歪な英雄 作:無個性者
目の前の爆豪と切島が転移させられた直後、13号がブラックホールで吸い込んだおかげで、正面数名が転移を免れた。
六道、飯田、麗日、障子、砂藤、瀬呂の六名だ。
真正面から霧を噴出されたのが幸いした。360度囲まれていたら幾ら13号でも無理がある。
彼はブラックホールの個性を、指先から吸い込むように範囲を絞り込むような戦闘服を設計し制限している。そのため、意外と範囲攻撃を苦手としているのだ。
「……? 六道さん、大丈夫?」
ずっと腕を押え込んでいる紫を、麗日が気に掛けた。
紫の視線は虚ろで、どこか虚空を見つめているようだ。
流石に様子がおかしいと生徒の視線が集まる。そんな中、遂に掴んでいた腕から出血しだした。見れば掴んでいる腕から骨が創造され、掌と腕に突き刺さっていた。
「――!! 六道さん、手離して!?」
「六道くん、どうした!?」
「せ、先生なんか六道の様子が!?」
「落ち着いてください。大丈夫、私が守りますから。皆さんは六道さんを看ててください!」
邂逅する
「……それと、飯田くん」
「は!!」
「キミに託します。個性を使い、学校まで一直線に駆けて伝えてください」
「な!? し、しかし」
「皆を救うために、おねがいします」
「……!」
外に出れば警報機があり、少なくとも先生がいる。
誰かに伝えられれば、危機を伝えれば、
――オールマイトが、来る。
だが自分でいいのか、自分がこの場からクラスメイトを放って行っていいのか、と飯田が葛藤していると、瀬呂や砂藤、麗日が背を押した。
「イイから行けって!外に出れば何とかなる!」
「お前の脚ならあのモヤ振り切れんだろ!?」
「サポートなら私超出来るから!一気に加速しちゃって!!」
「見たところモヤを出す入口、最初の発生源はあの
「お願い、飯田君!!」
彼が決断をしたその時、紫の中で異変が起きていた。
緊張などしていない、怯えてなど決してない。
(ァ、ぅ)
――がしゃがしゃと、骨が蠢く音がする。
誰かが何かを言っている、何かが誰かを呼んでいる。
(ダレ……?)
誰かなんて分かり切っていたけれど、訊かずにはいられなかった。
今の今まで、
だから……返事が返ってくるなんて、想像すらしていなかった。
『『『我々は“がしゃどくろ”……戦乱の最中に誕生した、愛憎の妖』』』
思考に空白が生まれた。
煩い骨の音が響く中、男性の様な女性の様な、大人の様で子供の様な、老人みたいで赤ん坊みたいな声がはっきりと聴きとれた。
『殺せ、ころせ、コロセ!!』
『敵を!』
『戦乱の世を!!』
『平穏を壊す存在を!!!』
がしゃがしゃと音を立てながら、叫び散らしてくる。
「ァ、ァ……」
ダメだ、ダメだと必死に自分を抑える。
脳裏に一人の少年の姿を描き続ける。叫びに、嘆きに、慟哭に消されそうになりながらも必死に描き続ける。
ヒーローになるのだ、これに呑まれてはいけない。
そうして必死に抑え込む。
「先生――!!」
目の前で13号先生が自身のブラックホールを背後に転移され、自身を飲み込んでしまった。
―――怒りが沸き―――ダメ。
飯田が走りだし、A組の生徒がそれをサポートしている。
―――自分は無力?違う、ほラ、―――ダメ。
見下ろせる広場では、相澤先生が必死に闘っている。だが、限界はある。肘を崩された。このままではジリ貧だろう。
―――ワタシなら―――ダメ。
脳味噌丸出しの巨漢が手を体中に付けた男性の声に従って動いた。
本来なら視認することすらできない速度。それを
相澤先生の背後に現れる巨漢。速過ぎて、先生が気づいたときには逃れられない位置だ。
相澤先生の
そのまま先生を背後から地面に押さえつけ、そのまま――。
「それ、はもっと、ダメェェエエエエエエエエエエエエ!!!!!」
飯田が外に飛び出した、その直後。紫の悲鳴に似た声が空気を劈いた。
――――ダメ、ダメ、ダメ!
ヒーローだとか以前に、
「――!」
ゴォッ!!と、凄まじい風切り音を残して、紫の背後から現れた骨の巨腕が巨漢――脳無を襲った。
相澤を押え込んでいた脳無はそれを防ぐ挙動をとり、そのまま弾かれ壁に叩き付けられる。
「おいおい、マジかよ。対平和の象徴用の特注だぞ?」
呆然とした
相澤がピンチに陥ったのを助けたのは、ヒーローでもその卵でもなかった。
「う、グ、ガ――」
「ろ、六道、さん?」
ボロボロと、紫の瞳から何かが零れ落ちた。
それは何故か黒くなり罅割れた瞳周辺の皮膚と、涙。
「に、げ――――!!」
声にならない悲鳴をあげながら、彼女の左半身から骨が溢れ出した。
肉や皮膚が骨格を覆うように、さらなる骨によって骨がおおわれていき、巨大な白い左腕が生成される。
背中から生えていた巨腕もさらに太くなり、加えて巨大な骨の尾まで現れた。
右半身は生身のまま、左半身だけに巨大な腕と尾を無理やり付け足したような、歪な骨の化物に変貌する。
目は虚ろになり、重い身体を尾だけで支え浮いた。
「何だアレ。……やれ、脳無」
壁に叩き付けられたままピクリともしなかった巨漢が、青年の声に飛び起きた。
「……」
「ァ、ガ、ガ、ガガ、ガガガガガガガガ!!!!!!!」
巨漢は喋るという機能が無いのか無言のまま駆け出し、対する紫は壊れた声を撒き散らしながら尾で地面をたたき壊しながら勢いよく跳ねる。
悪意と敵意を相互に向けあい、平和を殺そうとする怪物と、命を守ろうとして怪物と化した少女がぶつかる。
☠
転移させられた者達の中で、いの一番に片が付いたのは土砂ゾーンだった。
芦戸と葉隠の前に一歩出た轟が
戦闘にすらなっていない。
「す、すごー」
「さっすがぁ!」
「……さて」
驚く葉隠とはしゃぐ芦戸を一瞥して、自分のやるべきことを行う。
殺す、と言ってきた割に連れてきた敵の強さは大したことが無い。精々チンピラレベルだ。
あの広場でヤバそうだったのは、手を体中に纏わりつかせていた男と、黒い靄の転移野郎、そして脳味噌丸出しでギリギリ人間
どれが切り札だかわからなかったが、少なくともこのチンピラ連中ではないことは察しがついた。
「なぁ、このままじゃアンタ等じわじわと身体が壊死していくわけなんだが」
「……!」
「え、えし!?」
「ちょ、轟くん!?」
敵も味方からもこいつマジでヒーロー科か!?という目で見られる。
今は勘弁してくれと思いつつ、言葉を紡ぐ。
「俺もヒーロー志望。そんなヒデェことはなるべく避けたい」
「なるべくって」
「十分酷いよ!?」
「……」
正直黙っててほしいが優先事項を効率的にこなすために無視する。
冷徹な視線を意識して、目の前の連中を見つめた。
「あのオールマイトを殺れるっつぅ根拠、策って何だ?」
まずは情報収集。こっちが考えて動くのも全てはそこからだ。
「ねぇねぇ、さすがにちょっと可哀想だよ……」
「せめて手足以外は溶かしてあげよう!」
「……はぁ」
女子二人に翻弄されつつも、轟は何とか情報を手に入れるのだった。
☠
同じくあっさり終わらせたのは、倒壊ゾーン。
ビルの中で授業を受けただけあって、爆豪も切島もスムーズに動くことが出来た。
「弱ぇな」
ぽいっと気絶させた連中を地面に投げ捨てながら爆豪が吐き捨てる。
額から汗一つ溢していない。彼のスタミナが凄いのもあるが、切島と要所要所でコンビプレーをしたおかげで余裕があった。
切島の硬化は爆豪の爆破に巻き込まれても問題なく、ごり押しという点においてこれほど噛み合うやつは居ないだろうと爆豪は評した。
「っし、皆を助けに行こうぜ!」
「いや、こんなチンピラクソッカス連中相手なら問題ねぇだろ。デク……出久のバカ声で少なくとも二人一組以上にはなっただろうしな」
「……お前」
「ア?」
「ホントに爆豪か?!」
「この状況でふざけんなクソ髪野郎ぶっ殺すぞ!!」
「あ、俺の知ってる爆豪だ」
余りにも冷静な思考を披露する爆豪に思わず本音を溢す切島。
数日前までの爆豪とは違う様子に思わず動揺したのだ。
「……助けに行きてぇなら一人で行け。俺はあのワープゲートぶっ殺す!」
「はぁ!?俺らの攻撃通用しなかっただろ!?」
「いや、対策がねぇわけじゃねぇ。……それに敵の唯一の出入り口だぞ。元締めとく必要あんだろうが!」
確かに、と切島が納得する。
顔も言ってることも
「じゃぁな行っちまえ」
「待て待て男らしい選択じゃねぇか!ノッたぜ爆豪、おめぇに!!」
☠
火災ゾーンは、とても混沌としていた。
青山のビームの遠距離攻撃と、尾白の高い近距離戦技術は意外と噛み合い、少しずつではあるが
「アッハッハ、さぁ僕のキラメキをとくとご覧☆」
「……まぁ、いっか」
ビームを撃つ度にどういうわけか煌めく青山にいくらかツッコミを入れたかったが、ぐっとこらえて敵を倒していく。
彼が目立つ分、時折自分を
☠
暴風・大雨ゾーン、ここもかなり有利な戦いとなっていた。
口田の個性は他の動物が見当たらない上、嵐の音で少ない動物に声をかけることすら難しかったが、それでも雄英ヒーロー科の一員。動き回り、敵を誘導していた。
そしてこの場で一番の功労者である常闇。彼の個性は暗いほど効果が高まる。
何時もより巨大化した「黒影」は大いにその暴威を振るっていた。しかも、紫の話を参考に、器用にも黒影の一部を自身に纏わせ近距離も行えるようになり、彼の戦闘の幅の広がりがそのまま有利な状況へ導いていた。
「……そうだ、口田」
「?」
「お前に我が闇を授けよう。これで俺の近くでなら戦えるはずだ」
黒影の一部を自分に纏わせる要領で口田にも被せた。
攻撃はともかくとして、防御力はぐっと上がり生存率も上がった。
紫と八百万の会話から、創造する際には物事に囚われない様な工夫が時には必要であると勝手に聴きながら学んでいたのだ。
☠
水難ゾーンでは、一度はプールの中で待ち伏せしていた
「……戦って、勝とう。オールマイトに勝つ算段があるのなら、少なくとも僕たちが足手まといになっちゃいけない!」
「は、はあ!?無茶言うなよ、先生待った方がいいって!」
「峰田くんの言う通りの事が出来たらいいけどさ、この状況で先生たちが来るまでもつと思う?」
「……! それは」
蛙吹によって窮地を脱したとはいえ、客船の上に飛び乗れただけの現状。
水場に有利な個性の者に囲まれた今の状況が長く続くとは思えない。
「
「……頑張ってくれてありがとう、自分のペースでいいのよ」
「あ、うん。ありがと」
蛙吹の名前を頑張って呼ぼうとする出久に和みながらも、会話が続く。
「で、つまり、なんだよ!?」
「僕らの個性は、把握されていない」
「そうでしょうね。私のことが知れているのなら、あっちの火災ゾーンにでも放り込むわね」
「僕らの個性が分からないから、態々散らせたんだ。僕らの個性が未知であるってこと、これが勝利の鍵だよ!」
無論、それは向こうも決してこちらを舐めているわけではないということになる。
事実船に上がってこないのは個性を恐れ、警戒しているからだ。
「個性の確認をしよう。僕は増強系。一定の力を超すとバキバキになるけど、超パワーを発揮できる」
「私は跳躍と、壁に張り付けて、舌を伸ばせるわ。20mほど。後は胃袋を外に出して洗ったり、少しピリッとする程度の毒性の粘液を分泌できる」
「ぶん、ぴつ……」
「……峰田君は?」
何やら感激している彼を促すと、頭の髪でもある丸い球をもぎ取った。
それを壁に貼り付け、ブヨンブヨンと揺らす。
「超くっ付く。体調によっちゃ一日たってもくっ付いたまま。もぎった傍から生えて来るけど、モギりすぎると血が出る。オイラ自身にはくっ付かずにブニブニ跳ねる」
「……つかえるね」
「無理しなくていいぞ!!どうせオイラの個性は戦闘に向いてねぇんだよ!!!」
「いや、ホントに――!!」
うわぁぁぁと嘆く彼を宥めていると、船が大きく揺れた。
どうやらじれったくなった
「ど、どどどどうすんだぁぁ!?もう船沈んじまうぞ!?」
「落ち着いて峰田ちゃん」
「落ち着けるかよ!?怖くねぇのかお前ら!?ついこの間まで中学生で、入学してすぐ殺されるって何なんだよくっそぉおおお!!!」
「……どうするの、緑谷ちゃ――――?」
泣きわめく峰田から目を逸らし、緑谷へと向けた。
思わず言葉を途切れさせてしまう程、彼は集中して考えていた。
泣いていた峰田も、そちらを見て涙が止まる。
「―――これでいこう」
肩を震わせ、必死に恐怖を押し殺しながらも、緑谷出久は二人に作戦を提案した。
仕事忙しい‥‥回復します(白目
あと今の紫ちゃんが分かりにくい!って言う人は、NARUTOの中忍試験の時の砂漠の我愛羅の中途半端な一尾微覚醒状態を思い出してもらえれば(かなり懐かしいこと言ってる人