歪な英雄 作:無個性者
上鳴が自分の危機を悟ったのは、戦闘が開始してから僅か3秒後の事だ。
耳郎が個性であるイヤホンを足のスピーカーに差し込み、音による衝撃を放つまで2秒、八百万が新たに武器を創造した直後のこと。
「なっ―」「ぐ、ぁ!?」
正面に居た白髪の男が片手をこちらにかざした瞬間、攻撃動作を行った二人が壁に張り付けにされた。
(――ハ?)
そして自分の目の前には紅い髪の美人さんが。
街でばったり会ったらまず話しかけるであろう、めっちゃタイプだとか数秒前に思考をよぎらせていた自分がその瞬間に消滅した。
(マズ、い!!)
バチッと稲妻が彼の体内を駆け巡る。
以前、紫に自分の個性「放電」について訊ねた時に返ってきた言葉、体内電気を操作できれば、というアレ。
彼なりに調べた結果、彼の個性は体内で電気を造って貯蔵する行為「蓄電」と、体外に放出する「放電」が正解らしい。
残念なことに、彼には片腕から放出すること等は出来ても、指向性を与えることが出来なかった。結局全方向に撒き散らしてしまう。
じゃぁ「蓄電」はどうだろうか?
偶に自分の個性を説明するときに何気なく指から電気をパリッと出していたことがある。体内から体外に出すという行為はスムーズに行えた。
じゃぁ体内で「蓄電」していた電気を〝体内に放出する〟というこの行為はどうかというと……意外過ぎるほどに上手くいった。
(どうするどうしよどうにかしろ!!!)
目の前が止まったのかと錯覚するほど遅くなり、それに反比例するように上鳴の思考速度が上昇した。
これが恩恵その一、動体視力、思考能力、その他感覚の鋭敏化である。
鋭敏化というが、上鳴自身若干痺れているため、プラマイで考えれば若干プラス程度にしかなっていないが、動体視力と思考速度の上昇はかなり上手く噛み合ってくれた。
(取りあえず、避ける!)
恩恵その二、脳に電気が奔っているせいか、今の上鳴は本来掛かっている人間のリミッターが外れていた。
お蔭でゆっくり見える光景の中、自分だけは何時も通りに動くことができる。
床を踏み割るほどの威力によって瞬動してきた火野彌生と名乗った彼女の拳を余裕で回避する。
(ついでに、痺れろ!)
恩恵その三であり、デメリットその一。
今の上鳴は常時「
だからこそ、彼は対象に触れなければならない。そうすれば対象のみに稲妻が駆け巡ることになる。今の上鳴は手加減が出来ないからこそ、指先でも触れてしまえば最大威力を一瞬で流せてしまう。
「ギャゥ!?」
火野の首筋にサッと指を触れるだけで、彼女が痺れ倒れてしまう程の威力。
この加減が利かないのは恩恵であり、同時にデメリットその二だ。ヒーローとして相手を殺しかねない行為は避けるべき。
(って言ってられねぇ!!)
自分の思考に自分でツッコみを入れる。だが彼には喋ってる暇も余裕もない。
最大のデメリットその三、常時放電を行っているため、彼はすぐ「アホ」になる。
加速した時間の中では数分動けているつもりだが、殆ど数秒から数十秒の出来事だ。
更に脳のリミッターが外れており、アドレナリンもドバドバ出ているから痛覚が働いていないため分からないが、つまり今進行形で彼の体は
ショートするのはどう考えても脳に電気を奔らせているからであり、放電の威力を調整出来ればいいのだが、今まで放出しかしてこなかった彼に微調整なんて言葉は縁が無かった。
アホになってはロクな行動をとれず、アホにならなくてもどのみち壊れた体では碌な戦闘は不可能――故に、上鳴は最大威力にして最速で勝負を終わらせなければならない。
(近づけ、走れ、走れ――!!)
白髪の男に向かって走る。
ほぼ停止したような時間の中、自分以外が動くことは余りなかった。
あの爆発的な加速をした火野でさえゆっくりになる中、白髪の男は視線をこちらにはっきりと向けた。
(ッとに人間かよ!?)
迷っている暇などない。このままでは自分も捕まってしまい、恐らく誰かに助けられることなく
(あーっくそ!!)
もう一つ、この技には大きな恩恵であり、最後のデメリットが存在する。
彼はずっと「体内で蓄電」し、それを「体内に放電」している。
つまり、今の彼は電撃を溜めこんだ爆弾と同義といってもいい。
これを開放すれば絶対あの白髪を倒せると言い切れるほどの威力があることを、彼は学校で許可を得て行った放課後の結果から知っている。
そして、それを行えばどうなるかもよく分かっている。
(イメージしろ!イメージ、イメージ!!!)
特訓に付き合ってくれたのは時間の都合上一人、セメントスというコンクリートを操る先生だった。
彼は個性はイメージによって大きく効果を変える、と言っていた。
自分の放電は何処からやっても結局全方位だが、一方向に向けるように意識すればそちらに威力が重視され、他は拡散した余波になるだろう、と。
だから彼はイメージする。伸ばした右掌だけから雷が放出する光景のみを。
(くらえ――――)
技名はない、というか
付けたあの日もぶっ放してすぐ忘れてしまったからだ。
起きたら保健室で、セメントス先生に会っても先生自身技のインパクトに驚いてど忘れしてしまっていた。
「――!!!」
それが、最後のデメリット。
雷の大爆発を生んだ直前、大体数秒から数分の記憶が焼き切れる上に、必ず気絶する。
(悪ぃな、あとたの―――――――………)
八百万と耳郎は幸い、敵によって離れた壁に張り付いたままだ。
余波ならちょっと痺れる位で済むだろうと気楽に考え、彼は笑みを浮かべ気を失った。
☠
「か、上鳴‥‥」
「‥‥‥‥」
戦闘開始直後に壁に張り付けられていた二人が地面に降りれた。
つまり、相手に何らかのダメージを与えたのだろう。
あまりに唐突で速い動きに二人にはついて行けなかったが、離れていたが故に何が起こったのか把握は出来た。
怪力任せの高速移動に対し、上鳴が高速のカウンターを行った。
その直後、個性測定の時みせた50m走とは比較にならないほどの速度で駆け、白髪の男、空佑に近づいたと思ったら稲妻が炸裂、二人は降りれた。
炸裂したのかさせたのか二人には分からなかったが、結果として砂煙の向こうには上鳴が――
「…いまのは、本気で死ぬかと思いましたよ」
――地に伏していた。
空佑は所々火傷や痺れた様子を見る限り無傷とはいかない様だが、無事なようだ。
対する上鳴は空佑の足元で白目を剥いて気を失っている。
「嘘、でしょ!?」
「あれでもまだ」
あの威力は今の耳郎に出すのは不可能。
八百万は可能かもしれないが、創造に時間がかかりすぎる。
空佑がどのくらいで回復するかわからないが、そこまで時間がかからないことは予測できた。
「さて、」
空佑が動こうとしたその時、凄まじい衝撃波と突風が全員を襲った。
「今度は何!?」
「わ、分かりませんわ!!」
それが来た方向は広場で、堪らずそちらへ目線を向ける。
本来なら人間なんて粒以下にしか見えないだろうに、あり得ない物が三人の目に映った。
「骨、の腕!?」
「六道さん‥?」
「……これはこれは」
巨大な骨の腕が何かに向かって叩き付けられ、その瞬間に粉砕されては新たに創造されるという行為を繰り返していた。
超威力によって大質量が破壊された衝撃波が、USJ全体に散っているのだ。
「……なるほど、こんなところに居たんですか
「え?」
「火野さん、帰りますよ。オールマイトではないですが、ヤバいのがでました。起きてください」
「う、ちょ、まっ、て……かた、かし」
「はいはい」
「かい、じょう」
火野に肩を貸して来たときと同じように鬼門を出現させる。
最後にチラッと広場と、自分たちに傷を負わせた上鳴を見た。
「今回は、退散させてもらいますね。アレに気付かれると面倒なので」
そう言ってマスクで見えないが、恐らくにこやかに男性は去って行った。
「なんだったの…」
「分かりませんわ‥‥あ、上鳴さん!」
「そーだ上鳴!」
二人は大急ぎで上鳴の元へと駆けていった。
☠
広場に比較的近い場所に居た出久達は、その光景を遠目に見て愕然としていた。
「あれ、六道ちゃんよね?」
「す、すっげぇー」
「………」
出久の作戦はこうだった。すぐそこにある大きなウォータースライダー。
出久が峰田を抱え、出久の腕に舌を巻きつけた蛙吹を投げ、その蛙吹が空中で更に出久を引っ張り投げる。そうやって空中移動し、なんとか地上戦へと持ち込もうというプラン。
「ごめん、二人とも」
「なにかしら?」
「どうした?」
ウォータースライダーに敵を引き込み、峰田の個性で罠を張って籠城しながら狭いスペースで敵を打倒していくという堅実な作戦。
これが一番傷を負わないで互いをカバーし合えるような作戦だと、理性的な出久が訴える。
だが、それ以上に出久の中で焦燥感が沸き起こっていた。
「プラン変更しよう、一気に此処を片付ける」
「え?」
「は、はぁ!?」
もう一つの策、指一本自損するがこの場を最速で片づけられる作戦を伝える。
プールのど真ん中に超パワーを放ち、水を収束させその中に峰田の個性の球体を投げ入れる。自分たちは蛙吹の跳躍と泳ぎで一気に此処を抜ける。
「そんな、緑谷ちゃんばかりが無茶をしなくても」
「ごめん、それでもいかなきゃ」
行かなきゃいけない。だって、きっと――。
「紫ちゃんが、苦しんでる。だから、お願い」
あんなふうに暴れる子じゃないのを出久が誰よりも知っている。
あの白くて優しい女の子を放っておくなんて、ヒーロー以前に彼には出来なかった。
「……緑谷、おめぇ」
「?」
「はぁ‥‥いいぜ、のった!」
出久か峰田がしくじれば失敗するこの作戦。
その重圧に圧されながらも、峰田は出久の策を受け入れた。
(カッコいいじゃねぇか、くそったれ)
さっきの策よりも危険で必ず怪我を負う恐怖がプラスされ、峰田以上に緊張しているだろうに言い切る緑谷がカッコよくて、そんな彼にあやかろうとガクブルになりながらも峰田は出久の様に、出久に笑いかけた。
この状況で笑いあう男子二人に呆れたような、感心したような気持ちになった蛙吹も頷き、作戦が開始された。
「―――」
遠くから紫の声が聞こえた気がした。
(直ぐ行くよ)
焦燥感に追われながら、出久のスマッシュが炸裂する。
出久達が広場に辿りつくまで、あと1分もない。
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匿名にしてたらアンケートとか取れないし要望とかたしか感想アウトだったよね!?と思い、ツイッター始めました。ご意見要望等あったらこちらによろしくです。