歪な英雄 作:無個性者
クラスが各々頑張っている仲、六道紫は悩んでいた。
USJに現れた
自分なのに自分じゃない場所から湧き起こったそれについて、彼女なりに色々考察をしていた。
勿論わかるわけもなく、結局夢に出てくる髑髏や骸骨達に立ち会って訊くしかなくなっていた。
「……対話、出来るなんて知らなかったな」
今まで逃げてきたからだと自嘲した。
あの事件の後、それとなく両親にがしゃ髑髏について尋ねてみたが、どうやら知らないようだった。
恐らく一族全員が眼を逸らしてきたのだろう。
あんな怪物相手に話が出来るなんて想像するのすら難しい故に仕方ない事だともいえるが、臆病な事に変わりはない。
「……怨念と愛情、愛憎の
がしゃ髑髏は自分をそう名乗った。
夢の中で行う質問には、言葉と一緒にイメージまで返ってきたことがある。
戦いや争いが憎くて、でも愛する者のために、愛した者のために戦いと争いを蹂躙してきた存在。
愛情があった。憎しみがあって、悲しみがあった。
あれから幾度となく交わした質疑応答の結果唯一ハッキリしたことがある。
(がしゃ髑髏は。これは、
異物感もそうだが、返ってきたイメージの中で一つだけ怖気で暫く震えるほどの悪感情を覚えた光景があった。
――骨を体中から突き出した男性。
紫だって身体から骨を出すが、あのイメージで伝わったのは紫が日頃使っていた能力とは違う
自分から創造、操作するのではない。
外部から異物を流し込まれ、それが身体中に満ち溢れ、零れた結果突き出していく。
自分というモノを無理やり書き換えられるようなあの感覚は、人間を止めさせられる感覚だと彼女は思った。
彼女はこの力を個性に似た力だと言われ、継がれてきたが、それをハッキリ自覚したのはこれが初めての事だった。
(アレは私で、これは個性じゃなくて……じゃぁ、わたしは、わたしは……)
思考が闇に溺れそうになる。
その度に自分の身体を自分で抱きしめて、あの時の感覚を別の暖かな感覚に置き換えようとする。
(いずく、くん……)
骨の化物になりかけていた彼女を文字通り連れ戻した彼の暖かさを想い、彼女は自我を保とうとする。
人知れず、一人の少女が涙を溢した。
☠
筆記音が響く部屋。
本来なら勉強のベの字を考えた瞬間にやる気を無くす様な少年、上鳴があり得ないことに机に齧りつく様にしてノートに書き込みをしていた。
「…………―」
彼にしてはとてもとても珍しいことに数時間もそうしている。あり得ないことに両親が驚きを通り越して怯えていることも知らずにノートに数式と図面を書いては睨めっこを続けていた。
内容は、電流・電圧に関するまとめ。それに加え、電流の発生による磁界や人体に流れる電気に関して等々。
彼の個性である「帯電」を知り、尚且つ応用できるようにと丸一日使い潰すつもりで行っていた。
前半のまとめは学校でも教わって当たり前に知っていることであり、自分の力の基礎中の基礎だ。本題は寧ろ後半の「磁界」や「生体電気」の方だ。
「つっても、これは……」
ぶっちゃけ高校入学したての子供にはとても難しい内容に加え、前提条件として電流が
一つ加えるが、上鳴電気は決してバカではない。雄英高校に入学できるだけの実力というのは勿論学力も入るわけで、雄英高校の中では頭が良いとは言えないが、それ以外でならそこそこ良い部類に入る。
そんな彼が電気に関して調べたことが無いわけがない。基本遊び中心な生活だったため触り程度なところが多いが、それでも無知ではなかった。
「無理かぁ?」
故に、冷静に自分の能力を察することができる。
彼の個性「帯電」の主な利用法である「放電」だが、これは実際行われる放電とは少し意味合いが違う。
簡単に説明すると、電位差やら電子やらが関係する現象を放電というが、上鳴の個性はどちらかというと乾電池のそれに近い。
充電した電気を放出するだけ。それを無理やり体の中で加速させたり暴発させたりと無茶苦茶やった結果が、時間が遅くなったように錯覚する超加速現象や、記憶喪失に繋がっているあの電気爆発である。
上鳴は人間であるため、電池と全く同じというわけではないだろうが「帯電」という個性は電池に近い物であり、体内の電流はともかく、磁界等の複雑な指向が必要な外に放出する行為は、何かしらのバックアップが必要ということを再度理解しなおした。
「……サポート科に頼むしかねぇけど、大会は道具ダメだしなぁ」
ダメといっても、全てというわけではない。
個性使用にどうしても必要な物や、個性を扱った際に起こった現象に対し、安全面からして必要としているような物ならOKが出るらしい。
例えるなら青山のビーム。あれは理屈は知らないが、ベルトによって指向性を持たせているらしい。恐らくベルトが無いと光線が拡散したりするのだろう。拡散したビームの威力がどの程度かはわからないが、安全面から考えてもベルトが無いと危うい。
「うがー、んー……」
上鳴はうなだれた。それはもう机にべっとりと張り付くほどに項垂れた。
帯電の個性は道具があれば有利だが、道具を必ず必要としているわけではない。絶縁体があろうが無かろうが上鳴自身に対する放電の影響は変わらない。
(あとはどうにかアホにならない方法‥‥もしくは回復する方法か)
最大電力を超えると直ぐアホになってしまう。脳の回路がショートしているのだろう。これは電圧を抑えるか、電流を少なくするしかない。
暫くすれば回復するのは人間である上鳴が持っている治癒能力と、後は個性に対する耐性や最大値の向上などによって緩和が可能。
「ってこれも直ぐには無理だよなぁ」
個性は使えば使う程高まっていく。使う度にちょっとずつ、アホになるたびに強くなっていくと言えば分かり易いかもしれない。
この治癒能力も、スポーツの様に鍛えては休むを繰り返せば効果が高くなっていくだろう。
(ん? まてよ、そういや体内の電流は操作できたよな)
加速だけではあるが、電圧、彼にとっては厚みに近いモノを調整するイメージで行えた。ちなみに電流は水流、蛇口や滝をイメージしている。
(つまり、俺中心に磁界の発生の操作は出来んじゃね?)
彼の想定とは違いかなり小規模になるが、改めてノートに磁界の自力操作を考案しだした。
(磁力はもう力技しかないとして、あとは原子操作か……)
そうして一日使って頭の中で出来る限りのことをノートに書き溜めした彼は、改めて部屋から出た。
「よし、後はもうアレだな……頑張るかぁ」
雄英祭まで残り数日。彼は自力の強化の為、大容量のコンデンサを用意した。電力数を調整し、コードを握る。
コンデンサに身体を繋いで無事でいる辺り、上鳴の耐性の高さがうなずける。
そのまま電気を作成、蓄電させ自分に流し込み最大電力を維持しつつ最大値を引き上げる特訓だ。
「アバババババババババ!!!!!」
勿論、最大電力のためすぐにアホになるが、アホになっても大丈夫なようにコンデンサに自身を括り付けて行っている。電気を改めて作成しなければ、自然とコンデンサの最大容量が無くなり終了する。
言うまでもなく危険な行為であり、止められること必須なので人気のない場所で行うのだが問題点が三つ。
一つ、夜はめっちゃくちゃ目立つ。よって行えるのは朝から夕方まで。
もう一つ、電気を流し込まれながら電気を作ると永久機関化してしまい、コンデンサがいかれるか彼自身が危険だと本能的に感じてやめるまで止まらなくなってしまう。
そして最後の一つ……。
「うぇ、うぇーいぃ」
終わった後上鳴がアホになるため、一見するとコンデンサに自分を縛りつけた
縛っている故にアホな状態のまま徘徊することはないため、人に見られずにすむことは幸いなのかもしれない。
だが、どっちみちヒーローとしてあまり見られたくはない状態であることを彼は心に思いつつ、日記にすら書かないことを決断した。
☠
雄英祭が近づき、前日となったその放課後。
下校しかけた飯田は未だ包帯を巻いたままの相澤に止められた。
「雄英祭だが、お前が宣誓をしろ」
「何故‥?」
「毎年の恒例だからだ。入試一位が選手宣誓を行う。本来なら当日その場で指名するんだがな、お前の場合先に言っとかないと長々と語りだしそうだからな」
合理的判断に基づいた行動だ、とこぼす相澤先生に対し、飯田は少し口を噤んだ。
「‥‥先生。入試一位、それは
「……何が言いたい?」
当たり前だ、事実だと言えたはずなのに相澤は訊き返した。
合理的じゃないが、だが事実として言えば‥そんな考えが過ったからだろう。
「俺は入学してから一番になったことがありません。そもそも、あの入試だって緑谷くんの指揮があったからこそでした……俺は、
「‥‥‥」
「他にオカシイと言えば、六道さんです。どの授業でも好成績どころじゃない。個性も、その運用も、冷静な思考に初めの基礎学で見せたあの爆豪くんに対する
―私は授業より彼らを優先します。
オールマイトにそう言ったと聞いたのは、授業の後でのことだ。
授業放棄のつもりで爆豪と出久の決闘を見守る決断をした。
それは、良くも悪くも優等生の飯田には出来ないことで、同時にとても
「そもそも、彼女は緑谷くんと一緒に試験に臨んだと緑谷くんから聞きました。特待生という肩書を持っていたのなら、試験は必要だったんですか?」
(こいつ……)
相澤は目を細めて飯田を観察した。
強い視線、意思ある表情。
(気付いてんのか)
ハァとため息をついて頭を掻いた。
相澤なりの降参のつもりだった。
「…そうだ。今年の
「!」
「だが!」
何かを叫びかけた飯田を先に止め、ゆっくり言葉を紡ぐ。
気付いている彼に間違ったことを伝えるのは、ヒーローや教師以前に人として彼自身が容認できなかったためだ。だが、教師として、社会人として相澤は飯田に事実を飲み込ませようとしていた。
「六道でもない。お前、麗日、そして緑谷がそうしたように六道と組んだ奴、そいつが一位だ」
「……つまり、俺は事実三位ってことですか」
飯田にとっては出久が居なければ得られなかった順位だ。
本当は三位以下だと自身を責め、爪が突き立つほどに拳を強く握った。
「あの二人が異常だった。恐らく、あの時点であいつらは仮免を受けさせても良い実力を持っていた」
合格するかは別としてな、と付け加えながら相澤は飯田に一つ選択をゆだねることに決めた。
「で、飯田。お前が何を言おうと、俺含め教師たちは特待生だと言い切った時点でこの決定を揺るがすつもりはない」
「…」
「…まぁ、ただ。お前が選手宣誓で
「え‥?」
「宣誓、考えておけよ」
「……はい!」
頭を下げる飯田にじゃぁなと簡単な挨拶をして教室を後にした。
「……不合理だな、教師ってのは」
帰り際に溢したのは、合理的という口癖の彼にとっては、珍しくもない愚痴だった。
寝不足なんて知った事かー!あっはっはー!(ry