歪な英雄 作:無個性者
オールマイトが一日の限界時間を使い切っていることを、出久は知っていた。
オールマイトの事なら調べられるだけ調べるのが日常と化している出久は、彼が朝のニュースで話題になるくらい活躍して学校に出勤してきたのを知っている。
13号先生が立てた三本指の意味も、不合理の極みだと溢した相澤先生の愚痴も重々わかっていた。
(オールマイト、笑ってない‥‥)
だから、
「緑谷少年、六道少女、出来れば入り口に向かって欲しいが、難しい様ならそこでジッとして居なさい」
「は、はい‥ぁ、いやでもオールマイト時間が―!」
「大丈夫!プロの本気をそこで見ているといい!」
脳無と出久達の間に割り込んだオールマイトは、後ろ手のまま親指を立ててグッドサインを向け安心感をもたらせようとしてくれた。
紫は出久がなぜそんなに焦るのか理解できておらず、出久に抱かれたまま二人行動を合わせてジリジリと距離を離そうとする。
(……無理だ)
紫は冷静にオールマイトでは脳無を倒すことなど出来ないと、相性から導き出す。
さっきまでの暴走中の記憶は意外にも覚えていた。寧ろハッキリしすぎている。骨の腕で脳無を殴った感触も、肉を突き刺し抉り、裂く感覚もしっかりしていた。
そこから脳無には打撃は無効、斬撃刺突は有効、しかし超再生によってたちまち元の状態に戻ってしまうというのを誰より理解していた。
「……出久くん、静かに聴いて」
「?」
抱かれたまま出久の耳元で囁く。
出久は疑問符を浮かべながらもジッとそのまま彼女の言葉を待つ。
「まず、今のままじゃオールマイトは勝てないと思う」
「…」
小さくうなずくことで同意する。紫と違い、時間が無いことを知っている彼はしぶとい脳無を倒せる確率はかなり低いと思っていた。
「でも、
「資格…」
ヒーローになるには資格、免許が要る。
ヒーローの卵と言っても今回彼らは被害者であり、資格も持たない一般人なのだ。
自衛は認められるだろうが、プロヒーローがいるのに参戦するのは問題になりかねない。
特に、彼オールマイトはプロ中のプロ、頂点ともいえる存在だ。
「だから、後で一緒に怒られよ?」
「ぇ…」
ぽかんと彼女を見てしまう。
可能性は低いけどオールマイトなら倒せてしまえてしまうと思えるほどの信頼と、今までの功績がある。
でも、それでも――。
「助けたいんだよね?」
止まらないのがヒーローで、止まれないのが緑谷出久という少年だ。
「
目の前で始まった超速戦闘。
やはり追いつけない。緑谷出久の力ではこの戦闘に介入するには不可能だった。
「私をおぶって」
「え」
「はやく」
抱きかかえていた紫を背中に移動する。首元に腕を回し、腰辺りに脚を使って背中に負ぶさるというよりも、背中に抱き着く感じになる。
八百万程自己主張しているわけじゃないが、高1にしてはそこそこあるその柔らかさに頬を赤らめてしまうのは仕方ない。状況が状況だから表に出さないだけで、抱きかかえている時点でかなり緊張していたのは言うまでもない。
「で、どうするの?このまま戦闘は流石に」
「……出久くんは、痛いの我慢できる?」
「っていうと?」
「これからやるのはね――」
彼女はこれから行うことを簡単に説明した。
やろうとしていることに思わず怖気が奔る。どんな痛みになるなんて想像もできない。
思わず口を閉じてしまう。激痛に飛び込むというのは、覚悟がいるのだ。
「―ぁ」
目の前で脳無を殴っていたオールマイトが、脳無に対しバックドロップを行った。
衝撃が爆弾が大爆発したような大きなものとしてUSJに響き渡る。
だがダメだ、脳無はすぐに再生し、埋まった上半身を筋力に物言わせ無理やり抜け出す。
死柄木と言われた青年も、黒霧という
「ぬぅ、ダメか!」
「言ったろ、ショック吸収に超速再生。諦めて死ね」
「テメェが死んでろ!!」
「爆豪少年、轟少年に切島少年も!此処は私に任せて、出口へ急ぐんだ」
ついに対面していた五人が衝突しかけた時、オールマイトがそれを止めた。
立場もあるのだろうが、彼なりの思いやりと、なにより信念が行ったことだ。
――平和の象徴
世界規模の信念。
もはや狂ってると言われてもおかしくないそれは、どれだけ重いのだろうか。背負い続けるのは、一体どれだけの困難があるのだろうか。
少なくともその信念は、この場に居た
一際大きな衝撃波が響き渡る。対面していた5人が思わず下がってしまう程の衝撃と、何より気迫。
脳無との殴り合いがさっきよりも激化したのだと全員が理解する。
(100%、一発一発が全部必殺の‥‥)
オールマイトですら、きっと100%を扱うのは難しいのだ。
普段は95か90か、もしかしたら80に抑えているのかもしれない。
(今の、オールマイト‥‥)
今の彼はどんどん力が衰えている。気迫は変わっていないのにも拘らず、彼の力も時間ももう残り少ないのだ。
殴り合ってる中で血反吐を口から溢しながら戦うその背中は大きくて、昔観た映像よりも鮮明で……同時に何よりも痛々しかった。
「お願い、紫ちゃん!!」
「うん、袖噛んでてね」
痛みで舌を噛み切らないために袖を噛む。
始めはチクリとした、針が刺すような痛みだった。
「~~~~~!!!!!」
そこから派生するように体の中身が痛みを発する。
紫の個性は、骨の創造と操作。背中にくっついた彼女から生えた小さな骨達が大量に出久に突き刺さり、
筋組織に、細胞の一片一片に絡みつく。更に外骨格としても鎧のように骨が展開される。
骨の鎧が組み上がっていく、どんどんと出久が変化していく。
―私が今からするのは、貴方の一時的な改造……凄く、痛いと思う。
紫が行うのは出久が100%で戦えるようにすること。
力に耐え切れず内側から爆発するなら、
細かい骨……妖の力が出久に馴染んでいく。
出久を殺さない様に全神経を扱っている紫は意識の全てをコントロールに裂いていた。
彼女は喋れなく無防備故に、同時に出久を守るためにも背後を骨で覆いきってしまう。骨とはいえ多少重いかもしれないが、これなら一発くらいは耐えられるはずだ。
「ありがとう」
――ワン・フォー・オール、
自分の力は必要ないのかもしれない。
助けたい相手は
でも、それでも彼がピンチなのだと自分は知っている。既に無茶も無理も通り越えているのをこの場にいる誰よりも知っているのだ。
(きっと、命を削ってるんだ、文字通り)
オールマイトの行為は、自分の行為はきっとそう言う事。
ヒーローって、憧れって思っていた以上に血みどろで、どうしようもなくどうしようもない。
傍から見ると何考えてるんだって、どうしてそうなんだって、言われるだろう。狂ってるって、オカシイって。
(でも憧れてしまった‥‥カッコいいって、この人みたいになりたいって)
今は未だ、幼馴染の力を借りて、文字通り足らない事だらけ。
100%を解放した時点で既に内側が軋んでいる。心臓は張り裂けそうで、神経は昂っていても尚痛みを感じる。
この状態も長くは続かないだろう。砕け散る前に骨を回収し、身体から細かい粉として外に排出しているとはいえ、このままでは何時か死んでしまう。
(動けば1分か、下手をすれば秒単位しか保たない)
でも、それでも。
(未だ教わりたいことがあるんだ、まだ死んで欲しくないんだ‥‥命を削らないで欲しいし僕がヒーローになるその時を、見て欲しい――)
そんな理由が浮かんでは消えた。
だって全部後付けだから。
「――」
動くのも動けるのも短い。なにより、この戦闘に割り入るのは至難だ。
隙を見つけなければいけない。
殴り合いに突っ込むのは不可能だ。
幸い脳無とオールマイトは互いしかみていない。他の者も戦いに目を奪われている。
少し離れた場所に居る出久に気付くものは、いない。
「ヒーローとは、常にピンチをぶち壊していくもの!!」
あぁ、知っている。
オールマイトの言葉をよく知っている。ピンチを壊し、ピンチから救うのがヒーローだ。
「
ショック吸収にも限界がある。それを超え、限界を超えた一撃を叩きこんだ。
吹き飛んでいくが、黒霧の能力が発動していた。飛んでいく先に霧のワープゲートが出現した。
「こ、こだぁああああああ!!!!!」
ゲートと脳無の間に割り込む。
(折れていない、壊れていない。痛むけれどまだ大丈夫!!!)
雄叫びをあげながら
オールマイトのお蔭でショック吸収の限界が来ているため、そのまま地面へ落ちて亀裂の中に埋まる。
「うぁあああああああああ!!!!!」
落下速度もプラスした拳が脳無に埋まり、亀裂が大きな陥没へと変化する。
貫かれた脳無の腹から血が溢れ、出久の腕を濡らす。
「紫ちゃん、お願い!!」
言葉を返すことはできない。でも、声は届いていた。
出久の合図に合わせて脳無の腕と脚の中に骨が創造される。内側から拘束するという荒業。人間相手なら確実に殺してしまうが、超速再生持ちの脳無なら足りないくらいだ。
事実、内側に生えた骨を砕いて無理やり動こうとしていた。砕けた骨は再生によって外側へと押し出されてしまっている。
「無駄、だ!」
もう一撃、残った腕を埋め込んだ。
ショック吸収が回復しても大丈夫なように手刀にしたため、さっき以上に肉を裂く感触を受け、思わず顔を歪ませる。
だが、拘束力はこれで倍増。出久の腕を伝って内側を、鎧から更に創造し外側まで骨で絡めとる。
「はぁ、ハァ…‥」
跳ぶときに両足を、踵落としで右足を、今ので両腕を酷使したにも関わらず壊れてはいない。
だが痛みはある。その上、
(考えない様にしよう……)
意識を逸らし、脳無の拘束に集中する。
「うっそ、だろおい」
「これは…」
死柄木は脳無の戦闘不能が信じられないようで、黒霧は密着具合から切り離すのは難しいことを察する。
少なくとも目の前のヒーローと卵たちがいる現状では不可能だと。
「ゲームオーバーだ……今度は殺すぞ、平和の象徴」
そう言葉を残し、黒霧によってその姿を消した。
その直後、飯田によって連れてこられた学校のヒーローたちによって怪我の治療等を行われた。
「さって、緑谷出久くん、六道紫さん。分かってるとは思うけども‥」
「「は、はい」」
「後で説教するから、職員室に来るように」
「「はいぃ‥」」
そして激痛に次ぐ激痛の強化と解除を終えた出久達は、放課後の職員室で正座され暫く怒られるのだった。
もっとも、その後保健室から出てきたオールマイトに褒められ出久は舞い上がり、紫はそんな出久を見てやれやれと肩をすくめた。
尚、一番効いたのは校長の説教とリカバリーガールの小言だったもよう。
バカにバカが移って大変だとこれからを思った二人が心からの溜息をついた。
※骨の鎧Ver出久
白い骨の全身西洋鎧。頭の鎧は上半分が骸骨の形になっており、西洋の鎧ながらも骨で造られているのもあり死神風になっている。
出久の力に耐え切れず砕けた骨は砕け散って出久の中に残らない様に回収し、骨を伝って粉にして外側へと排出している。そのため、オーラかモヤの様に白い煙が全身から漏れている。
背後は紫がいる分大きな鎧によって保護されている。首元に抱き着くように、それと脚は動きの邪魔にならない様に腰に回しているため、若干首と腰当たりの骨もごつくなっている。
出久の力が強すぎて保つ時間は長くて数分、全力機動を続ければ1分と持たない。勿論出久自身が強くなれば長くなるうえ、骨のコントロール力によっては紫の援護が可能。
なお、纏うだけでなく内側に小さな骨を根の様に入れ込んでいるため、発動にも解除にも激痛が奔る。
分からない人は、コードギアスのランスロットを思い出してもらえるとイイかもです。