歪な英雄   作:無個性者

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 上鳴がヒーローしてても、いいですよね?


始めましてな再会

 体育祭が始まる。

雄英体育祭と呼ばれるこのイベントは、かつて個性者がいなかった時代に行われていたオリンピックに代わるものであり、全国のヒーローたちもスカウト目的で観戦に来るのだ。

そのままプロの事務所に卒業後雇われるのが定石なのだ。

 詰まる所、大チャンス。

 

(なんだけど……)

 

 珍しく出久は放課後一人でいた。

考え事がしたい時は紫の方をチラッと見て少し手を振ることで一緒に居る時間を断っている。

こうして一人になる時間が欲しかったというのもあるが、今は彼の隠し事にも関わっている上に紫絡みの悩みであり、誰に相談するわけにもいかなかった。

 

「‥‥巨悪、か」

 

 USJでの戦闘後、オールマイト、そして仲の良い警部である塚内直正(つかうち なおまさ)と話した内容だった。

 

「今回の戦いで、あるゾーンにいた生徒三人が全く別の勢力に誘拐目的で襲われたらしい」

「別の勢力?」

「あぁ。狙われたのは上鳴電気くん、八百万百さん、耳郎響香さん。対する相手は‥たった二人だったそうだ。それも三人がワープされる前に他の(ヴィラン)を軒並み倒していたらしい」

「ワープ前に、瞬殺してたってことか」

 

 塚内の言葉にオールマイトが考え込みだす。

さらに続いた言葉に、頭を抱えた。

 

「一人は赤髪の少女、名前は火野彌生と言ったそうだ。頭から角を生やしていたそうで、さらにワープ系個性持ちの怪力持ち、二つの個性持ちだと思われる。もう一人は大きなマスクをした白髪の青年で名前は空佑。個性は不明。壁に張り付けたり浮いていたり、引力や斥力的な何かかと想像されている。……オールマイト、この二人は自分たちを二号、三号と言っていたそうだ。そして、〝サラ様〟と言っていたらしい」

「Oh…そいつはまた」

「えっと、どうしたんですか?」

 

 オールマイトは少し考えた後、語りだした。

 

「私がこの傷を負う前に潰し損ねた組織『(さい)』の女性研究員であり、黒幕だと考えられていた人物の名前なのだよ。サラ・ヴェーレン……(さい)がもう回復したのか」

「あぁ、全く厄介なことだらけだよ。緑谷出久くん、今回この話に君を呼んだのは理由がある」

「り、ゆう?」

「あぁ。彼らは逃走する際、暴走していた六道紫さんを見てこう言ったらしい。『こんなところに居たんですか、六号』と」

「ろくごう?」

「そう。ろくどうではなく、ろくごう。六号だよ」

「え、ちょっと待ってください」

 

 出久は一度頭をフル回転させる。

まず、USJを襲った(ヴィラン)達とは別に(さい)と呼ばれる組織が乱入してきていた。彼らはどさくさに紛れて三人を誘拐しようとしたらしい。

その組織は過去オールマイトが潰し損ねたほどに強力強大な組織だった。

主犯はサラ・ヴェーレンという女研究員らしい。

彼らは自分たちを番号で呼び、紫の事も番号で呼んだ。

 

「紫ちゃんを、どうしろって言うんです?」

 

 彼女が何かしらの関わりがあるのは確かで、もしかしたら何かを知っているかもしれない。‥‥もし自分を使って情報収集やなにか彼女に不都合なことを頼まれるのでは、と出久は危惧した。

 

「あぁ済まない。そう警戒しないでくれ。こちらとしても彼女が何か知っているとは思えないんだ」

「え‥?」

「彼らは暴走していた六道さんを見て、逃げた。能力を(・・・)知っている風ではあったが彼女のことを(・・・・・・)何も言っている様子はなかった。他にも過去の賽との戦いで得た資料によると、そもそも六号という名前は出てこないんだ。一号から五号と書かれた資料は少しではあるが見つかったが、六号という資料は見つからなかった。‥つまり、六道さんは彼女と能力的関わりがあるが、実質的関わりは恐らくない。それも、襲撃される前の賽には全く関係が無いと思われる」

「えっと、じゃぁつまり‥?」

「つまり、だ‥‥サラ・ヴェーレンが六道さんの存在を知って何をするかわからない。ただ、そもそもUSJに人を寄越したのだって誘拐目的だったんだ」

 

 そこまで言われて、出久はピンときた。

 

「何時も一緒に居る僕に、紫ちゃんを保護してほしい‥?」

「正確には余り疑われない様に気にかけて欲しい。出来るだけ一緒に帰ってほしい。それと、怪しい人物にあったらこれを押すんだ」

 

 渡されたのはストラップだった。よくテレビで見るオールマイトの顔をデフォルメして愛らしく(それでもやっぱり画風おかしいけど)したものだった。

 

「その裏には小さなボタンがある。それを押すと、警察、というか私に直接現在地の情報が入るようになっている」

「……」

「いいか、緑谷少年。敵は巨悪だ。私にこの傷を負わせた者と並び立つほどだと私は認識している」

「オールマイトを、引退に追い込んだ(ヴィラン)…」

「そうだ。いいかい、決して戦おうとするんじゃないぞ」

 

 そう言ったオールマイトの強い眼が頭から離れなかった。

怖い、オールマイトを追い詰めた(ヴィラン)と同等だと言い切るほどの相手。畏れないわけがない。

 

(…休み時間、終わっちゃう)

 

 午前最後の授業へと向かいながら、怖い気持ちを潰すように拳をぎゅっと握りしめる。

 

「誰だって関係あるもんか‥‥」

 

 紫は出久にとって始まりと言っていい存在だ。

自分を初めて認めてくれた、初めから応援してくれた、オールマイトとはまた違うオリジン。

 

(絶対、紫ちゃんを好きにさせない‥!)

 

 決意を固め、出久は今日もヒーローになるための勉学に励む。

 

「取りあえず、今は個性になれることと自分の強化訓練、あと格闘訓練も」ブツブツブツ

 

 集中しだす出久を色んな意味で興味深い視線が貫いていたが、その全てを無視して歩を早める。

 

「よし、取りあえず常時10%で居るようにしよう…!!!」

 

 ちなみに、個性の無断使用は見つかれば注意を受けることを蛇足しておこう。

彼が特訓に夢中になりすぎて一時相澤にストップを掛けられるまで、数時間の事であった。

 

 

 

 

 体育祭の発表があってから次の休みの日。あと一週間足らずというところで、一人の少年が気晴らしに街へと繰り出していた。

 

「ん~、ずっと鍛錬とか死ねるっつーの」

 

 黄色の髪に黒の稲妻模様がある特殊な髪色をした上鳴電気である。

彼はUSJの事件の記憶がすっぽ抜けていた。

大技を使ったらしく、そうした後は必ず記憶が数秒から数分落ちるため、全て後々に聴かされたのだが、如何せん彼はおバカだった。

 

「赤髪に角生えた美人さんに白髪のマスクだっけ?……いや、そんなんわかんねーっつーの」

 

 個性が溢れる社会の中、その程度では特定不可能だと彼は断じた。

 一応彼はまた狙われるかもしれないからと注意されていたのだが、戦闘の実感は身体が憶えていても、脳味噌から抜け落ちているためこうして呑気に街へ繰り出すような真似が出来るのだ。

 

「つってもここらのゲーセンは一通り‥‥ん?」

 

 何時も巡っているゲーセン通りをふらついていると、人集りを発見した。

どうやら強引なナンパらしく、嫌がっている女性の手を掴んで無理やり何処かへ連れていこうとしていた。

 

(あー、しゃーねぇなぁ)

 

 すたすたと早足で歩いて行き、強情な女性に腹が立ったのか殴りかかろうとした男の腕を即座に掴んだ。

その速度は正に瞬足。男が振りかぶった時には上鳴の手は腕へと伸ばされていた。

 

「はいはいストーップ」

「な、なんだぁ!?」

 

 男からすると訳が分からないだろう。行き成り現れた少年が自分の腕を掴んでいるのだから。

あれから上鳴も成長していた。部分的な電流の加速、それに伴うリスクの低減、そうして辿りついたのが、部分加速(アクセル・ワン)と名付けた電流活用法だ。

今やったのは、両足と片腕の加速。正確には、両足の加速をした後に片腕の加速をした。同時に行うよりもなるべく分けたほうがアホになりにくいという結果を得ている。

 

「こんな往来で美人を囲んで暴行沙汰はねーでしょ」

「この餓鬼、‥おまえ、雄英生か!?」

「へ?‥あ」

 

 最近何も考えることなく、電流を流すことで条件反射であらゆる物事を済ませられるようになった彼は、何時も通り(・・・・・・)学校の制服を着て闊歩していた。

不良たちは逃げ去っていくが、これはマズイ。学校に知られると面倒なことになってしまう。

 

「…ねぇ」

「え?」

「ありがと。ちょっと付き合ってよ」

「え?マジ?あ、いやでも俺」

「いいから、ほら」

 

 そうして上鳴は赤髪の美人(・・・・・)に手を引かれ、近くのカフェへと連れ込まれてしまった。

 

 

 

 

 その日、火野彌生が居たのはただの偶然だった。

あっさり負けた火野は飼い主(・・・)であるサラにしっかり絞られ、ボロボロの体を無理やり治して半ば自棄クソで繰り出した休日の街だったのだ。

 

(はぁ…最悪)

 

 多少は気晴らしになると思っていたのに、なぜ自分は程度の低い連中に囲まれているのだろうと溜息を吐く。

真昼間からバカをやっている連中をあほらしくも羨ましくも思いながら適当にあしらっていると、急に腕を引っ張られた。

今の彼女は()を解放していない。そのため、角は無く同時に怪力も発揮できない状態だった。

 

(拙いなぁ、暴れて警察に厄介になったら今度は何されるか‥‥)

 

 金髪マッドを思い出し、それでもこいつ等に連れ込まれるのは‥と考えていると、不良を誰かが止めた。

休みにも拘らず制服を着た少年は、一瞬で現れ殴ろうとしていた男の腕を止めていた。

 

(こいつ…!)

 

 よりによって一番会ってはいけないのと出会ってしまった。

上鳴電気。自分が誘拐しようとし、失敗したターゲット。敗北を思い出し冷や汗をかく。

 

(……ん?)

 

 だが様子がおかしい。上鳴は火野を見ても何も言わない。寧ろ今制服に気付いたのか滝汗の様な冷や汗をかいている。

 

(え、ちょ、マジ?)

 

 一つ可能性が浮かんだ。

とても都合が良くて、とてもとてもあり得ないようでこれしか考えられないこと。

 

(憶えて、ない?)

 

 でもそうとしか考えられなかった。

つい最近襲ってきた相手を忘れるなんてありえないだろう、警戒の一つも無いとかどれだけバカなんだと思いながら、ピーンと一つ思いついた。

 

(元はと言えば此奴が捕まんなかったのが悪いんだ)

 

 だから痛くて辛い目にあった。それで良かったと思いながらも捕まえればよかったと後悔したし、次は一人は連れてくるようにと教え込まれた。

だから――。

 

「ちょっと付き合ってよ」

 

 火野は上鳴で憂さ晴らしをすることにした。

 

 

 

 YOU LOSE

 

「つ、つぇぇ」

 

 上鳴は対戦格闘ゲームでボッコボコにされていた。

彼は此処の常連であり、今目の前に浮かんでいる文字は見る側ではなく見せる側だった上鳴は彼女、ヒヨと名乗った美人さんに見せられていた。

 

「よっわいなぁー、ほれほれさっき不良相手にやったみたいに瞬殺してみなよー」

「瞬殺て。俺は止めただけだっつーの」

「逃げたのはあっちなんだからアンタの勝ちでしょー。あ、次アレやろアレ!」

「ちょ、マジ待って俺この格好のままいるのは」

「イイって、ダイジョウブダイジョウブ」

「すっげぇカタコトじゃね!?」

「あーもぅ男が細かいこと気にしないの!シャキッと歩く!」

「いった、分かったから叩くなよ!?」

 

 上鳴は女好きでナンパをしたことがあるがどれも玉砕ばかりだった。

可愛かったり美人さんとのデートは望むところなのだが、こんな負けまくりで、尻叩かれリードされっぱなしの格好つかないデートは望んでいなかった。

 

(散々‥‥でもねぇか)

 

 この美人さん、凄く楽しそうにしている。負けても仕方ないなぁなんて思わず言ってしまいそうになるくらい綺麗で、見惚れた回数はもう覚えていない。

 

「ってヤバくね俺?」

「んー、どしたのー、次行くよ~?」

「お、おぅ!」 

 

 そうやって暫く負けまくりのゲーセンを楽しんだ最後、上鳴は最後にプリクラを撮らないかと提案した。

対戦ゲーや協力ゲーばかりで、何か形の残るものが欲しかったのだ。

 

「んー、プリクラはちょっとNG!」

「まじかー。どうしても?」

「どーしても! っていうか対戦もスコアも私に勝ててないのに、要求なんて生意気♪」

 

 ピンッと凸ピンを受ける。

摩りながら真面目に残念がっていると、ヒヨがそういえばと話を変えた。

 

「雄英生ってことは次体育祭あるんだよね」

「おう!まぁ俺の大活躍だろうけどな!」

「んー、上鳴バカっぽいからすぐ負けそう」

「な!?そんなことねぇって!」

「私にボロ負けしてるのに?」

 

 ニシシと悪戯っ子の様に笑うヒヨ。

悔しいが事実なので何も言い返せない上鳴。そこで、思いついたように人差し指を立てた。

 

「おっし、そんなに言うなら一つ賭けようぜ」

「賭け?」

「そう。俺は絶対大活躍する!」

「あぁそういう。で、賭けってことは私が勝った場合どうするの?」

「もう勝った気かよ!?」

「賭けは対価がないとねー盛り上がらないでしょ?」

「…じゃぁ今度会ったときに一つ言うこと聴いてやるよ!」

「こんな悪女に言い切っちゃったねぇ」

「なんでもいいさ!そんかわり――」

 

 あーららとあっけらかんな彼女に指さした。

 

「俺が勝ったら、連絡先教えてくれ」

「‥‥‥」

「次会ったときにでいいから、連絡先、教えてくれ」

「……え、えっと?」

 

 言い切る彼にどうしよっかなぁと悩むヒヨこと火野彌生。

こんなフリーで会うことはもう無いだろう。きっとこの賭けが成立することは――。

 

(いや、待った。何で私は賭けを気にしてるわけ?バカなの?)

 

 断る一択だろう。何を考えているんだろうか自分は。

 

(……なんでもいいか)

 

 断ろうと思考を放棄しかけたその時、上鳴が再度強く言った。

 

「ヒヨんために絶対活躍すっから、俺」

「―」

 

 放棄どころか思考が停止した。

この少年何を言っているのか自覚あるのか?いやきっとない。此処数時間でよく分かった、この少年はアホだ。バカは死ねば治るがアホは治らない。致命的だ。

 

「あーもう、速く決めろよ!賭けるか、賭けねぇか!」

「……アハハ、あーもう」

 

 何やってるんだろうなぁと自嘲して、あの高校のレベルの高さを改めて頭の中で計算していた。

本気で賭けようとしている自分を嗤いながら、火野彌生は上鳴電気に小指を立てた。

 

「イイよ、賭けよ」

「おっしゃ!観てろよー!」

 

 こうして悪に飼われた少女と正義を志す少年が一つ、賭け(約束)をした。

 次の日からハチャメチャに頑張りまくってアホになるアホの姿が放課後の校舎で目撃されるのは蛇足である。




 気付いたらこうなっていた、この路線でいいのかな?‥‥いいや、うん。火野幸せにしたい(←オマイウ
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