね?」
「ーーーーーー」
続いた質問の意味が理解出来ず、ジェラールは呆然としながらも言葉を絞り出す。
「……な、何を……?」
「何、一種の興味というものだ。エドラスという私たちが本来知り得ない魔力が有限の土地ーーー実に興味深い。是非とも一度行ってみたいと思っていたのだ。ーーーもう一度問う。私やあるいは運良く消滅を免れた者たちはエドラスへと入れるのかね?」
そう問う男に対し、ジェラールは若干の恐怖を感じる。
例の魔法は発動してしまえば、もう止める事は出来ない。おそらく多くの人たちが気付く間も無く消滅してしまうだろう。
常人ならばその事実に絶望し、何か防ぐ手立ては無いかと躍起になるものだろう。
しかし彼の目の前にいる魔術師は、あろうことか最後に人々の命を守る手立てが本当に無いのかとは聞かず、自分の知らぬ未知を知る事が出来るかと聞いてきたのだ。
人には大凡理解の出来ないその感性。まるでそれもまた一つの結末だと切り捨てて、それよりも自らの欲を満たす事を優先するような態度にジェラールは恐怖したのだ。
「…………」
「どうかな?」
黙るジェラールに魔術師は早く答えを聞かせてほしいと催促をするかのように問いかける。
それを受け、ジェラールは正直に答える。
「……超速でアニマの残痕を突き抜けるか、あるいはそのアニマの残痕を利用して飛べば入れると思いますが」
「ほう……どちらも私からしたら不可能ではないな」
その返答を聞いた魔術師は、実に嬉しそうなーーーしかしそれでいて他の者から見れば、背筋が凍る程不気味な笑みを浮かべる。
「相分かった。もしその時が来たのならば、その方法で本当に行けるのか試させてもらおう」
そう告げた魔術師はギルドへ帰ろうと、振り返って歩き出す。
「ーーーああ、そういえば一つ、念の為に言っておくがーーー」
するとそこで魔術師は立ち止まり、ジェラールへと視線を向ける事無く告げる。
「私は仲間を見捨ててまでも未知を求める程、落ちぶれてはいないつもりだよ。少し前の私ならば、構わず未知を求めていただろうがね」
「…………」
その言葉を告げた魔術師は、今度は立ち止まる事無くギルドへ向かって歩き始めた。そんな彼の後ろ姿をジェラールはただ黙って見つめていたのだった。
今回も結構短いです……もうちょっと長く書こうとしたんですけど、色々と難しかったのでこの長さです。
水銀「というより最近の作者は三つ目の小説の案が頭に思い浮かびまくって仕方が無いらしい」
まあ、書きませんけどね。書くとしたらこの二つの小説終わってからでしょうか……。kkkが主体のものなので、時系列的に同時進行させるわけにはいかない小説なので。
水銀「……神咒神威神楽に影響を受け過ぎではないかね?」
し、仕方ないじゃないですか。kkkをプレイしていたら思い浮かんだんですから!
水銀「……あの下種に滅ぼされた後のif世界か……」
それ以上言わないでください……ネタバレになります。
水銀「……とまあ、今の作者は三つ目の小説の内容を構築していたり、現在投稿している二つの小説を書いたりと大変な思いをしている」
なのでこれからもこの投稿ペースのままでしょうね……。すみません!
さて、それでこの小説の次話についてですが……次はネタ回の予定です。内容はお楽しみに!
では今回はここまで!誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!