FAIRY TAIL 未知を求めし水銀の放浪記   作:ザトラツェニェ

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―――随分長く待たせてしまったな……(大塚明夫風)

はい、すみません。皆さんお久しぶりです。
約八ヶ月ぶりの投稿です。

……半年以上更新してないってもうなんか色々とダメですよね……本当に申し訳ありません。
次回投稿からはなるべく早く投稿するように心がけますのでどうかご容赦を……。

それからもう一つ。
今回もアブソと同時投稿させていただきましたが、それともう一つ別の新しい短編小説も上げさせていただきます。よければ読んでみてください!

では少しばかり内容が物足りないかもしれませんが……どうぞごゆっくりお楽しみください……。



水銀の蛇は追い求めし黒竜の話を聞く

 

花見から数日後―――もはや語るまでもない程賑やかなギルド内にて―――

 

「どお?このギルドにも慣れてきた?」

 

ルーシィは着ていた上着を脱ぎながら、近くのテーブルで本を見ながらノートに何かを書いていた青髪の少女―――ウェンディへと問い掛ける。

 

「あ、はい!」

 

「女子寮があるのは気に入ったわ」

 

それにウェンディは嬉しそうに笑いながら返事し、シャルルは紅茶を飲みながら素っ気なく言う。

実はこのギルド、少し離れた場所に男子禁制の女子寮が存在するのだ。そこにはルーシィや一部の妖精の尻尾(フェアリーテイル)女性魔導士を除く全ての女性魔導士たちが住んでいる。

 

「そういえばルーシィさんは何で寮じゃないんですか?」

 

「実は女子寮の存在、最近知ったのよ。―――てか寮の家賃て10万Jよね……もし入ってたら払えなかったわ、今頃……」

 

「あ、あはは……」

 

ルーシィはそこそこ多く仕事に行くものの、同じチームとして組んでいる仲間(主にナツやグレイ)がよく物などを壊し、報酬額を幾分か減らされる事が多々ある。

そのせいで彼女は現在住んでいるアパートの家賃7万Jさえ払うのに苦労している。

そんな裏事情をついこの間、花見の日に知ったウェンディは思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「そういえばウェンディは家賃大丈夫なの?10万Jって結構なお金だけど……」

 

すると今度はルーシィがウェンディにそんな事を問い掛ける。

確かに12歳の少女が月10万Jという大金を払うというのは中々に苦しいものがあるだろう。

するとウェンディは少し困ったような顔で苦笑いしながら答える。

 

「あはは……確かに10万Jっていう大金、今の私じゃ払えないんですよね……でも今月の家賃はカールが全額出してくれたんですよ」

 

「えっ、クラフトが?」

 

「ええ、どうやら昔の仕事で稼いだお金があるらしくてね。確か二ヶ月分位の家賃なら代わりに払ってやっても構わないとか言ってたわよ?あまりお金も使わないらしいし」

 

「二ヶ月分の家賃!?」

 

ちなみにそのお金とはメルクリウスが今から七年前に占いで稼いだお金である。

 

「私も最初は自分で払うからそこまでしなくてもいいって言ったんですけど……今月だけはどうしようもなくて払ってもらっちゃいました……。でも来月からは私がちゃんと全額払うつもりです。やっぱり自分で稼いだお金で払ったり、貯金したりしないといけませんからね」

 

「うん、まあ、それはね……でも家賃二ヶ月分かぁ……」

 

今月のウェンディの家賃事情を聞いたルーシィは何処か遠い目をしていた。おそらく家賃二ヶ月分(計20万J)をその場で支払えると言ったメルクリウスに何かしら思うものがあるのだろう。

もしかしたら何か家賃が払えない事情が起きたら、最終手段として払ってもらおうかとでも考えているのかもしれない。

 

「それにしてもクラフトって本当謎よね。それだけの大金を持っているのに放浪の旅をしてるなんて……」

 

「放浪するのが好きなんでしょ」

 

何気無く呟いたルーシィの一言にシャルルは即座にそう切り返し、そう離れていない場所でレビィと向かい合って何かをしている件の男を見る。

 

 

 

 

 

「―――チェックメイト」

 

「うわ……また負けちゃった……」

 

件の男―――メルクリウスがテーブルの上に広げたチェス盤に駒を置くと、レビィは少し悔しそうな表情となる。

 

「あ〜あ……今度こそ勝てると思ったのになぁ……」

 

「ふむ、確かに今回は中々悪くない手だった。並の者ならば敗北していただろうが、その程度の戦略では私に勝つ事など出来んよ」

 

相手の白いキングを片手で弄りながらニヤリと笑みを浮かべるメルクリウスにレビィは苦笑いを浮かべる。

 

「本当にクラフト強過ぎ……三回連続でやっても勝てなかった事なんて今まで無かったんだけどなぁ」

 

「自慢ではないが生憎とチェスだけは得意でね。今まで私にチェスで勝った者など片手で数える程しか居ない」

 

「片手で数える程って……すごいなぁ。クラフトもクラフトに勝ったその人たちも」

 

そんな会話をする二人にルーシィとウェンディ、シャルルも混じる。

 

「へぇー……クラフトってレビィちゃんに連勝しちゃう位、チェス強いのね」

 

「昔から時間だけは持て余す程あったのでね。暇な時を見つけてやっているうちに、ここまでの腕になってしまったのだよ」

 

「そういえばカールって、七年前もジェラールとたまにチェスやってたよね」

 

「ああ、彼も中々良い手を打ってきたものだよ。いずれにしろ私を下した事は一度も無かったが」

 

「ちなみにレビィ、あんたってチェス強いの?」

 

そう問い掛けるシャルルにルーシィが答える。

 

「強いと思うわよ。私が知っている限りだけど、今までレビィちゃんに勝ったのはクラフトが初めてなんじゃない?」

 

「いやいや、私そこまで強くないって。ルーちゃんが知らないだけでフリードとかに負けた事もあるし……少し前にはミラさんとやって負けたよ?」

 

「ほう、二人とも強いのかね?」

 

「うん。フリードは術式魔法を使うから、チェスみたいな戦略を考えるゲームとか得意だし、ミラさんはなんて言うか……先が読めない手ばかり打ってくるんだよね……」

 

「なるほど……いずれその二人とも一局指してみるとしようか。ふふふ……」

 

「え、えっと……カール?」

 

「なんか次の標的を定めたみたいね……」

 

レビィの説明にメルクリウスが怪しくニヤニヤと笑う。そんな彼にウェンディは恐る恐る声を掛け、シャルルは呆れたように首を振った。

とそこで突然、メルクリウスは何かを思い出したかのように表情を変え、ウェンディへと向き直った。

 

「―――おっと、ところで話は変わるがウェンディ、私が出した例の問題は解けたのかな?」

 

「あっ、うん!なんとか解けたけど……合ってるかな?」

 

「どれ―――」

 

そう言ってウェンディは先ほど何かを書いていたノートをメルクリウスへと手渡し、メルクリウスはそれに目を通し始めた。

 

「そういえばさっきからずっと気になってたんだけど、何を書き込んでたの?」

 

「あ、えっと……カールの出した魔法数式の問題を解いてたんです」

 

「魔法数式……?」

 

「―――ふむ、中々にいい所まで解けているが……少し惜しいな」

 

「えっ?どこか間違ってるの?」

 

「……ウェンディ、ここの式が違うわ。正確には多分―――こうじゃないかしら?」

 

そう言ってシャルルがウェンディの書いた数式の一部を書き換える。それを見てウェンディは「あっ……」と声を上げ、メルクリウスは笑みを深めた。

 

「正解だ、シャルル嬢。よく分かったね」

 

「ここ数十日でウェンディにあれこれ教えてるあんたの話を聞いていたら、これくらいは分かるようになるわよ」

 

そう返したシャルルは続いてノートの新しいページに新しい魔法数式を書いて、それをウェンディに手渡した。

 

「それじゃ、次はこれを解いてみなさい。さっきのよりは簡単だからすぐ出来る筈よ」

 

「う、うん!」

 

((……一体どんな問題解いてるんだろう……?))

 

それがふと気になったルーシィとレビィはウェンディの後ろへと回り、ノートを覗き込む。―――そして僅か5秒程で二人は唖然とした表情となる。

 

「うわ、何この見るだけで嫌になる難解な数式……」

 

「……何書いてるのかさっぱり分からないね」

 

ノートには普通の者にはさっぱり理解出来ない複雑な数式がびっしりと書かれており、どこからどう見てもかなり高等な魔法数式だと理解出来る。それと同時にこれをなんとかして書いたウェンディと、ウェンディの間違いを指摘した上に問題の解き方を完全に理解しているシャルルとメルクリウスに二人は感嘆する。

 

「……でもなんで魔法数式の問題なんてやってるの?」

 

「実はニルヴァーナの件が収束し、ここに来て少し経った頃にウェンディから仕事の合間に魔法を教えてほしいと頼まれてね。承諾した私はまず最初に基礎中の基礎となる魔法数式について教える事にしたのだよ。自分の使用している魔法の式を深く理解していれば、攻撃魔法の威力や補助魔法の効果も高まるだろうしね」

 

「へぇ〜……なら私も精霊魔法の数式を覚えれば、もっと強くなったりするのかしら?」

 

「無論。しかし精霊魔法の数式は、この世に存在する魔法数式の中で最上位に位置する程複雑で難解だがね。例えば―――これは宝瓶宮の扉、アクエリアスを呼び出す際の魔法式だが……」

 

メルクリウスは紙にさらさらと魔法数式を書き、ルーシィへと手渡した。

手渡された魔法数式はウェンディがやっている魔法数式よりも複雑で、それを見たルーシィはすぐに頭を押さえて呟く。

 

「……やっぱり覚えるのやめようかしら」

 

「構わぬよ、それは君自身が決める事だからね」

 

そんなたわいもない会話をしながら、メルクリウスはミラの所にでも行って何か飲み物でも飲もうかと立ち上がろうとする。その刹那―――

 

 

 

 

 

 

「大変だーーーーっ!!!」

 

突然ギルドの入り口から一人の男が血相を変えて飛び込んでくる。それと同時に妖精の尻尾(フェアリーテイル)》最上に位置する鐘が、普段あまり聞かないリズムで鳴り始めた。

 

 

 

ゴーン……ゴゴーン……ゴーン……ゴゴーン……

 

 

 

「この鳴らし方は……!!」

 

「あい!」

 

「おおっ!」

 

「まさか!!」

 

鐘の音はマグノリア全域に響き渡り、その鳴らし方に聞き覚えのあるギルドの面々は嬉しそうに、そして街の人々は困惑しているかのようにざわめき始める。

 

「何!?」

 

「この鐘の音は……?」

 

「……この鳴らし方、もしや……」

 

一方、このギルドに入ったばかりのルーシィやウェンディ、シャルルやジュビアは何事かと首を傾げ、メルクリウスは以前ギルドに保管されていたマグノリアの歴史書に記されていたこの鳴らし方の意味を思い出していた。

 

「あんた、何か知ってるの?」

 

「ああ、この鳴らし方は確かある魔導士がこの街へと帰ってきた際に鳴らすものだ」

 

その魔導士とは妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の魔導士と呼ばれる程の実力者であり、一つの大きな街に住む者たちが揃って警戒する程の危険な魔法を使用する者である。

その者の名は―――

 

「ギルダーツが帰ってきたァ!!」

 

「あいさー!!」

 

『オオオオオオッッ!!!』

 

一際嬉しそうなナツの声を皮切りに、ギルド内の者たちは揃っていつも以上に騒ぎ出す。

 

「ギルダーツ?」

 

「私も会った事無いんだけど……妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の魔導士なんだって……」

 

「うわぁ!」

 

「それはいいけど、この騒ぎよう何!?」

 

「お祭りみたいだね、シャルル」

 

「ホント騒がしいギルドね」

 

「……ミラ嬢、一つ聞いても構わないだろうか」

 

ルーシィやウェンディ、シャルルがそんなやり取りをしているのを尻目にメルクリウスは近くに来ていたミラへと問い掛ける。

 

「ん?何かしら?」

 

「確かギルダーツ殿は三年前に100年クエストに向かった筈ではなかったかね?」

 

「あら、よく知ってるわね。その通りよ」

 

「「100年クエスト!?」」

 

さらりとメルクリウスの口から出た単語にルーシィとウェンディが驚く。そんな二人へ補足するようにミラが説明を始めた。

 

「そう、クエストには五つのランクみたいなものがあるのよ。まずは魔導士なら実力を問わずに誰でも受けられる普通のクエスト―――あそこのボードに貼ってあるクエストね。あれが五つのランクの中で一番下なの」

 

「そしてそれより一段階上にあるのがS級クエスト……エルザ嬢などの限られた実力者しか受けられないクエストだったね」

 

「ええ、そしてその上にSS級クエストってのがあるんだけど、そのさらに上に10年クエストって仕事があるの」

 

10年間、誰も達成した者が居ない高難易度かつ達成困難なクエスト―――故に10年クエスト。

 

「ギルダーツはそのさらに上―――五つのランクの中で最も難易度が高くてすごく危険な100年クエストに行ってたのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「100年クエスト……」

 

「それって100年間……誰も達成出来なかった仕事って事ですよね……!?」

 

「そういう事だ。最も私の知る限り、現在まで100年クエストを受ける資格有りと判断された魔導士など片手で数える程度しか居ないがね」

 

私は驚愕しているルーシィやウェンディにそう説明しながら、他の人が頼んだまま手の付けていない飲み物を盗み飲む。

100年クエスト―――それはこの世界の秩序を保つ為に法を定めている評議院から依頼される最高難易度かつ達成不可能と思えてしまうようなクエストの事である。

ちなみに100年クエストを受ける為には、満たさなければならない条件が幾つかあるのだが、その中で一番重要なのはやはりクエストを受ける魔導士の実力だろう。少なくともこのギルドのマスター、マカロフや蛇姫の鱗(ラミアスケイル)に属するジュラなどの聖十大魔道以上の実力―――もっと言えば聖十大魔道序列上位四人と対等に戦えるか僅かでも抗える程度の実力が無ければならないと思われる。

 

「そ、そうなんだ……。ギルダーツさんってどんな人なんだろね、シャルル」

 

「さあ?ものすごく怖い人だったりして」

 

「ふむ、それもありえない話ではないな」

 

「ええっ!?」

 

シャルルの冗談に同意するとウェンディが若干怖がる。まあ最も、ギルドの面々がこれだけ嬉々として騒いでいる様子を見ればその可能性は無いと思われるのだが。

 

『マグノリアをギルダーツシフトへ変えます。マグノリアをギルダーツシフトへ変えます。町民の皆さんは速やかに所定の位置へ移動してください。繰り返します―――』

 

そんな事を考えていると、ギルドの正面入り口から随分と緊迫した雰囲気のアナウンスと町民たちの悲鳴にも似た声が聞こえてくる。

 

「こ、これから何が始まるんですか!?」

 

「それは外を見てみれば分かるわよ」

 

そうミラが答え、皆が揃って外へと視線を向けた直後、マグノリアの街全体が大きな地鳴りを伴って揺れ始める。それと同時にギルド前の大通りがゆっくりと左右に開き、その下から新たな道が現れる。

そしてその揺れが収まる頃には妖精の尻尾(フェアリーテイル)と街の郊外を結ぶ長い一本道が出来上がっていた。

 

「う、うそ……街が……割れたーーーーっ!!!」

 

「これが噂に聞くギルダーツシフトかね」

 

「ええ、ギルダーツは触れたものを粉々にする《粉砕(クラッシュ)》って魔法を使うんだけど、ボーッとしてると民家も突き破って歩いてきちゃうの」

 

「どんだけバカなの!!?てかその為だけに街をこんな風に改造したの!?」

 

「すごいねシャルル!」

 

「ええ……すごいバカ……」

 

聞けば彼はよくボーッとする癖があるらしく、こうでもしなければ街中の建物を大量に破壊してしまうそうだ。さらにはその癖と魔法のせいで村一つをうっかり滅ぼしてしまった事もあるとの事。

 

「うっかりで村一つを滅ぼしたって……もう何も言えなくなる位バカね……」

 

シャルルの言い分には同意せざるを得ないな。だが世の中には人の勇気見たさに“つい”で世界を滅ぼそうとした者も居るという。そちらの方が余程の馬鹿ではないだろうか。

とまあそのようなどうでもよい事を考えている間に、ギルドへと続く一本道をゆっくりと歩いてくる者の姿が徐々に明らかとなっていく。

そして―――

 

「ふぅ……」

 

ギルドの入り口に立った茶髪の男はまるでようやく帰ってきたとでも言うように深く溜息をした。

 

(ほう……この男がギルダーツか)

 

なんとも力強い魔力を持つ男だ。確かにこれ程の力を持っているのならば、このギルド最強と呼んでも差し支えない。

……だが少々、この男の体から違和感を感じるな。左手と左足辺りから本来感じられる筈の生気が感じられない。

 

「おかえりなさい、ギルダーツ」

 

「む……お嬢さん、確かこの辺りに妖精の尻尾(フェアリーテイル)ってギルドがあった筈なんだが……」

 

「ここよ。それに私、ミラジェーン」

 

「ミラ?お、おお!?随分変わったなァオマエ!!つーかギルド新しくなったのかよーーっ!!」

 

「外観じゃ気付かないんだ……」

 

ギルダーツは先ほどの雰囲気から一変、とても驚いたようにギルドの中を見回し始める。

そんな彼に向かって走る者が一人。

 

「ギルダーツ!!俺と勝負しろォォーーー!!!」

 

「いきなりソレかよ」

 

「おおっ?ナツか!!久しぶりだなァ」

 

懐かしそうに笑みを浮かべるギルダーツへと問答無用で飛び掛かるナツ。相変わらずこの男は……と内心呆れるものの、標的にされた男は慣れたように笑う。

 

「俺と勝負しろって言ってんだろー!!」

 

「ははっ、相変わらずだなオマエは。―――でもまた今度な」

 

「ごぱっ」

 

そして彼は突っ込んできたナツを右手で適当に放り投げ、天井へめり込ませた。

その光景にルーシィとウェンディは驚愕のあまり言葉を失い、他のメンバーたちはやっぱりといった感じで笑う。

 

「あんたも変わってねぇな、オッサン」

 

「まさに漢の中の漢!」

 

「お、グレイにエルフマンか!!オマエらも久しぶりだなァ!元気にしてたか?」

 

「「おう!」」

 

「そうか、そいつは良かった。―――にしても暫く見ないうちにだいぶ変わったなァ。見ねぇ顔も増えてるし……」

 

「ギルダーツ」

 

すると今まで黙ってカウンターの上に座っていたマカロフが口を開く。

 

「おおっ!マスターも居たのか!!久しぶりーーー!!!」

 

「うむ、主も元気そうで良かったわい。それで―――仕事の方はどうじゃった?」

 

マカロフが問うと、ギルダーツは笑いながら報告する。

 

 

 

 

「ダメだ、俺じゃ無理だわ」

 

 

『何!?』

 

「嘘だろ!?」

 

「ギルダーツが失敗……?」

 

(ほう……)

 

彼―――ギルダーツはこのフィオーレ地方において最強の魔導士と噂される程の男だと聞いた。そんな男ですらも達成出来なかった100年クエストとは……一体どのような内容の仕事なのだろうか。

 

「そうか……主でも無理か……」

 

「スマネェ、名を汚しちまったな」

 

「……いや、無事に帰ってきただけでよいわ。ワシが知る限り、このクエストから帰ってきたのは主が初めてじゃ」

 

「ふぅ〜……とりあえず俺は休みてぇから帰るわ。疲れた疲れた……」

 

そう言い、ギルダーツはギルドの扉へ向けて足を進める。その際に彼は何かを思い出したかのように声を上げた。

 

「そうだ、ナツ。後で俺ん家来い。土産があるぞ〜」

 

「おおっ!土産って何だ!?」

 

「そいつァ来てからのお楽しみって奴さ。んじゃ―――」

 

「おっと、その前に一つよろしいだろうかギルダーツ殿」

 

私はギルドの壁を壊して、最短距離で帰ろうとしているギルダーツへと声を掛けた。すると彼は私の事を興味深そうに見つめてくる。

 

「む……あんたは?」

 

「カール・クラフト。つい先日このギルドに入ったばかりの若輩者だよ」

 

「へぇ……先日入ったばかりとは驚いた。俺は……まあ知ってるみたいだから名乗る必要はねぇか。で、なんだ?」

 

「いやなに、かの100年クエストから初めて生還してきた貴方から色々と話を聞きたいと思ってね。それに()()()()に関しても少々気になる所があるのだよ。そういうわけで、私もナツ殿と共に貴方の家を訪ねてもよろしいだろうか?」

 

「…………ああ、いいだろう。俺もあんたにたった今、聞きたい事が出来たからな」

 

そう答えたギルダーツはギルドの壁を粉砕して出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギルダーツの土産か〜。珍しい外国の“炎”とかかなぁ?」

 

「珍しい“炎”って何よ……。もしかしたら食べ物とかじゃない?」

 

「……何言ってんだルーシィ、“炎”も食いもんだろ?」

 

「それはあんただけでしょうがっ!!」

 

「じゃあ珍しいお魚とかかなぁ?何だろうね」

 

ギルダーツさんがギルドの壁を壊して出ていってから数分後、私はナツさん、ルーシィさん、ハッピーにシャルル、そしてカールと一緒にギルダーツさんの家へと向かっていました。

 

「全く……ナツとオスネコはまだしもなんで私やウェンディ、ルーシィまで行かなきゃいけないのよ」

 

「ちょっとシャルル……」

 

前を歩く3人のやり取りを呆れたように見ながら呟くシャルルに、私の隣を歩いているカールが答えました。

 

「仕方ないだろう。君たちとルーシィ嬢はギルダーツ殿に挨拶していないのだからね。新参が古参に挨拶をしにいくなど当然の事であり、これから世話になるかもしれない人物に挨拶しに行かないというのはいささか失礼だとは思わないかね?」

 

「……それもそうね……」

 

確かにカールの言う通り、私たちが今後ギルダーツさんに何かしらお世話になる可能性は否定出来ません。そもそもお世話になるならない以前として、私たちよりずっと長く妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属している方に、初めましても言いに行かないのは常識としてどうかなと思います。

シャルルもそれは思ったようで、静かに頷きました。

 

「ま、これからあの男に世話になる事があるかどうかなんて分からないけどね」

 

「それでもある程度関係を持っておいて損は無いだろう。いざという時に頼れる存在というのはとても大切だからな」

 

「頼れる存在、かぁ……」

 

そう呟いた私の視線は、自然とカールとシャルルの方に向いてしまいます。

 

「―――む、どうかしたかね?」

 

「あ、ううん。何でもないよ」

 

……私にとって一番頼りになる存在―――それが一体誰なのかと聞かれればなんて答えるか、皆さんなら分かりますよね。

 

「ならいいが、余所見などしていると転んでしまうよ。君は何かと転ぶ事が多いからね」

 

―――カールは私なんかよりずっと魔法とか強くて、私が知らない事もいっぱい知ってて……七年前からいつも私の事を気に掛けてくれる優しい大切な人。

 

「そうね、あんたはなんにも無い所で転んだりするんだから……」

 

―――そしてシャルルは私よりもしっかりしてて、カールやジェラールが居なくなって悲しんでた私を元気付けてくれたり、どんな時でも側に居てくれた大切な友達……。

2人は私にとってかけがえのないとても大切な存在です。

 

(……はぁ……私って2人に頼り過ぎだなぁ……)

 

だからこそ私はそんな2人に甘えている自分自身に内心溜息が出ます。他者に頼る事自体悪くないのはカールにも言われたし、私自身も分かってはいるけど……いつまでも2人に甘えてたら、いざ私一人で何かをしなきゃいけないってなった時に大変な事になるかもしれません。

 

(……私ももっと強くなって、いざって時に皆さんを助けられるようにならなきゃ……!)

 

「……それはそうとクラフト、少しあんたに聞きたい事があるんだけど」

 

私が心の中でそう決意を固めていると、シャルルがカールに質問をしました。

 

「ふむ、何かね?」

 

「……ギルドであの男(ギルダーツ)とあんたが話していた内容について、一つ気になる事があったのよ」

 

「……それは私が彼と話したいと思った理由について、かな?」

 

そう問われたシャルルは小さく息を吐いて続けます。

 

「ええ。あんたが彼から100年クエストの話を聞きたいっていうのは分かるわ。今まで誰一人として帰ってこなかったクエストから生還してきたらしいもの、そう思うのは納得出来る。でももう一つの理由―――()()()について気になる事ってなんなのよ?」

 

「あ、それ私も気になってたよ」

 

カールはギルダーツさんの体について何か感じたみたいですが、私たちは何も感じませんでした。だから何が気になるのか聞いてみたかったんですが……。

 

「ふむ―――まあ、それは本人に聞くのがよかろう」

 

そう言ったカールの視線の先には少し小さくてボロボロの家があり、ナツさんやハッピーさんはその家の扉を開けて中へと入って行きました。ここがギルダーツさんのお家みたいですね。

 

 

 

 

「よォ」

 

「お邪魔します」

 

「来たかナツ、ハッピー。それにクラフトと……そちらのお嬢さん方は?」

 

お家に入って早々、ギルダーツさんはナツさんやカールの後ろから入ってきた私たちを見て首を傾げました。

 

「彼女たちは私と同じく、ここ最近ギルドに入ったばかりの新顔でね。他にも後数名程居るが、とりあえず今回はナツ殿たちと親しい面々を連れてきた次第だ。さて、ルーシィ嬢―――」

 

「あ……は、初めまして!私はルーシィ・ハートフィリアって言います!ナツとハッピーに誘われて妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りました!」

 

「ほお、ナツとハッピーに誘われてね……。んで、そっちの嬢ちゃんは?」

 

「は、はい!私はウェンディ・マーベルって言います!私はエルザさんに誘われてこのギルドに入りました。そしてこっちは一緒に入った私の友達で―――ほらシャルル、挨拶して?」

 

「……ふん」

 

「おやおや」

 

「ちょっとシャルル……!」

 

「ははっ、随分と気難しい性格の子が入ったもんだなァ。別に気にすんな、嬢ちゃん。俺はこういう子の態度にも慣れてるからな」

 

あまりにも失礼な態度のシャルルに私は思わず声を上げようとしましたが、ギルダーツさんは豪快に笑い飛ばして許してくれました。

 

(初めて見た時はとても怖い人かもって思ったけど……)

 

話してみると思っていたより気さくそうな人で安心しました。危険な魔法を使うって話もあったので、ちょっと怖いなとも思ってたんですが……。

 

(お家の中もそんなに変なものもなさそうだし……)

 

ギルダーツさんのお家の中は三年も留守にしていたからか、埃がたくさんたまっていたり、観賞植物が枯れてたり、壁に穴があいていたり、蜘蛛の巣が張ってたりしてますが、見る限り何か変なものが置いてあったりはしてません。

 

『……ウェンディ、何か変なものが無いかと気になる気持ちは理解出来なくはないが、少しばかり失礼ではないかな?』

 

『っ!う、うん……』

 

そんな事を思っていると、カールに小声で注意されました。確かに初対面の人の家をちょっと警戒するように見回すのは失礼でしたね……。

でもギルダーツさんはそんな私たちの様子に気が付く事も無く、話を続けます。

 

「……そういや話は変わるがナツ……オマエ、リサーナとはうまくやってんのか?ん?」

 

「……はぁ?」

 

「はぁ?って……な〜に照れてんだナツぅ」

 

「――――――」

 

そうギルダーツさんが言った瞬間、ナツさんとハッピーの雰囲気が少しだけ変わり、カールも小さく溜息を吐きながら目を瞑りました。

一体どうしたんだろう―――そう思った私の考えは、ナツさんの言葉で強制的に中断させられました。

 

 

 

「……リサーナは死んだよ。2年前に」

 

『っ!?』

 

「なっ……マ、マジかよ……。そっか……それでミラの奴……うおお……スマネェ、ナツ」

 

ナツさんの言った言葉に目を見開いて驚き、申し訳なさそうに頭を下げるギルダーツさん。そんなギルダーツさんを見ながら、私はさっきナツさんが言った言葉を思い返していました。

 

(リサーナさんって誰の事だろう……?見た事も聞いた事も無い名前だけど……)

 

『……ちょっとクラフト、あんた呆れた感じで溜息吐いたけど何か知ってるの?リサーナって誰なのよ?』

 

『……リサーナ・ストラウス。ミラ嬢とエルフマン殿の妹であり、ナツ殿とは幼馴染のような間柄だったとミラ嬢から聞いている。……彼女は2年前、仕事中にある理由で暴走したエルフマン殿を止めようとして命を落としたそうだ』

 

『…………』

 

……言葉が出ませんでした。2年前にそんな出来事があったなんて……。

 

『しかし随分と綺麗に地雷を踏み抜いたものだな……』

 

……3年間仕事に行っていたから知らなかったとはいえ、仲間をとても思いやるギルドの皆さんにとって深い傷になったと思われるリサーナさんの死……。

そんな話題を出されたからか、ナツさんは明らかに不機嫌な顔を浮かべて立ち去ろうとします。

 

「……そんな話ならオレは帰んぞ」

 

「ちょっとナツ!」

 

「ナツさん!」

 

「ナツってば」

 

「…………」

 

背を向けて苛立ったように呟くナツさんを引き止めようと、私たちは声を掛けますが―――

 

 

 

 

「ナツ……仕事先でドラゴンに会った」

 

『!!!』

 

とても真剣な声色で呟いたギルダーツさんの言葉にナツさんは振り返り、私たちもまたギルダーツさんを見ます。

 

「ナツが探してる赤い奴じゃねぇとは思うがな……。俺が見たのは黒いドラゴンだった」

 

「黒い……ドラゴン!?」

 

「……ギルダーツ殿、そのドラゴンとはどこで?」

 

「霊峰ゾニア―――そのお陰で仕事は失敗しちまったよ」

 

「っ!」

 

場所を聞いたナツさんはギルダーツさんの家から飛び出そうとしましたが……。

 

「行ってどうするのかね、ナツ殿」

 

「決まってんだろ!!イグニールの居場所聞くんだ!!」

 

「もう居ねぇよ、あの黒竜は大陸……あるいは世界中を飛び回っている」

 

「それでも何か手がかりがあるかもしれねぇっ!!行くぞウェンディ!!もしかしたらグランディーネの手がかりもあるかもしれねぇっ!!」

 

「えっ!?ナ、ナツさん!?」

 

叫ぶナツさんに手を掴まれ、私は状況を整理出来ないまま連れて行かれます。

 

 

 

「ナツ……これを見ろ」

 

そんな私たちを引き止めるように声を掛けたギルダーツさんは、今まで体全体を覆っていたマントを外して体を晒し―――私たちはそれを見て言葉を失いました。

 

『――――――』

 

「……ふむ、やはりそういう事だったか」

 

マントの下から現れたのは筋骨隆々としたギルダーツさんの体……。

でもそれは右半身だけで、左半身の方は多くの包帯が巻かれ、左腕と左足の部分は金属性の義手義足になっているという見ているだけで痛ましいと思ってしまう姿でした。

 

「貴方の左半身から一切生気を感じなかった事について甚だ疑問に思っていたのだが……先の話で合点がいった」

 

「ああ……ほとんど一瞬の出来事だった。俺の魔法は奴に一切効いた様子も無く……左腕と左足、内臓も幾つか持っていかれた。……あの後奴が興味を失って飛び去り、死にかけていた俺を評議員の役員が見つけてくれなかったら……俺は今、ここには居なかっただろう」

 

『――――――』

 

―――あまりにも突然の話に、私たちは一言も言葉を発する事が出来ません。

ギルダーツさんはそんな私たちを一瞥しながら、マントを再び着直しました。

 

「……イグニールって奴はどうだか俺は知らねぇ。だがあの黒い竜は間違い無く人類の敵だ。そして……人間はあれに勝てない」

 

「そ……それを倒すのがオレたち……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だろ!!オレの魔法があれば……黒い竜だって……!」

 

「……本気でそう思ってんのなら止めはしねぇよ。だが、あれは並大抵の実力じゃあ傷を付ける事すら出来ない。それは覚えておけ」

 

「っ……!くっそおおおっ!!」

 

「ちょっとナツ!どこ行くのよ!」

 

「ナツ!!ルーシィ!!」

 

雄叫びを上げながら、飛び出して行くナツさん。それを追いかけようとルーシィさんもまた家を飛び出し、ハッピーもその後を追いかけようとした瞬間―――

 

「ハッピー……お前がナツを支えてやれ。アレは人間じゃ勝てねぇが、ドラゴンなら勝てるかもしれん」

 

「―――あい!」

 

そしてハッピーも家を飛び出し、私たちもまた後を追おうとしますが……。

 

「……ところでクラフト、お前なんだか色々知ってる風に話していたが……例の黒い竜について知ってるのか?」

 

「無論」

 

カールはどこからか取り出した一冊の本を見せてきました。

 

「それはこれまで数多の国の歴史書や、黙示録にも恐るべき存在として記されている伝説の黒き竜―――アクノロギアだろう」

 

「アクノ……ロギア……?」

 

「……やっぱりそうか……」

 

そう言いながら、カールは私とシャルルへ手に持っていた本を開きながら渡してきました。

その開かれたページには禍々しい模様の黒い竜が書かれている絵と、それについての文章が書かれていました。

 

「……その者、闇の翼と呼ばれ、数多の国々を滅ぼした時代の終わりを告げる漆黒の竜なり……」

 

「その竜、強靭な四脚を振り下ろせば大地に無数の亀裂を入れ、荒れ狂う咆哮を轟かせばいかなる堅牢な城壁をも粉々に打ち砕き、全てを無に帰す天からの息吹は国を瞬く間に灰燼とする……。な、なんなのこれ……ドラゴンがこんな事をするなんて……」

 

「意外かね?まあ、私に言わせれば人間を育てたドラゴンが居たという事の方が余程意外だがね。本来ドラゴンというのは人々に対して猛威を振るった恐るべき敵なのだから……」

 

「君たち……って事はそこの嬢ちゃんもまさか……?」

 

「然り、彼女もまたドラゴンに育てられた滅竜魔導士だ」

 

「っ……!そ、そうなのか……。……すまねぇウェンディ、ドラゴンに育てられたってのにこんなショックな話聞かせちまって……」

 

「あ……いえ、その……だ、大丈夫ですよ?」

 

頭を下げるギルダーツさんに私は苦笑いを浮かべます。確かにちょっと衝撃的なお話でしたけど……。

 

「ふむ……しかし残念だな。個人的には一度例の黒竜と対面し、一戦交えてみるのも一興かと思ったのだが……」

 

「やめとけ、さっきも言ったがあれは人間が敵う相手じゃねぇ。あれを下せるとしたらドラゴンか、それこそ神様位しか出来ねぇだろうよ」

 

「「…………」」

 

ギルダーツさんはそう言って、「まあ、神様なんて居るわけねーが」と豪快に笑い飛ばしていましたが……私とシャルルの視線は隣で「そうかもしれないな」と笑っているカールの方に向いていました。

 

(神様、かぁ……って事はもしかしたら覇道神(カール)だったらそのアクノロギアってドラゴンも……)

 

「―――さて、では私たちはそろそろお暇するとしようかね。ギルダーツ殿、実に興味深く愉快な話を聞かせてもらった。改めて礼を言わせてもらおう」

 

「ははっ、こっちこそ色々と面白い話を聞く事が出来て有意義な時間だった。今度またゆっくり酒でも飲みながら話そうや」

 

「おや、それはそれは……喜んで付き合わせてもらうとしよう。では―――行こうか、ウェンディ」

 

「あ……うん!―――ギルダーツさん!私も色々とお話が聞けてよかったです!ありがとうございました!」

 

「そうか、そいつはよかった。また何か聞きたい事が出来たら遠慮無く聞いてくれ。そっちのシャルルもな」

 

「……ええ」

 

そうして私たちは揃ってギルダーツさんの家を後にしました。

 

 

 

 

そしてギルドに戻る帰り道―――

 

「……ねぇ、カール。一つ聞いてもいいかな?」

 

ギルダーツさんの家を出てから私たちは暫く黙って歩いていましたが、私がそう言うとカールは視線をこっちに向けて続きを促してきました。

 

「さっきの黒いドラゴンの話を聞いてて思ったんだけど……ギルダーツさんはその……アクノロギア?ってドラゴンを倒せるのはドラゴンか神様位じゃないかって言ってたよね?」

 

「然り、それは強ち間違いでは無いだろう。実際私は今までドラゴンについて書かれた書物を多く読み漁ってきたがドラゴンには基本的に同族の攻撃か、滅竜魔法以外の魔法はほとんど効かないらしいからね。無論例外もあると言えばあるが……」

 

カールによるとドラゴンを滅竜魔法以外で倒すには最低でも超絶時空破壊魔法―――つまりエーテリオンの何百倍も威力がある魔法じゃないと倒す事はほぼ不可能だとか……。

 

「とはいえ、そのような威力を持つこの世界の魔法など私は聞いた事もないがね。それに滅竜魔法もドラゴンフォースなどの力を発動させない限り、焼け石に水程度の攻撃力しかないようだ」

 

「ふ〜ん……ドラゴンってそんなに頑丈なのね」

 

「太古の昔から生態系の頂点に立っていたという存在だからな」

 

「……じゃあ、もしその黒いドラゴンと、神様―――つまりカールみたいな覇道神が戦ったら……どうなるの?」

 

「余程の不確定要素が起きない限り、我らの勝利で終わるだろうな」

 

そうはっきりと断言したカールはまるで授業を教える先生のように説明を始めました。

 

「まず初めに、我々覇道神は基本的に他の神以外の攻撃で傷付く事などほとんど無い。例えエーテリオンを食らおうと、例の黒竜のブレスを食らおうとね」

 

その説明を聞いて、以前の宴会の際の事が頭の中を過ぎります。あの時私はカールの顔を思いっきり踏んでしまいましたが、カールの顔は少しも変形していませんでした。

内心ちょっと気になった事だったんですが、同格以上の存在じゃないと傷付けられないという事なら納得です。

 

「そもそも例の黒竜は精々この一世界を破壊する程度の力しか持っていないようだしね。我らと対等に争うとするならば、その程度の力では話にならんよ」

 

カール曰く、今の覇道神たちと戦うとしたら最低でも複数の多元宇宙を簡単に滅ぼせる程の攻撃力と、それらの攻撃に耐えられる防御力、そして何よりも強い渇望が無ければ互角に渡り合う事も出来ないみたいです。

 

「渇望、かぁ……ちなみにカールが神様になる位強く願った渇望ってなんなの?」

 

「私かね?私はただ自分が望む至高の結末以外は認めないと願っただけだよ。ああ嫌だ、認めない、私はこのような終わり(結末)など許さない―――とね」

 

望んだ終わり方以外認めない……そしてあの時マスター(ローバウル)が言っていた永劫回帰という言葉……もしかしてカールの能力って……。

 

「―――なるほど、つまりあんたの能力は多元宇宙の時間を巻き戻せるって所かしら?」

 

「然り」

 

「「…………」」

 

じ、時間の巻き戻し……そんな能力をカールは持ってたなんて……。

 

「とはいえ、私が望む結末以外の結末に至った場合しかこの能力は発現しない上に、座に居た頃の私は自らの渇望など流出を行う寸前以外はほぼ忘れていたがね」

 

「ほぼ忘れていたって……」

 

「仕方ないだろう。何しろ永劫の永劫倍以上、私は生きてきたのだからね」

 

「……気の遠くなるなんてレベルじゃないよね」

 

「本当にね。それにしてもあんたは時間を巻き戻す能力まで使って、一体どんな結末を求めてたの?」

 

シャルルがそう聞くと、カールは少し自虐めいた笑みを浮かべました。

 

「さて、なんだっただろうか。何しろ()()()が求めている結末は以前の私が求めていた結末とは異なるからね」

 

「なんだっただろうかってあんた……」

 

「…………」

 

なんだかぼかすような物言いのカールに、私は少し複雑な気持ちになります。

―――私はカールをすごく信用しているのに、カールは私を全く信用してくれてない……まるで私にあまりこれ以上は深く関わるなと言われているみたいに感じて……私はそれがなんだかすごく悲しくて……。

 

「―――おや、どうしたのかな?」

 

そんな私の内心を知ってか知らずか、優しく笑い掛けてくれるカール。

でもその笑みもどこか取り繕ってるように見えて……。

 

「……ううん、なんでもない。早くギルドに戻ろう?」

 

でも、その事を指摘してもカールはきっと気のせいだと言って受け流すと思った私は首を振り、ギルドに向かって歩き始めます。

カールに対して抱いたこの不安を心の中に残しながら―――

 




こちらの小説にも愛と勇気の魔王の影が……!!

約八ヶ月ぶりの小説はいかがでしたでしょうか?
もしかしたら内容結構薄いなぁ……と思ったかもしれませんね。実際私もそう思いますし(ちなみに今回は結構な難産で本当に書き上げれるかな?と焦った位、内容が思いつかなかった)。

というわけで今回の話は現時点でこれが限界です。また暇があれば付け足したりするかもしれませんが。

では今回はこれにて……誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!(短編小説も見てね!)

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