FAIRY TAIL 未知を求めし水銀の放浪記   作:ザトラツェニェ

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皆様少し遅いですが新年、明けましておめでとうございます!そしてお久しぶりです!

前回更新からまたかなりの間が空いてしまいましたね……リアルが忙しかったり、上手い書き方が出来なかったりと色々ありまして……すみません。

今回もアブソと同時更新しました。そちらも見ていただければ幸いです。
ではお楽しみください!



水銀の蛇はもう一つの世界へと向かう

 

―――漂っている。まず初めに感じたのはそんな感覚でした。

まるで宙に浮かんでいるかのような……あるいは水面に体を浮かせているような、そんな感覚。

 

「ここは―――」

 

閉じていた目をゆっくりと開けてみると、そこに広がっていたのはまるでこの世の全部を優しく包み込んでくれそうな黄昏色の光で満ちた空間でした。

 

『――――――』

 

何か声が聞こえる―――そう思って視線を彷徨わせると、突然私の周りに見た事が無い映像が映り始めました。

 

「これは……」

 

映像は私より少し年上―――ナツさんやルーシィさんと同じ年齢位の男性女性たちの何気無い日常を映したようなもので……茶髪の女性と金髪の女性がとても巨大なパフェを食べている映像。

さっきの茶髪の女性が笑いながら困ったような表情を浮かべる青っぽい髪の男性と、薄っすらと笑みを浮かべた茶髪の髪の男性の腕を掴んでいる映像。

魔導二輪(バイク)のようなものに乗って笑っている青髪の男性と茶髪の男性の映像。

カールと似たような軍服を着た金髪の女性と黒髪の男性が雨の中抱き合っている映像。

制服を着た黒髪の女性が同じ制服を着ている女性たちと楽しく笑いながら歩いている映像。

何処かの建物の屋上みたいな場所で楽しく笑いながら話をしている映像。

そして……青髪の男性と白いドレスを着た金髪の女性が眩しいと思う位の笑みを浮かべている映像。

そんな映像と共に私の耳へ響いてきたのは綺麗な女性の声……。

 

『わたしが見ている』

 

『側に居る』

 

『見捨てたりしない』

 

『抱きしめる』

 

『―――ううん、お願い―――抱きしめさせて?愛しい全て―――わたしは、永遠に見守りたい』

 

『他のことはわたしが全部包むから……』

 

『誰でもいつか、明るい明日を……みんな、それを求めて生きている』

 

『レンが教えてくれたこと、ステキな考え―――だからわたし、そんな風にみんなを包めたらいいなって……そう思うよ』

 

(この声……グランディーネみたいに優しくて……落ち着く……)

 

何処か懐かしくて、思わず甘えたいと思ってしまう声が黄昏色の空間に響いていきます。

 

『怖いことも辛いことも、ずっと続いたりなんてしないもん!みんな、み〜んな!明日は笑顔になれるから!幸せになれるんだから―――ふふっ、ねっ?』

 

(―――全てを抱きしめたい……?)

 

もしかしたらこの女性は―――そう思った私は笑顔を浮かべている彼女に手を伸ばそうとして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□(見ツケタ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ひっ!!?」

 

―――怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!!

 

□□□□□□□□□□□□□□□□(こいつか―――俺に触れている塵は)

 

(あ、れは……!!?)

 

女性の背後に突然現れたのは何処までも暗く輝く三つの光―――いや、ただの光じゃない……!

 

「眼……!?」

 

でもあれは人が持つ眼なんかじゃない……!それもおぞましいなんて言葉じゃ足りない程、強大で邪悪な……!!

 

□□□□□□□(ついに見つけた)

 

―――嫌……!こっちを見ないで……!私たちを殺さないで……!!どうかそれ以上喋らないで……!!

 

□□□□□□□□□□(こいつさえ居なければ)□□□□□□□□□□□□□(―――俺以外は何もいらない!)

 

紡がれる言葉は私には理解出来なくて、でもそこに含まれた感情と願い(渇望)だけは強制的に理解させられていく。

()()は自分以外の全てを残らず消し潰したいという憎悪と殺意しかない……。

独りになりたい―――そんな誰でも持っている想いがこの存在の願い(渇望)だと……。

 

 

□□□□□□(滅尽滅相!!)

 

 

そしてその言葉を最後に私の意識は途切れる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!はっ……は……」

 

おぞましく、生きた心地がしない程恐ろしい夢から帰還した青髪の少女は目覚めた瞬間、ベッドから勢いよく上体を起こして荒い息を繰り返す。

 

「はっ……はっ……夢……?」

 

荒い息を整えながら少女は、そのまま視線を彷徨わせて周りを見回す。

綺麗に整理整頓され、年頃の女の子らしい飾り付けや小物、人形などが飾られているその部屋は間違い無く少女が自分で家賃を支払って住んでいる部屋だ。

決して先ほどまで少女の夢に出てきた安らげる黄昏色の空間でも、血と糞尿を際限無く塗りたくったような漆黒の空間でもない。

 

「っ……!」

 

そこまで思い出した少女は右手で頭を押さえて、先ほどの夢を思い返す。

まず最初に見たあの黄昏色の空間―――その空間で見たのはきっと自分の知らない人たちの何気無い、でもそれでいてとても大切な思い出とかそういった類のものなのだろう。中には幾つか疑問に思うような映像もあったが、ほとんど平和的なものだったと思う。

しかし―――

 

「…………」

 

少女の手が震え、全身から汗が吹き出す。

明るく慈愛に満ちた光で溢れていた空間を一瞬で押し潰してしまう程に強く、圧倒的という言葉すらも陳腐に思えてしまう力。

ただその声を聞くだけで耳を引き裂きたくなり、その眼を見るだけでこちらの目玉を抉り出したくなる不快感と負の圧力。

そして自分が今まで見てきた人たちなんて足下にも及ばない格の違い……。

 

 

 

「―――ンディ……ちょっと、ウェンディ……?」

 

「ぁ……シャルル……」

 

と、ここで少女―――ウェンディは自らの名前を呼んでいたこの部屋に住むもう一人の大切な友達―――シャルルの声にようやく気が付いた。

 

「ウェンディ、あんた……大丈夫?頭を押さえた辺りから呼んでたのに全く聞こえてなかったみたいね……」

 

「あ……うん、ちょっと嫌な夢見ちゃって……」

 

ウェンディはシャルルに心配させまいと笑みを浮かべるが、少しばかりぎこちないものになってしまう。そんなぎこちない笑みを見逃してしまうシャルルではなかった。

 

「……どんな夢を見たの?そんなに汗だくになるなんて……」

 

「……それは……」

 

ウェンディの脳裏に浮かぶのは遥か天空の頂きから、黄昏の女性ごとこちらを覗いていた三つの邪眼()と、理解出来ずとも感じ取れる憎悪と殺意に満ち足りた声。

 

「っ……」

 

―――出来る事なら今すぐにでも記憶を消して、もう二度と思い出したくない。それが今のウェンディの心境だった。

しかし―――

 

「思い出すのが辛いなら別にそれはそれで話さなくていいんだけど―――」

 

「……ううん、大丈夫。話せるよ」

 

誰か他の人に話せばきっと少しはこの気持ちも落ち着く筈。シャルルならきっとそれは夢で、そんな事は本当に起こらないってはっきり言ってくれる筈。

……それになんだかさっきの夢はシャルルには言っておいた方がいい気がする。そう直感的に感じ取ったウェンディは記憶の蓋を閉じる事無くシャルルを抱き上げる。

 

「シャワー浴びながら話そう?このままじゃ私、風邪引いちゃいそうだし……」

 

「……そうね」

 

そしてベッドから立ち上がったウェンディは、シャルルを抱きかかえて浴室へと向かう。

 

 

―――そんなやりとりの間、二人はベッドの枕元で淡く紅い光を静かに発していた水星に気付く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「777年7月7日?」

 

「はい、私やナツさんに滅竜魔法を教えたドラゴンは皆、同じ日に居なくなってるんです」

 

「ふむ……」

 

今日も今日とて騒がしいギルドの喧騒をBGMに私はウェンディとシャルル、そしてルーシィと同席して世間話をしていた。

話題はウェンディやナツ、そしてガジルという者の育ての親だったドラゴンについてである。

 

「そういえば前にナツがガジルの竜も同じ日に姿を消したって言ってたかも」

 

「ああ、それは私も(ナツ)から聞いた事があるが……一体その日に何があったのだろうね」

 

私の呟きにう〜んと唸ったルーシィは―――

 

「もしかして遠足の日だったとか?」

 

「ドラゴンが遠足……」

 

 

 

 

 

『さあ、そろそろこの辺りでお弁当でも食べましょうか!』

 

『ふむ、今日の弁当はお前が作ったのかグランディーネ?』

 

『ええ!こっちはブリザードバーンの燻製で―――』

 

『―――ほう、なかなか悪くないな』

 

 

『こっちはヒューマンハンバーグよ!』

 

『『ブフーッ!!』』

 

『ちょ……貴様、我々に何を食わせているのだ!?』

 

『ふふふ……冗談よ。九割冗談だから安心しなさい』

 

『『後の一割は何だぁ!!?』』

 

 

 

 

 

「―――こんな感じかな?今少しばかり想像してみたのだが」

 

「……なかなかすごい絵面ね。ドラゴン三体が青空の下でシート広げて弁当食べてるって……」

 

「グランディーネはそんなもの作ったりなんかしませんよ!?というかルーシィさんが変な事言ったせいで変なイメージが付いちゃったじゃないですか!?」

 

「え、いや、私もただなんとなく言ってみただけだったんだけど……その、ごめん」

 

そのような比較的平和な会話をしていると、少し離れた場所から見覚えのある青い猫がリボンを結んだ魚を掲げて走ってきた。

 

「シャルル〜!!」

 

「!」

 

「ふむ、君に惚れているナイト様が来たようだね」

 

「…………」

 

少しばかりふざけた物言いをしてみると、シャルルから殺意に近い視線を向けられた。おお、怖い怖い。

 

「シャルルこれ……オイラがとった魚なんだ。シャルルにあげようと思って……」

 

「いらないわよ。私、魚嫌いなの」

 

ちなみに猫の好物が魚というのは日の国だけの認識だったりする。

猫は本来完全肉食動物であり、ある学者の実験によるとヒツジやらウシやらの方が喜んで食べるそうだ。逆に猫にとって魚は好物どころか下手をすれば病気の原因となりえると言われている。まあ、その辺りの詳しい説明をここですると長くなるので割愛するが、もし知りたければ自分達で調べてみたまえ。

最も、今私の目の前にいるこの猫のような生命体(ハッピーとシャルル)が私の知っている猫の知識と合致するかと聞かれたら首を傾げてしまうのだが。

 

「そっか……じゃあ何が好き?オイラ今度それをとっt「うるさい!!」っ!!」

 

「私につきまとわないで」

 

「ちょっとシャルル!!言い過ぎだよ!!」

 

ハッピーに怒鳴ったシャルルは鼻を鳴らし、ウェンディや周りの視線も気にせずにギルドから出て行こうとする。

 

「何もあんな言い方しなくても……ねぇ、ハッピー」

 

「…………」

 

「追いかけなくていいのかね?」

 

「っ!待ってシャルル〜!」

 

そしてハッピーもシャルルの後を追いかけてギルドから出て行き、ウェンディとルーシィが息を吐く。

 

「なんかシャルルってハッピーに対して妙に冷たくない?」

 

「どうしたんだろ……」

 

「少なくとも何かしらいい感情は抱いていなさそうに見えるが……」

 

私が察するに、シャルルからはハッピーに対して何かしら憤りを感じているように見える。まるで()()()()()()で生きている事が心底気に入らないといったような―――

 

「……カール、私ちょっとシャルルとハッピーが心配だから行くね」

 

「待ちたまえ、私も行くとしよう」

 

そう言い、ルーシィにまた後でと告げた私とウェンディは外に出る。

 

(……どうやら荒れそうだな)

 

外に出て、空を見上げてみると西の方向から大きな暗雲が流れてきているのが目に入る。あの速さだと後数分程度でこの辺りにも雨が降って来るだろう。そして私が感じているのはそれだけではなかった。

 

(どうやら―――本当に荒れる事になりそうだ)

 

この街の外―――数キロ離れた場所から感じるある人物の気配を感じながら私はウェンディの後を付いていくのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから僅か数分後、大きく厚い暗雲はマグノリアの上空全体を覆い尽くし、ザーッという雨音が聞こえる程の雨を降らし始めた。

多くの人が先程まで買い物をしていた店通りも今や雨の影響で誰も外に居らず、どこかひっそりとした雰囲気を醸し出していた。

そんな雨が降り頻る通りの真ん中に一匹の白猫が佇んでいる。白猫―――シャルルは上空の暗雲を見て小さく息を吐き、自分が住んでいる寮へ帰ろうと足を向けかけたが―――

 

「シャルルー!やっと見つけたっ!!」

 

「ふう、ここに居たのかね」

 

「ウェンディ……クラフト」

 

背後から雨音に混じった二人分の足音と自らを呼ぶ声に、シャルルは一歩を踏み出すのをやめて振り返る。

そこには自分と同じく傘もささずに歩いてきているウェンディとメルクリウスが居た。

 

「あんたたち、傘もささずに……風邪ひくわよ?」

 

「それはシャルルもでしょ!」

 

「私は風邪などひいた事無いのだがね」

 

そしてウェンディはシャルルの近くにしゃがみ込んで、少し頰を怒ったように膨らませて続ける。

 

「シャルル……私たちギルドに入ったばかりなんだから、もっと皆と仲良くしなきゃダメだと思うの」

 

「必要無いわよ。私はあんたが居ればそれで十分」

 

「もぉっ!またそーゆー事ばかり言って!カールも何かシャルルに言って―――カール?」

 

相変わらずの態度にウェンディはメルクリウスからも一言言ってもらおうと視線を向けたのだが……当のメルクリウスは何も言わず、視線を通りの先に向けていた。

それにつられてウェンディとシャルルもメルクリウスの見ている方向に視線を向けると、向こう側からいくつかの杖を背に背負っている男が歩いてきているのが目に入ってきた。

やがて男は彼女たちの前で立ち止まり、メルクリウスへ小さく頷いてから彼女へ声を掛ける。

 

「ウェンディ」

 

「え……?その声……」

「!!!」

 

「……こうして会うのは七年ぶりか……。暫く見ないうちに随分と大きく―――そして綺麗になった」

 

懐かしみとどこか申し訳無さそうな感情を抱きながら、彼はマスクと帽子を外してその素顔を七年越しにに出会った少女に見せる。

 

「―――ジェ、ジェラール……!!?」

 

「ど……どういう事!?あんた確か捕まって……」

 

「それは私とは別の人物だ」

 

「そんな!どう見たってあんたジェラールじゃないっ!!」

 

「……私は妖精の尻尾(フェアリーテイル)のミストガン。七年前は()()()()の事をよく知らず、君とカールさんにはジェラールと名乗ってしまったんだ」

 

(この世界!?)

 

「―――じゃ、じゃあ……あなたが七年前の……あの時のジェラール……」

 

それに静かに頷いたミストガンに、ウェンディは両目から大粒の涙を流し―――

 

「ずっと……ずっと会いたかったんだよ」

 

嬉しさを含んだ言葉と共に彼女はミストガンの元へゆっくりと歩みを進める。

 

「会いに行けなくて本当にすまなかった。カールさんとは君たちがギルドに入ったあの日に向こうから会いにきてくれて、君にも会うように言われたんだが……」

 

「生憎とその時の彼には急いでやらなければならない事があったから君には会おうにも会えなかったのだよ。……そこについては私も謝るべきかな?黙って一人彼に会い、その事を君に言わなかったのを……ね」

 

「ううん……いいの……それより私はまた二人に会えて嬉しくて……」

 

そうしてメルクリウスと久しぶりに再会した時と同じようにミストガンへ抱きつくウェンディ。

 

 

 

 

 

 

だったが―――

 

「―――すまない。今は……再会を喜ぶ時間すら無い……今すぐにこの街から離れるんだ」

 

「え……?」

 

そう言ったミストガンはウェンディを優しく離して、メルクリウスへと視線を合わせた。

 

「カールさん……私の任務は失敗しました……大きくなり過ぎたアニマはもはや私には抑えられません……」

 

「……上空の雨雲の不自然な渦、微弱に感じるこの魔力……。やはりそういう事だったか」

 

「はい……こうなってはもはやどうにもなりません……間も無くこの街(マグノリア)は消滅します……」

 

その会話を聞いたウェンディの目から光が雨で洗い流されていくかのように消えていく。

 

「―――ど……どういう事?カールもジェラールも何を言ってるの……?全然意味が……」

 

「終わるんだ。消滅は既に確定している。だから君やカールさんだけでも今すぐ避難を―――」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は!!?ギルドの皆はどうなるの!!?」

 

 

 

 

「……全員、死ぬという事だ」

 

その言葉を聞いた瞬間、ウェンディは踵を返してギルドの方向へと駆け出す。

 

「ちょっとウェンディ!!」

 

「待つんだウェンディ!!せめて君たちだけでも街を出るんだ!!」

 

そのような制止の言葉すらも今の彼女には届かない。

なぜなら自分やシャルル、メルクリウスだけが逃げるなんて出来ないから。

自分はもう妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員なんだからと―――

 

 

「ふふ、ふふふふふふ……」

 

そんな仲間想いな少女の後ろ姿を見て、魔術師は静かに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃妖精の尻尾(フェアリーテイル)では―――

 

「雨やまないなぁー」

 

「ね」

 

「ジュ、ジュビアのせいじゃ無いと思う」

 

「誰もそんな事言ってねーよ」

 

「くかー……んごがぁー……」

 

「つかいつまで寝てんだナツは」

 

「昼からずっと寝てるよなぁ……よし、顔に落書きしちまおーぜ」

 

上空で自分たちの未来を奪い取るであろう魔法が発動しようとしている事など露程も知らない者たちが、ギルド内でいつものようにたむろしていた。

 

「落書きって……あんまりやり過ぎないようにしなさいよ〜」

 

「わーってるって。ルーシィもヒマしてんならやるか?今ならデコに肉って書けるぞ」

 

「確かにヒマだけどそれはやる気しないわ……何か面白い事とか起きたりしないかなぁ……ミラさんもエルフマンと一緒に教会に行っちゃったし……」

 

「あ、ならルーちゃんもこの本読んでみる?クラフトからビンゴ大会の景品でもらった本なんだけど興味深い事が書かれてて……」

 

「へ〜……なんて本なの?」

 

そう言いながらルーシィはレビィの隣にくっついて、レビィの持っている古くて分厚い本の表紙を見た。

 

 

 

「なになに……『歴代神座の伝説』?……ど、どんな内容の本なのか全く予想出来ないんだけど……歴史書、なの?」

 

「多分……と言っても私もこの本を読み始めたのはつい数分位前だからまだほとんど何にも分かんないんだけど……なんか神座っていう所に至ったり、至る位の実力を持った者たちを纏めた本みたい」

 

ふ〜ん、とレビィの説明に返事をしたルーシィは本の目次と思われる場所を軽く流し読みをしていたのだが―――ある単語が目に入ってきた事により疑問の声を上げる。

 

「あれ?」

 

「ん?どうしたの?」

 

「あ、いや、この単語―――どこかで聞いた気がするなって……あれ?そういえば神座伝説って言葉もどこかで……」

 

そう言ってうんうん唸るルーシィが指差したのは―――『水銀の蛇』という単語だった。

 

 

 

「おいエルザ、ちっとぉ」

 

「はい、なんでしょうマスター」

 

そんなルーシィとレビィの会話が繰り広げられている一方で、ギルドの別の場所では妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターであるマカロフが近くに居たエルザを手招きする。

 

「実は例の100年クエストの件についてなんじゃが……色々検討した結果、やっぱり他にまわそうと思う。ギルダーツ程の魔導士でも達成出来なかったのであれば、うちのギルドに100年クエストを達成出来そうな者は今の所居らんからな。異論は?」

 

「妥当だと思います。とはいえギルダーツが達成出来なかった程のクエストですから、他のギルドにまわしても達成出来る者が居るか分かりませんが……」

 

ギルダーツは妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみならず、このフィオーレという王国―――いや、この大陸で最強クラスの魔導士である。そんな男が僅か三年でリタイアしてしまったとなると、いよいよこの100年クエストをクリア出来る者は本当に誰も居ないのではないかと思ってしまう。

しかし世界に目を向ければ必ず何処かに100年クエストを成し遂げる事の出来る輩も居るかもしれない―――と、そこまで考えたマカロフは近くに置いてあった酒を一口飲んでからエルザへ改めて視線を向ける。

 

「それともう一つ、これは以前も話した事じゃが……」

 

「……クラフトの事、ですね」

 

マカロフは一つ息を深く吐いて、エルザへと問う。

 

「あやつがギルドに入ってから二週間程が経った。どうじゃ?」

 

「……今の所、特に気になった所はありません。この間もいつものメンバーで仕事へ行きましたが……あの時のような魔法は一度も……」

 

「そうか……」

 

エルザが言うあの時の魔法とはメルクリウスがニルヴァーナを完全に消し去る際に使った流星群を呼び寄せる魔法の事である。

それを聞いたマカロフは懐から取り出した評議院の印が付けられた紙を見ながら再び息を吐く。

 

「全く……クラフトも厄介な連中に目を付けられたもんじゃわい」

 

「しかしあの報告書を見ればそれも仕方ないかと……」

 

そう言って二人が思い出すのは、メルクリウスがギルドに入ってから数日後に送られてきた評議院からの報告書の内容だ。

報告書にはニルヴァーナ破壊後の巨大なクレーターの写真と、それに関する報告が書かれていたのだが―――

 

「ワシも今まで様々な魔法を見聞きしてきたが……あそこまで穴を開ける魔法は知らん。しかもエーテルナノの数値も一切変わっておらんとは……」

 

「それどころか未知の魔力が検出されたと聞きましたが……」

 

エーテルナノとはこの世界に存在する魔力の元となる気体の事であり、魔導士にとっては必要不可欠なものである。

人間は酸素が無ければ生きていけない。それと同じように魔導士もエーテルナノが無ければ魔力を回復させる事が出来ない。

そしてエーテルナノは地形が大きく変わるような大魔法が使われると大きく減少する事がほとんどである。これはその大魔法を使う魔導士がエーテルナノを吸収、あるいは大魔法の威力そのものによってエーテルナノ自体が減少して引き起こされる事なのだが―――

評議院によるとニルヴァーナ破壊一時間後、六魔将軍(オラシオンセイス)捕縛のついでにその大穴について調査が行われたらしく、その結果この世界に満ちている魔力とは全く別の魔力が検出され、さらにエーテルナノの数値の変動が一切無かったという結果が出たのだ。

 

「そのような結果を叩き出したと思えば、今度は評議院からクラフトにこちらで用意したS級昇格クエストを受けさせろと指令が来るとはのぉ……」

 

「……それはまたなぜ?」

 

「大方、例の魔法を調査していた連中からの要望じゃろう。勿論、S級クエストを受けられる魔導士を増やしたいという普通の理由もあるじゃろうが」

 

S級クエストならば普通のクエストよりも難易度が高い為、例の魔法を使うかもしれない。その瞬間を評議院の研究者たちは見たいのだろう。

 

「それで……返事は?」

 

「一応受けるつもりじゃ。もうこれ以上こちらだけで奴を様子見しても進展が無いからの。奴にも後で受けるか否かの返事を聞くつもりじゃが」

 

そしてもしS級クエストを受けるとメルクリウスが言った暁には―――とエルザを見てマカロフは告げる。

 

「エルザ、お主も一緒に行ってやってくれ。監視と補助をする為にな」

 

その言葉にエルザは無言で頷くのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっはっ……はぁっ……!」

 

尚も強く降り注ぐ雨の中を、息を切らしながら走るウェンディ。

しかしこれ程の雨が降っている日の路面というのは濡れていて非常に滑りやすい。故に―――

 

「きゃっ!」

 

そんな可愛らしい悲鳴と共にウェンディは転んでしまう。

 

「うう……早く知らせない……と……?」

 

その時ウェンディの目に飛び込んできたのは、地面に溜まった水溜りに写った空の様子。それ気付いて空を見上げると、雨雲が雷とはまた少し違う轟音を上げながら渦を巻いていき、街全体を飲み込める程の不自然な穴が出来上がっていた。

 

 

 

「アニマが……」

 

「―――来るぞ」

 

そして次の瞬間、上空の穴から凄まじい光と衝撃が襲い掛かり、その衝撃によってギルドや街の建物などが穴に吸い込まれていくかのように消え去っていく。

 

 

 

「うそ……」

 

そして僅か数秒後には何も無い真っ白で、雪のようなエーテルナノが舞い散る荒野がその場に出来上がっており、つい少し前までここに多くの人々が住んでいる大きな街があったとは思えない光景が広がっていた。

そこにただ一人残されたウェンディは呆然としながら辺りを見回す。

 

「ギルドが……街が……消えた……。一体……何が起きたの!?」

 

そんな少女の叫びに返事をする者は誰も居ない―――というわけでは無かった。

 

「皆、アニマによって向こうの世界に吸い込まれたのだ」

 

「っ……!カ、カール……!」

 

少し離れた場所から歩いてくるメルクリウスの姿を確認したウェンディは、ここに残ったのが自分だけでは無かった事に心底安堵して両目に涙を浮かべる。

 

「しかしまあ、なんともこれはなかなかに幻想的でありながらも酷い光景だ。人や建物のみならず大気中にある魔力も大量に吸い込んでいくとは……」

 

その時、ギルドがあった辺りの地面がひび割れながらボコッと膨れ上がり、もぞもぞと蠢き始めた。

それに驚いて思わずメルクリウスの後ろに隠れるウェンディだが、メルクリウスの方は至って冷静な表情でそれを見つめていた。まるでその蠢く何かの正体が分かっているかのように。

そしてボフッという音と共に地面から姿を現したのは―――

 

「な、何だぁ!!?」

 

「―――ブフッ……!!」

 

「―――ナ、ナツさん……?」

 

額に無駄に達筆な字で『肉』と書かれ、さらには頰に猫ヒゲまで書かれたナツだった。

メルクリウスはそれを見て先程までの冷静な表情を崩して噴き出し、ウェンディは困惑したような顔をする。

 

「ウェンディにクラフト……あれ、ここどこだ?ってかなんでクラフトは笑ってんだ?」

 

「ククッ……!こ、ここは消滅したギルド跡地、とでも言った方がいいかな。そしてなぜ私が笑っているのかは自分の目で確かめてみるといい」

 

魔法で鏡代わりの反射板を作り出してナツに寄越し、メルクリウスは後ろで落書きを見て「んだこりゃ〜!!?」と言ってるナツをスルーしながら辺りを見回す。

 

「どうやら残ったのは滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)と私、そして―――」

 

「私たちだけのようね」

 

「ナ〜ツ〜!何これ〜!!街がぁ〜!!」

 

「シャルル!!」

「ハッピー!!」

 

メルクリウスの言葉に被せてきたのは少し思い詰めた表情を浮かべるシャルルと慌てた様子のハッピーだった。どうやら二匹とも無事だったらしい。

 

「どうやら滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の持つ特殊な魔力が幸いしたようね。あんた(クラフト)が残ったのも……多分似たような理由かしら。とりあえずよかったわ、あなたたちだけでも無事で」

 

「シャルル……」

 

「そりゃ聞き捨てならねぇなぁ。他のみんなはどうでも……って本当に消滅しちまったのか!?」

 

「ええ、みんな消えたわ。正確に言えばアニマに吸い込まれて消滅した」

 

「アニマって……?」

 

「超亜空間魔法アニマ―――この世界の裏側とも言える別世界、エドラスの大規模魔法の事だよ」

 

「エドラス……?ねぇ、シャルルとカールはなんでそんな事を知ってるの?」

 

「私は君とあの少年―――ミストガンと出会った日に彼からアニマという魔法、エドラスという世界について色々と聞いていたのだ。確か君はその時テントで寝ていただろうから聞いていないと思うが……仮に聞いていたとしても当時の君にはまだ理解出来なかっただろうしね」

 

そう説明されてウェンディは一人納得した。確かに当時まだ五歳だった自分が超亜空間魔法だの別世界だのと言われてもきっと理解出来なかっただろう。……今もあまり理解出来ていないが。

 

「……私は向こう側の世界、エドラスから来たの。―――そこのオスネコもね」

 

「!!!」

 

「え……そ、それってどういう事……?」

 

「…………この街が消えたのは私とオスネコのせいって事よ」

 

そうしてシャルルはこの世界とは別の世界、エドラスについて説明を始める。

曰く、エドラスという世界ではこちらの世界―――アースランドと違って魔力が有限であり、魔法も思うように使えない事。

曰く、その有限の魔力を補う為にエドラスの王はアースランドから魔力を吸収する魔法、アニマを開発した事。

そしてその計画は六年前から始まっており、世界中至る所にアニマが展開されたが何者かがアニマを閉じて回っていたせいで思うような成果が上げられなかった事。

 

「その何者かってのはつい最近まで分からなかったんだけど……さっきのクラフトとミストガンの話で確信したわ。間違い無くあの男が閉じていたのね」

 

「然り。彼はある人物―――おそらくエドラス国王の計画を阻止する為にこちらの世界にやってきたと言っていた」

 

「だけど今回のアニマはミストガンだけじゃ抑えきれない程巨大過ぎたようね。そのせいでギルドとこの街は為す術も無く吸収された。おそらく妖精の尻尾(フェアリーテイル)に属する強大な魔導士たちを、何としてもエドラスの魔力として吸収したかったから巨大なアニマを展開したんでしょうね」

 

「ずいぶん勝手な奴等だなァ!オイ!!みんなを返せよコノヤロウ!!!」

 

「そ……それがオイラとシャルルのせい……なの?」

 

「間接的にね」

 

そして一つ息を吐いてからシャルルは続ける。

 

「私たちはエドラスの王国からある別の使命を与えられてこの世界に送りこまれたのよ」

 

「そんなハズない!シャルルは……卵から生まれたのよ!!この世界で!!」

 

「ハッピーもだ!オレが見つけたんだ!!」

 

「そうね……。先に言っておくけど私はエドラスに行った事が無いわ。ウェンディが言う通り、この世界で生まれてこの世界で育った。でも私たちにはエドラスの知識や自分の使命が刷り込まれている……生まれた時から全部知ってるハズなのよ……!!なのに……アンタは何で何も知らないの!?」

 

「!……オイラは……」

 

「皆が君のように全てを知っているとは限らないだろう。どうやら彼は本当に何も知らぬようだし、そもそもこの世界で君はハッピー以外に使命を刷り込まれている仲間に会った事があるのかな?もしそれが無いと言うならば、君は自らの持つ情報が本当に正しいとの確証も無いままに、自分の意見を勝手に彼に押し付けるという些か理不尽な状況が出来てしまうわけだが」

 

そんなメルクリウスからの指摘にシャルルは思わず黙り込む。確かに彼の言う通り、自分と同じ使命を刷り込まれた仲間になど今まで会った事は無い。それどころかつい最近まで自分と同じ種族などハッピー以外に一度たりとも見た事も聞いた事も無かったのだ。

そんな明らかに情報を照らし合わせるには不十分な状況にも関わらず、自分の意見を押し付けるなど傲慢にも程があるだろう。

 

「初めから自分は知っていた。なぜならそれは最初から自分の内に深く刷り込まれていたから―――それだけでは些か説得力に欠けるな。意図的に刷り込まれたと分かっている以上、それが全て偽りの情報だという可能性も捨て切れないだろう。君はなぜ自分の持つ情報が正しいと確証も無いのに胸を張って言えるのだろうか?自分の持つ情報はエドラスの者たちに何かの意図を持って刷り込まれた偽りの情報だという可能性は考えなかったのかね?」

 

「そ、それは……」

 

考えた事も無かった―――そんな反応を見せるシャルルにメルクリウスは言葉を続ける。

 

「どうやら考えた事も無い、と言った感じかな?ならばあくまであり得るかもしれない可能性の一つとして、少し観点を変えた考えもしてみるとしようか」

 

そうしてわざとらしく考えるふりをしたメルクリウスは仰々しい仕草をしながら語り始める。

 

「例えば―――今、君が自分たちに課せられたと思っている使命そのものが存在しないものだとしたら―――どう思うね?」

 

「え……そ、それってどういう……?」

 

「つまり君の思っている前提条件そのものが違っているとしたら?―――という考え方だよ。要は、そもそもそのような使命は()()()()存在などせず、君が勝手に創り上げたありもしない使命だとしたら―――」

 

「カール、もういいよっ!!それ以上シャルルを責めないで!!」

 

そこでウェンディが大きな声でメルクリウスの話を強制的に中断させ、シャルルを守るように抱き上げる。

 

「おや、私としては彼女を責めているつもりなど微塵も無いのだがね。しかし君がそう言うのならこの話はここまでにしておこうか」

 

「っ……!と、とにかくっ!!私たちがエドラスの者である以上、今回の件は私たちのせいである事は事実よ」

 

「じゃ、じゃあさっきシャルルの言った別の使命ってなんなの……?」

 

その質問にシャルルは顔を俯かせて震えながら答える。

 

「それは……言えない」

 

「シャルル……それはオイラにも教えられないの?オイラ、自分が何者か知りたいんだ」

 

「……ええ、自分で思い出しなさい」

 

そうして全てを話し終えたシャルルは黙り込み、ハッピーやウェンディも黙り込む中―――今までほとんど口を開いていなかった男が一つ息を吐いてニヤリと笑い、それに釣られてもう一人の男も口角を吊り上げる。

 

 

 

「んじゃ……どーやら話も纏まった事だし、いっちょ行くか!!エドラスってトコ!」

 

「然り然り、私も早く向かいたいと思っていた所だ。後、君は早く顔に書かれた落書きを消したまえ」

 

「ちょ……何にも纏まってないわよ!!!てかクラフトはともかくとしてアンタは全く理解してないでしょ!?」

 

「ナツ……オイラ、不安でお腹すいてきた」ぎゅるるるるるる……

 

「そりゃ元気の証だろ」

 

シャルルの抗議もスルーしてナツはお腹を鳴らすハッピーにニッと笑みを浮かべる。

 

「エドラスにギルドや街の者たちが居るというなら、是非も無いのだろう?君にとっては」

 

「おう!みんなを助けに行かなきゃな!」

 

「どうなの?シャルル」

 

「…….おそらく居るとは思う。だけど助けられるかは分からない。そもそも私たちがエドラスから帰ってこられるのかどうかさえ……」

 

「まあ……仲間がいねぇんじゃこっちの世界には未練はねぇけどな。イグニールの事以外は……」

 

「私もだよ。カールは―――」

 

「私に未練という言葉があると思うかね?―――こんなものしか無いがこれで顔を拭きたまえ」

 

メルクリウスはそう返事しながらナツへタオルを渡し、礼を言って受け取ったナツは「うおおおっ!」と言いながら猛スピードで顔を擦って落書きを落とし始める。

 

「みんなを助けられるんだよね?オイラたち」

 

「…………私だって曲がりなりにも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員な訳だし、母国の責任でこうなった疾しさもある訳だし……連れてってあげない事もないけど……いくつか約束して」

 

そしてシャルルは約束という名の条件を提示し始める。

 

「一つ、私がエドラスに帰るという事は使命を放棄するという事になる。だから向こうで王国の者やそれに関係する者に見つかる訳にはいかない。だから……」

 

「全員変装する事、かな?」

 

「ええ」

 

「オレもか」

 

「シャルルはそれでいいの?使命を放棄なんて……」

 

「いいの、もう決めたから。そして二つ目は―――」

 

シャルルはハッピーに視線を向けて次の約束を提示する。

 

「オスネコ、私たちの使命については一切詮索しない事」

 

「あい」

 

「そして次に三つ目……私も情報以外エドラスについては何も知らない。つまりナビゲートは出来ないわよ」

 

「了解」

「うん」

「承知した」

 

ナツ、ウェンディ、メルクリウスがそれに了承するのを確認したシャルルは全員を見据えて最後の約束を告げる。

 

「最後に、もし私とオスネコがあなたたちを裏切るような事があったら……躊躇わず殺しなさい」

 

「「っ……!?」」

 

最後に提示したのは自分たちがもし向こうの世界で裏切りをした場合の対処についてだった。

そんな思いもよらない提示にナツとウェンディは揃って驚きの表情を浮かべるが、唯一メルクリウスだけはそのような提案がされると分かっていたのか至極冷静な反応だった。

 

「委細承知した。ならばその時は私がその役目を担うとしよう」

 

「ええ、あなたならそっちの二人と違って躊躇も無く殺してくれそうだから……その時は頼むわね」

 

「願わくばそのような事など無いと思いたいがね」

 

「オイラ……そんな事しないよ」ごぎゅるるるるる……

 

「とりあえずそういう事で頼んだわよ。てかハラの音うるさい!!」

 

そうしたシャルルとメルクリウスのやり取りを見て、ナツとウェンディは揃って顔を見合わせて何とも言えない表情を浮かべる。そんな二人の表情を見ながらもスルーしたシャルルは一瞬で(エーラ)を展開し、ウェンディを掴んで空へと舞い上がる。

 

「さあ行くわよ!!オスネコもナツを掴んで!!」

 

「わぁ!飛んで行くの!?」

 

「私たちの翼は……エドラスに帰る為の翼なのよ」

 

「よし!行こうぜハッピー!!お前の里に!!」

 

「―――あい!!」

 

そしてハッピーもナツを掴んで大空へと舞い上がる。それを見送ったメルクリウスもまた流星(ミーティア)を発動させ、彼らの後をついていく。その時の彼の表情はついに待ち望んでいたもう一つの世界に行く事が出来るという期待に満ちた顔をしていた。

 

「オスネコ!クラフト!魔力を解放しなさい!!!」

 

「あいっ!!!」

 

「きゃああああ!!!」

「うほぉおおっ!!!」

 

シャルルとハッピー、メルクリウスは魔力を解放し、航跡雲を伴う程の速度で空高く飛び上がっていく。

 

「アニマの残痕からエドラスに入れるわ!全力で突き抜けなさい!!」

 

そしてそんな彼らの目の前の空が、まるで水面に雫を落としたかのように波紋が広がっていき―――

 

「今よ!!!!」

 

その波紋の中心に向かって突入した彼らは眩い光に包まれる。

 

 

 

そしてアニマの残痕を通り、たどり着いた先は―――

 

「ここがエドラス……」

 

そこはアースランドとは違って大小様々な島が空中に浮き、月のような形をした小さな星が飛べばすぐ着くような場所に多く浮かび、川などが物理法則を無視して上にある島へ向かって流れているなど目を疑うような光景が広がっていた。

 

「ここがオイラのルーツ……」

 

そのような全くの未知である異世界を目の当たりにした水銀の蛇は一人、口角をこれ以上無い程吊り上げて期待に胸を躍らせるのであった。




さて、いかがだったでしょうか?
アブソの方はもはやスパ○ボか大乱闘なんとかブラザーズレベルのキャラの多さになってますが、こちらは比較的少なめでいく次第です。

話は変わりますがフェアリーテイル三期が始まりましたねぇ。日曜日の朝なので普通にリアルタイムで見てますが……あれにこの小説の強者たちが乱入したらえらいカオスな事になるなと頭の片隅で思っております(笑)
この小説ってフェアリーテイル二次創作の中でもかなり飛び抜けた実力者が出てますからね。

水銀「そもそも私たちだけでも世界どころか多元宇宙を一瞬でどうこう出来るからな」

さらにそこにMUGENキャラですからねぇ……この世界ヤバい(笑)

―――とまあこのような感じで今年もこんな感じで書いていきたいと思うのでよろしくお願いしますね〜(アブソの方も見てください)

では今回はこの辺で!誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!

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