歪な英雄 作:無個性者
昼休みになり、出久、紫、飯田、麗日、轟、芦戸の六人は一緒に学食で昼食をとっていた。此処雄英の学食はランチラッシュというヒーロー主体で回しており、質も量もぴか一である。サポート科や経営科と言った他科の生徒も集まり大賑わいで行列ができているが、それでも大して待たなくていい速度を維持して料理を作り続けている辺り、さすがプロという事なのだろう。
「委員長かぁ……務まるかなぁ」
「出久くんなら大丈夫だよ」
「そうそう、だいじょーぶ!」
「ツトマルツトマル!」
「大丈夫さ」
「……まぁ何とかなるだろ」
何時ものように出久に微笑む紫、元気に明るい芦戸、ご飯をおいしそうに食べている麗日、冷静な飯田にぶっきらぼうながらも返事をしてくれる轟。
このメンバーを集めたのは、意外なことに紫だった。
理由は単純で、出久に票を入れた人を予想した彼女が出久が選ばれた理由を教えてあげられる機会を作ろうとしたからである。
「緑谷くんのここぞという時の胆力、判断力は多をけん引するに値する。だから投票したんだ」
「……少なくとも、まだまだ考えが足りない俺が今やっていい役じゃないと思っただけだ」
「授業の時は話聞かなくてごめんねー。でもあの爆豪くん相手によくやったよ、もっと自信持っていいって!」
「そーそー、緑谷くん凄いモン。受験の時も授業の時も頑張ってたし!」
「受験って何したの?」
「あぁ、彼は実技試験が始まるその前に、試験の救助Pに気付いていたんだ‥‥僕はそれに気づけなかった……!!」
「「「「僕?」」」」
悔しそうに呟く飯田のその一人称に、轟以外の全員が反応した。
「ちょっと思ってたけど飯田君って坊ちゃん?!」
「おぉー!」
「……そう言われるのが嫌で一人称を変えていたんだ。俺の家は代々ヒーロー一家で、俺はその次男だよ」
「凄ーい!」
「……」
一瞬轟が飯田に視線を向ける。
何か思うことがあったのだろうが、特に会話に混ざらずそばを啜っていた。
「東京に事務所を構えているターボヒーロー「インゲニウム」というヒーローでな。それが俺の兄なんだ」
「ターボヒーロー、インゲニウム!65人もの
「流石詳しい」
「緑谷くんヒーロー知識凄いね!」
「もはや芸かな?」
「アハハ」
「まぁともかく、俺は兄に憧れてヒーローを志したんだが。未だ俺に人を導く立場は早いと思う。上手の緑谷くんが就任するのが正しい」
出久の投票の話から、少しずつ会話がずれていって行ったその時、校舎中に警報が鳴り響いた。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』
アナウンスが行われ、生徒が一塊になって動き出した。
セキュリティ3は侵入者在り、という報せらしい。雄英の先輩ですら初めてだと騒ぎながら移動していた。
(マズイ、避難経路は入学してからパンフで見ただけだ……! これじゃぁ)
出久の予想通り、避難訓練を経験していない1年や、初めてのことに大慌てになっている先輩たちによって出入口がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
「皆、動かないで!」
「え?」
「な、なんで?」
「む」
「……」
出久の声に麗日、芦戸が疑問の声をあげ、飯田と轟が何かに気付いたように座りなおした。紫は出久の背後に立ち、彼がどうするか見ていた。
「紫ちゃん、台を作ってくれないかな?」
「いいよ……ぁ」
これから慣れない事をしようとしているのだろう、緊張と不安で震えている出久の肩を、紫はゆっくり両手で押えた。
「大丈夫。出久くんなら大丈夫……貴方は此処にいる5人に選ばれたんだよ?」
「……うん、ありがと」
少し震えが治まった彼に微笑み返し、骨で3メートルほどの台座を作成する。
土台は押し寄せる生徒の邪魔にならないように、テーブルの上に造った。
そこに麗日の無重力で軽くなり、登って現状を把握する。
(……侵入者って、報道陣じゃないか!?)
今朝のがまだ残っていたのか、と驚きながらも窓ガラス向こうの光景から、
(……でも、報道陣がセキュリティを破った、のか?)
一瞬、そんなことをすれば門前払いを喰らう上に警察沙汰になることを察し、本当にこれが報道陣が起こした騒動なのか疑うが、今はそれは後回しだと考えなおす。
両腕に力を込め、
たかが10%と侮ることなかれ、言ってしまえばオールマイトの1割の力だ。大きな音と、軽い衝撃波が起こり、食堂中に響いて注目を集めた。
(う、ぁ)
ジロっと食堂に居た生徒、纏めようとしていたランチラッシュ等の視線が集まったのを肌で感じる。
今まで出久に向けられてきたのは、軽蔑や無価値なものを見る冷たい視線だった。
でも今は違う。同じ雄英生として、受験の段階で此処に
いったい何なんだ、という視線に固まるが、直前の紫の言葉を思い出した。
(そう、だ……僕は、選ばれた)
飯田は真面目で、委員長に向いていると思った。
麗日はその持前の優しさで引っ張っていける可能性を持っているし、芦戸だってあの明るさでクラスをけん引すれば、楽しい雰囲気を作ってくれるはずだ。
轟なんて推薦入学者で、きっと自分より色んなことが出来る人だし、紫だっていつも自分を立ててくれるけど、とても優秀な子なんだと誰より出久が認めている。
そんな彼らに認められたのだ。
(怖がってる、場合じゃないだろ僕!!!)
そう、こんな時はどうすればいい?
答えは何時も胸の中にあった。
――ニコッと、今の自分で出来る最大の笑顔を作る。
「だ、大丈夫です!只のマスコミです!慌てないで、落ち着いてください!!」
出久の言葉に窓側に居た生徒が「ホントだ、マスコミかよ」と呟きを溢したのをきっかけに、騒ぎが落ち着き始めた。
流石雄英、落ち着けばなんてことはない。転んだ生徒を起こし、互いに怪我が無いかの確認をし始める。
誰も怪我していないことが分かると、ゆっくり列を作って食堂を後にした。
その後の授業で他の委員を決めるとき、出久は珍しく言い淀んだりせずスムーズに決めることが出来たのは、この経験のお蔭だと後で紫に語っていた。
☠
次の日のヒーロー基礎学は少し変わった趣向をとって行われた。
相澤、オールマイト、そして13号という三人体制で見ることになった。
その授業とは――――
「災害水難なんでもござれ、
レスキュー。それは、ヒーロ-の本分ともいえる。全員がやる気に満ちながら、着替えの後に、移動するためバスに乗り込んだ。
出久のコスチュームは修繕中の為、体操服での参加となっていた。
(憧れに近づく為の訓練……!頑張るぞ!)
やる気満々の出久に、隣に座っていた女子が話しかけてきた。
カエルの個性をもつ、小柄な少女。蛙吹梅雨という少女だった。
「私、思ったことを何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」
「は、はい?蛙吹さん?」
「梅雨ちゃんと呼んで」
彼女には悪いが、長年紫以外全員苗字で呼んでいた出久には、そのハードルはかなり高かった。断る理由もないので頑張ってみることにする。
「あなたの個性、オールマイトに似てる」
「!?!?」
驚きを隠せない出久。
あの超パワーを見せたのは、受験と先日の授業の時の二回のみ。先日の屋内戦闘ではカメラに映っていたのも一瞬だったはず。
だが、やはりオールマイトと言えば超パワー。似ていると言われるのも仕方ないことかもしれない。
「えっと、ほら僕はバキバキになっちゃうし、似て非なるものだよ。あ、アハハハ」
「それもそうね」
内心冷や汗満載の出久。他の皆はともかく、紫にはバレタかもしれないとガクブル状態である。
「しっかし、増強型のシンプルな個性は良いな!派手で出来ることが多い!」
「切島君の個性だって十分カッコいいと思うよ?」
「でもやっぱヒーローって人気商売みてぇなところあるからさー、やっぱ分かり易いってのはいいと思うぜ?」
「硬化能力だって凄いよ。硬い、倒れないっていうのは一種の安心感があると思う」
個性の話、ヒーローの話。
出久にとっては紫としか出来なかった対話を出来る嬉しい時間となった。
「派手で強ぇって言ったらやっぱ爆豪と轟だよな」
「あの破壊力と殲滅力はやっぱなぁー」
「‥でも爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」
「んだとコラ、出すわ!!」
「出すってお前……早速キレてるし。いや、でもこの付き合いの浅さで、クソを下水で煮込んだ様な性格って認識されるってすげぇよな」
「何だそのボキャブラリーは!殺すぞコラ!!」
「……ヒーローが殺す発言、信じられませんわ」
「アハハ、でもこういうの好きだ私!」
爆豪がイジられているという今までの日常からは考えられないような体験もしつつ、バスは目的地へと到着した。
☠
そこは、一見するとテーマパークの様だった。
実際は水難事故、土砂災害、火事、遭難など様々な災害別に分けられた施設なのだが。
「あらゆる災害、事故を想定し、僕が造った演習場です。……その名も、
下手すれば訴えられかねない事を堂々と説明したのは、スペースヒーロー13号。
災害救助で活躍しているヒーローだ。麗日が大ファンらしい。
「……? 13号、オールマイトは?」
「先輩、それが……通勤時に制限ギリギリで活動してしまったみたいで、仮眠室で休んでます」
「不合理の極みだなオイ」
三本指を立てた13号の意味に気付いたのは、相澤と出久。
彼にはもう、一日ヒーローとして動ける時間が3時間ないのだ。
(そっか。今朝のニュースでも、活躍してたって報道があったっけ)
携帯で読んだ記事を思い出しつつ、より一層やる気を出す出久。
早く一人前になるためにも、訓練あるのみ。
「しかたない、始めるか」
「えー、では始める前にお小言を一つ二つ……三つ、四つ」
何故か増えていくその話を、全員が静かに聴く。
大ファンの授業という事もあり麗日のテンションが少し上がっているが、元気よく頷く位で大人しいものだ。
13号の話は、当たり前だがとても難しい事だった。
自分達が持っている個性は人を救えるが、同時に簡単に命を奪える危険なものでもある。今の超人社会は個性の使用を資格制にして、規制することで成り立っているように見えるが、結局誰もが危険な個性を持ったままだという事。
今までの授業で自分たちの個性の把握、それを人に向ける危うさを体験したからそこは十分に分かっているだろう。
「だからこの授業では心機一転!人命の為に個性を活用する術を学んでいきましょう!君たちの力は誰かを救けるためにあるのだと、心得て帰ってくださいな!!」
カッコイイ!とその場にいた誰もが思いながら、授業を開始しようとしたその時だった。
――ズズ……――
様々な施設に道が繋がっている中央広場。
そこに、黒いモヤのようなものが現れた。
―――ドクンっ
「……?」
何故か、それを見た紫の中で
そのモヤから出てきた悪意ある視線を受けて、更にその疼きが酷くなっていく。
「ひと塊になって動くな!!!!!」
相澤の言葉にハッとして、全員が13号をち中心にするように移動する。
「13号、生徒を守れ!」
切島が、入試の時の様なもう始まっているパターンかと動こうとしたのを、一喝して相澤が止めた。
「動くな! あれは、」
そう、あれは――。
「
――殲滅しなければいけない。
何故そんな言葉が浮かんだのかなんて、紫には分からなかった。
街中で遭う騒動とは違う。攻撃的なその悪意に、紫は思わず自分の腕を自分で握りしめた。
怖いからじゃなく、動かないために。
きっと今動けば自分はあそこに飛び込んでしまう。そんなことを確信するほど、強い衝動が彼女を襲っていた。
「オールマイト、いないのか?貰った情報と違うな……子供を殺せば来るのかな?」
掌を体中に纏わりつかせた、自分達より少し年上の青年の言葉にA組全員がゾッとしつつも、驚愕した。
これが、プロが実際に体験している現実なのだと。こんな殺意のなか人命救助を行っているのだと。
そんな中、同様に感じていた紫の中で何かが呟いた。
――コロセ――
奇しくも人命救助の授業に現れた
彼らと1-A、2名の教師の戦いが始まるまで、時間はかからなかった。