歪な英雄 作:無個性者
一人につき一つ発現する能力「個性」。
4歳までに発現する‥だが、極々稀に発現しない者が居る。
それは無個性と呼ばれ、蔑称とされていた。
そんな無個性者が彼、
「ハ、ハ、ハ」
呼吸を意識しながらランニング。
これは彼が毎日欠かさず行っていることの一つである。
現社会には過去に超能力とも言われた個性を扱い、悪事を行う
基本的にヒーローは皆個性者で、無個性者はいない。サポート役のサイドキックだってそうだ。
でも、それでも彼はヒーローになりたくて自分なりに体を鍛えていた。
そんな彼に後ろから走り寄ってくるものが居た。
「おはよう、出久くん」
「あ、おはよう
白い長髪、色素の薄い青い瞳と、同じように真っ白な色の肌の美少女。
「今日も頑張ってるね」
「あはは、うん。もうすぐ受験も近いから」
「そうだね。絶対合格しよう」
将来有望なヒーローを育て上げる高校、雄英。無個性者である出久が合格できるなんて、クラスメイトも先生も‥‥彼の親ですら思っていない。
個性があるからこそヒーローが務まるのだと、そう認識がしみ込んだ社会だからこそ当たり前の現実として厚く高い壁となって出久の前に立ちはだかっている難問である。
だが、彼女は違った。出久ならヒーローになれる、貴方がヒーローになればNo.1だって夢じゃないよ、と応援し続けてくれている。
なんでそんなことを言ってくれるのかなんて出久はまるで知らないが、そんな彼女は出久にとって精神の主柱と言っても過言ではないほどに大事な幼馴染だ。
「よーし、じゃぁ何時も通り分かれ道まで競争しよう!」
「うん、いいよ」
☠
六道紫にとって、緑谷出久はヒーローだ。
社会がどれだけ彼を否定しようとも、現実がどれだけ彼を認めなくとも、それだけは彼女にとって譲れない彼女だけの事実なのだ。
彼女の家、六道一族は少し他の者と事情が異なっている。
曰く、大昔から個性を有していた。
曰く、大昔から個性者を陰ながらに対処してきた。
曰く、大昔には大勢を死なせた
あり得ないと大勢が言う。でも現実なんだと、六道家の長子は知っている。
六道家の長子には、必ずある個性が発現する。
例え片親が別の個性であっても、必ずその個性が発現するのだ。
その個性は、【骨の無限創造】およびその操作だ。
この個性も、専門家からすればあり得ないの一言が返ってくる。
無限など、人が行える所業ではない。カルシウムなり何なり、消費があって初めておこなえるのだと。
「でも、違うんだよね‥‥」
調子を確かめるように身体から骨を生やし、戻しつつ彼女は身支度をする。
夢を見る。必ず、起きる直前に成るとその夢を見る。
―ノロイアレ―
大きな髑髏の怪物がそう言って自分を飲み込もうとする、そんな夢。
彼女は、一族は知っている。これは個性ではない、「呪い」なのだと。
子々孫々と受け継がれてきた呪いは、現代社会においても六道一族を蝕んでいた。
過去に骨をどれだけ出し続けられるかという実験を行ったらしい。
その時のことは書物にすら保存されていないが、現在の六道家でも口頭で伝えられていることだ。
「絶対、二度と行ってはいけない。災厄を蘇らせることになりかねない」
何があったのかはわからない。だが、とんでもないことがあったのは確かなのだろう。
確かめる気は誰にもなかった。
今は個性が現実に溢れ、六道家もそんな個性者だと思われている。平和と言えば平和なのだから、「災厄」とまでよばれる厄介事を起こすような面倒はする必要ないのだ。
「…個性、か」
これは個性なのだと、貴女の一部なのだと言われてきた。
家族には呪詛なのだと、貴方は怪物なのだと言われてきた。
彼女はコレが何なのか、わからなくなっていた時期がある。家族にあたり散らし、周りの人間を羨ましくも疎ましく遠ざけていた時期があった。
そんな彼女と友人になってくれたのが、緑谷出久だった。
出会いは偶然。小学生になり数年、同じクラスになった時のことだ。
「クソナード」「無個性」「ザコ」
そんなワードを拾った彼女がふらっとその場を覗いたことがきっかけ。
そこにいたのは、苛められている少年を庇う、これまた苛められっ子の少年だった。
彼は掌からパチパチと火花を散らせている虐めっ子に対して、抗議して苛められていた者を庇っていた。
「無個性のくせに、ヒーロー気取りもいい加減にしろやデク!」
殴られながらも庇うことを止めない彼をみて、自然と脚が進んでいた。
イジメっこを捕縛し、壁に縫い付け無効化。想っていた以上にあっさりすんだことを覚えている。イジメられていた子は庇われている間に逃げていた。
でも、それ以上に……。
「ありがと、すごいね!」
そう言ってくれた彼の綺麗な瞳を覚えている。
「……キミの方が、凄い」
「僕なんて、全然」
「ううん。凄い、立派」
拾えた言葉から察するに彼は無個性、力のない人。
なのに、力ある人に立ち向かえるのは凄いことだと称賛した。
「キミがヒーローになったら、きっとナンバーワンになれるよ」
「そ、そそそそんなことないよ!!?」
そんなことがあるのだと、彼女は知っている。
強い力に勇敢にも向かっていけるのは凄いことだと、彼女は知っている。
――だって私は、あの髑髏に何も、言い返すことすらしたことがない。出来たことがない。
そう言いかけた自分を自重する。
でも、きっとそう出来る人こそ
「あ、ありがと‥えっと、ろくどうさん?」
「‥‥わたしのこと、知ってるんだ」
「アハハ、うん。まぁ色々みんなが話してたから」
きっとよくない噂だとすぐに察せた。
入学して数か月になるのに、彼女には一人も友人がいない。
答えは簡単、彼女が避けているからだった。基本喋らず、関わらず、虐めに似たことをされても無視か倍返しをし続けていた。
「え、えっと、聴いてた話しと、全然違ってイイ人だね!」
物静かな彼女で何も言わないのを落ち込んだと思ったのか、元気づけるように早口でまくし立てた。
突然なんなんだろう、きょとんとする彼女を置いて彼の口はスピードアップを続けた。
「さっきのを見るに骨の創造の個性なんだろうけど、飛ばしたり動かしたり操作ができる素晴らしい個性だよね。かっちゃんの爆破を抑えるのに凹型の杭を作ったり自由度も凄くて、しかもそれで怪我させずに縫い付けちゃえるなんて凄いよね!しかも刺せたってことは硬度はコンクリート以上ってことだし、もしかして自由に硬さを変えられるとかかな?量や大きさだって自在となると本当に強力だと思う。それに六道さんの白髪と真っ白な肌は扱う骨の白さとあいまって純白、無垢って感じが似合うよね。ヒーローになるならきっとそういうイメージを持たれる素晴らしい人に成ると思うよ。きっと女の子に人気、いや骨の使い方は格好良かったしきっと皆に好かれるんじゃないかな?ううん、絶対なるよだって六道さん綺麗だからすっごく魅力的な――ムグッ」
「ストップ、待って、ちょっと待って」
口を掌で抑えて、出久を黙らせる。
前半は個性だと思われた骨の事だったが、後半になるにつれヒートアップの仕方がおかしい。
(なんでこんな褒められてるの私、純白?無垢?え、なにそれ?)
異性に抑えられて出久は真っ赤になっているが、紫はそれ以上だった。元の白さも相まって赤くなっているのが目に見えて丸わかりだ。
「褒めてくれるのは嬉しい、けど、私はヒーロなんて向いてない」
「そ、そんなことないよ!」
「‥‥キミは、ヒーローになりたいの?」
「う、‥‥うん。無個性だけど、何の力もない、んだけどね…」
ハハハ、と力なく哂う彼を面白くなく思った。
力なんてなくても‥。
「キミは、ヒーローになれるよ」
「え‥‥?」
「きっと誰より優しい、そんなヒーローになれる。力がある人だけがヒーローになれるなんて私は思わない。むしろ、そんな暴力的な者の中に、キミみたいな優しいヒーローが居ても、私はいいと思う」
「……」
「‥‥?」
「ぐすっ」
「え、え!?」
呆然となった彼を見て、拙いことを言ったかと思ったその時‥‥出久が泣き出したのを見て大慌てになった。
「ご、ごめんね、何か嫌なことを」
「ち、ちがく、て、あの、う」
「落ち着いて、えっと、あっち行って話そ」
その場を離れ、ベンチに座る。とっくに昼休みが終わる直前だったが、もうそんな場合ではなかった。
「ぼく、無個、性で、ヒーローに、な、なれないんだって、言われてきて、ぼくも、思ってて‥‥だから」
だから、嬉しいのだと。喜びの涙なのだと、涙声で必死に伝えてくれた。
「ありがとう」
きっと、この瞬間だったのかもしれないと、後に彼女は語る。
彼を支えたいと思った、彼を見て居たいと思った、理由は何でもいい、彼の近くに居たいと思った。
胸が痛い、心臓が煩い、凄く緊張してきた。
これに比べれば今までの自分の不幸も不運もちっぽけに想えてきた。
一体何なのだ、とその時の彼女は思った。
あれから数年、今となってはそれに対して相応しい単語を貼り付けられる。
その人を常に想い、胸には常に耐え難い激痛。これに比べればあらゆる苦痛がちっぽけだと言いきれてしまう。
そう、これは――「初恋」なのだ。
☠
これはヒーローに憧れる少年、緑谷出久とそんな彼に惹かれる少女、六道紫。二人が
初めまして、極々普通の無個性者な作者です。
と、いうわけで歪のアマルガムの設定を色々改変してヒロアカにぶち込んでみました。
筆が乗ったり、少しでも良かったら続きを書くかも?おだてられれば木に登る作者です。
そんなわけで、感想お待ちしてますm(__)m