FAIRY TAIL 未知を求めし水銀の放浪記   作:ザトラツェニェ

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皆さん、お久しぶりです。はい、前回の更新からもう間も無く二ヶ月が経とうとしています。仕事の影響とはいえここまで遅くなってしまったのは本当に申し訳ありません……。

さて、今回は前回言った通り、ネタというか閑話休題的な話になります。結構荒い所が目立つかもしれませんが楽しんでいってもらえれば幸いです。ではどうぞ!



水銀の蛇は古代文字の意味を解き明かす

 

魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)―――フィオーレ最強とも呼び声高いそのギルドのクエストボードには毎日、様々な内容の依頼書が貼られる。

 

例えば凶悪なモンスターを討伐してほしい。

例えばある砦を根城にしている盗賊団を討伐してほしい。

例えばある場所へ行って、ある素材を代わりに取ってきてほしい。

例えばとある人物を目的地に着くまで護衛してほしい。

以上のような比較的よく見るような内容の依頼もあれば、時々変わった内容の依頼が張り出されている事もある。

 

例えば子供たちに基本的な魔法を教えてほしい。

例えば客足の遠のいている劇場を魔法で盛り上げてほしい。

例えば自分のお店の手伝いをしてほしい。

例えばある魚を捕まえて一緒に食べてほしい。

以上のような少し変わった依頼から、魔導士がやるような仕事では無いと突っ込みたくなる依頼も舞い込んでくる。

 

 

今回の話は後者の方―――少し変わった内容が書かれた一枚の依頼書を巡る物語である。

その依頼書はかつて『チェンジリング』と呼ばれ、当時の妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバー全員に恐怖と絶望と悪夢を植え付けた恐るべき代物である。

今回はそんな悪夢を見せた『チェンジリング』が水銀の蛇の手によって、再び絶望を振り撒く。そんなお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六魔将軍(オラシオンセイス)打倒作戦から二日後、妖精の尻尾(フェアリーテイル)書物庫にて―――

 

 

 

「…………」

 

外の光が窓から差し込み、比較的明るい書物庫内でメルクリウスは一冊の魔導書を開き、立ったまま一心不乱に読んでいた。

 

「……あ、あの〜……クラフト?」

 

「ん?何かな?」

 

そんな集中している様子の彼に、少し薄い色の青髪で黄色のターバンのようなものを頭に着けている少女、レビィはおずおずと話しかける。

 

「いや、あの……魔導書読むのは別に構わないんですけど……整理の方もそろそろ手伝ってほしいかな〜なんて……」

 

「カール……整理途中にそうやってつい本を読んじゃう気持ちは分かるけど……」

 

「ああ、これはすまない。思わずこの本に興味が湧いてしまってね」

 

メルクリウスは苦笑いを浮かべているレビィとウェンディに軽く謝罪をして、読んでいた本を本棚へとしまった。

 

 

さて、なぜ書物庫にこの三人が居るのか?それは今から僅か十分程前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

「少々よろしいか、レビィ殿」

 

きっかけはメルクリウスがギルド内で一人、本を読んでいたレビィに話しかけた事から始まった。

 

「あ……クラフトさん。どうしたんですか?」

 

レビィはメルクリウスに初めて話しかけられた事に内心少し驚きながらも問い返した。

なぜ彼に初めて話しかけられただけで驚くのか―――それはメルクリウスがこのギルドに来てから二日間、ナツたちやウェンディ、そしてギルドマスターであるマカロフ以外の人たちと全く話さなかった事に起因する。

とはいえ彼自身は、きちんと話しかけられたらしっかり返事をするし、質問を投げ掛ければしっかりとそれに答えてくれる。しかし特定の人物以外には自分からは全く話しかけないというとても変わった人物であった。

そしてそんな状況をよろしくないと善意で思った数人のギルドメンバーは彼に何度か声を掛けてみたのだが、いずれの会話も長くは続かず、二、三言葉を交わして終わるという状態だった。

そして彼へと話しかけた者たちは揃って、彼の事をこう評した。

 

『まるで全てを見透かされているような感覚がして、あまり長く話そうとは思わない』と―――

 

レビィも当然ながら、そんな彼らの話を聞いていた。

果たして彼はナツたち以外の人たちに自分から話しかける事があるのか?そしてそんな彼がもし一番最初に声を掛けるとしたら、一体誰に声を掛けるだろうか?

少なくとも私は特に魅力も無いから、一番最初に話しかけられるなんて事は無いだろうな〜とレビィは内心思っていたのだ。()()()()()()()()

しかし運命というのは分からないもので、まさか一番最初に声を掛けられたのが自分だとはレビィは微塵も思っていなかったのだ。

そんな事に驚いているレビィに対して、メルクリウスは特に気にした様子も無く続ける。

 

「私に対して敬語など使わなくても結構。実は貴女に折り入って頼みたい事があってね」

 

「頼みたい事?」

 

私に対して頼みたい事なんて、何かあるのかな?と内心首を傾げているレビィにメルクリウスは言う。

 

「ここに来た時から他でも無い貴女に頼もうと思っていた事なのだが……このギルドの書物庫へと案内してはもらえないだろうか?」

 

「……え?」

 

メルクリウスの頼み事を聞いたレビィは、彼の言葉とその頼み事に対して呆気にとられたような顔をしてしまう。

 

「わ、私に?」

 

「然り。聞く所によると君はかなりの読書家で、よくギルド内の書物庫に行っていると聞いたからね」

 

ちなみにその情報提供者はハッピーだったりする。

 

「私はウェンディたちと出会う以前は長らく各地を旅していてね。その旅の目的の一つに、ある存在について記された本を探す、という目的があるのだよ」

 

「……つまりこのギルドの書物庫にその本があるか探したいって事?」

 

「そういう事だ。他の誰よりも書物庫へと出入りしている君なら、私の探す本も見つけてくれるかもしれないと思ったからね。最も、私が書物庫に向かいたい理由はそれだけではないが」

 

メルクリウスはこの世界に来て以来、すでに五十冊以上の魔導書を所持している。

これもひとえにこの世界の魔法を知り尽くそうとしているからなのだが、それでもまだこの男にとって五十冊程度では全然足りないのだ。

そこで、メルクリウスは少し趣向を変えてこのギルドに保管されている魔導書にも目を向けてみようと考えた。それが彼女にこうして頼んでいる理由の大半である。

 

「へぇ〜……クラフトさんって本を結構読むんだ」

 

「あくまでそれなり、だがね。君と比べれば、私などそう大して読んでないよ」

 

「私だってそんなに読んでないと思うけどなぁ。まあ、それはいいとして……ちょっと待ってて、今マスターに聞いてくるから」

 

そう言ってカウンターへと向かうレビィの後ろ姿を見ながら、メルクリウスは例の探したい本の事を考えていた。

 

(しかし……おそらくここにもあの漆黒の竜について書かれた本は無いだろうな……。もし無ければ今度、魔導図書館にでも立ち寄ってみるとしようか)

 

そんな今後の予定を考えている内に、レビィがカウンターの方から戻ってくる。

その顔はニコニコと笑みを浮かべていて、それを見たメルクリウスは許可が降りるのだろうかと心配していた事が杞憂になったと苦笑いする。

 

「ふむ、その顔から察するに許可は降りたようだね」

 

「うん!でも私と一緒に書物庫の整理整頓をやれってのが条件みたいなんだけど……」

 

「構わぬよ。そも私が言って頼んだ事なのだ、その程度の条件ならばお安い御用だよ」

 

「でも私も最近仕事ばっかであまり書物庫に行ってなかったからなー……かなり散らかってるかもしれないから、後もう一人位人手が欲しい所なんだけど……」

 

そう言って、誰か他に手伝ってくれる人はいるかなと悩むレビィ。それを聞いたメルクリウスは今日もバカ騒ぎをしているギルド内を見渡し―――彼らから比較的近くにいた人物に声を掛けた。

 

「ああウェンディ、少しいいかな?」

 

「はい?」

 

その人物とはウェンディだった。彼女はメルクリウスに呼ばれ、可愛らしく首を傾げながら二人の元へと近付く。

 

「何か用なの?カール」

 

「ああ、実は今からレビィ殿と共に書物庫内を整理整頓する事になったのだが……どうやら相当に散らかってるらしくてね。私と彼女だけでは時間が掛かりそうなのだ。せめて後もう一人手伝ってくれる者が欲しいのだが……」

 

「ウェンディ、もしよかったら一緒に手伝ってくれないかな?」

 

「あ、はい!私なんかでよければ手伝いますよ!」

 

「なら決まり!そうと決まれば早速行こっか?」

 

 

 

 

 

 

 

以上が今に至るまでの事の次第である。

本棚へと魔導書をしまったメルクリウスを見て、レビィは苦笑いを浮かべながら言う。

 

「よく居るよね、大掃除とかしていたら気になる本が出てきて、掃除中断して読み始める人って。クラフトもそういうタイプなんだ」

 

「遺憾ながら。しかし君もその口では無いのかね?」

 

「うっ……確かに……」

 

「あはは……実は私もそうなんですよね……」

 

そのような話をしながら、メルクリウスは目的の本を探し、そしてウェンディとレビィはメルクリウスにこれが目的の本かと聞きながら整理整頓をしていく。

 

 

そして書物庫内の大体九割が片付いた頃―――メルクリウスが本棚へしまおうとしていた一冊の本の隙間から、一枚の紙がヒラヒラと宙を舞いながら落ちた。

 

「おっと」

 

それに気付いたメルクリウスは宙を舞う紙をキャッチし、挟まっていた本の中へ紙を戻そうとして―――止まる。

 

「これは……」

 

「カール、どうしたの?」

 

「ん?」

 

その紙を見て呟くメルクリウスに気付いたウェンディとレビィは首を傾げた。

 

「カール、その紙は?」

 

「どうやらここに書かれている文字を解読してほしいという依頼書のようだね。なぜこの本に挟まっていたのかは分からないが」

 

「……文字?解読?」

 

それを聞いてレビィは「あれ?どこかで聞いた事がある気が……」と呟きながら、ウンウンと唸り出した。

 

「……中々に面白い魔法だ」

 

そんなレビィを尻目にメルクリウスはしばらくその紙を見つめた後、元々挟まっていた本には戻さずに、自分のコートの内側へとしまった。

 

「……クラフト、その紙どうするの?」

 

「何、そう大した事はしないよ。ただ少しだけ興味が湧いたから、後ほどじっくり見るだけだよ」

 

そう返したメルクリウスは再び書物庫の整理整頓へと戻る。

そんなメルクリウスを見たウェンディとレビィは揃って首を傾げるも、メルクリウスが手早く整理整頓しているのを見て、自分たちも整理整頓を再開した。

 

 

 

 

 

 

そしてそれから十分後―――

 

「ふむ……」

 

書物庫の整理整頓を終えたメルクリウスはギルドにある酒場のカウンター席に座りながら、先ほどコートにしまった依頼書を取り出してじっと見ていた。

 

 

そしてそんなメルクリウスから僅か五メートル程離れた席では、ナツ、グレイ、ルーシィ、エルザ、ウェンディ、ハッピー、シャルル、レビィが集まってメルクリウスの様子を見ながら話していた。

 

「なあ、クラフトの奴、何見てんだ?」

 

「整理整頓の時に見つけた依頼書です」

 

「依頼書だぁ?しかも整理整頓の時に見つけたって?」

 

「はい、本の間に挟まってたんですよ。ちなみに内容はこの文字を解読してほしいとか……」

 

「「……文字の解読?」」

 

ナツとグレイの質問に答えたウェンディの言葉を聞いて、ルーシィとエルザがどこかで聞いた事がある気が……?と思い、首を傾げた。

それを見たレビィが尋ねる。

 

「……ねぇ、二人とも。私、その依頼書の事知ってる気がするんだけど……気のせい……だよね?」

 

そう尋ねるレビィの声色は暗く、表情もどこか曇っているようにも見える。それはまるでルーシィとエルザに気のせいだと言ってもらいたいかのようだった。

そんなレビィを見たルーシィとエルザは、お互いに顔を少し見合わせた後に頷いた。

 

「……なあ、ウェンディ。その依頼書がどんな見た目だったか覚えてるか?」

 

「え?えっと……なんか真ん中にボロボロの石板みたいなのが書いてあって……そこに古い言葉が書かれてて……横の方には現代語訳が書かれてましたけど……?」

 

「「…………」」

 

そんなウェンディの答えを聞いたルーシィとエルザの脳裏に、ある悪夢の記憶が蘇る。それと同時に二人の顔は段々と青ざめていく。

いや、二人だけではない。ウェンディの言葉を聞いて、ウェンディとシャルル以外の全員がそれぞれ嫌な顔をする。

さらには周りで聞き耳を立てていた他のギルドの面々も、似たような顔をしていた。

 

「み、皆さんどうしました?なんか顔色が悪いみたいですけど……?」

 

「周りで聞いてたアンタたちもどうしたのよ?その依頼書に何かあるの?」

 

『っ!!』

 

そうシャルルが問い掛けると、その場にいた全員はハッとして、例の悪夢を呼び起こしただろう依頼書を持っているメルクリウスへと揃って視線を向け―――凍り付いたかのように固まった。

 

 

 

 

「おやおや、揃ってこちらを見てどうしたというのかね?」

 

 

 

 

そこには席に座りながら足を組み、右手に例の依頼書を持ったメルクリウスが、全身の毛が逆立つ程の笑みを浮かべながらナツたちを見ていた。

その薄暗く輝く瞳を見たナツたちはまるで蛇に睨まれた蛙の如くに竦み上がる。

それを見たメルクリウスは右手に持つ依頼書を見ながら、言葉を紡ぐ。

 

 

人の子は悪意ある者に連れ去られる(Filius hominis A malitiosum Factum est auferetur)

 

 

それはメルクリウスが依頼書に書かれた古代文字を自分流に、そしてより強力な効果にするべく紡ぎ出した言葉だった。

 

 

それもまた運命である(etiam Fatum Est)

 

 

するとギルドの中にいたメルクリウス以外の全員の体が虹色に光り輝き―――自分の体から抜け出した魂が、近くにいた者の体の中へと入り込み、またその体の持ち主だった魂も入り込まれた者の体へと入り込んだ。つまり魂と体が別の誰かと入れ替わったのだ。

その結果、何が起こるのかというと―――

 

 

 

 

 

「うおっ!?俺がエルザァー!!?」

「またか……またなのか……」

「あ、あれ……私ってこんなに視線高かったっけ……?ううっ……なんか寒い……」

「おおっ!?いきなり視線が低く……これは……ウェンディと入れ替わったのか!?」

「ナツ、見て見て〜!オイラの胸にまたかっちょいいおっp―――」

「ハッピー!!あたしの胸触るな!!」

「な、何よこれ!?」

「うわ〜……私はシャルルかぁ……」

 

お互いの入れ替わった相手を見て絶望、あるいは悪夢の再来だと嘆く地獄のような、しかしそれでいて術を掛けた者からしたらとてつもなく愉快な光景が出来上がる。

 

「……カナ、お前結構あるんだな」

「人の胸揉みながら何言ってんのさ!」

「な、なあ、ドロイ……お、俺たち……」

「入れ替わってる!?」

「ア、アルザックの体に……!」

「ビ、ビスカの体に……!」

 

周りもそれぞれ入れ替わってしまった事を自覚して絶望したり、また一部の変わり者は異性の体と入れ替わって、若干嬉しそうにしながら入れ替わった相手の体を触りまくったり(主に女性の体に入り込んだ中身男性)、そんな自分の体を触りまくっている相手を物理的に殴ったり(主に男性の体に入り込んだ中身女性)と、中々にカオスな光景が広がっていた。

 

「ふむ……」

 

そんな大混乱を巻き起こした犯人であるメルクリウスは、依頼書を見て呟く。

 

「効果範囲は五十メートル、効果時間は約三十分、入れ替わってる間は魔法が完全に使えなくなり、魔力が微量な者には効果が現れない……と言った所か」

 

そんな一人で満足そうに頷くメルクリウスにウェンディ(外見グレイ)がオロオロしながら問い掛ける。

 

「カール!!これどういう事なの!!?私がグレイさんになって、グレイさんが私になってるんだけど!?」

 

「その通りだよ、ウェンディ。君たちだけではない、このギルドにいる者たち全員が今同じような現象を体験しているのだよ」

 

「ええっ!?」

 

「おいクラフトォ!!!元に戻せやコラァ!!」

 

「え〜……」

 

「面倒くさそうな顔すんなぁ!!お前が原因だろうが!!」

 

「はよ戻せい!!」

 

明らかに戻すの面倒くさいと言ったような顔をするメルクリウスにナツ(外見エルザ)がガンを飛ばし、マカロフ(外見ミラ)が怒鳴る。

しかしメルクリウスはどこ吹く風と言った感じだ。

 

「別に取り立てて騒ぐ程の事ではないだろう。三十分も経てば皆、元に戻るのだからね」

 

「ふざけんじゃねぇー!!俺はこんな体嫌なんだよ!!早く元に戻しやがれ!!」

 

「お、おい……ナツ……」

 

「ああ!!?」

 

ナツは青ざめたグレイ(外見ウェンディ)が指を指した方向へと振り向く。そして次の瞬間―――ナツの表情が凍りついた。

そこにいたのは全身から凄まじいまでの殺気を溢れ出させ、ナツにとても冷徹な目を向けるエルザ(外見ナツ)だった。

 

「ほう……ナツ、そんなに私の体は嫌か」

 

「い、いや!お、俺はそんなつもりで言ったわけじゃねぇ!今のは言葉の綾みたいなもんで―――」

 

「問答無用!!!!」

 

「ギャアアァァァーーーーーッ!!!!」

 

 

 

 

それから僅か一分後―――

 

「ふん!」

 

「――――――」

 

そこには鼻を不機嫌そうに鳴らして今だに怒っているエルザと、その足元でボコボコにされて伸びているナツという光景が出来上がっていた。

そんな二人を見て、周りの者たちは揃って顔を青くする。

 

「エルザの奴、自分の体だってのに容赦ねぇな……」

 

「中身がナツだからじゃない?」

 

「それにしては容赦なさ過ぎる気がしましたけど……」

 

「多分、エルザ何も考えないでボコったと思うよ」

 

グレイ、ルーシィ(外見ハッピー)、ウェンディ、レビィ(外見シャルル)がそう呟く中、エルザはツカツカとメルクリウスの元へと歩いて行き、彼の胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、クラフト。早くこの魔法を何とかして解け。さもなくば―――貴様を今ここでバラバラに斬り裂いて、川に投げ捨ててやる」

 

「それはそれは……」

 

しかしそんなエルザの凄みすらもニヤニヤとしながら受け流すメルクリウスは、自分の胸ぐらを掴んでいるエルザの手へと視線を向ける。その瞬間―――

 

 

バチィッ!!

 

 

「っ!!」

 

まるで電気が迸るかのような音とがすると同時に、エルザがメルクリウスから手を離す。

 

「なんとも血気盛んな事だ。しかしそれ程までに元に戻りたいのかね?ならば戻してやっても構わないが……」

 

「戻せるのか!?」

 

「無論」

 

メルクリウスの言葉にエルザは飛び付き、周りで騒いでいた者たちも全員が早く戻してくれと叫び始める。

 

「ふむ……それ程までに君たちは元に戻りたいのかね。折角他人の体へと入れ替わるという貴重な体験をしているのだ。短い時間制限の中で、各々試したい事を試してみるといいだろうに……」

 

「特に試したい事なんてねーよ……これはウェンディの体だし、あまり変な事もしたくねぇ。それより早く元に戻してくれ……」

 

「……はぁ、そこまで言うのなら仕方ないな。では一組ずつ順に戻していくとしよう。生憎とこの術は一組ずつしか解除が出来なくてね。まずは先ほどから戻せ戻せと叫んでいるエルザ殿とナツ殿から戻そうか」

 

そしてエルザとエルザに叩き起こされたナツを並ばせたメルクリウスは言葉を紡ぐ。

 

 

悪意ある者に替えられた子は異端である(A malitiosum et mutaverunt liberi Dicitur haeresis)

 

子の真実を見抜け(liberi veritas Vide in)

 

そうメルクリウスが唱え終えた瞬間―――

 

「「うぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

『!!!??』

 

ナツとエルザは揃って凄まじい絶叫を上げて、床へと倒れ込んだ。

その様子を見て、周りの者たちは言葉を失う。

 

「……この魔法はチェンジリングとは違い、()と肉体を入れ替える魔法だ。新たな肉体へと入り込んだ魂は一瞬で体と己の魂とを繋ぐ精神網を構築する。それは他人の肉体でも同じ事が成されるのだ。精神網とは言うなれば、血を全身へと運ぶ血管のようなもの。それを無理矢理引きちぎり、元に戻せばこのような事になる」

 

その説明すらも耳に入っていないのか、ナツは叫びながら床をゴロゴロと転がり、エルザは蹲って痛みに耐えていた。

メルクリウスはそんな二人を尻目に、他の皆へと視線を向けて問い掛ける。

 

「さて、それでは次に戻りたい者は私の前へと出てきたまえ。すぐにそこの二人と同じように元に戻してやろう」

 

薄っすらと不気味な笑みを浮かべるメルクリウスの言葉に、ギルド内の全員が一歩後ろに下がる。

 

「おや、どうしたのかな?早く戻りたいのだろう?」

 

「き、気が変わった。俺は時間が来て解けるまで待つからいい……」

 

「あ、あたしも……三十分経てば元に戻るって話だし……」

 

「そもそもあんなのを見たら、早く戻してほしいなんて言えないわよ……」

 

シャルル(外見レビィ)が今だに痛みでのたうちまわっているナツとエルザを見て、諦観したかのように呟く。

 

「ふむ……それ程強い痛みでは無い筈なのだがね。精々腕や足を引きちぎられ、全身が引き裂かれる程度の痛みに過ぎないのだが……」

 

「程度って……」

 

「うわぁ……想像しただけでゾッとする……」

 

「その程度でゾッとするのかね?世の中にはさらに想像を絶し、長く痛みを伴うものも多くあるのだがね。例えば、手足の爪の間に薄い竹べらのようなものを差し込んで思い切り爪を剥がすといった拷問。これも中々に痛い。大の大人が赤子の如くに泣き叫び、垂れ流してしまう程だ。だが、人というのはその程度で死ぬ事は無い。人の痛点はまだ全身に残っている。他には歯を―――」

 

「わー!わー!カール!もういい!もういいから!!」

 

聞くだけで背筋がゾッとするような話をペラペラと話すメルクリウスにウェンディが顔面蒼白になりながら止める。

よく見れば周りも皆、顔面蒼白である。

 

「む……そうかね」

 

「……クラフト、その手に随分詳しいわね」

 

「当然だろう。私は元々軍属だ、その程度の拷問など昔はよく見かけたものだよ」

 

最もメルクリウスの場合、その程度の拷問以上の事を行った事があるのだが。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々が知らない事とはいえ、その事を棚に上げて平然と話すこの男も中々に大概である。

そんな話の空気を変えようと、ウェンディが尋ねる。

 

「そ、そういえば、カールはなんでこの魔法を試そうと思ったの?」

 

「何、ただの興味だよ。その為に皆を実験に利用したのは申し訳ないと思うが……概ね成功し、魂が消滅するものも居なくてよかったよ」

 

「待て、消滅じゃと?」

 

マカロフが最後の言葉に反応する。

 

「ああ、実はこの魔法は入れ替わる対象が効果範囲内に居ない場合は、そのまま魂を消滅させる魔法となるのだよ」

 

つまり他の入れ替われる行き場(肉体)が無い魂は問答無用で消滅するのである。

また大人数で集まった際、集まった人数が奇数で一人あぶれた場合でも、同じような現象が発生する。

 

「消滅!?」

 

「まあ、幸いにも現在ここに集まっている人数は偶然にも偶数だったし、一人あぶれて消滅するなんて事は無かったがね」

 

「お前、なんで恐ろしい魔法をいきなり掛けんだよ……!」

 

「だからただの興味だと言っただろう?」

 

そう言ってニヤニヤと笑うメルクリウスを見て、再び顔面蒼白となる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々だった。

 

 

 

 

そしてそれから三十分後、メルクリウスの掛けた魔法の効果は切れ、なんとか全員元に戻る事が出来たが……無理やり魔法で戻り、凄まじい痛みでのたうちまわっていたナツとエルザは約半日程、ベッドに沈んでしまった。

ちなみにメルクリウスは例の依頼書は破棄せずに持ち歩くそうだ。曰く、「このような興味深い魔法が書かれているものを破棄するなど、無知蒙昧の極み」との事。最もロクな事に使わないのは火を見るよりも明らかだが。

 

 

 

そうして水銀の蛇によって絶望へと突き落とされた一日は無事に終わりを迎えた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、黄昏の浜辺にて永遠の刹那と黄昏の女神の絶叫が響き渡ったのは決してこの件と無関係では無いだろう。

 




というわけで今回はチェンジリングをアレンジした話でした!
水銀の詠唱のラテン語、もしかしたら文法とかがおかしいかもしれません。どうかご容赦ください。

水銀「作者は外国語が全く出来ないからな。故に文法がおかしいなどの突っ込みが来るのは覚悟済みだそうだ」

まあ、そういうの詳しい方が直してくれたらな〜なんて内心では思ってますが……まあ、その辺りは知らんと言って切り捨ててくれても構いません。

ウェンディ「で、今回のお話で入れ替わった人たちについてですが……」

入れ替わったのは以下の通りです。

ナツ⇔エルザ
グレイ⇔ウェンディ
ルーシィ⇔ハッピー
シャルル⇔レビィ

そして他には……。

マカロフ⇔ミラ
エルフマン⇔ワカバ
カナ⇔マカオ
ジェット⇔ドロイ
ビスカ⇔アルザック
ナブ⇔リーダス
マックス⇔ラキ

という感じになっています。ちなみにウォーレン、ガジル、ジュビア、雷神衆は仕事で不在という事になっています。後は名も知らぬモブキャラ同士が入れ替わってるって感じで。

ウェンディ「……ねぇ、ザトラさん、ガジルさんたちが仕事で不在っていうのはやっぱり人数合わせ―――」

水銀「おっと、その辺りはあまり突っ込んではいけないよウェンディ」

……というわけでそこもあまり突っ込まんといてください(苦笑)


さて、それでは今回はこれで終わりですが……。

水銀「次の話の内容は決まっているのかね?」

う〜ん……まだ決まってないんですよね……。エドラス編に入る前にもう少し間話入れたいんですけどね。なので次の更新も少し間が空きそうです。申し訳ありません。

では……誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!
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