FAIRY TAIL 未知を求めし水銀の放浪記   作:ザトラツェニェ

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はい!久しぶりの投稿です!
ってかお気に入りが300越えって何故!?私何かしたっけ!?
思い当たるのはkkk買ったって事か……あるいは……。

水銀「あるいは?」

……まあいいや、詳しくはあとがきで書きます!とりあえず本編に入りましょう!

水銀「……相分かったよ。では始めようか」



水銀の蛇は全ての真相を暴く

ニルヴァーナ破壊から一晩が経過した。

私は魔導士ギルド、化け猫の宿(ケットシェルター)がある集落の建物内で一人、椅子に座って別世界のある光景を両目に映していた。

 

「すまないな、ヴァルキュリア」

 

私の目には現在我が愚息に質問責めされ、少々あたふたとしながら答えているヴァルキュリアの姿がある。

なぜ彼女がそのような姿を晒しているのかーーーまあ、それは向こうの第八話辺りを読んでみれば分かるだろう。……ん?メタい事を言うな、だと?知らんよ。

 

「それにしても、昨日はやはりやり過ぎてしまったようだな」

 

昨日のニルヴァーナ破壊後ーーー私はグラズヘイムへ転移し、獣殿と短い会話を交わした後に再びこちらの世界へと戻ってきたのだがーーーやはりというか化け猫の宿(ケットシェルター)へ入った瞬間に、先に戻ってきていた連合軍から凄い様相で質問責めにあったのだ。

あの魔法はお前が本当にやったのか?だとか、あれ程の魔法をどうやって身に付けたか?とか聞かれたよ。まあどれも曖昧な返事を返しておいた。

私がそういう曖昧な返しを繰り返していたからなのか、幸いにも質問責めは僅か十分程で終了した。

結局、あの流星群は私が降らせたとんでもない威力の“魔法”だという理解に収まったようだ。それでもまだ色々聞きたそうな者たちは居たがね。

 

「カール、入ってもいいですか?」

 

「ウェンディかい?構わないよ」

 

そんな事を考えていると、建物の入り口の方からウェンディの声が聞こえてきた。

両目に映していた光景を瞬きする事で消した後に了承の意を返すと、この集落で作られているという服を着たウェンディが入ってきた。その横にはウェンディの友人であるシャルルの姿もある。

 

「ふむ……その服装、美しく可憐な君によく似合っている。確かここで生産されたものだったかな?」

 

「あ……う、美しく可憐……は、はい。ここは集落全部がギルドになってて、私が着ているような服とかの織物の生産も盛んなんです……」

 

ウェンディの服が昨日と変わっているのを見て、誇張などせずに感想を述べると、彼女は顔を真っ赤にして俯きながらそう説明してくれた。聞けばウェンディの服はニルビット族に伝わる伝統的な織り方で作られたものらしい。

ちなみにウェンディとシャルルはギルドの者全員がニルビット族の末裔だとは今まで聞いた事が無く、知らなかったようだ。まあ、彼女たちだけ後に入ったようだからそれも仕方ないだろう。

最も彼女たちがそれを知らされてなかった理由は他にもあるだろうが。

 

「そ、それよりもカールのその服装は……?」

 

「ああ、この軍服の事かな?」

 

ウェンディが若干戸惑いながら聞いてくるのも無理は無いだろう。なぜなら私は現在、黒円卓の軍服を着ているのだから。

 

「これは私が以前所属していた軍のものであり、私にとっての正装でね。今日はこの後、ギルドの前で正式に任務完了の報告をすると聞いて着てきたのだよ」

 

正直ボロボロのローブ(いつものもの)を纏っていてもいいのだが、正式な場と聞いたのであれでは失礼だろうと思い、念の為これを着てきたのだ。

 

「どこかおかしい所でもあったかな?」

 

「い、いえ!むしろよく似合ってます!なんか……随分昔から着慣れてるって感じに見えます」

 

随分昔から着慣れてる……か。確かに第四天として座に居た本体の私はほとんどこれを着ていたので、その通りといえばそうなのだが。

 

「それにしても見た事のない軍服ね。どこの軍に所属してたの?」

 

「この大陸から遥か西に行った所にある国だ。名はあまり知られていないがね」

 

私がそう説明すると、シャルルは「ふーん」と言って納得したようだ。

ちなみに私がかつて所属していた国を言わない理由は至って単純で、この世界にはドイツという国が無いからである。存在しない国の名など言ってもどうしようもない。他にもアメリカやロシアなどといった大国もこの世界には無い。しかし東洋には日本と似たような文化を持つ大陸もあるらしい。

このような別の世界にはあって、こちらには無いといった多元宇宙は珍しくない。むしろ全く同じ歴史、事象、概念が存在している世界の方が珍しいだろう。

多元宇宙は存在している数だけ、様々な歴史、事象、概念がある。

例えば魔法がある世界と無い世界。

男性のみが存在する世界や逆に女性のみが存在する世界。

もしかしたら人間という存在が居らず、人外のみが蔓延っている世界などもあるだろう。

それだけこの多元宇宙というのは無限の可能性を秘めているのだ。

 

「へぇ〜……カールって元軍人さんだったんだ……知らなかった……」

 

「随分昔の事だったからね。今は各地で占いをしながら流離っているしがない詐欺師に過ぎない」

 

「詐欺師って……カールはあまりそんな感じに見えないけどなぁ……」

 

「騙されちゃダメよ、ウェンディ。詐欺師に見えないような立ち振る舞いをするのが詐欺師ってもんなんだから」

 

いやはや、全くもってシャルルの言う通りである。

 

「けどあんたは今回の件で私たちのギルドを守ってくれたり、他の人たちを助けてたりしてたから、私もあんたを詐欺師とは思ってないけどね」

 

「ほう、つまり最初会った時は私を疑っていたと」

 

「当然でしょ。ウェンディと一ヶ月も一緒にいたとはいえ、そんなのは今から七年も前の話よ。それに七年前って言ったらウェンディもまだ幼かっただろうから、あんたに何かしら騙されてたって可能性も否定出来ないわ」

 

「ごもっとも」

 

最も、当時五歳のウェンディと十を少し過ぎた位のジェラールを相手にして何を騙すのかという話なのだが、突っ込んでも余計に話が拗れる上に、意味が無いので無視する。

 

「それはそうと二人はなぜここに来たのかな?何か私に用でも?」

 

「あっ、忘れてました……広場の方に皆さんを集めるように言われたので呼びに来たんですよ」

 

「おや、招集がかかっていたのか。ならば急いで向かうとしよう」

 

椅子から立ち上がり、軽く埃を払い落とした私はウェンディとシャルルに案内されながら建物を出た。

私がいた建物はこの集落の比較的外側に位置しており、目的の広場に着くまで二分程掛かる。

その間、何も話さないのは気まずいとでも思ったのか、ウェンディが話題を出してきた。

 

「そういえば、さっきシャルルが言ってて思ったけど……私がジェラールとカールに出会ってから七年も経っているんだよね……」

 

「そうだね」

 

七年ーーー神であった私にとっては瞬きしている間に過ぎ去ってしまう刹那の時間。

しかし、人の身である彼女にとっては非常に長い年月に感じられるだろう。

 

「……ねえ、カール。七年前のあの時と比べて……私って色々変わった……?」

 

ウェンディはどこか自身がなさそうな顔でそう問いかけてきた。

それに対して私は少し考え、思った事を包み隠さず話す。

 

「あくまで私個人の意見だが……そこまで変化していないように感じるね。気が弱くおどおどした所など七年前よりかは少なくなったとはいえ、今でも見受けられる」

 

「そう、ですか……」

 

私の言葉を聞いたウェンディは思い詰めるかのように呟いて俯いてしまった。

 

「今のままじゃ……ダメなんですかね……」

 

「別にダメというわけではないよ。それは君自身の唯一無二の個性でもあるから変えろと言う気は無い。まあ、もう少し自分に自信を持つべきだとは思うが」

 

「ほら、クラフトもこう言ってるでしょ。あんたはやっぱりもう少し自分に自信を持つべきなのよ」

 

「でも……私は皆さんに色々迷惑を掛けてしまったし……」

 

どうやら彼女は色々あり過ぎて、昨日私が言った事も忘れてしまったようだな。ならばもう一度言うしかあるまい。

 

「ウェンディ、昨日私は言った筈だ。訪れた不幸に理由をつけて自らを貶めるのはやめたまえ。自責と自傷は尾を噛む蛇であり、キリが無く、果ても無いと」

 

「…………」

 

「それに君が居なければ救われなかった者たちもいるとも言った筈だ。最後の魔水晶(ラクリマ)破壊とて、君の協力がなければこうして私とゆっくり話す事や、今回の作戦で集った仲間たちが全員無事な事、さらに君たちのギルドの者たちが生きている事も無かった筈だ。誰も君を迷惑だとは思ってはいないよ。むしろ皆、君が居た事に感謝しているだろう。私が保証しよう」

 

今回の作戦は実際、誰か一人でも欠けていたのならこのような結末にはならなかっただろう。

最終的にジェラールが逮捕されたりと、全てが大団円という結末にはならなかったがね。

 

「…………」

 

「……ウェンディ、七年前君が一人でグランディーネを探そうとした時に私が何と言ったかーーー覚えてるかい?」

 

「……うん、覚えてるよ」

 

困った時は人に頼れ、それが生きるという事なのだからーーー私は七年前、迷惑をかけまいと一人でグランディーネを探そうとしていたウェンディにそう言った。

 

「それは重畳。ならば特段思い悩む必要も無いだろう?君は今、仲間たちと共にこの瞬間を無事に生きているのだからーーーそれを誰も迷惑だ、なんて思わんし、口を挟む権利も無いよ。無論私もね」

 

「……そっか……そうだよね」

 

するとウェンディは何が吹っ切れたような顔をして、私を見上げた。

 

「ごめんね、カール。こんな事言っちゃって……それとーーー」

 

「ん?」

 

ウェンディがそこで言葉を切った事に私は首を傾げるとーーー次の瞬間、ウェンディが私へ抱きついてきて、顔を上げて言った。

 

「昨日は色々あって言えなかったけど……私とシャルルのギルドを、そして皆さんを守ってくれてありがとう……!」

 

「ーーーーーー」

 

「カールが居なかったら、きっと今回の作戦は大変な事になってたと思う。もしかしたら誰か死んじゃってたかもしれない……それをカールは守ってくれた。本当に……本当にありがとう!」

 

ーーーああ、私としたことが刹那の間とはいえ我を忘れて見入ってしまった。彼女は実に綺麗なーーー思わず見惚れてしまう程の笑みを浮かべる。

以前の旅路の時にも彼女の笑顔はよく見たものだが……これ程までに美しく、讃えたいと思った程の眩しい笑みは今まで無かった。マルグリットの笑みには及ばないが……これもまた悪くない。

 

「ふふ……礼には及ばないよ。私は私のやりたい事をしただけだからね」

 

そう言って彼女の髪を()くように撫でる。

彼女の髪は撫でていて、どこかに引っかかるような感じはせず、彼女もまた女性らしく髪にしっかりと気を遣っているのがよく分かる。おそらく触り心地もいいだろう。手袋をしているので詳しい触感は分からないが。

 

「それでも、だよ。……ねぇ、カール」

 

私の名を呼んだウェンディは、迷ったように視線を彷徨わせた後、改めて私の顔を見上げて訊く。

 

「一つ聞きたいんだけど……カールはこの後の作戦の報告会が終わったら……またどこかに行っちゃうの?」

 

「…………」

 

「……私ね、もっとカールと話がしたい。この七年で面白かった出来事とか話したいし、カールの話も聞きたい。それにたまにでいいから、また前みたいにいろんな所に一緒に出かけたいよ」

 

「ウェンディ……」

 

「…………」

 

「だから……こんな事言うのは私のわがままで、勝手な事だって分かってるけど……前と同じように……私と一緒に居てほしいな……なんて……」

 

シャルルの若干驚いたような声を尻目に、ウェンディは語尾を段々と小さくしながら言った。

それにしても私と一緒に居たいとはーーー私の事を嫌っている者たちが聞いたなら果たしてどう思うだろうか。少なくともベイやマレウス、ヴァルキュリア辺りはそんな発言をしたウェンディの正気を疑うだろうな。まあ、そのような面子の反応など私にとってはどうでもいいが。

ーーーそしてこのお願いは、ウェンディに興味のある私にとっても願ったり叶ったりなお願いでもあった。

 

「……やれやれ、そこまで頼み込まれた上にそのような顔をされてしまっては敵わないな。本来ならもう少し流浪の旅を続けるつもりだったのだがね」

 

「カール……」

 

「君のわがままとやらに付き合ってみるのもまた一興。私としても君に色々と問いたい事もあるからね」

 

そう返すと、ウェンディは花が咲いたような笑みを浮かべてくれた。

 

「ありがとう!じゃあ、報告会が終わったら二人でいっぱい話そうね!」

 

「ああ、そうするとしよう」

 

「……お二人さん、楽しそうに話している所悪いんだけど、そろそろ行かないと皆待ちくたびれてるわよ」

 

「「あ」」

 

そんな中、シャルルの指摘に私たちは揃って声を上げる。

そういえばつい忘れてしまっていたが……私たちは招集を掛けられていたのだったな。

 

「ふむ……確実に待ちぼうけているだろうな」

 

「そんな他人事みたいに言わないの!ほら、行くわよ!……後、そういうのはもうちょっと場所を選んでやってちょうだい」

 

「あっ!待ってよ、シャルル〜!」

 

そう言って先を歩いていくシャルルに私たちはついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約一分後、私たちは少し駆け足気味に招集場所である広場へと辿り着いた。

そこにはすでに私たち二人(と一匹)以外の全員が揃っており、化け猫の宿(ケットシェルター)の者たちも揃っていた。

 

「ふむ、私たちが最後かな?」

 

「おっ、やっと来たかーーーってクラフト、その軍服は……?」

 

私の姿を確認するなり、困惑したような表情で問い掛けてきたエルザ。見ると他の者たちも皆、私の服装に困惑しているようで訝しげな表情を浮かべていた。

それに対して私は先ほどウェンディに答えた返答と同じ答えを返す。

 

「お前、軍属だったのか!?」

 

「“元”だがね。今は当てもなく各地を風に運ばれる木の葉のように流離っている身だが」

 

「ちなみにどれ位勤めてたんだい?」

 

どれ位勤めていたか、か……。ふむ……。

 

「さて……十五年程だろうか。そして退役したのは……八年前だったかね」

 

「……えっ?ちょっと待って……計算が……」

 

「……クラフト、あんたーーー何歳なのよ?」

 

真っ先に私の矛盾に気が付いたのはルーシィとシャルルだった。

察しのいい者なら分かるだろうが、私の先ほどの回答が真実ならば私の外見年齢との矛盾が生じる。

 

「何歳なのかとはまた奇怪な事を。君たちのその目で見た通りの年齢だよ」

 

「おかしいのよ。それだとあんたはすごく幼い頃から軍に入っていた事になるわよ?」

 

「少年兵という言葉を知っているかな?それを考えれば別段珍しくも無いだろう。まあ、私は違うがね」

 

というかこの世界で少年兵などはほとんど見た事も、話を聞いた事も無いが。

 

「だとしたら、あんた……」

 

「そのような話など一先ず後にしようか。それよりも今はーーー」

 

私が視線をローバウルへと向けると、彼は頷いて感謝の言葉を述べ始めた。

 

「うむーーー妖精の尻尾(フェアリーテイル)青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)、そしてウェンディにシャルル。よくぞ六魔将軍(オラシオンセイス)を倒し、ニルヴァーナを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表してこのローバウルが礼を言う。ありがとう。なぶら、ありがとう」

 

先ほどまでの私たちの会話をまるで聞いていなかったかのように、ローバウルが突然に感謝の言葉を告げる。

それに連合軍の面々はどこか困惑しながらも、それぞれ感謝の言葉を受け取る反応を示した。

私はそんな彼へとただ一言問い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんとか間に合ったかね?ローバウル殿」

 

「……そうじゃのう……ギリギリじゃったが……」

 

『え……?』

 

私と彼の言葉に周りの者たちは何を言っているのか分からないと言ったような反応を示す。

そのような周りの反応など気にせず、私は続ける。

 

「…………400年か。よくもそのような状態で長らく存在出来たものだ。今の貴方はとうの昔に動力源を失った機関車のようなものだろう」

 

「……確かにその通りじゃのう……。ワシがこうして今まで存在を維持出来ていたのも奇跡に近い。それかーーー執念とでも言えるのかもしれん」

 

「……自らの手で作り出した魔法の結末を見届けたい、か。ああ、ニルヴァーナを作り、唯一生き残ったニルビット族の貴方らしい渇望(願い)だ」

 

「ニルビット族……?ニルヴァーナを作った……?カール、マスターも何を言ってるの!?」

 

「……皆さん、ワシがこれからする話をよく聞いてくだされ」

 

叫ぶウェンディを見たローバウルは一つ、息を吐いて話始める。

 

「まず始めに、ワシ等はニルビット族の末裔ではない。そこの者が言ったようにニルビット族そのものーーー400年前、ニルヴァーナを作ったのはこのワシじゃ」

 

「何!?」

 

「うそ……」

 

「400年前!?」

 

「……」

 

最初の事実に連合軍の者たちはそれぞれ唖然としたような反応をし、言葉を失っているようだった。

しかしそれでもローバウルは続ける。

 

「400年前……世界中に広がった戦争を止めようと、善悪反転の魔法ニルヴァーナを作った。ニルヴァーナはワシ等の国となり、平和の象徴として一時代を築いた。しかしーーー強大な力には必ず反する力が生まれる。闇を光に変えた分だけ、ニルヴァーナはその“闇”を纏っていった」

 

「…………」

 

「闇が存在する限り光が生まれ、光が存在する限り闇が生まれる。そのようなバランスの取れた表裏一体の理は当然人にも存在する。故に人の在り方を無制限に光に変える事は出来ないのだよ。必ず代償というのはあるものだ」

 

「その代償ーーー人々から失われた闇は我々ニルビット族に纏わりついた」

 

抑えられた闇がその許容量を超えて人に取り憑いた場合、どのような結果になるのかは火を見るよりも明らかだ。

 

「そんな……」

 

「地獄じゃ。ワシ等は行き場の失くした人々の闇に纏わりつかれ、意味も無く互いを憎み、殺し合った。結果としてニルビット族はワシ一人を残して全滅、ニルヴァーナという国は自らの手で破滅へと至ったのじゃ」

 

『…………』

 

「……いや、ワシだけが生き残ったという表現も今となっては少し違うな。我が肉体はとうの昔に滅び、今は思念体に近い存在。ワシはそのような罪を償う為……また、力無き亡霊(ワシ)の代わりにニルヴァーナを破壊出来る者が現れるまで400年、この地で見守ってきた」

 

そして彼はようやく肩の荷が下りたといったように告げる。

 

「今……ようやく役目が終わった」

 

「そ……そんな話……」

 

その言葉を告げると同時にーーー化け猫の宿(ケットシェルター)のメンバーが一人、そしてまた一人と()()し始める。

 

「な、何これ……!?皆……」

 

「あんたたち!!」

 

「どうなっているんだ!?人が消えていく!!」

 

ウェンディが次々と消えていく者たちに消えてはダメと叫び、シャルルも困惑した面持ちで叫び、他の者たちも驚愕した表情を浮かべる中ーーーローバウルは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「騙していてすまなかったな、ウェンディ」

 

「……彼等は皆、ローバウル殿の作り出した幻影なのだよ」

 

私が幻影の一人に近付き、手を差し伸べる。すると目の前の消滅しかかっている女性の幻影が微笑みながら手を伸ばしーーー彼女の手が私の手をすり抜け、その手は彼女の存在と共に消えた。

もうこの唯一無二の存在とも言える幻影たちは実体すら失い、二度と形成される事は無いだろう。

 

「人格を持つ幻だと!?」

 

「なんという魔力なのだ!!」

 

そしてローバウルはこのような幻影を作り出したきっかけを話始めた。

 

「……ワシはニルヴァーナを見守る為にこの()()()()で住んでいた。しかし七年前、一人の少年がワシの所に来た」

 

 

 

『この子を預かってください』

 

 

 

「少年のあまりに真っ直ぐな眼に、ワシはつい承諾してしまった。……一人でいようと決めていたのにな……」

 

 

 

『おじいちゃん、ここ……どこ?カールは……?』

 

『こ……ここはじゃな……』

 

『ジェラール……私をギルドにつれてってくれるって……』

 

『っ……ギ、ギルドじゃよ!!ここは魔導士のギルドじゃ!!』

 

『本当!?』

 

『なぶら、外に出てみなさい。仲間たちが待ってるよ』

 

 

 

「……そして幻の仲間たちを作り出した」

 

「ウェンディの為に作られたギルド……」

 

「そんな話聞きたくない!!」

 

ウェンディが泣きながら耳を塞いでそう叫ぶ中、私はローバウルへと呟いた。

 

「……ニルビット族というのはかなり強大な魔力を持っているのだね」

 

「ワシ程度の魔力を持つ者など、400年前は大勢いた。それよりもーーー」

 

そこでローバウルは私に視線を向け、苦笑いをした。

 

「貴方の方がワシなどより、凄まじい程の魔力を持っていると見受けられるが?()()()()様」

 

「ーーーーーー」

 

その言葉に驚かなかったと言えば嘘になる。なぜならその名はこの世界では一言も言った事が無いのだから。

 

「水銀の……蛇?」

 

「……どこでそれを知ったのかね?」

 

「ふふふ……ワシ等の時代、400年前は様々な神話が語り継がれていた。貴方の神座伝説もその一つじゃ。曰く、第四天として永劫回帰を唱えた者とーーー今はもう忘れ去られた伝説として、覚えているのはワシぐらいじゃろうが……」

 

「なんとまあ……これはこれは……」

 

まさか座の事が語り伝えられていた世界があったとは思わなかった。

という事はこの世界には座に触れた者がいる、またはかつていたのだろう。

 

「まさかあの第四天様とこうして実際にお会い出来たとは……先に逝ったワシの一族にいい土産話が出来た」

 

「マ、マスター……何を……カールが第四天って何の事……?」

 

そう呟くウェンディを尻目にローバウルは続ける。

 

「貴方程の方がウェンディの側にいてくれるのならば……ワシとしてはこれ程安心出来る事はない。ーーーウェンディ、シャルル。もうおまえたちにワシの作った偽りの仲間はいらない」

 

そして彼は私たちを指差して微笑む。

 

「おまえたちには、本当の仲間が出来た。それはワシにとっても喜ばしい事じゃ……」

 

そしてローバウルの姿も次第に光に包まれ始めーーー

 

「マスター!!!」

 

ウェンディは七年という間、自分の為だけに偽りとはいえ仲間をくれた人物の元へと走り出す。

 

「おまえたちの未来は始まったばかりだ。ーーーその道に幸ある事をワシは願っている」

 

そしてウェンディが彼へと伸ばした手はーーー虚しく散った光すらも掴めず、ただ空を掴んだだけだった。

 

『皆さん、本当にありがとう。ウェンディとシャルルを頼みます』

 

「マスタァーーーー!!!!」

 

長きに渡り共に過ごした大切な家族が最後の願いを告げ、後に残ったのは膝をついて泣き叫ぶウェンディと、薄っすらと涙を浮かべるシャルル、そしてそんな二人を見て涙を流したり複雑そうな表情を浮かべる者たちだけだった。

 

 

 

もはや誰も居なくなり、何もかも無くなった集落跡にウェンディの悲しげな泣き声が響き渡る中ーーーエルザが泣き叫ぶウェンディへと近付いて肩を叩く。

 

「愛する者との別れは辛い。だがーーーその辛さは仲間が埋めてくれる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、私が語る物語の第一幕ーーー楽しんでいただけただろうか。

 

 

残念ながら第一幕の結末は喜劇と呼べるものではなく、どちらかといえば悲劇と呼べるものになってしまったがーーーこのような結末もまた一興。

 

 

喜劇しか起きない物語程、興の削がれるものは無い。故にこのような結末になってしまったのはある意味仕方の無い事、ご容赦願いたい。

 

 

ーーーおや、失礼。私のような語り手がこうして表舞台に姿を現し、話す事などあってはならないな。そろそろ引っ込めと言われるだろうから、私はこの辺りで退散させてもらおう。

 

 

ではーーー最後に一つ、あの赤髪の女性が泣き叫ぶ少女に告げた言葉を持って第一幕の幕引きとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちがその辛さをーーー悲しさを埋めてやろう。来い、妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ!」

 




水銀「さあ、あとがきだぞ。言いたまえ」

いきなりですね!?まず今回の話はどうでしたでしょうかって言葉から始まるのが普通ではーーー

水銀「言え」

はいはい。というか何かしたというより何か見たって感じなんですけどね。お気に入りが300越えする前の日の夜位に夢を見たんですよ。

水銀「ほう、内容は?」

……私が髪を下ろしたベアトリスをベットに押し倒した感じから始まって、「私、実は初めてなんですよ。はは、少佐の事笑えませんね。でも精一杯頑張るので……よろしくお願いしますね」ってベアトリスが言った所で目が覚めました。

水銀「……とあるwikiで似たようなセリフを書いたコメを見た事ある気がするのだが」

まあ、実際に寝る前にその記事見てましたからね。そしてまだ起きるには時間が早かったので、もう一回寝たんですよ。するとーーー

水銀「すると?」

メルクリウスがマルグリのおきてとか言って、うざったい笑みを浮かべながら踊り出す夢を見ました。

水銀「……マル・マル・グリ・グリみんな好きだよ♪とか言って踊ってたのかね?」

……もしかしてそれが小説のお気に入りが増えた理由……!?

水銀「いや、無いだろう」

デスヨネー。まあ、それはそれでいいです。お気に入り登録してくれた方、本当にありがとうございます!

誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!

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