FAIRY TAIL 未知を求めし水銀の放浪記   作:ザトラツェニェ

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今回からニルヴァーナ編へと入ります。こちらの作品は比較的短めに書く事があると思いますが、その辺はご了承ください。

水銀「では、第一幕を始めようか」



水銀の蛇は久々に例の世界へと降り立つ

予想外とはいいものだ。それが既知であれ、未知であれ、悪くない。

 

これは以前、我が盟友である獣殿が言っていた言葉であるが……まさか今度は私がそのような事を言うとは思わなかった。

 

それはあの兄妹について、という意味合いでもあるし、七年の月日を経て戻ってきたこの世界について、という意味合いもある。

 

 

 

 

 

「ふむ……ここは……」

 

あの時ジェラールに七年程度で戻ってくると言った私は約束通り、七年後にこの世界に戻ってきた。

久々に転移してまず私の目に飛び込んできたのは―――

 

「久しいものだ。七年という月日が経とうとも、やはりここは変わらないか」

 

鬱蒼とした樹海の広がる森―――そう、ここは七年前にウェンディとジェラールと別れたワース樹海の近辺である。

その樹海を見ていると、昔日の記憶が呼び起こされる。この世界では七年前、私がいた世界では十五年前という今まで那由他の果てまで回帰してきた私から見れば、ほんの刹那の間の時間であるが、随分と懐かしく感じるのは何故だろうか。

私はそのような事をしばらくその場で考えていたものの、特に気にする事でも無いかと結論を出し、踵を返して森の中を歩き始める。

そんな歩いている中、次に私が脳内で考えていたのは……。

 

(あれから二人はどうしただろうか……ウェンディはあれから寂しい思いをしていないだろうか?ジェラールは無事なのだろうか?)

 

あの時、仕方の無い事とはいえ別れてしまった二人のその後であった。

本来なら女神以外は万象塵芥であると断じていた私がこうして他人を心配するとは……自分自身が考えている事とはいえ、これもまた未知である。

そんな未知を感じて内心歓喜しながら歩いていると……。

 

「……こんな森の中に屋敷が建っているとは……」

 

私の目の前にそれなりに大きな屋敷がひっそりと建っているのを発見した。

何やらハート型のガラス窓など一部趣味が悪いと思う装飾は施されているものの、手入れはある程度されているらしく、建物に(つた)などの植物や、劣化による錆なども見受けられない。

そこから今も、この建物は使われているだろう事は容易に想像出来た。

まあ、どうでもよい事だ。そう思い立ち去ろうとした瞬間―――

 

「――――――」

 

私は屋敷の内部から記憶にある懐かしい魔力を微量ながらも感じ取った。

それに内心驚きながらも、再びその建物に見上げる。

その建物を見た瞬間、私の中にあったこの建物の感想は一瞬で変化した。

最初はなんとも言えぬ悪趣味な装飾が施されている取るに足らない建物だと思っていたが、今は私の求めた未知を内包しているかもしれない建物へと変わったのだ。

 

「面白い」

 

そう呟いた私はその魔力の正体を確かめるべく、屋敷に向かって歩き出した。

その胸の内に未知への欲求を募らせながら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、そのなんとも言えない悪趣味な建物の内部では四つの正規ギルドの魔導士たちが集まり、これから始まる作戦についての説明を始めようとしていた。

 

「これで全てのギルドが揃った」

 

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)に所属している聖十大魔道(せいてんだいまどう)の一人―――ジュラ・ネェキスは集まった魔導士たちを見回してそう言ったのだが―――

 

「失礼、少しお尋ねしてもよろしいかな?」

 

そこに突然第三者の声が響き渡った。

 

「む……」

「誰だ!」

 

その声にジュラは訝しりながら振り返り、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属している火竜(サラマンダー)の異名を持つ青年―――ナツ・ドラグニルは声の主に警戒を向けた。

ナツの警戒の意は他のギルドの面々にも伝わり、全員がその声の主に警戒を向ける。

その反応も仕方の無い事で、元よりこの屋敷に集まるという事は、この作戦の関係者以外には知られてない。故にここにその作戦の関係者以外の者は来る事は無い筈なのだ。

しかし―――

 

「おっと、これはまた失礼。私はこの辺りを流浪していた者なのだが道に迷ってしまってね。道を尋ねようと思ったのだよ」

 

そのような警戒など、どこ吹く風と言ったように影絵のような存在は答える。

その姿を見たナツたちは揃って不快感のようなものとなんとも言えない感覚を感じた。

ぼろぼろの外套で全身を覆った姿は、まるで冥府の使者めいていて……顔立ちは男か女か、(おぼろ)げでよく分からない。

かろうじて声から男―――それも比較的若い―――だとは分かるものの、それ以外の事はよく分からず謎に包まれていた。

だが―――

 

「……う、そ……そんな……」

 

ただ一人―――化猫の宿(ケット・シェルター)に所属しているウェンディ・マーベルだけはその存在を見て、驚愕の表情を浮かべていた。

なぜならその声とその気配は彼女にとっては懐かしく、また再び触れたいと思っていた人物のものだったのだから。

 

「カール!」

 

目尻に薄っすらと涙を浮かべながらそう叫んだウェンディは、その存在へと向かって駆け出し―――思いきり抱き付いた。

 

「おやおや、また逢えたねウェンディ」

 

「カール……どこへ行ってたの……?」

 

その存在―――カール・エルンスト・クラフト―――メルクリウスはそんなウェンディの頭を軽く撫でて薄っすらと笑い、ウェンディは彼の行為に何も言う事無く、黙って受け入れながらも問い掛けた。

 

「私も彼と同じくほんの少しながら用事が出来てしまってね。寂しかっただろう?随分長い間独りにさせてしまった。私を恨んでいるのではないかな?そして彼の事も」

 

「ううん……。私は私を救ってくれたカールと彼を恨んだりなんかしない。ただ、寂しかったし、怖かった……。もうカールと、彼と逢えないんじゃないかっていつも思ってたから……」

 

「あの時はちゃんとした別れも言えずに行ってしまったからね。すまなかった。許してほしい」

 

そう言って謝るメルクリウスに、ウェンディは首を横に振る。

 

「気にしないで、カール。私は別に怒ってないから……。それよりも今はまたこうして逢えたんだから……嬉しい……!」

 

「そうか。なら私も君に逢えた甲斐があったというものだよ」

 

そう言ったメルクリウスの顔は、どこか満ち足りたような顔をしていた。

彼にとってはここでウェンディに偶然出会ったのも、ウェンディにこうして泣きながら抱きつかれたのも未知なのだろう。

そしてメルクリウスは子供好きでもある。そう言った意味でも彼は嬉しいのだろう。最も、彼の年齢と繰り返してきた月日を考えれば、ほとんどの者たちは彼にとって皆、子供と大差ない年齢とも言えるのだが。

 

「……ああ、予想外とはいいものだ。それが既知であれ、未知であれ、悪くない。確かにその通りだ、獣殿」

 

その未知をしっかりと堪能したメルクリウスはウェンディから一旦離れる。

 

「あ……」

 

するとウェンディは名残惜しそうな声を出してメルクリウスを見た。一方の彼は苦笑いを浮かべながら周りを見渡す。

 

「しかし、これ以上私たちだけで感動の対面を繰り広げるわけにはいかないな。見てごらん、周りが戸惑っているではないか」

 

「あ……!」

 

メルクリウスのその言葉にウェンディの顔は瞬時に真っ赤になる。

嬉しさに身を任せて思いきり彼に抱きついてしまった為にすっかり失念していたが、今思えばここには他のギルドの人たちや、自分と同じギルドに所属している猫のシャルルなどがいるのだ。

 

「そ、その……すみませんでした!」

 

その事に少しばかり遅れながらも気が付いたウェンディは顔を真っ赤にしたまま、ナツたちに向かって頭を下げた。

ナツたちはそれぞれ構わないとか、気にしなくていいなどと口々に言うが、変わらず警戒だけは解いていない。―――ルーシィやエルザ、青い天馬(ブルーペガサス)に所属している一夜などは先ほどの光景に一瞬警戒を忘れて感動していたようだが。

そんなどこか微妙な雰囲気が漂ってしまっている中、その空気を変えようとしたのかは分からないが、言葉を発した者がいた。

 

「ウェンディ、そいつは誰なの?」

 

「ダメだよ、シャルル。そんな言い方しちゃ……彼は昔、私を救ってくれたんだから」

 

「ふ〜ん……」

 

白い体毛を持ち、服を着ている二足歩行の猫―――シャルルはメルクリウスを睨み付けながら問い掛け、ウェンディはそれを咎める。

 

「ほう、喋る猫とは珍しい。これは君の友達かい?ウェンディ」

 

「うん!ほらシャルル、挨拶して」

 

「……そんな怪しげな男と慣れ合う気なんて無いわ」

 

「おやおや、会ってまだ少ししか経っていないというのに嫌われてしまったようだ」

 

「シャルル……」

 

シャルルの毒のある言葉にメルクリウスはくっくっと肩を震わせて笑った。

その反応から見るに、どうやら彼は先ほどの毒舌を大して気にしていないようだ。

そもそも、彼は他の者たちからも罵倒どころか下手をすれば攻撃される程嫌われている為、シャルルの言った程度の罵倒など彼にとっては日常茶飯事である。

 

「さて、自己紹介がまだだったね。私はカリオストロ、サン・ジェルマン、ノストラダムス、パラケルスス、メルクリウス……。と、名は星の数程持っているが、今はカール・クラフトと名乗らせてもらっている。カールとも、クラフトとも、どちらでも好きな方で呼びたまえ」

 

メルクリウスは胡散臭い笑みをその顔に浮かべながらそう言った。

その自己紹介にその場にいたウェンディ以外の者たちの脳内に同じ疑問が浮かんだ。

星の数程名を持っている?

本来名前というのはその人物を表す固有名詞だ。唯一無二の大事なものである。それを数多く―――それも星の数程と言われれば、そのような疑問が浮かぶのは当然だろう。

しかし―――

 

「次は君たちの名を聞かせてもらおうか」

 

そんな疑問など知らないといったようにメルクリウスは、目の前にいる魔導士たちに問い掛ける。

ただ名前を尋ねられただけ―――それなのになんとも言い難い感覚が襲ってくるのは何故なのだろうか?

魔導士たちはそんな事を考えながらも、名乗られたから名乗られ返すというごく一般的な礼儀に従って、ウェンディとシャルルの次にメルクリウスに近いジュラから自己紹介を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷内に集まっていた十二人と猫二匹の自己紹介を聞き終えた私はそういえばと思い、ある事を問い掛けた。

 

「一つ聞きたいのだが……ウェンディ、何故君がこんな所にいるのかね?」

 

「えっ……と……」

 

ウェンディはその質問を聞いた瞬間に、視線を彷徨わせ―――ジュラの方へと視線をチラリと向けた。どうやら言って良い事なのかジュラに確認したいのだろう。

そんなウェンディの視線に彼は気付き、口を開く。

 

「ふむ……ウェンディ殿の知り合いならば言ってもいいだろう。私たちはバラム同盟の一角、六魔将軍(オラシオンセイス)を討つ為に今日、ここに集まったのだ」

 

「バラム同盟?」

 

ジュラの言葉の中に聞き慣れない単語があったので、私はそれを聞き返した。

バラム同盟―――それはこのフィオーレ王国にある闇ギルドを総括している最大勢力であり、六魔将軍(オラシオンセイス)悪魔の心臓(グリモアハート)冥府の門(タルタロス)という三本柱とそれぞれに直属している闇ギルドの総称の事を言うそうだ。

 

「なるほど。今回はそのような強大な組織の一角に挑む為に、そうして連合を組んでいるのだね?」

 

「そうだ。それならば彼らを討てる可能性も高まるし、後々のバラム同盟の狙いも拡散するかもしれないからな」

 

仮にこの中の一つのギルドだけが六魔将軍(オラシオンセイス)を討ったとしたならば、後々バラム同盟にそこだけが狙われる可能性もある。連合を組んだのはそれを回避する為でもあるのだろう。

 

(それで四つの正規ギルドを集めた、というわけか……しかし……)

 

私は四つの正規ギルドの面々の顔を見回して、内心呆れた。

 

(この程度の実力の者たちで討とうとは……そう簡単にいくのかね?)

 

魔力の量と魂の質を見るに、ここにいる面々はまだまだ未熟である。時が経てば皆、大成するとは思うのだが……今は如何せん実力不足過ぎる気もした。

最も、それはその相手の強さにもよるのだが。

 

(ならば―――私も参加してみるというのもまた一興か)

 

手助けをするという以前は経験出来なかった未知を―――

その果てにある新たな光景を―――

それを見たい、それを感じたい。その気持ちに動かされた私はジュラに問い掛けた。

 

「ジュラ殿、その連合作戦とやら、私も参加させてはもらえないだろうか?」

 

「何だと?」

 

私の志願にウェンディ以外の者たちは皆、一瞬驚愕の表情を浮かべた後に、(いぶか)しるような眼差しを浮かべて私に注目した。

 

「ああ、心配はいらない。私はこう見えてもそれなりに魔法は使える身でね。恐れながら魔法を使う事を本職としている魔導士(君たち)にも遅れは取らないと自負しているよ」

 

「しかし……貴方は我々と違って一般人。いくら魔法が使えるとはいえ、こんな危険な作戦に関わらせるわけには……」

 

「それにそうは言われても、俺たちはあんたの実力を知らねぇ。簡単にはいそうですか、で参加させると思うか?」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に属しているエルザと名乗った女性は戸惑いながらも、私の申し出を拒否しようとし、彼女と同じギルドに属しているグレイは明らかに疑念に満ちた表情で答えた。

確かに二人の意見は至極真っ当な事である。しかし私もむざむざと引き下がるつもりは毛頭無い為、ならばせめて作戦だけを聞いて、後はこちらで勝手に動くとしようか―――などと考えていた刹那。

 

「あ……あの……カールもこの作戦に参加させてあげてください!」

 

私の意図していない意外な人物からの後押しが生じた。

 

「カ、カールの魔法の腕は私なんか足下にも及ばない程凄くて……えっと……強いのできっと頼りになります!」

 

「ウェンディ……」

 

ウェンディの必死な様子を見て、エルザが困惑したように声を上げる。ふと周りを見回すと、他の面々も同じような顔をしていた。

それも仕方の無い事だろう。先ほどまで(昔のウェンディの性格から思うに)おどおどしていただろう少女がこんなにも必死になってお願いしているのだから。

 

「……ウェンディ殿がそれ程までに言うのなら確かなのだろうな。いいだろう、参加してくれ」

 

「ジュラさん!?」

 

「ここで無下に断るというのも悪いだろう。それに戦力は多い方がいいだろうしな。まあ、彼が何かしらの怪しい行動をしようものなら、ウェンディ殿に止めてもらえば良い」

 

「ええっ!?」

 

「それはありがたい。では、よろしく頼むよ」

 

何やら予想だにしなかった言葉が最後に出てきた為、驚いてオロオロとしているウェンディを尻目に、私は改めて全員の顔を見回した後にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……話も纏まったようなので、私の方から作戦の説明をしよう」

 

全員がある程度落ち着きを取り戻し、青い天馬(ブルーペガサス)に属している一夜という男がそう言ったのでやっと説明を聞けると思った直後―――

 

「―――とその前にトイレの香り(パルファム)を」

 

「オイ!」

 

「そこには香り(パルファム)って付けるな……」

 

前言を撤回するように彼はトイレへと用を足しに行ってしまった。

 

「……あれは何かね?」

 

「すまない……奴はすごい魔導士ではあるんだが……あんな奴でな」

 

「なぜ君が謝る?」

 

「いや……なんとなく謝った方がいいと思ってな」

 

何故か申し訳無さそうに謝るエルザを横目に私は一夜という男について考える。

二頭身程でかなり顔の濃い男で何やら犯罪を犯しそうな匂いがプンプンしていたが……このメンバーの中で一番紳士度が高いと思われるのは何故だろうか。

かつてのメトシェラの三万倍以上は紳士だろう。私には遠く及ばないがね。

などと那由他の果てまで回帰しようとも価値の生じない考えを五分程していると、用を足し終わったのか一夜が戻ってきた。

 

「さて……では、今度こそ説明を始めよう」

 

彼は恰好を付ける為なのか、ライト付きの台の上に立って、私たちを見回した後に説明を始めた。しかし―――

 

(……ふむ、先手を打たれたか)

 

一夜の持っていた魂の質が明らかに変化したのを確認した私は、周りの者たちを見た。

どうやら私以外の者たちは一夜の些細な変化に気が付いていないようだ。この世界の者たちは私のように魂の質を見る事が出来ないようだな。

まあ、何にせよとりあえずは一旦説明を聞く事としよう。どちらにせよ()()など後で締め上げればいいのだから。

 

 

 

そして一夜から説明を受けた作戦を簡単に纏めると次のようになる。

六魔将軍(オラシオンセイス)は古代人たちが封印した強大な魔法を手に入れる為に樹海に集結しているという事。

その強大な魔法とはニルヴァーナ―――涅槃(ねはん)を意味するであろう詳細不明な魔法であるという事。

そして最後に六魔将軍(オラシオンセイス)の者たちの説明を聞いた。

毒蛇を使うというコブラ。

そのコードネームからスピード系の魔法を使うと思われるレーサー。

天眼(てんげん)のホットアイ。

心を覗けるという紅一点、エンジェル。

情報が少ないミッドナイト。

そして司令塔であるブレイン。

 

いずれもたった一人でギルド一つ位は潰せる魔力を持っているらしいが……その程度なら私の敵では無いだろう。

 

「それでどういう作戦を考えているのかね?」

 

「我々の目的は奴等の拠点を見つける事だ」

 

「今はまだ、奴等を補足していないが樹海には奴等の仮設拠点があると推測される。もし可能なら奴等全員をその拠点に集めてほしい」

 

「集めてどうするのだ?」

 

エルザの問い掛けに、ヒビキは上を指差して言う。

 

「我がギルドが大陸に誇る天馬、クリスティーナで拠点もろとも葬り去る!!」

 

「おおっ!!」

 

「魔導爆撃艇!?」

 

ほう、この世界にはそのようなものがあるのかね。

しかし、この事も既に向こう側には筒抜けなのだろうな。今頃その魔導爆撃艇とやらは破壊工作でもしているのだろうな。

と、思っていると―――

 

「おしっ!!燃えてきたぞ!6人纏めてオレが相手してやるァー!!」

 

そう叫びながら、ナツが扉を突き破って樹海の方向へと走り去って行ってしまった。

彼は全くと言っていい程、作戦の話を聞いていなかったらしい。

 

「仕方ない、行くぞ」

 

「うえ〜」

 

「ったく、あのバカ」

 

その後をエルザと、嫌そうな顔をしたルーシィ、呆れたようなグレイが追いかける。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)には負けられんな。行くぞ、シェリー」

 

「はい!!」

 

「リオン!!シェリー!!」

 

そんな三人に負けるまいと、蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のリオンとシェリーも追いかけ、さらに青い天馬(ブルーペガサス)のトライメンズの三人も続いた。

そして最後にウェンディと猫2匹が走り去って行くのを見た後、私はジュラと一夜へ向き直った。

 

「なにはともあれ作戦開始だ。我々も行くとしよう」

 

「その前に一つよろしいか、ジュラ殿?」

 

「なんだ?」

 

「作戦を始める前にこの場に紛れ込んでいた偽物を叩き潰したいのだが……」

 

「何?」

 

そう言った私は一夜へと視線を向ける。

 

「わたしが偽物だと言うのかい?カール君」

 

「その通りだよ、一夜殿―――いや、双子座のジェミニと言った方がいいか」

 

そう言った私は()()の魔力の波を一夜へ向けて放つ。

俗に何処かの世界で言う、いてつくはどうという奴だが、それを受けた一夜の偽物はそのまま床に倒れ込んで2体の人形のような精霊の姿へと戻った。

 

「何っ!?これは……!?」

 

「双子座の精霊ジェミニ。確か触れた者の容姿、能力、思考をコピーする、だったかね。今頃本物の一夜殿はトイレに押し込まれているのだろう。ジュラ殿、行ってきてはくれないだろうか?」

 

「そ、それは構わぬが……お主は?」

 

「私はこの精霊とその主にちょっと用があるのでね。ああ、心配はいらない。この程度の者たちに負ける気は微塵も無いからね」

 

「わ、分かった」

 

そして私はジュラを見送った後、隣の部屋へ通じる扉へと視線を向けた。

 

「さて……そろそろ出てきてはどうかな?先ほどから君がそこでこちらの様子を伺っていたのは知っていたのだから」

 

すると隣の部屋へ通じる扉が開き、そこから一人の女性が姿を現す。

特徴のある寝癖のような髪型。天使をイメージしただろう服装。人を見下したかのような目や態度。

彼女が例の六魔将軍(オラシオンセイス)のメンバーが一人、エンジェルだろう。

 

「どうして奴が偽物だって分かったんだゾ?」

 

「彼の魂の質が明らかに変化したからだよ。私はそういう学問を些か納めている身でね。それが本人の魂の質なのか見分ける事など容易い」

 

そう告げた私は彼女を見据える。

 

「さあ、では始めようか。記念すべき我が物語の幕開けとなる一戦を―――私を失望させてくれるなよ?」

 

「お前を満足させる気なんて……こっちは微塵も無いゾ!」

 

私たちは互いの目的を果たす為、戦闘を開始した。

 




終わり方が何処か微妙な感じだと思いますが、今回はここまでです!
メルクリウスが子供好きっていうのは前に何処かで聞いた気が……?などと思い、組み込んだものです。

次回、メルクリウスが六魔将軍(オラシオンセイス)相手に遊びます(笑)
まあ、後々の展開の為に六魔将軍(オラシオンセイス)たち全員を行動不能にはさせませんが……さて、メルクリウスは一体どこまで手加減するんでしょうか?
それとウェンディも連れ去られてしまいます……。
そ、そうじゃないと、話が進まないし……そこはご了承を……。

誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!

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