FAIRY TAIL 未知を求めし水銀の放浪記 作:ザトラツェニェ
今回もアブソと同時投稿してます。よければあちらも覗いてみてくださいね!
水銀「何を宣伝しているのか……」
さて、今回はお花見のお話で、ネタ多めです(笑)楽しんでいってくださいね。
では、もはやウザいだけの蓮と化した水銀の物語、始まります!
「……花見、かね?」
チェンジリング騒動から一週間が経った頃、今日も今日とて喧騒が響き渡るギルドにもいよいよ慣れた私は目の前の席に座っているレビィに聞き返した。
「そう!明後日、
「へ〜!お花見ですか!」
「このギルド、毎年そんな事やってるのね」
私の隣に座っているウェンディが楽しそうな、机の上で腕を組んで座ってるシャルルが少し興味あるように反応を見せる。
「それはどこでやるのかね?」
「この近くにある公園だよ。そこに咲く桜の木の下でミラさんが作ったご飯を食べたり、ワイワイ楽しんだりするんだよ。あ!それとゲームもやる予定だよ」
「ゲーム?」
「そう!豪華賞品も当たるかもしれない白熱のビンゴ大会!これも毎年恒例なんだ〜。……まあ、私は去年もその前もいいもの貰えなかったけどね」
「ほう、して気になるのはその豪華賞品とやらだが、一体何が貰えるのかな?」
まあ、そんな事を聞いても教えてはくれないだろうーーーと思いきや。
「さあ?実際当日まで分からないし……それに豪華賞品ってギルドの皆が持ち込んだものだから、本当にいいものが当たるかどうかは分からないよ」
「皆さんがビンゴ大会の景品を持ち寄るんですか?」
「うん。去年なんかナツとハッピーがどこから持ってきたのか知らないけど確か……く○もんとか言うぬいぐるみを持ってきてたよ?」
ちなみにそのぬいぐるみはエルザが手に入れたそうだ。というかなぜこの世界にく○もんが居るのだろうか。
「ウェンディとクラフトも何か景品を持ち寄ってみたら?当日ギリギリまで受け付けてるみたいだし」
「う〜ん……突然そんな事を言われても……」
「私たちはこのギルドに入ったばかりでまだ荷物の整理とかも落ち着いてないから難しいわね。そもそもそういう所に出せるような物も持ってないし」
景品の当てが無いウェンディとシャルルは揃って悩み始めた。
それを見て苦笑いを浮かべたレビィは次に私へと視線を向けてきた。
「クラフトは何か景品は出せないの?」
「ふむ…………当ては無くも無い。ただ用意するのに一日程度掛かるが……」
「あ、いや、そこまで準備するのに大変なら無理しなくていいんだよ?」
「いや、準備に手間取るというわけでは無くてね。探し出すのに少々時間が必要というだけだよ」
私は女神が座に坐ったその後、こうして各界に放浪の旅をしている時以外は自らが作った空間で過ごしている。一応、獣殿のグラズヘイムにも私の部屋はあるのだが、そちらには必要最低限のものしか置いていない。
一方、私の作った空間内には様々なものが置いてある。例えば私が金銭を稼ぐ際に使う占星術の道具や、様々な世界の歴史や魔法について書かれた本。さらにはかつての回帰世界で使う予定の無かった聖遺物の素体や、過去の回帰で訳あって手に入れた息子の巻いていたマフラー、獣殿のコートやストラなどもある。
ちなみに私が大切にしているマルグリットコレクションは、そことは別の空間に時間軸から切り離して厳重に保管してある。仮に愚息や獣殿、そしてその仲間たちが血眼になって探したとしてもそこに辿り着く事は未来永劫あり得ないだろう。
「どちらにせよ、明日一日を使って何か良いものがあるかどうか探しておこう。せめて珍しい本の一冊位はあるだろうからね」
「珍しい本か〜……。よし!私も何か探してみよっかな」
「……私も少し探してみようかな……シャルル、後で荷物見てみよっか?」
「……そうね。なんか私たちだけが何も出さないってのもあれだし」
「でも何も無かったら、それはそれでいいからね?」
「はい!」
そしてその日の夕方、ギルドを後にした私は自らが作った空間へと転移した。
「とはいえ、ついこの間に少し処分してしまったからな。何かいいものがあるといいがーーー」
メルクリウスは一人、そう呟きながら大量のものが置いてある自分の空間内を見回す。
実はつい先日、彼はいらなくなってしまったものを宇宙の彼方に投げ捨てて、超新星爆発で処理してしまったのだ。その処理した中にはまだ使えるような魔法道具なども含まれていた。
その事に僅かながら後悔するメルクリウスは何かいいものが無いかと物色を始める。
「これは……まだ読んでいる途中だったか。こっちはあの魔術に使うもので……ふむ、この本ならば問題無いだろう。確かこっちの方に下巻もあった筈……」
メルクリウスは一人でそんな事を呟きながら、大量に積まれた本の山から一冊一冊手に取って整理するついでに探していく。
ーーーそうして丸一日時間を掛けて探した結果、計十二冊の不要な魔導書や古文書などを景品として提供する事にした。
魔導書の内容はどれも難易度の高いものばかり書かれているが、例の世界で使えない魔術は無いし、しっかりと修行を行えば便利に使いこなせるようになるだろう。それでも息をするかのように使いこなすにはそれなりの時間と修行が必要だろうが。
とりあえず景品として見繕ったそれらの本を、メルクリウスは少々大きめのカバンに詰め込む。
そして詰め込み終えたメルクリウスは転移する前にもう一度だけ、周りを見回してみる。
「……ん?」
すると彼の視線の端の方に積んであった本の上で、一瞬何かがキラリと光る。
メルクリウスはそれに誘われ、積んである本の上にあったものを見る。
「……これは」
それはかつて永遠の刹那が持っていたものであり、現在は訳あってメルクリウスが所有しているものだった。
「……この際だ、これも持っていくとしよう」
一瞬とはいえそれに興味を引き付けたメルクリウスはそれも手に取り、例の世界へと転移した。
自らの作った世界から転移し、朝の少し早い時間にギルドへ景品を提出した後ーーー私はマグノリアにある一軒のアパートを訪ねていた。
その理由はここに住むある人物と会う為だ。
「ふむ、確かここの二階だったかね?」
「はい。ミラさんはそう言ってましたけど……」
「随分質素な外見ね」
私の問いにウェンディが答え、シャルルがアパートの外見の感想を述べる。
なぜ彼女たちが私と共に居るのかと言うと、その人物の家の住所をミラに尋ねた際に、ウェンディが自分も心配だから行きたいと言い始め、シャルルがそれに付き添う形で付いてきたのだ。
その人物が住む部屋の前へと辿り着いた私は控えめにノックをする。すると扉の向こうから「は〜い……こんな時間に誰よぉ〜……」というくぐもった鼻声が聞こえ、扉が開いた。
「どちら様でーーーってクラフトにウェンディ?シャルルまで……」
「やあ、早朝に訪ねてきて申し訳無いね、ルーシィ殿」
「おはようございます、ルーシィさん」
出てきたのは毛布で全身を包み、顔を真っ赤にしているルーシィだった。
彼女は訪問者が私たちだと知ると驚いたような顔をする。
「どうしたの?こんな朝早い時間から……」
「何、昨日君が仕事中に雪崩に巻き込まれたとウェンディやミラ嬢から聞いてね。もしや風邪でも引いているのではないかと思って訪ねたのだよ。そうして来てみれば案の定君は……」
「あ、あはは……はい、風邪引きました……ゴホッゴホッ」
「大丈夫ですか?」
「うぅ〜……寒いし、頭も痛い〜……」
辛そうな顔でフラフラとする彼女はとても体調が悪そうだ。この様子だと彼女は今日の花見に向かう事は出来なさそうだな。
「ルーシィ、花見は仕方ないから今日はゆっくり寝てなさい」
「そうするぅ〜……」
「あ、その前に私が治癒魔法掛けておきますね。症状が治まるのはきっと明日になりますけど……」
「ありがとう、ウェンディ〜……」
しかし気の毒だな。聞けば彼女は今日の花見をとても楽しみにしていたそうだ。それがこうして体調を崩して行けないとなると、彼女の内心はどうなってるのか容易に想像が付く。
……ふむ、流石に可哀想に思えてきたので少しばかり救済を与えてやろう。
「ルーシィ嬢、お花見に行きたいかね?」
「もちろんよぉ〜……皆で思いっきり騒いで、ビンゴ大会を楽しくやって……でも、ズズッ、こんな状態じゃとても行けないし……」
「ならば―――」
私は右手を軽く前に出し、少しばかり念を入れる。
すると瞬きする間に私の右手に緑色の液体が入った瓶が現れる。
その事にとても驚いているような表情をしている二人と一匹を尻目に、私はそれをルーシィに渡す。
「これを飲むといい。私が調合した風邪に対して効果のある薬だ」
「……風邪薬?」
「いや、それとは違うよ。正確には風邪を先送りにする効果がある薬と言った方がいいか」
「「「??」」」
この薬にはある特定の症状に対して、その症状を先送りにさせる効果を持つ薬草が入っている。
つまりこの薬を飲むと、今現在引いている風邪は次に風邪を引いた時まで先送りになり、彼女はすぐに回復する事が出来る。
しかしその代わりとして次に風邪を引いた際には、今回先送りにした分の風邪症状とその時引いた風邪症状が合わさり、病状が普通に風邪を引いた時よりも悪化する。
「つまり次の風邪はいつもより二倍位の強さになるの?」
「そういう事だ。おそらく次に引いた時は普段とは比べものにならない程凄まじい頭痛や寒気、咳などが君に襲い掛かるだろう。付き切りで誰かに看病してもらわないと、ろくに治療も出来ないかもしれないな」
「でもそれって逆に言えば、今後風邪を引かなければそんな事は起きないんでしょ?」
「しかし今後一生、絶対に風邪を引かないと君は言えるのかね?」
「…………」
この世界の人々の平均寿命は80歳前後。そしてルーシィは確か17歳だと聞いた。彼女はこれから約60年間、一度も風邪を引かずに生涯を終える事が出来るだろうか?
「ちなみに私が昔、医者や薬剤師として働いていた時にこの薬を処方した者は、数日程時間を作ってからわざと風邪を引いていたよ」
「わざと引く……ね……」
「……ん〜……私もそうしようかなぁ……少なくともこれを飲めば、今日元気に花見に行けるんだよね?」
「然り、私が保証しよう」
「それじゃあ早速―――」
私の返事を聞いたルーシィは瓶の蓋を開け、右手を腰に当ててグイッと薬を飲み干した。実にいい飲みっぷりである。
それから僅か10秒後、薬を飲み干したルーシィの顔色は少しずつ赤みを帯びた色から元の健康そうな肌の色へと戻っていく。
「わぁ……!すごい……!」
「ルーシィさん、ちょっとおでこ触らせてもらいますね」
「どう?」
「―――本当にすごいです……!熱が完全に無くなってます!」
「それに鼻声も治ってるわね。―――それにしてもクラフト、あんたって本当に何者なのよ……」
「おや、その答えは以前と変わらんよ」
「はぁ……聞くだけ無駄って事ね」
その後、ルーシィは機嫌良く鼻歌を歌いながら花見に向かう準備をし始めた。
その間、私たちは彼女の住む部屋へとお邪魔してほんの僅かながら部屋を見せてもらった。その際に彼女が書いているという自作の小説をちらりと見せてもらったが―――中々に面白い内容だったと言っておこう。
数分後、ルーシィの準備が終わったのを確認した私たちはそのまま花見会場であるマグノリアの公園へと向かう。
道中、暖かい春風に運ばれてきたのか、桜の花びらがひらひらと宙を舞う様子を目にする。それに気付いたルーシィやウェンディの表情が段々と嬉しそうに変化していく様は見ていて中々に愉快だった。
そして花見会場へと到着した私たちが見たものは、満開に咲く数多くの桜と地面に敷いた敷物の上ですでに大騒ぎを始めている
「うわぁ……!綺麗だね、シャルル!」
「そうね」
花見会場に着き、空いている敷物の上に座ったウェンディは満開の桜を見上げて感嘆の声を上げ、シャルルも桜を見上げながら同意する。
春の訪れを感じさせるピンク色の桜は時折吹く優しい春風で少しばかり揺れ、何枚かの花びらを宙に舞い散らせる。
そのような風情ある光景を眺めながらウェンディは先ほどミラからもらったジュースを一口飲む。
そしてシートの上に所狭しと並べられているご馳走を見て、どれから食べようか悩んでいると―――
「ウェンディ、隣空いているかね?」
その声に反応して振り向くと、そこにはビールが入ったジョッキを片手に持つメルクリウスが居た。
声を掛けられたのがメルクリウスだと分かったウェンディは嬉しそうな笑みを浮かべながら、少し横にずれる。
「あ、うん!―――はい、座って!」
「では―――」
メルクリウスはそう言いながらウェンディの左隣へと腰を下ろし、並々と注がれたビールを敷物の上に置いた。
「うわ、零れそう……カールってお酒飲めるんだね」
「あまり強くはないがそこそこ飲めるね。まあ、あちらで樽に入った酒を一気飲みしているカナ嬢には負けるが」
「あ、あはは……」
「あれは例外でしょ……」
そう言う3人の視線の先にはシートの上で胡座をかいて、ギルドから持ってきた酒樽をグイグイ飲むカナ・アルベローナが居る。
「相変わらずここの桜は綺麗だねぇ、酒が進むよ」
「お前はギルドに居ても大量に飲んでるだろ」
「つか樽ごと持ってきてるのか……」
「お、なんだい?欲しいのかい?でもこいつは渡さないよ?」
「誰も取りゃあしねぇよ」
カナの反応に周りの者たちは揃って苦笑いを浮かべる。
ちなみにメルクリウスはあまり酒に強くないと言ったが、聖遺物をその身に宿す者は基本的にどれ程アルコールを摂取しても酔わない(一応酔おうと思えば酔える)。
なのでこの場で一番酒を飲めるのはそんなに飲めないと言っているメルクリウス本人なのだが……それはまた別の話。
「ウェンディも興味があるなら一口飲んでみるかね?」
「ええっ!?あ、あの……わ、私まだ12歳でお酒は飲めませんよ……?」
「未成年にお酒を勧めるって……」
「ふふ、冗談だ」
メルクリウスはニヤニヤと胡散臭い笑みを浮かべながら、ビールを四分の一程飲んで、近くにあった料理に手を付ける。
「ほう……この唐揚げ、中々に美味だ。ビールとも非常に合う」
「なら私も一つ―――ん〜♪とっても美味しい……!」
「あらあら、そう言ってくれると私も作った甲斐があるわ♪クラフト、もう一杯ビールいる?」
そこへ飲み物の入ったグラスをお盆いっぱいに乗せているミラがニコニコと嬉しそうな笑顔を浮かべてやってきた。
「ミラさん!」
「では、遠慮無くいただこう」
「ミラちゃん!こっちにもビール!」
「はいは〜い♪」
「ねぇ、シャルル〜オイラのお魚いる?」
「いらないわよっ!」
「おおっ!この肉うめぇ!!」
「おいナツ!それは俺が目を付けてた肉だ!返せこの野郎!」
「へっへ〜ん、食ったもん勝ちに決まってんだろ!文句あんならかかってこいよ変態野郎!」
「んだとクソ炎!」
「はぁ……またあの二人はケンカしてるし……てかグレイ、いつの間にかまたパンイチ……」
「あはは……そういえばルーちゃん、風邪引いてたって聞いたけど大丈夫なの?」
「うん!クラフトが薬をくれたおかげで元気いっぱいよ!」
「薬だと?」
「彼、過去に医者や薬剤師として働いてたそうよ」
「医者や薬剤師……本当に多芸だな」
そうして花見は賑やかに進んでいく。そして花見が開始されてから二時間程経った頃、ミラが皆に聞こえるように大きな声で話し出す。
「さてと、それじゃあ宴もたけなわとなってきたので〜……いよいよお花見恒例のビンゴ大会を!」
『オオォォオオ!!』
「―――やる前に〜」
『え?』
「今回はビンゴ大会の前にもう一つ催し物をしたいと思いまーす♪その名も……カラオケ大会!」
『カラオケ大会!?』
その声と共にギルドのウェイトレスたちがそれなりに大きいカラオケセットを設置し始め、メルクリウスもどこからか取り出したマイクを片手に立ち上がる。
「そう!今年はクラフトがカラオケセットを貸してくれるって言ったからやってみようと思ったの」
「そういうわけだ。折角こうして皆で騒ぐのだから、催し物は多い方がよかろう?さて、では一番最初に歌ってくれるのは誰かな?」
まるで「一番手はとても重要だ、白けさせるなよ」とでも言いたそうな表情でマイク片手に問い掛けるメルクリウス。それを見て怖気付いたのか、誰も一番手として名乗りを上げない。
仕方ない、ならばこちらから適当に指名してやろう―――などとメルクリウスが思っていると―――
「なら私が歌いまーす」
「ミラちゃん!」
「おおっ!!一番手はミラちゃんか!!」
「ミラちゃーん!!」
ミラが自分から名乗りを上げ、それを聞いたギルドメンバーたちはお祭り騒ぎとなる。
そしてマイクを片手に持ったミラはカラオケマシンの画面を見ながら選曲を始める。
「う〜ん……何歌おうかなぁ……」
「このマシンにはバラードやロック、J-POPにデスメタルにオペラに演歌、果てはアニメソングやVO○A○OIDなどと幅広い曲種が収録されている。どれでも好きなものを選ぶといい」
「今、聞いた事の無い曲種が幾つか聞こえたわね……」
「……V○CAL○IDって何だろうね、シャルル」
「さあ?」
そんな話をしている内にミラの選曲が終わり、曲が流れ始めた。
「さて……」
カラオケマイクをミラに手渡した私は、以前ドイツに行った際に買ったワインを片手にウェンディの元へと向かう。
『さあ!ロックで行くわよぉ!!』
『オオオオオ!!』
ミラの言葉に湧き上がるメンバーたち。それを見て相変わらずこのギルドは騒がしいなという感情を抱く。まあ、こうして気心の知れた仲間たちと気兼ね無く騒げるという事は素晴らしいと思うので文句は無いのだが。
そして私はウェンディの隣へと再び腰を下ろし、手に持っていたワインをグラスへと注いで匂いを少し楽しんでから一口飲む。
「……ふむ、相変わらず好いワインだ」
「あら、白ワイン?」
「ああ、私が軍人として勤めていた国で作られたワインでね」
「ふ〜ん……何て言うワインなの?」
シャルルがワインボトルに貼られたラベルを見て、首を傾げながら問いてきた。どうやらラベルに書かれていた文字が読めなかったらしい。
「
「モ、モーゼル……?」
「あまり聞いた事は無いだろう?この国ではそれ程名が知られていないワインなのでね」
正確にはこの世界には存在しないワインと言った方がいいのだが。
「程よい酸味と甘みが特徴のワイン―――そうだ、試しに飲んでみるといい」
言って私は油断しているウェンディの後頭部を右手で逃げられないように優しく押さえ、左手に持ったワイングラスをウェンディの少し開いている口元へと優しく押し付ける。
「んむっ!?んん〜〜っ!!」
そんな突然の行動に驚いたウェンディだが、自らの口の中にアルコールの入った白い液体が流れ込んできた為に、彼女は目を回しながら弱々しく抵抗を始める。
―――まだワイングラスの十分の一も飲んでいないというのに、もう酔ってしまったらしい。
とりあえず十分の三程飲ませてからワイングラスを口から離すと、彼女は口元から少量の白ワインを垂らし、頬を薄っすらと上気させ、トロンとした目で私を見上げてくる。
言葉にしてみると人によっては中々に劣情を抱くような光景だろうが、私はマルグリット一筋なので可愛らしいとは思えどもそういう気は起きない。
「カ〜ル〜……突然飲ませるなんて酷いですよ〜……あ〜う〜……お星様がくるくる回ってます〜……」
そう言いながら後ろに倒れてそうになったウェンディを咄嗟に支えて私は苦笑いする。
「ああ、すまなかったねウェンディ。―――まさかここまで下戸だとは……」
「ちょっとあんた!無理矢理ウェンディにお酒を飲ませるなんてどういうつもり!?」
「特別深い意味は無い。強いて言うならちょっとした悪ふざけだったのだが……まさかこうなってしまうとはね」
まあ、彼女が飲んだ量は少量でアルコールもそれ程強くないだろうから10分程経てば酔いも覚めるだろう。
私はシャルルに説教されながら、そんな事を考えていた。
それからカラオケ大会も順調な盛り上がりを見せ、ナツやグレイ、ルーシィやエルザ、さらには酔いも覚めたウェンディもかなりノリノリでカラオケを歌い、ついでに私も以前獣殿と暇つぶしで歌ったオペラ/フェロ☆メンを獣殿と声が似ているフリードを無理矢理アブダクションして共に歌った。
そしてカラオケ大会も終わり、花見も午後の部へと入った頃―――
「それではこれより、お花見恒例のビンゴ大会を始めまーす!」
『ビンゴー!!!』
「にょっほっほっほ!今年も豪華な景品が盛り沢山じゃ!皆、気合い入れてかかってこい!」
『うおおぉぉぉぉ!!』
ミラとマカロフの一言により、ギルドメンバーたち全員が空気を震わせるような歓声を上げる。
本当に賑やかな事だ。
「準備はいい?まずは最初に真ん中の穴を開けてね。それじゃあレッツビンゴ♪」
その言葉と共に魔法式のビンゴマシンが動き出し、一番最初の数字を弾き出した事でビンゴ大会は幕を開けた。
「続いて8番!」
「ビンゴだー!!!」
『おおっ!!』
ビンゴ大会が始まって数分後―――一番最初にビンゴしたのはエルザさんでした。
「初ビンゴはエルザさんですね!」
「彼女は随分と運があるようだね。まさかこれ程早くビンゴするとは」
「運も実力の内だ!で、景品はなんだ?」
軽く目をキラキラと光らせて楽しそうに聞くエルザさんでしたが……。
「はい、これ!一時的に魔力をアップさせる薬草で〜す♪」
「な、何ぃ!?これは私たちが昨日取ってきたもの……!」
「あれが昨日ハコベ山からルーシィ嬢が風を引いてまで取ってきた例の薬草かね?」
「そうなんだけど……これ、完全に枯れちゃってるわね」
ルーシィさんの言う通り、私たちが昨日取ってきた薬草はもう元の形が分からない程クシャクシャに枯れていました。
「ハコベ山と言えば、1年を通して雪に覆われている山。そこに生える植物は皆、寒さには強いが反対に暑さには弱い―――エルザ嬢、何かしらの加工保存なり対策なりはしなかったのかね?していればこうはならない筈なのだが……」
「何もしてなかったわよね、エルザ」
「…………ううぅ、私の……初ビンゴが……!」
「し、仕方ないよ、エルザ」
「そ、そうだよ!元気出して、エルザ!」
カールとシャルルに言われて泣き崩れるエルザさん……。それを見て私たちは慰めるしかありません……。
その後もビンゴ大会は順調に進んでいき、他の方たちも続々とビンゴしていく中―――
「13番!」
「む、揃ったな」
ミラさんが弾き出された数字を読み上げるとカールの持っていたカードが綺麗に横一列でビンゴしました。
「わあ!すごいです!」
「まさか13番という数字で揃うとは……。まあそれはいい、少し行ってくるよ」
カールは何か含むような事を言いながらも、ミラさんとマスターの元へと向かっていきました。
「カールはどんな景品をもらってくるかな?」
「エルザみたいなハズレ景品じゃないといいけどね」
「ちょっとシャルル……」
少し棘のある言い方をするシャルルに、私は苦笑いしながらなんとも言えない微妙な気持ちになる。まあ、確かにカールにはエルザさんの時みたいな事にならないといいなとは思ってるけど……。
ちなみにエルザさんは少し離れた桜の木の付近で枯れた薬草を片手に体育座りで凹んでます。
「エルザさん、大丈夫なんですかね……?」
「ちょっとショックが大きかったみたいだからね〜……慰めても元気にならなかったし、しばらくはあのままじゃないかな?」
「ま、ほっときましょ。その内復活するわよ」
そう言うシャルルに私とレビィさんは揃って苦笑いを浮かべてしまう。
そんな事を話していると、カールが右手にそれなりに大きい袋を持ってミラさんたちの所から戻ってきた。
「おかえりなさい!何をもらえましたか?」
私がそう問い掛けると、カールは手に持っていた袋を私へと手渡してくる。
その袋に貼られているラベルを見て、レビィさんが言う。
「これは……紅茶の茶葉?」
「然り、ミラ嬢が持ち寄ったものらしくてね。聞けばそれ一袋で5000Jはするそうだ」
「5000J!?高級茶葉じゃないですか!!」
それがこんな大きな袋でもらえるなんて……すごい……。
「正直、私自身もこれ程いい物をもらえるとは思ってもみなかったな」
「いいなぁ……私もクラフトみたいに高級なものじゃなくていいから何か欲しいよ……」
そう言うレビィさんのビンゴカードを見てみると、それなりに穴は開いているのにリーチが一つも出来ていない状態でした。
それを見たカールは少しだけ笑みを浮かべます。
「そこまで案ずる必要はない。おそらくレビィ嬢、そしてウェンディもそう遅くない内にビンゴするだろうね」
「あはは……慰めてくれるのは嬉しいけど、私はまだ一つもリーチしてないんだよ?」
「私もだよ……」
「否、これは別に慰めではないよ。何やらそのような予感がするのだ。言うなれば―――占い師の予感と言ったものだろうか」
「占い師の予感ねぇ……」
カールがそう言うと、ジュースを飲んでいたシャルルが疑うような目をする。ちなみにシャルルは興味が無いって言って、ビンゴ大会に参加していない。面白いのに……。
それからさらにビンゴ大会は進んでミラさんも景品が残り少なくなってきました〜と言い、もうビンゴしても景品もらえないかな……と思い始めた頃―――
「続いて、え〜……6番!」
「「あっ、開いた!―――え?」」
横一列に開いた私と全く同じタイミングでレビィさんも声を上げ、揃って顔を見合わせました。
「あらあら、二人同時なんて珍しいわね。マスター、どうします?」
「う〜む……とりあえず二人とも、こちらに来なさい」
マスターに手招きされ、私たちはとりあえず前に向かいます。
「クラフトの言った通りだったね……」
「カールの予感はよく当たるんですよね……。でもまさか同時にビンゴするとは思いませんでした……」
私たちは小声でそんな事を話しながらも、マスターの前へと辿り着きました。
「さて……それで景品の事なんじゃが……お主らには二つある景品の内からどちらかを選んでもらおうかの」
「二つある……」
「景品?」
意味が分からなくて、首を傾げる私たちを前にミラさんは奥にあった布を取り払って、景品を見せてくれました。
「実は次に用意していた景品はこの魔導書や古文書の計十二冊と、こっちにあるチョーカーのセットなんだけど……」
「……ああ、なるほど。選ぶってそういう事ね。ならウェンディが先に選んでいいよ」
「えっ!?……う〜ん……」
そう言われて本にするかチョーカーにするか悩みましたが―――レビィさんの事を考えて、私はミラさんからチョーカーを手渡してもらいました。
「なら私はこっちのチョーカーをもらいます」
「えっ、ウェンディはチョーカーでいいの?」
「はい!本は私よりレビィさんが持っていた方がいいと思いますから」
実際、レビィさんは女子寮の部屋が図書館並の本で埋め尽くされている位の読書家ですからね。チョーカーより本の方が欲しいと思っているでしょうし。
「あはは、そう言ってくれるなら遠慮無くもらっちゃおうかな!」
「うむ、二人とも大事にするんじゃぞ。何しろその景品はお主らと親しい者が所持していたものじゃからの」
「「えっ?」」
「うふふ、そうですね♪二人とも、戻ったらあの人にお礼を言っときなさいね♪」
ミラさんにそう言われて送り出された私たちは本を抱きかかえながら、元来た道を戻ります。
その道中―――
「……ウェンディ、私たちと親しい人って……あの人だよね?」
私はレビィさんの問い掛けに少しだけ笑って、少しだけ早足になります。これを持ち寄ってくれた人へお礼を言う為に―――
「ほう……」
私はこちらの方へ戻ってくるウェンディとレビィの持つ景品を見て、思わず笑みを浮かべる。
まさか私の持ち寄った景品を偶然にも彼女たちが当てるとはね、これも何かの運命なのだろうか。
しかし十二冊の魔導書や古文書はいささか多過ぎたかもしれんな。まあ、そこまで重い本は無い上にすぐそこまで来ているので手伝う必要はなさそうだが……。
そう思っている内に戻ってきた二人は本を敷物の上に置くと、揃って私の方へ向く。
「ん?どうしたのかね?」
「クラフト、聞いたよ?この本とウェンディの持ってるチョーカー―――元々クラフトのなんだよね?」
「然り、ミラ嬢から聞いたのかね?」
「うん!こんなに多くの本をありがとうね!」
「私からもありがとうございます!でもこれ、もらっていいんでしょうか……?」
「当然だろう。そうでなければビンゴ大会の景品になどせんよ」
全く……相変わらず彼女は妙な所で心配をする。
「どれ、こちらに来たまえ。チョーカーを着けてあげよう」
「あ……いいんですか?なら―――」
そう言ってウェンディはチョーカーを私に手渡して、背中をこちらに向ける。
「では、前から失礼するよ」
言って、チョーカーをウェンディの首の前に通し、留め具を後ろへと持ってくる。
「あ、ちょっと待って―――はい、髪の毛上げたよ」
「ああ、すまないね」
するとウェンディは自分の長い髪の毛が着けるのに邪魔になると察したのか両手で髪の毛を纏めて持ち上げ、うなじを見せる。
ウェンディが髪の毛を持ち上げている間、手早く留め具を着けた私はもう髪の毛を下ろしていいとウェンディに言う。
「よし、これでいいだろう。―――ふむ、私が想像していたよりも似合っているな」
「えへへ……そう言ってくれると嬉しいです。そういえばこれって何を表しているんですか?」
ペンダントトップの装飾を手に取り、問いかけてくるウェンディに私は笑いながら逆に問いかける。
「私から聞こうと思っていた。何に見えるかね?」
「え、えっ……と……ぱっと見、車輪とか歯車とか……時計に見えます」
ふむ、確かにその三つに見えなくもないがいずれも外れだな。
「それは太陽系の縮図を表している。よく見てみるといい、中心を囲うように九つの星が円環しているだろう?」
「あ……言われてみればそうですね」
水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、そして少し前に作られた物なので未だに入っている冥王星も合わせて九つ。
「そしてそれは九つある種類の内の一つでね―――そのペンダントが表しているのは水星」
「水星……?」
「そう、
「へぇ〜……」
説明を聞きながらペンダントトップを見つめていたウェンディはさらに問いかけてくる。
「でも、なんで水星なの?」
「……そのチョーカーは私の知り合いから譲り受けた物でね。その知り合い曰く、私のイメージに合った星が
「カールのイメージが水星……?」
言ってる意味が分からないと首を傾げるウェンディに、今まで近くで黙って私たちの話を聞いていたルーシィが割り込んでくる。
「―――水星は雄弁家、盗賊、商人とか旅人を象徴する星って言われてるのよ。その知り合いはあんたの事を見て、そのどれかのイメージを思い浮かべたのかもね」
「へぇ〜……でも確かにカールって雄弁だよね」
「それにあんた、占い師として商売をしていたり、各地を旅してたんでしょ?」
「まさにイメージ通りだよね」
「ふむ……しかしルーシィ嬢、やけにその辺りの事情が詳しいね?」
「私、こう見えて精霊魔導師なんだけど……」
む……?ああ、なるほど、そういえばこの世界では精霊というと黄道十二宮を筆頭として、星座を模した存在だったな。
「でもそんな人からもらった物……本当に私がもらってもいいの?」
「くどい。私がいいと言っているのだから喜んで受け取りたまえ。それに君が持っていた方が私の知り合いもさぞ喜ぶだろう」
愛しき刹那を永遠に味わいたい。それは大凡大半の者たちが思い、共感するものだ。そしてそれはここにいる者たちもまた同じ事―――
「―――そのチョーカーを持っていた知り合いは夢見がちな男でね。美しく素晴らしい陽だまりのような日常を愛し、無くてはならない友人たちを愛し―――永遠の存在と称した恋人を愛した。そうした時間と共に過ぎ行く刹那を永遠に味わいたい、守りたい―――そんな事をよく言っていたよ」
我が息子のその祈りは、永劫回帰という法を流れ出させた身から見ても非常に美しく素晴らしい祈りであると思える。かく言う私も今の女神の治世を永遠に味わっていたいと、続いてほしいと願っているのだから。
故に―――この刹那はなんとしても守り通さなければならない。
「刹那を永遠に味わいたい……ですか」
「然り。―――その男は“永遠の刹那”と呼ばれ、今もそうした刹那を楽しんでいる」
「“永遠の刹那”……なるほど、言い得て妙だな」
彼らもまた、息子と同じように家族とも言える者たちと過ごす刹那を楽しんでいる。共に笑い、共に泣き、そして困難があれば力を合わせて立ち向かう。
……私も多様な人の業に触れてきた身であるが、やはりこのような思いを抱く者たちが何よりも美しく、憧憬してしまう。
「……ウェンディ。君もまた、今この刹那を大切にしたいと……願っているかね?」
「そんなの……当たり前だよ。私は
「ウェンディ……」
私の目を真っ直ぐと見据えて宣言するウェンディに思わず、一瞬だけ苦笑を溢してしまう。
彼女は時々、今の座を包み込む女神と重なって見える時がある。純粋に人を信じ、救える者たちを救済したいという祈りは実にいい、結構な事だと同意しよう。
しかし、今の彼女たちはあまりにも
この世には彼女たちのような救いの手を汚らわしく気持ち悪いと感じ、他人を他人として認識すらせず、徹頭徹尾ただ己のみを愛し、己以外の他人を一人残さず滅相する吐き気を催す下衆さえいるのだから。
……とはいえ、彼女たちがそれを知るのはもうしばらく後になるだろう。あるいはそう遠くない未来に何かしらの出来事でそれを知る事になるか……どちらにせよ、遅かれ早かれ彼女たちは抗うに困難な絶望を知る事となるだろう。……今はまだその時では無いがね。
一先ずそんな考えを頭の片隅へと追いやり、私は苦笑した顔から取り繕った笑みの顔へと変える。
「それは重畳。ならば尚更そのチョーカーは君が持っているといい。いずれ何かしらの役に立つ時があるかもしれないからね」
そう返すと、彼女は花が咲くような笑顔を浮かべるのだった。
「はぁ……流石に飲み過ぎたか……」
賑やかだったビンゴ大会が幕を閉じて数時間後、日もすっかり暮れて、夜の帳がマグノリアの街を包み込んで多くの人たちが仕事やらを終わらせて帰路につく頃―――花見会場となっている公園では今だにギルドの面々がどんちゃん騒ぎを繰り広げていた。
ナツがドタバタと走り回りながら目に付く男女(一応体が丈夫そうな奴のみ)に腹パンをして喧嘩を売ったり、それを食らったすっぽんぽんのグレイがナツに仕返ししたり、エルフマンが「漢ォォ!!」と叫びながら飲み物をがば飲みしていたりと中々にカオスな光景になっている。
そんな光景を横目に、メルクリウスは先ほどカナに無理矢理飲まされた大量の酒の酔いを覚ますべく、一人花見会場を見下ろせる小さい丘の芝で横になっていた。
―――とは言え、今のメルクリウスの顔はとても酔っているとは思えない程
「…………」
目を閉じて一つ小さく息を吐き、彼はそよ風と共に運ばれてくる喧騒や丘の上に生えている一本の桜の花の香りを楽しんでいた。
「ここに居たんだね、カール」
するとサクサクと芝生を踏みしめる音と共に、一人の少女の声が彼の耳へと届く。
それに反応したメルクリウスは目を開き、声がした方へと視線を向ける。
そこには苦笑いを浮かべたウェンディがメルクリウスを見下ろしていた。
「…………」
「どうしたの?」
しかしメルクリウスはウェンディの言葉に返事をせず、黙って見上げていた。それが気になったウェンディは首を傾げて尋ねる。
するとメルクリウスは―――
「……ふむ、白か。純情可憐な君らしいね」
「え?」
「見えているよ、角度的に」
そう呟いたメルクリウスはいつの間にか手元に持っていた撮影用の
瞬間―――彼が言った言葉の意味を理解したウェンディは瞬時に顔を真っ赤にさせて、民族衣装のスカートを押さえる。
「きゃ……!な、なんで撮ったんですか!?」
「撮らなければならないという使命感に駆られた……とでも言っておこうか」
「と、撮ら……!?カ、カールの変態!!」
「ぶべらっ!」
それに怒ったウェンディは脚線を晒しながら蹴りを放ち、綺麗にメルクリウスの顔面へと突き刺さる。
「―――はっ!?ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
あまりにも綺麗に攻撃が顔面に入った上に、メシャッという生理的によろしくない音を聞いたウェンディはすぐさま我に返ってメルクリウスの心配をする。
対してメルクリウスは先ほどのウェンディの強行をまるで何も無かったかのような表情で答える。
「大丈夫かと聞かれれば大丈夫だが中々に痛かったぞ。これが私でなければ確実に医務室送りだったろう。……しかし、踏み付けておきながらその相手の心配をするとは……相変わらず君は優しいね」
「や、優しい……!?あ、え……う、うぅ〜……」
もはや頭から湯気が上がりそうな程に顔を真っ赤にしたウェンディは恥ずかしさのあまり、ぺたんと芝生に座り込む。
「そ、そんなお世辞はいいから早くその撮った写真を消して!」
「別にお世辞ではないのだがね。ふむ……ウェンディにそう言われると消そうか迷ってしまうが……そうだ、一部の者たちにウェンディの顔を隠して先ほどの写真を提供してみる、というのも一興か」
「お願いだからそれだけはやめてぇ〜!!」
ニヤニヤといやらしく、そして全力でもう一度蹴りを入れてやりたい程ウザい顔で笑うメルクリウスにウェンディは涙目になりながら懇願する。
「ふふ、冗談だ。若い嫁入り前の少女の恥ずかしい姿を他の者に見せてしまう程、私は外道ではないのでね。……まあ、先ほどのは消さないが」
「…………」
「…………」
それを聞いてウェンディの厳しく冷たいジト目がメルクリウスに突き刺さり、一方のメルクリウスもそんなウェンディの目をジッと見返す。
「……カール」
「……何かな?」
「……お願いだから本当に消してほしいな」
「…………」
若干の怒気を浮かべて頼むウェンディにメルクリウスは黙ってウェンディの目を見つめていたが、暫くしてメルクリウスは目を逸らして撮影用
もし今までのやりとりの相手がウェンディでは無く、彼の愛する
ちなみに余談だが、今までのやりとりの相手をウェンディでは無く、女神に変えたら彼がどのような行動を取るのかは想像に容易い。
おそらく女神に見下ろされ、その上中まで見えてしまった彼はその時点で呼吸どころか心臓などの不随意筋までの動きが停止し、さらにそれに怒った女神の罵倒や踏み付けを食らった暁にはきっと「あぁ〜マルグリットあぁ〜」と言いながら、女神の足の下でうねうねくねくねにょろにょろするだろう。
控えめに言って気持ち悪く、はっきり言って死ねばいいのに……と多くの者たちが思ってしまうと予想出来る。
「ところで君は何の用でこちらに来たのかな?何か私に聞きたい事でもあるのかね?」
先ほどの写真を消した証拠として撮影用
「ん〜……それもあるけど……なんか向こうにいたら、他の方たちにお酒とか無理矢理飲まされるかもしれないと思ったから……」
ウェンディはそう答えながら撮影用
「ああ、それでこちらに避難してきたのだね。―――そういえば君の友人であるシャルルは向こうに居るのかね?」
「あ……ううん、向こうには居ないよ。今から十分位前にちょっと席を外すって行ってどっか行っちゃったんだけど……」
「ほう……して、何をしに席を外していたのかな?」
するとメルクリウスは誰かに問い掛けるように声を少し大きくして、ちらりと後ろの桜の木を見る。
そんな彼の行動にウェンディは首を傾げるが―――桜の木の裏側から一匹の白猫がメルクリウスを睨みながら姿を現した事で少し驚いた顔をする。
「シャルル?なんでそこに?」
「大方彼女も君と似たような理由だろう。私に何か聞きたい事があるのだろう?」
「……ええ。やっぱり気付いてたのね、私が後ろに居た事」
「愚問。後ろで果汁100%のジュースを飲みながら耳を澄ませていたのも知っていたよ。先ほどはウェンディをからかってすまなかったね。怒っているだろう?」
「まあね、だけど写真はちゃんと消してくれたみたいだしもういいわ。でも次にウェンディを辱めるような写真を撮ったら許さないわよ?」
「おや、それは恐ろしい。肝に銘じておくとしよう」
シャルルの怒りを柳に風と受け流すメルクリウスはウェンディから返してもらった
それに若干気に入らない感情を抱きながらも、シャルルはウェンディの膝の上に座った。
「では―――何を聞きたいのかな?大抵の事はなんでも答えよう」
「じゃあ単刀直入に聞くけど―――
「…………」
投げかけられた質問は今までシャルルが幾度と無く聞いた質問。しかしそれに含まれている感情や意味は今までのそれとは明らかに違った。
「分かってるとは思うけど、流離い人とか詐欺師って答えは求めてないわ。私は本当のあんたの正体を知りたいの」
「……カール、実は私も同じ事を聞こうと思ってたよ。
真っ直ぐとメルクリウスの目を見つめて問うシャルルとウェンディにメルクリウスは小さく息を吐いた。
「……君たちはどのような願いでも叶えられるシステム、あるいは全能の神になれるシステムというものがこの世に存在している言われたら……信じるかね?」
「どんな願いでも叶えられるって……そんな夢物語信じられるわけないでしょ」
どんな願いでも叶えられる。全能の神になれる―――いきなりそんな女子供が思い描くような話をされて信じる者などほとんど居ないだろう。
「ふむ、確かに私も君たちの立場ならばきっと同じ事を言うだろう。だが―――」
「……まさか……存在、するの?そんなシステムが?」
突然の荒唐無稽な話に少しばかり面食らっているウェンディが聞くと、メルクリウスは頷く。
「……今から遥か古、今よりかなり進んだ科学力を持った世界の人々は渇望という強き願いを流れ出させる事象の中心、宇宙の核とも言える“座”というシステムを生み出した」
「“座”……」
「そのシステムは前言の通り、強き渇望を持ってして坐すれば自らが望む法を流れ出させ、人々にその法を強制、あるいは無意識に順応させる事が出来る。罪深き世を救済したいと願えば人々の内に宿る悪性を完全に排除し、誰もが心身共に満たされた恒久的平和世界―――天道悲想天となり、全てを抱きしめたいと願えばどんなに辛い事があろうといつか必ず幸せになれると言った法―――輪廻転生が流れ出す」
「「…………」」
人々の―――つまりは自分たちの意思や認識すらも変えてしまうという説明を聞き、絶句するウェンディとシャルル。
まあ、それも仕方の無い事で、基本座の支配領域に居る者たちはそのようなシステムの存在を知る事はほぼ無い。座の事について真に詳しく知れるのは強き渇望を抱き、座に到達出来る者―――つまりは覇道神か、あるいは何かしらの方法で座に触れた一部の例外位だろう。
その事を説明した上で、メルクリウスは自分が前者の存在―――覇道神だと二人に伝える。
「―――って事は……カールってもしかして神様なの!?」
「神様“だった”と言った方が正しいがね。私はかつて第四の座―――水銀の蛇として永劫回帰の法を唱え、多くの多元宇宙を支配した。今は次代の第五天へと座を受け渡したがね。―――ああ、別に畏れる必要は無い。今はただありとあらゆる世界を渡り歩く流離い人でしかないからね。それに今までごく普通に話していたというのに、突然畏まられるとこちらも困る」
「「――――――」」
次から次へと明かされる信じられないような事実に、ウェンディとシャルルは完全に言葉を失ってしまう。
「……まあ、神座について詳しく知りたいのならば、それについて書かれている古文書でも探してみるといい。どうやらこの世界にはそう言ったものがあるようだからね」
400年前を生きたローバウルは神座の事を少なからず知っていた。そして神話というのは例え何百、何千年経とうが語り伝えられていくものである。となればそれを纏めた書物なり何なりがこの世界には存在しているだろう。
「さて、では私も少々用事があるのでそろそろお暇させてもらおうかね」
「ま、待って!私たちまだ色々と聞きたい事が……!」
軽く首を鳴らし、立ち去ろうとするメルクリウスにウェンディが声を上げるも―――
「私が今、伝えるべき事は全て伝えた。後は君たちが自らの手で調べるといい。さすれば私もいずれ全てを話そう」
そう告げたメルクリウスは瞬きする間に姿を消してしまった。
「……行っちゃったわね」
「……うん」
後に残ったのは少しばかり困惑した表情を浮かべるウェンディとシャルルの二名。彼女たちは先ほどまでメルクリウスが居た場所を黙って見つめた後、揃って息を吐いた。
「……ねぇ、ウェンディ……。あんたはさっきのクラフトの話、どう思う?」
「……正直、信じられないよ。自分が望んだ願いを流れ出させるシステムなんて……」
「そうね……でも、あの男が嘘を言っているようには見えなかった」
「うん、私もそう思うよ」
座の説明をしている時、メルクリウスはどこか懐かしそうな、自嘲しているような、それでいて真剣な表情をしていた。あれは嘘をつく時の表情では無い。しかし―――
「でも……カール、少し悲しそうな顔をしてたな……」
「そうかしら?あまりいつもと変わらないように見えたわよ?」
ウェンディはメルクリウスがまるで何かに悲憤しているような表情を薄っすらと浮かべているように感じた。
無論、彼が何に対して悲憤しているのかは分からない。それ故にウェンディの内心に少しばかり不安が生まれる。
「話してくれたら少しは楽になるかもしれないのに……私ってそんなに信用されてないのかな……」
自分は彼に対してかなりの信頼を寄せているのに、彼は一切そんな様子を見せてくれない。その現実を認識したウェンディは落ち込んだように息を吐き、自らの首に掛かっているチョーカーを手に取って見つめる。
「……ウェンディ、今日はもう帰って寝ましょう?」
「……うん、そうだね」
そんな彼女の様子をこれ以上見たくなかったのかシャルルがそう提案すると、ウェンディも苦笑いを浮かべながらシャルルを抱いて立ち上がる。
「神座伝説……ね」
「……今度、その本を探してみよっか?」
「そうね……」
二人はそんな事を話しながら、自分たちが住んでいる寮へと戻るべく歩き出した。
―――その間、ウェンディの首から掛けられたチョーカーが、まるで何かを伝えるように淡く蒼い光を発していた事に二人は気付かなかった。
今回のお話、どうでしたでしょうか?ある程度の情報を話して後はそっちで調べろというメルクリウス(笑)
ちなみにビンゴ大会でメルクリウスが当てた茶葉はアブソの方で既に出てきてます(笑)
ウェンディ「それにしてもウザいだけの蓮さんと化したカールって言っておきながら、最後の方に変態要素を入れてるのって……」
書いていて思い付いたのだから仕方ない(笑)というかメルクリウスならあれ位の変態要素は持ち合わせてますし(笑)
ウェンディ「……確かにそうですね……」
ウェンディさん、そんな全てを諦めたような目をしないでください……。
ウェンディ「だってあんなカールを見たら……」
うん、まあ、それは分かりますけどね……(苦笑)
さて、では今回はこの辺で!誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!
ウェンディ「皆さん、今年もよろしくお願いします♪」