もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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連続投稿の2話目です。お気を付けください。


もこたんと死柄木弔

 

「親父、大丈夫か!?」

 

「ゴホッ…!ショートか…」

 

「リューキュウを助けてて遅れた。これで身体冷やせ。気休め程度にはなるだろ」

 

 死柄木の『空気押し出し』を受けた瞬間、エンデヴァーは後ろに自ら跳ぶことで衝撃を軽減させていた。加えて、『個性強制発動』で暴走する『ヘルフレイム』に抗わず、むしろ炎を全力で放出することで上昇気流を発生させて暴風を僅かに逸らして直撃を避けた。また、吹き飛ばされた先の地面でも身体が削られたり打ち付けられたりすることを炎の放出によって防いでいたのである。

 故に、エンデヴァーは『空気押し出し』の攻撃によるダメージはそれほど負っていない。だが、片肺は潰れ、炎を必要以上に使用してしまったことで彼は限界を迎えてしまっていた。

 そのように熱痙攣で動けず大地の上で倒れ伏していたエンデヴァーを助け出したのは息子の轟焦凍である。彼は氷でエンデヴァーを急冷しつつ、肩を貸して起き上がらせた。

 

「ああ…、冷やしながら戦場に戻る…。死柄木を仕留めねば…。お前は氷を作った後は避難を…」

 

「あ?聞こえねぇな。つーか、喋ンな。また死柄木と戦うのなら黙って体力温存――くそ、アイツは!」

 

 No.1ヒーローのエンデヴァーですらこのザマだ。大変危険な戦場に戻ることになるため息子は…というか、まだプロでもない学生は避難させたい。エンデヴァーは息も絶え絶えにそう伝えたが、焦凍は聞こえないフリをして流した。実はリューキュウ救助後の轟の行動を相澤は命じていなかったのである。彼はそれを良い事にちゃっかり参戦しようとしていた。

 そうやって焦凍がエンデヴァーを運んでいると上空の違和感に気付いた。ナニカが空を飛んでおり、それがこちらに向かって来ているのだ。蒼い尾を引いて飛ぶその正体には彼らも見覚えがあった。

 

「蒼い炎…!荼毘か!」

 

「おお、居た居た!しかも、焦凍まで居ンのかよ。こりゃいいや!」

 

 荼毘は彼らを見つけると狂ったような笑顔を浮かべた。反面、肉体の火傷はかなり酷い様子である。特に両足の膝下からは見るも無残に炭化しており、もう二度と歩くことも立つことも出来ないだろうと見てとれた。

 だというのに、そんなことには歯牙にもかけず異常なほどの上機嫌な様子を見せていた。つまり、荼毘は目的さえ果たしてしまえば明日を生きるつもりなど無かったのである。

 

 因みにスピナーとスケプティックが『圧縮』されている球は、エンデヴァーたちを見つけた瞬間に遠くへと放り投げていた。蛇腔にまで連れてきたのだから義理は果たした。後のことは自分たちの力でやれ。そういう事だった。

 

「荼毘、貴様…!」

 

「テメェ、街に火を放ちやがって!」

 

「ん?ああ、藤原妹紅が追ってこないようにな。それよりも荼毘なんて名前で呼ばないでよ」

 

 焦凍からの非難もなんのその。荼毘は今にも我慢できないとニヤニヤ笑いながら懐から髪染料(ヘアカラー)除去剤(リムーバー)取り出すと、ジャバジャバと自分の黒髪にかけだした。すると染色剤が洗い流されて自前の白髪が現れてくる。その色は轟家母の冷や次男の夏雄そっくりの白髪だった。

 

「俺には燈矢って立派な名前があるんだからさ」

 

「なッ…!?」

 

 ついに荼毘はエンデヴァーの前で暴露した。この瞬間を彼は待ち望んでいたのだ。

 その衝撃の告白に焦凍は固まってしまう。そしてエンデヴァーはというと目を見開きながらブルブルと震えていた。

 

「と、燈矢は死んだ…許されない嘘だ…」

 

「俺は生きてる。許されない真実だ、お父さん。瀬古杜岳の炎は消えてないんだよ…。お父さんが火をつけたんだ…。なかったことになんて出来ないんだよ…!真実(オレ)を見ろよ、エンデヴァー!」

 

「…!ああ、燈矢…!」

 

「まさか本当に燈矢兄!?」

 

 瀬古杜岳の山火事で死んだ長男の燈矢。遺体は顎部の一部しか見つからなかった。だが、彼は生きていた。全身大火傷で瀕死のところをAFOに拾われ、ドクター殻木が治療を施していたのだ。無論、善意からの行動では断じてない。AFOは死柄木に何か問題があった場合の為に保険(スペア)をいくつも用意しており、燈矢はそのストックの1つだった。

 しかし、三年間の昏睡の後に目覚めた荼毘は入所させられていた施設に放火して脱走。逃げたところで一月足らずで死ぬだろうとAFOたちも彼を追わなかった。だが、そんな彼らの予想に反して燈矢は生き続けた。死にゆく身体を、ただエンデヴァーに対する怨嗟の炎だけで踏み止まらせていたのだ。

 そうして、ほとんど別人の様相となってしまった燈矢だが、エンデヴァーには分かってしまった。己の心が、魂が、荼毘の正体を本物の燈矢だと理解してしまったのである。

 

「俺のために今日まで元気でいてくれてありがとう!お父さん!」

 

「燈矢…燈矢…」

 

「来るぞ親父!親父!?おい動け!頼むから後にしてくれ!」

 

 エンデヴァーの心は砕けた。かつての燈矢は己が殺してしまったようなもの。そんな息子を二度も手にかけるなんてできる筈がない。戦うこともできなかった。

 荼毘と化した燈矢が蒼い炎を纏って空から襲いかかってくる。焦凍は慌てて戦闘態勢を取ったが、エンデヴァーは動けなかった。もう無理だ。無理なのだ。抗うことすらできない。いっそのこと彼の手にかかって死んでしまいたかった。

 エンデヴァーは力なく膝から崩れ落ちる。焦凍が隣で叫んでいるはずなのに何の音も聞こえなかった。己の長男を見つめながら涙を流し、ただただ彼の名前を呟くことしかできなかったのだ。

 

「さァ、地獄で息子(オレ)と踊ろうぜ、お父さん!」

 

「え?お父さ…?え?」

 

「ふ、藤原ッ!?」

 

 荼毘が蒼炎を纏いエンデヴァーに襲いかかろうとした、その時である。荼毘の横を困惑した表情の妹紅がバランスを崩した蹴り姿で通過していった。

 突然の妹紅の襲来に荼毘と焦凍は驚愕の表情でフリーズ。エンデヴァーだけは驚いていなかったが、それは心が壊れてしまったせいで妹紅の存在に気付いていなかっただけである。

 

「藤原、どうしてここに!?」

 

「荼毘を追いかけて蛇腔まで来たんだが…、お前たちと話しているのを見つけたから死角になってた背中を蹴り飛ばすつもりだったんだ。驚きすぎて狙いを外してしまったけど」

 

 空中で態勢を整えた妹紅は焦凍の近くまで飛んでくると状況を説明し始めた。

 妹紅が言うには無防備に隙を晒す荼毘の背中は奇襲の絶好のチャンスだったらしい。狙いは背骨。技はまだ荼毘には一度も見せていない手札である『凱風快晴飛翔蹴』だ。背骨をへし折る覚悟で蹴りを放ったのだが、荼毘による“お父さん”発言で妹紅の手元…ではなく足元が狂ってしまった。

 更に、いつの間にか白髪になっていたので、“もしかしたら人違いなのかも”と妹紅は一瞬考えてしまったのである。それで蹴りを外してしまった。

 

「それで、荼毘の言っていたことは本当なのか?」

 

「…本当だ。荼毘は…荼毘は死んだと思っていた轟家(オレ)長兄(アニキ)、燈矢だった…!」

 

 焦凍は苦虫をかみ潰したかのような表情で答えた。真実であることはエンデヴァーの様子からして間違いないだろう。焦凍としても彼の雰囲気にどこか懐かしさを感じていた。特に、あの憎悪に燃える瞳は小さい頃に見たような記憶がある。間違いない。ヴィラン連合の荼毘は実兄の燈矢だったのだ。

 一方で、当の荼毘はというと彼は彼で戸惑いを感じていた。妹紅対策で余分に足を燃やしてまで街に放火をしたのだ。だというのに追いつかれていては意味がない。その理由を荼毘は少し考えて、そしてすぐに思い至った。

 

「何故こんなに早く…ハハハ、そうか!お前、火災を無視して俺を追ってきやがったな!何人見殺しにしたんだ?今この瞬間にも多くの人間が焼かれて死んでいっているだろうな。ひでぇことしやがるぜ!それでもヒーローかよ!ハハハ!」

 

「ふざけんな!テメェが放火したんだろうが!」

 

 荼毘は大笑いをしながら妹紅を責めた。それに焦凍が激怒するが、荼毘はどこ吹く風だった。

 彼には確信があったのだ。『あの藤原妹紅が燃やされる一般人を見殺しにするはずがない』という信頼にも似た自信があった。何故ならば、彼女は荼毘すら認めざるをえないほどのヒーローだから。故に、街に放火すれば妹紅は絶対に追って来られない筈だった。ホークス並のスピードで救助活動を行ったとしても、少なくとも1時間程度は足止めできる予定だったのだ。

 だというのに、荼毘の予想に反して妹紅はすぐさま追ってきた。時間的に考えると救助を無視して飛んできたに違いない。放火の大元である己を絶つために、だ。小を捨てて大を救おうとするその姿の、なんと滑稽なことか。藤原妹紅といえども人の命を数字でしか見ていない凡百のヒーローでしかなかったのかと、己の見る目の無さも含めて大笑いしていた。

 

 しかし、である。無論そんな訳がない。妹紅は飛行してきた空を指差すと、実に落ち着いた様子で語った。

 

「空模様、気付かなかったのか?」

 

「はァ?空がどうしたって…何だあの雨雲は…」

 

 未だ嘲笑を浮かべている荼毘は罠を警戒しながらも妹紅の指さす方向を見る。直後に彼の顔から笑みが消えた。空が、先ほどまで何の変哲も無かった空が巨大な黒雲に覆われているのだ。まるでゲリラ豪雨を降らせる真夏の積乱雲のようだ。実際、既に大雨が降っているのだろう。巨大で黒い雲から雨柱が生えている様子が遠目からでもハッキリと見えていた。

 

「大阪湾の海水を蒸発させて雨を降らせたんだ。お前の炎はもうほとんど鎮火しているよ」

 

「この…バケモノがよォ…!」

 

 荼毘はそんな言葉しか絞り出せなかった。規格外なんて簡単な単語では説明できない。ナニカが狂っている。そう思ってしまった。

 元々、荼毘はステインを基準とした線引きの中で藤原妹紅という存在を高く評価していた。更に彼女の火力の凄まじさには同じ炎熱系として尊敬の念を抱いていたし、阿呆な父を持ったという点にはある種の親近感もあった。

 だが、それらが全て吹き飛んでしまった。真の超人に対する恐怖。もしかしたらエンデヴァーがオールマイトに対して抱いていた感情は、今の己が妹紅に対して抱いているソレと同じだったのかもしれない。そう思い至ってしまった荼毘は酷く嫌そうに顔を顰めていた。

 

「さてと」

 

「待ってくれ藤原。お前は死柄木の方を頼む。荼毘は…燈矢兄は俺が倒す!」

 

「む…」

 

 話が長くなりすぎた。奇襲の一撃で決める予定だったのに、もう十秒以上も浪費してしまっている。無駄すぎる時間だ。さっさと荼毘を倒そうと動こうとする妹紅だったが、それを焦凍が止めた。

 妹紅は一瞬考える。荼毘討伐にかかる時間は30秒…いや、奴の謎のしぶとさを考えると1分程度か。消費体力は1%以下だろう。平時の妹紅なら『え、なんで?私が戦う方が個性の相性良いでしょ』と言って速攻で荼毘に襲いかかっていたに違いない。何故ならば、轟家の因縁と戦闘行為は全くの別モノだから。必要なことは“如何にしてヴィラン被害を最小限に抑えるか”であり、そこに個人の因縁が介入する余地があってはならないからである。

 

 しかし、今は状況が異なっていた。現在、妹紅は非常に疲弊している。また、死柄木との戦闘も控えていた。この更地となった蛇腔市を見れば分かるが、荼毘の放火よりも死柄木の『崩壊』の方が遥かに大きな被害を生むだろう。

 加えて荼毘は妹紅と戦ってくれない。個性の相性的に必ず負けるため、最初から逃走と妨害(いやがらせ)に全力を費やしてくる。というか、実際に群訝山荘の戦いで逃げられてしまったから妹紅は荼毘を追いかける羽目になったのだ。

 ならば、と妹紅は焦凍の案を聞き入れた。

 

「分かった。荼毘は雑魚だが狡猾だ。逃げられないように気をつけろ。倒した後はすぐに13号先生の所へ。もしくは13号先生を呼べ。理由は分かっているな?」

 

「ああ、分かってる――って、もう行っちまったか」

 

 妹紅はそれだけ言い残すと焦凍の返事も聞かずに飛び立った。この蛇腔には荼毘だけでなく『AFO』の個性を丸ごと移植された死柄木も居ると無線で聞いている。ならば、この戦場で最終的な鍵となるヒーローは13号なのだと妹紅は考えていた。

 

「……。雑魚とは言ってくれるぜ。まぁいい、遊ぼうぜ焦凍!」

 

 炎熱無効の妹紅からしたら確かに荼毘は雑魚だ。だが、その雑魚がエンデヴァーと焦凍を焼き殺し、彼らの死体を見せつけたら彼女はどんな顔をするだろうか。激怒して己を焼き殺すかもしれないが、どうせ明日を捨てた身である。むしろ、あの藤原妹紅が人間を殺める瞬間を特等席で見られるかもしれないと思うと、それはそれで楽しみだと荼毘は笑った。

 無論、その前に焦凍の死体をエンデヴァーに見せつけなければならない。その上でエンデヴァーを殺める。それが荼毘として生まれ変わった己の証なのだと彼はそう信じていた。

 

「そうかよ…!俺だって…!俺だって一緒に遊びたかったんだよ、クソ兄貴!」

 

 一方で、焦凍の脳裏には幼い頃の景色が蘇る。涙が浮かんだ。燈矢、夏雄、冬美。彼らが外の庭で仲良く遊ぶ様子を焦凍はいつも家の中から羨ましく見ていた。いつかあの輪の中に入れることを焦凍は夢みていたのだ。

 だが、それはもう二度と叶わない。燈矢は罪を重ねすぎてしまったから。荼毘となってしまったから。

 焦凍は涙を拭うと拳を強く握った。きっとこれが最初で最後の兄弟喧嘩になるだろう。そう思うと哀しくて苦しくて、また涙が溢れそうになってしまった。それでも彼は立ち向かう。兄を止めるために、言葉を交わすために。焦凍は正面から家族と向き合うのであった。

 

 

 

 

 

「両手両足グチャグチャになっちまったなァ、緑谷。そろそろ諦めろよ」

 

「まだ…だ…!」

 

 緑谷と死柄木の戦いは凄惨を極めていた。緑谷の手足の骨折箇所は数えきれないほどであり、何本かの白い骨が皮膚突き破って鮮血を垂れ流している。その痛みは想像を絶するものなのだろう。緑谷の顔には大量の冷や汗が浮かんでおり、口元には嘔吐の跡さえある。一方で死柄木は無傷であり、楽し気な笑みすら浮かべていた。

 現在の戦況は一方的に見える。だが、最初の攻防では緑谷が攻めていたのだ。相手を『黒鞭』で空中に固定しながらデトロイトスマッシュ、テキサススマッシュ、デラウェアスマッシュ、マンチェスタースマッシュ、セントルイススマッシュ、ワイオミングスマッシュ、などなど。緑谷は100%のパワーで、いや、それ以上の力を込めて必殺技を死柄木に叩き込んだ。それは間違いなく大きなダメージを与えていた。

 しかし、死柄木は『超再生』で回復する一方で、緑谷は100%スマッシュの反動を受ける。そこに更に死柄木からの反撃も加えられたことで圧倒的な劣勢となってしまった。それでも今の段階で緑谷がギリギリ戦えているのは四代目継承者の個性『危機感知』が溢れ出てきたからである。この個性は己に対する敵意に反応することができる。だが、その代わりに頭痛などの大きな負荷も背負うことになってしまった。

 手足骨折による激痛に、脳を刺すような強烈な頭痛。常人ならばとっくの昔に失神しているレベルの痛みだ。それでも緑谷は耐えてみせた。彼に諦めるという選択肢は元より存在しない。手足が潰れて使えなくなったのならば口を使えばいい。蛙吹のような舌を使って戦う要領(フロッピースタイル)で緑谷は口の中から『黒鞭』を伸ばして死柄木を拘束し直した。この男だけは絶対に地上に降ろしてはならないのである。

 

「口まで使うなんて随分と健気だな。だが、死なない程度に痛めつけるのも中々大変なんだ。まだ『OFA』を奪えてねぇんだから、そのままポックリ逝かないでくれよ?」

 

 死柄木は笑いながら軽口を叩いた。態度も発言も余裕綽々といった様子だが、内心は少々違う。彼は緑谷との戦闘にどこか違和感を覚えていた。

 戦闘中、死柄木は死角からの攻撃を何度も仕掛けたが、何をどうやったのか緑谷は避けてみせたのだ。精々、攻撃が掠めるだけで真の直撃は一度もなかった。疑問に思って『サーチ』で視ると『OFA』の中に感知系らしき個性が有ったのだが、それがどうにもハッキリとは視えない。恐らくは新しく発現したばかりで中途半端な状態なのだろうと死柄木は推測していた。

 その謎の感知個性(『危機感知』)が鬱陶しいと思うと同時に、大したことはないと彼は判断した。理由は単純だ、感知されても避けられないような攻撃をすれば良いだけなのだから。むしろ、勢い余って緑谷を殺してしまわないかの心配の方が死柄木としては大きかった。

 そんな彼と同様に、緑谷も死柄木との戦闘で気付いたことがあった。

 

お前だって(ふぉあえあっえ)再生が遅れている(あいふぇいあおうえぺいう)…。限界が(えんあいば)近いはずだ(いふぁいあぶだ)ここで(ふぉふぉで)お前を止める(ふぉあえふぉおえう)…!」

 

「プハハッ、何言ってるか分かんねー。お、そうだ。手足をもぎ取った後は両目を抉り出して、喉も潰してやろう。流石にそこまでやりゃ頑固なお前も諦めるだろ」

 

「ン゛ン゛ン゛!」

 

 再生速度の遅れ。死柄木自身でもまだ感知できなかったソレに緑谷は気付いた。再生してもダメージは未完成の身体に僅かながら蓄積されていたのだ。しかも、幸か不幸か死柄木はこれが聞き取れなかったようである。

 しかし、どちらにしろ緑谷が絶体絶命のピンチの中にいることに変わりはなかった。拘束している『黒鞭』を死柄木はブチブチと振り払っていく。緑谷は力の限りを尽くすが死柄木の力は強く、じきに完全に振り払われるだろう。ならば体当たりか頭突きか、それとも潰れた手足を更に潰すか。

 緑谷が苦渋の選択を迫られた、正にその時である。上から声が降ってきた。

 

「緑谷、悪いがそのまま捕まえていてくれ」

 

「ッ!!」

 

 その言葉に緑谷は即座に攻撃を取りやめて『黒鞭』を継ぎ足した。追加の『黒鞭』は死柄木の右手に絡みつく。直後に上空から妹紅の火の鳥が迫ってくる。

 同時に死柄木も危機を察知する。しかし、胴体に巻き付いていた『黒鞭』は取り除ききれたものの、追加で右手に絡みついた分は残っている。それを払いきる前に深紅の火の鳥がやってきた。

 

「うお、アッチぃ」

 

 火の鳥に飲み込まれる直前に死柄木は自ら右腕を引き千切った。彼はそのまま回避するも、火の鳥を完全には避けきれず半身を業火で焼かれる。しかし、怪我は『超再生』で回復するため死柄木は気にも留めていなかった。

 その間に、妹紅は緑谷に視線を向けて合図を送っていた。“ここは任せろ。お前は退いて治療しろ”の意だ。通じたらしく緑谷は意識朦朧とした様子で頷くとフラフラと降下していった。

 

「って、おい。何でお前がココにいる?俺の『サーチ』ではデカい光で『不死鳥』が視えていた。そんなのが大きな動きをみせれば、戦闘中とはいえ俺もすぐに気付けるはずなんだが…。一体、どうやって『サーチ』から逃れた?」

 

「…?何の話だ?」

 

 火の鳥と共にやってきた妹紅に、死柄木は『エアウォーク』で空中に留まりながら話しかけた。

 死柄木の疑問は妹紅そのものにある。つい30分ほど前に『不死鳥』を“視た”時は、彼女の光は間違いなく群訝市にあった。遠地だった為にその後は注視していなかったが、まさかその光がいつの間にか消えているとは思ってもいなかったのだ。

 そんな疑問を死柄木は妹紅にぶつけてきたが、彼女は意味が分からずに眉をひそめていた。妹紅本人にもそんな意図などは無かったのである。

 

「無意識だと?それともブラフか…いや、俺の方に問題があるとしたら…チッ、そうか。『サーチ』には上限人数みたいなものがあったのか。調子に乗ってヒーロー共を“視”すぎたぜ」

 

 死柄木は察した。そう、彼は『サーチ』という個性への理解が浅かったのだ。元の持ち主のラグドールですら維持できる人数は100人程度が限界。だというのに、死柄木はそれ以上の数のヒーローたちに対して次々と使ってしまった。それ故、気付かない内に妹紅の情報までもが上書きされてしまっていたのだ。

 もしかしたら特定の相手が上書きされないよう別枠に保存しておく手段もあったのかもしれない。だが、『サーチ』初心者の死柄木にはそんな発想すらも無かったのである。

 

「まぁ、『サーチ』についてはもういい。今、“視”直したからな。それより俺が呼んでいたギガントマキアをどうした」

 

「あの巨人か?倒した。弱かったぞ」

 

「…そうかよ」

 

 妹紅の挑発じみた返答に、死柄木は眉間の皺を深くさせながらも頭の中では得心していた。彼もマキアにはせめて『超再生』くらい付けておけよと内心思っていたクチである。やはり大火力持ちの妹紅が相手では相性が悪かったようだ。

 

「他の連中は」

 

「幹部はほとんど倒した。数人には逃げられたが、それも時間の問題だろう」

 

「ありえねぇ。トゥワイスが居ればどんな戦力差だって引っくり返せるはずだ」

 

「トゥワイスは、死んだ」

 

 彼の件だけは妹紅も顔に影を落として答えた。

 そんな彼女の様子を見て、死柄木は嘘ではないと信じた。そもそも群訝に居た妹紅が蛇腔に来ているという時点で、あちらのヴィラン戦力はほとんど潰されたということを意味しているのである。ならばトゥワイスの死亡も事実なのだろうと死柄木は思っていた。

 

「そうか。()ったのは…お前じゃねぇな。どうせホークスあたりだろう。あのバカ、絆されやがって…」

 

 捕まった連中はまだいい。護送車だろうが刑務所だろうが襲って解放してやればいいだけだ。タルタロスだけは流石に手こずりそうだが、防御の要である機械類は『電波』で潰せる。むしろタルタロスに収監されているAFOの存在の方がイレギュラーとなる可能性は高いだろう。

 しかし、それらは彼が生きていればのこと。死んでしまっては死柄木にもどうにもできない。仲間(トゥワイス)が死んだ。マグネに続いて2人目だ。その事実に死柄木は少なくない喪失感を抱いていた。

 

「はぁー。…なぁ、ところで随分と俺のお喋りに付き合ってくれるじゃねぇか。いつものお前なら無駄な会話なんてしねぇだろうによ。目的は…時間稼ぎだろ?」

 

「……」

 

 溜息を吐きながら死柄木は言った。ご名答である。その瞬間から妹紅は口を閉ざした。

 妹紅の狙いは時間稼ぎだった。その理由は複数ある。まず、重傷の緑谷をもっと遠くに避難させるため。加えて、崩壊した建物に巻き込まれた人々の救助を進めるため。他にもあるが、何よりの理由は――。

 

「かなり疲弊してるな。『サーチ』で視なくたって分かるくらいだぜ。一呼吸でも多く休憩して体力(キャパ)を回復させたいってところか?アッチでもコッチでも大人(ヒーロー)どもの尻拭い、ご苦労なこった」

 

「……」

 

 この蓄積した疲労が最大の理由である。正直、今の妹紅は非常に疲れていた。携帯食を移動中に食べきってエネルギーの補給はしたが、それだけで体力が全回復するほど人間の身体は単純ではない。できればゆっくりと休憩を取りたいところだったが、状況がそれを許さなかったのである。

 故に、呼吸だ。たとえばアスリートも呼吸を重要視している。酸素を多く取り入れるだけではない。深い呼吸は副交感神経を優位にさせ、筋肉の緊張の緩和と乳酸の代謝を促進させるのだ。

 妹紅は静かに、それでいて大きな深呼吸を繰り返して体力の回復を図っていたが、死柄木はそれを看破していた。

 

「だが、悪手だったな。俺は『超再生』と『超回復』を併用して回復している。加えて改造された肉体は個性なしでオールマイトに匹敵するレベルだ。回復速度はお前の比じゃないのさ」

 

「……」

 

 それは死柄木の自慢、もしくは妹紅に対する挑発や煽りのつもりだったのだろう。だが、彼女は気付いた。

 すなわち、死柄木には回復速度の概念がある。脳無のようにほぼ無限に『超再生』する化物とは違うということだ。中途半端な改造人間ともいえる。だからこそ『超再生』を『超回復』でカバーしているのだろう。ならば、妹紅にもやりようがある。

 無論、それが死柄木のブラフでなければ、という話ではあったが。

 

「ったく、時間稼ぎがバレた途端にダンマリ決め込んで呼吸に全振りかよ。行動がいちいちムカつくぜ。まぁいい、お前の『不死鳥』は俺が貰う。お前は特別に火の鳥で焼き殺してやるよ。あとホークスも。アイツはじっくり時間をかけて焼き鳥だ」

 

「……どうやら理解できていないようだから教えてやる」

 

「お、何か喋る気になったか?いいぜ、聞いてやるよ」

 

 イラ立ちながらも軽口を止めない死柄木に、ようやく妹紅も口を開いた。

 彼女は可能な限り冷静沈着であろうとしていたのだ。強い感情は思考力を奪う。また交感神経を刺激してしまい心身にも負担がかかる。だから、妹紅は怒りを鎮めようとしていた。

 だが、妹紅は炎翼で急行する最中、『崩壊』によって崩れた多くの建物を見た。苦しみ泣き叫び助けを求める大勢の人々の声を聞いた。妹紅が冷静でいられるはずがなかったのだ。

 

「今、私は、お前以上に、怒っている。それだけだ」

 

「そーかい。そんじゃあ…死ね!」

 

「やってみろ!」

 

 死柄木が『不死鳥』を奪わんと突っ込んで来る。同時にブチ切れた妹紅も全身に業火を纏わせて彼に向けて突進する。

 ここに熾烈を極めた戦いが始まるのであった。

 

 




実は体力ギリギリ妹紅 VS 実は肉体ボロボロ死柄木
ファイっ!!

『超再生』と『超回復』
 『超再生』は黒脳無も持っているいつもの個性。『超回復』の個性は詳細不明だが、原作29巻で死柄木が所持を明言している。恐らく『超再生』のリスクをカバーするための個性なのだと思われる。
 なので、ここでは『超再生』のリスクは体力消費であり、『超回復』は体力を回復するタイプの個性にしようと思います。なお、回復量にも限界があり、現時点でも緑谷の攻撃でそれなりに削れている模様。それが『超再生』の再生スピードにも影響を与えている感じ。




街へ放火された際、妹紅の行動に対する荼毘の反応一覧

・救助活動を無視して荼毘を追いかけた場合
荼毘「クソ以下。もこたんのファン辞めます」

・荼毘を追わず、救助活動に尽力するも火災被害が出てしまった場合
荼毘「お前はそんなものだったのか?どうやら過大評価だったようだぜ」

・荼毘を追わず、救助活動に尽力して火災被害がほとんど無かった場合
荼毘「予想通りだ。まぁ、このくらいはやるだろうな」

・救助活動をしながら荼毘も追う。火災被害をほとんど出さず、かつ、荼毘の蛇腔到着から一時間後くらいに到着した場合(荼毘の常識内)
荼毘「流石だぜ!お前がNo.1ヒーローだ!それに比べたらエンデヴァーはカスや!」

・今回の場合(救助活動しながら荼毘も追う。火災被害皆無、かつ、荼毘の蛇腔到着とほぼ同時刻に到着した場合。荼毘の常識外)
荼毘「バケモノがよォ…!」

・全盛期オールマイトの場合(最高移動速度はマッハ10以上←公式設定。放火された炎をパンチで吹っ飛ばす。ついでにパンチで上昇気流を起こして雨も降らす。荼毘はいつの間にか確保されてる。これらをファンと記念撮影したり、車の交通事故を未然に防いだり、木から降りれなくなった猫ちゃんを助けてあげたりしながら一瞬でこなす)
妹紅「バケモノがよォ…!」
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魔女のヒーローアカデミア(作者:陽紅)(原作:僕のヒーローアカデミア)

 原作が始まるおよそ一年前。雄英高校ヒーロー科一年のあるクラスは、在籍生徒不在のため事実上消滅した。▼ しかし、入学した二十名の中で、篩にかけられ除籍となったのは……『十九名』。▼ ……篩にかけられ、しかし唯一残ったその有精卵は……▼「というわけで、留年だ」▼「…………はい?」▼


総合評価:21241/評価:8.51/連載:45話/更新日時:2022年08月20日(土) 08:42 小説情報

ヒーロー志望のお狐さん(作者:広瀬狐太郎)(原作:僕のヒーローアカデミア)

金色に輝く9本尻尾を持つ、個性"九尾狐"の少年、狐条優幻(こじょうゆうま)がヒーローになるべく、雄英高校1年A組で過ごす日々を描きます。▼基本的には原作に沿いながら進みます。▼※独自解釈が大量に含まれます。▼※Pixvと同時に投稿しています。


総合評価:5444/評価:8.41/連載:54話/更新日時:2022年10月13日(木) 21:47 小説情報


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