歪な英雄   作:無個性者

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髑髏、骸骨、少女

 馬鹿力で動く脳無と尾を叩き付け跳ねる紫。

速度は互角、だが攻撃力は脳無が圧倒的だった。

紫含めA組が知らない事実、ショック吸収により叩き付ける、殴りつけるという行為は無意味。一方的な暴力によって骨の腕は圧砕されていく。

 

「ッッガァ!!!」

 

 何度も何度も壊され気付いたのだろう、骨の腕を拳から手刀に切り替え、先を尖らせる。

肉を抉り、拳を貫き、その腹を突き刺し横に引き千切ることで真っ二つにした。

 

「――」

 

 だが、それも無意味。もう一つの個性、超速再生によって脳無は上半身から回復した。

抉った程度の傷など隙にすらならない。急所である脳味噌を狙うが流石にそれは避けるか逸らされる。

あまり頭に集中してしまえば、無防備な右半身を狙われてしまう

結果、超速再生の脳無と超速創造の紫の肉弾戦は必然的に泥沼へと陥った。

 紫に理性が残っていれば、あるいは何かが違ったかもしれないが、今の彼女に自意識はなかった。

 

「ろ、六道さん‥‥」

「どうしよ」

「どうしようって、どうにも」

 

 13号先生を介抱しつつも呆然とするA組。

彼らの元にそれぞれのゾーンの(ヴィラン)を片付けた者達が集まっていく中、数名違う場所に居る者達が居た。

 

(速過ぎる)

 

 大急ぎで辿りついた出久は、10%を引き出した動体視力ですら追いつけていないことに驚いていた。

広場はボロボロになっていく中、二人の影だけがギリギリ見える程度。

 

「お、おい緑谷どうすんだよ?」

「どうって、そんなの…――ッ」

「緑谷ちゃん‥!」

 

 今にも走り出していきそうな彼を、蛙吹が腕を掴んで止めた。

 

「もう少し様子を見ましょう。今飛び込んでもミンチになるだけよ」

「……うん」

 

 

 

 

「は?逃げられた?」

 

 

 すっとんきょうな声を上げたのは、此処雄英高校に(ヴィラン)を引き入れてきた青年だった。

黒霧という名の転移ゲートの個性を持ったモヤ人間の報告を受け、苛立ちを隠さずブツブツと文句を溢す。 

 

「ゲームオーバーだ‥‥帰るか」

「脳無はどうします?」

「んー?お前のゲートで上手いこと拉致れよ‥‥あぁその前に」

 

 水難ゾーンの端から見ている緑谷たちを見た。

 

「――平和の象徴の矜持、へし折って帰ろう」

 

 そう言った時には既に蛙吹の顔へと掌を伸ばしていた。

 

「―!」

 

 高速移動、だがこれは個性ではなく技術だと緑谷は看破した。

何かの格闘技の本で見た歩法と、視線誘導、それに瞬きのタイミング。それらを組み合わせた高速に見える隙の無い(・・・・)移動法。

 

(マズイ、マズイ!)

 

 この(ヴィラン)は違う、他と違う。個性に構掛けて暴走していたチンピラじゃない。

 

(今の動きからして逃げるべき方向は――)

 

 考えた時には行動していた。

相手の手が蛙吹に触れる寸前、許容限界(10%)の力で彼女を抱き寄せる。

更に片方の手で峰田の襟首を掴み、全力で後ろに跳んだ(・・・・・・)

 

「へぇ」

 

 にたぁと気味の悪い笑みを浮かべ感心する青年に、怖気が奔った。

跳んだ出久に追いつこうと彼も跳ぶ動作を取る。

 

(さっきの移動は全力じゃない、としたら)

 

 今の出久は水の重みや抵抗のせいで跳んだとはいっても後ろ向きに人を二人も抱えている。その結果として、大ジャンプしたわけじゃない。しかも、直ぐに落ちる。

そこを狙われれば、容易に餌食になってしまう。

 

(く、そ――)

 

 相澤先生は広場の戦闘を挟んで向こう側で気絶しているのをさっき見つけた。頭から血を流していた辺り、動くのすら危ういかもしれない。

 絶体絶命――そう、出久が思ったその時、背後からとても知った声が聞こえた。

 

「ドけやバッカ野郎ォォ!!」

「か、かっちゃん!?」

 

 恐らくこっちに駆けつけていたところに出久達を見つけたのだろう。

少し離れた場所に爆炎の痕が見えた。

 

「オォラ死ねェ!!!」

「ぐっ」

 

 こちらに跳ぼうとして体勢が不安定だった青年に爆破をぶつけた。

爆破の衝撃を利用して軽業師の様に一回転して後ろに下がって行った。

 

「ハハ、死ねって、ホントにヒーロー科かよ」

「うぜぇ喋るなクソが!大人しくぶっ殺されとけや!!!」

「‥‥ヒーロー科にも変わったやつってのはいるもんだ、なぁ?黒霧」

「そうですね、死柄木弔(しがらき とむら)

 

 死柄木と呼ばれた男の隣に、黒い靄を纏わせた男が現れた。

 

「チッ、テメェのせいでこっちの計画が総崩れだクソバカが!」

「それ僕等の事?」

「他に誰が居んだよ、こんなところでボサッとしてんなバカ共が!」

 

 全く持ってその通りだと何も言えなくなってしまう出久。

だが、彼が来てくれたおかげでこっちの思惑が上手くいきそうだ。

 

「かっちゃん、他に人は?」

「ア?‥‥切島とかいうクソ髪と紅白頭ならそこらで見かけた。紫と無色はセンコーとこ行かせた」

「あっち?」

「だったらなんだよ!?」

 

 爆豪が飛んできた背後を指さし、確認を取った出久。

 

「かっちゃん、詳細は話す時間が無いから手短に言うね」

「おい俺は」

「お願い、上手くいけば状況が変わる」

「……チッ、ア゛ァァ!!!クッソがァ!!

 こっちの計画ぶっ壊しにしたんだ、碌でもなかったらテメェからぶっ殺す!!」

「よし、じゃぁ……」

 

 手短にやる事だけを話す。

その結果どうなるだとか、その辺は省く。頭が良い彼らなら察しが付くだろうという考えでもある。

 

「おいおい、なに企んで―」

「お願い!!」

 

 死柄木の声を無視して爆豪に合図する。

この襲撃でとっくに溜まった籠手、特大の爆撃を前方二人に放った。

 

「な、んだぁ!?」

「死柄木弔!」

 

 黒霧と呼ばれた(ヴィラン)が死柄木を庇うように覆った。

出久にとっては好都合だった。

 

「――」

 

 ぶんっと黒煙に紛れ蛙吹が動く。

 

「あ?」

 

 黒煙が晴れた頃には出久と峰田が消えていた。

 

「クソ髪!紅白野郎!!!」

「へいへい!」

「……」

 

 考えさせる時間は与えない、と近くに来ていた二人を爆豪が呼び寄せる。

氷で囲い、切島が死柄木を、爆豪が黒霧を抑えようと動く。

だがそれらを避けられ、改めて距離を取られた。

 

「たく、めんどくさい連中だ」

「流石雄英、金の卵だらけですね」

「……で、緑色とチビは何処に‥?」

 

 視線をうろつかせたとき、彼らの背後から爆音が轟いた。

 

「さっきのか?」

 

 爆豪の籠手、それを戦場の真上(・・・・・)に放り込まれた出久が、真下に向けて解放したのだ。

 

(反動キッツいなこれ!? かっちゃん、こんなの撃ってたのか‥!)

 

 思っていた以上の反動に驚きながらも、黒煙が上がる上空の中、爆発を警戒した脳無と驚いた紫、動きが止まった二人の姿が見えた。

 

「峰田君、お願い!!」

「ぅぉぁああああああ!!」

 

 背中にしがみついていた峰田が、雄叫びをあげながら頭に生えている球体の個性を捥いで投げつける。

球体のいくつかは脳無に当たり、さらに周りに散らばる。

足元にくっついたり、腕に付いたのをとろうともう片方の手で触ってくっ付いてしまっていた。

 

「紫ちゃん!!」

「ガ‥ガ」

 

 大急ぎで着地した出久が紫の目の前へと走る。

峰田は未だ恐ろしいのだろう、動きが止まった脳無にどんどん球体を投げつけ続けていた。

 

「ガ!」

 

 ドンッと黒煙で目測を誤ったのか、出久の真横に手刀が刺しこまれた。

正気じゃないことを悟った出久だったが、それでも目の前の紫へと歩を進める。

 

「紫ちゃん‥‥この戦い方はダメだよ、殺しちゃう」

 

 紫から尖った骨が複数創製され、出久ヘ向けて射出された。

 

「っ……紫、ちゃん」

 

 一本だけ、脇腹を大きく裂いたが他は外れた‥‥外した。

 

「起きて」

 

 骨が刺さるのも構わず、紫へとたどり着いた彼は彼女に跳びつき、強く抱きしめた。

 

 

 

 

 ――寒い、痛い、苦しい――。

 

 意識を失っても尚、紫はがしゃ髑髏に囚われていた。

内側から肌を突き破った骨が邪魔で体が動かなかった。

骨から創造が派生し、紫を囲っていく。

 

 気付けば、がしゃ髑髏の中に紫は取り込まれていた。

 

(あぁ、そっか‥‥)

 

 否、違う。

 

(わたし、なんだ、コレ(・・)

 

 腕を動かそうとして、巨大な骨の腕が動いた。

視線をずらそうとして、巨大な骨の顔が動いた。

脚を動かそうとして、巨大な骨の脚が動いた。

真っ黒に変色した生身の体は、ピクリとも動かない。

 

「ごめ、んね」

 

 唯一動いた口が、ぽつりと謝罪の言葉を溢した。

彼が立派なヒーローになるのを見守ると、一緒にヒーローになると約束した。

でもどうやら自分はヒーローなんて呼ばれるほど綺麗な存在じゃなかった。

 

 ―分かってたはずだろう?

 

 がしゃ髑髏なのか、自分の声なのかすらも分からない声が響く。

 

 ―お前は怪物だ、そう教わったはずだ。

 

(誰から?)

 

 親からこの力について聞かされたが、詳しいことは知らない。少なくとも、がしゃ髑髏に意思があったなんて知らなかった。

 

 ―我々が、教えたはずだ。生まれたその時から、ずっと、ずっと。

 

 ずっと?

思い出すのは呪いを吐き続けるがしゃ髑髏の姿‥‥。

 

(……あれ、違うのかな)

 

 なぜか今は鮮明に夢を思い出せた。

呪いの言葉を呟いていたのはがしゃ髑髏ではなかった。

がしゃ髑髏と自分の周辺に散らばっていた、亡骸達(・・・)

 ぱっと暗い視界が開ける。

そこに居たのは、がしゃ髑髏を囲う骸骨の群れ。

大きな髑髏を囲んで汚い言葉を投げつけ続ける亡者たちだった。

 

―お前は怪物だ!

―お前は裏切り者だ!!

 

 

 ――お前達は、只の殺戮者だ!!!!!

 

 

 叫びが刺さる、嘆きが蝕む、慟哭が身を裂いた。

それでもがしゃ髑髏は破壊を止めない、殺戮を止めない。

愛憎の妖と名乗ったがしゃ髑髏は骸骨を踏みつけながら邁進し続ける。

 

(あなたは、なんで・・?)

 

 がしゃ髑髏は小さな少女に答えた。

 

『愛故に、憎いが故に――』

 

 何処までも進むのだと、答えになっていない答えが返ってきた。

ただ分かったことが一つだけ。

 

 ――お前もこうなるのだと、髑髏も骸骨も告げていた。

 

 そんなの嫌だ、そう思うも身動きできない。

彼女は涙を溢し続ける。唯一の自由である涙と嗚咽を落とし続け、そして――

 

 

 

――唐突に暗闇が弾けた。

 

 

「―紫ちゃん!」

 

 

 大好きな人の声が、最後に聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 パキパキパキ、罅割れる音がする。

ガラスが割れるように、高い音を立てて骨が崩れていった。

 

「おはよう、紫ちゃん」

「……おはよ、出久くん」

「こんな時に寝るなんて、ダメじゃないか」

「あはは、うん‥‥うん」

 

 ギュッと互いの存在を確かめ合うと、出久の怪我に気付いてバッと体を離した。

 

「け、怪我!治療しないと!」

「わー、待って待って!!お願いだから待って!!」

「ダメだよちゃんと治さなきゃ!?」

「イイから、後で治すからぁ!せめてこれ着て!!」

「え?…わ!?」

 

 左半身から骨を出していた彼女。

骨は創造して身体から突き出していくため、彼女の衣服は左半分のみほぼ裸と化していた。穴だらけでギリギリ着れている状態だ。

そんな彼女に自分の上着を被せ、座らせる。

 

「おいおいおい、マジかよ。脳無がふざけた球で戦闘不能?は?」

「あの球体、関節に嵌まっているせいですね」

「どうにかしろ黒霧」

「はい」

「させっかよ!」

「死ねクソどもが!!」

「…」

 

 死柄木と黒霧に爆炎、硬手、氷結が襲う。

だがそれらを転移によって躱し、同時に脳無についていた球のみを転移で剥がす。

多少肌と一緒に剥がれても超再生がある脳無ならば問題ない。

脳無が解放され、改めて脅威が蘇る。

 

「さって、これ以上はホントに拙いな‥‥でも一人位殺しておきたいなぁ…‥そうだ、拉致るか。後でゆっくり殺そうそうしよう、よっし黒霧――」

 

 黒霧に誰を攫うか伝えようとしたその時、USJのゲートが勢いよく吹き飛んだ。

 

 

「もう大丈夫、私が―――来た」

 

 

 混沌の場に英雄(オールマイト)が、現れた。




転移強すぎてどうしよう!?と思った回でした。
イレイザー先生居なきゃダメですね、無双されちゃいます。
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