歪な英雄   作:無個性者

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第2競技 騎馬戦―後

 骨の馬を台に宙でもう数秒滞空した出久達は、少し離れた場所に着地した。

自分達が居た場所では紫たちが争っている。

 

「敵が減った、この調子で」

「よぉ」

「!」

 

 話しかけられたと同時に冷気が出久チームを襲う。

もう一度背中のバックパックを使い飛びあがったが、そこへ八百万が創造した網が放たれる。

 

「スマッシュ!」

 

 拳ではなく、掌で煽ぐ事によって旋風を起こし網から逃れる。

見れば網を持っているのは八百万ではなく上鳴だった。あのまま捕まっていれば痺れされ動けなくなっていただろう。

 

「轟君か‥左側に付く様にして!」

「分かった!」

「うむ」

「話し合っていた通りに、ですね!」

 

 事前に轟対策は考えてあった。

彼の個性は強力だが、左側(炎熱)を使おうとはしない。右側(凍結)からしか攻撃しないのなら、右から左へ冷気を流さなければならなくなる。

 

(でも今の状況はチーム戦‥右から左に冷気を流せば、自然と自分の騎馬も攻撃してしまう!)

 

 全く使えないことは無いだろうが、扱い辛いはずだ。

いち早く轟も出久の狙いに気付き、よく見て考えてやがると感心しつつ、ならばと八百万に造って貰った鉄棒を地面に接させた。

棒を伝って冷気が地面に流れ、出久と轟のチームを囲う様に地面が凍っていく。

 

「お前のそのバックパック、飛距離はそんなにないだろ?」

「くっ」

 

 バックパックは上へ逃げる為のモノであり、横には十メートル前後しか移動しない。

麗日の個性によって大分緩和されても数メートルの誤差。

氷の範囲はその辺を意識されてしまっている。着地地点が氷というのはかなり拙い。しかも背後はライン際。後ろにはもう逃げられない。

 

「皆、ともかくこの距離をキープしよう!」

「ハァ‥逃がさねぇ」

 

 大分広範囲を凍らせたからだろう、轟の体に若干霜が降りていた。

初めの基礎学の時にも確かそうなって、動きづらそうにしていたのを思い出す。

 

(大丈夫、そんなにポンポン広範囲を打てるわけじゃないんだ‥‥‥それに、打消しは可能だ)

 

 出久は轟の最大規模を知らないが、仮にさっき氷の塊を撃ち込んでこようものなら、出久は100%を使ったかもしれない。

これだけの広範囲を凍らせる力をそのまま氷の塊にしてしまえばどれだけの威力になるのだろうか計り知れない。

それでも、オールマイトの100%ならば打ち消せると出久は考えていた。

 

(小規模なものや、この距離で襲ってくる冷気に氷位なら17%で対処できない事もない‥でも全部後手後手だ。考えろ、考えろ‥)

 

 17%の拳が生み出す衝撃波は100%には遠く及ばないものの、岩やコンクリなら破壊できることを事前に確認済みだった。連続でパンチし続ければ、冷気を吹き飛ばし氷を砕き続けられるだろう。

 チーム戦だと考えれば、恐らくこれが大規模な冷気で行える限界だと思考を続ける。

右から左に撃ち込みづらいように、余りに規模が膨大になればなるほど味方を巻き込んでしまう。だからあの棒を使って、冷気の指向性を高めたのだろう。

 

(轟君が凍らせる速度は、実際眼で負えない程じゃない。棒を伝っていくなら尚の事速度もある程度遅くなる。大丈夫、対処できる)

 

 さっき見た情報を元に、冷気はどうにかなるという結論を出した。

だからこそのキープ。轟と組んでいる八百万、上鳴、飯田はかなりの強敵だ。

 最近威力以外にも個性を鍛え始め、磁力を操りだした上鳴。

その上鳴の攻撃に指向性を持たせたり、絶縁体を造って放電だって可能にさせる八百万。

そして、入試では大変世話になった飯田の機動力。

 

(最悪なのは飯田君の加速範囲内に入ってしまう事だ。この距離から数メートル入れば、彼の機動力ならあっという間に距離を詰められてしまう‥)

 

 そうなれば氷に加えてなにより上鳴が厄介すぎる。

常闇と上鳴の相性は最悪で、上鳴の雷光によって常闇の個性は弱まることを出久は予想していた。

弱まった常闇の個性では、氷と創造を相手取るのにはかなりキツイだろう。

 

「この距離を維持すれば―」

「獲れよ轟君!!」

 

 だが、何事も思考通りにはいかないものだ。

 

「トルクオーバー!!レシプロバースト!!!」

 

 想定を超えた超速度の加速。

17%を無理して維持し続けていた出久にもギリギリ反応出来るほどで、彼の騎馬は全く反応できなかった。

 

「――くそ、やられた!」

 

 1000万を取られた出久。

だが、轟の方も良い表情はしていなかった。

 

「ちっ、マジか」

 

 レシプロバースト、その加速力に驚きながらも1000万を掠め取った轟だが、自分の鉢巻が消えていることに気付いた。

 

『お、おぉぉおお!?飯田謎の超ォ加速!!1000万を奪い取ったぁー!』

『だがすれ違いに轟の鉢巻を奪ってんな。反射的に体が動いたんだろう』

 

 来たと思ったときは1000万の鉢巻に轟の手が掛かっていた。瞬時に取られると判断した出久は反射的に彼の頭に手を伸ばしていたのだ。

 

「どうする!?」

「取り返す!黒煙出てるってことは、アレ多分連発は無理なはずだ!」

 

 緑谷と轟は順位がひっくり返り四位と一位になった。十分範囲内だが、狙うは一位。

貪欲になれ、勝利を狙うのだと言う意思を込めて出久は声を張り上げた。

 

――BOOOM!!!

 

 そんな彼らの間に、爆炎が巻き起こる。

 

1位(1000万)は、俺ンだぁああああああああ!!!!!!」

「か、っちゃん!?」

 

 氷結を爆破して派手に割り込んできたのは、爆豪勝己。

残り1分、三つ巴の争いが始まった。

 

 

 

 

 ポイント持ちが争う中、0Pの者達も負けじと向かって行っていた。

氷結と爆炎に入っていくものは流石にいなかったが、代わりに鉄哲チームと争っている紫達と、心操チームに群がっていく。

 

「うわ、凄い人気」

「拳藤さん、捕まって!」

 

 骨のベルトを緩め、振り返り紫にしがみつく。

同時に、二人を骨の膜が覆った。更にそれを核として馬の形が変わっていく。

 

「「「「「ちょ、おま、ずりぃいいいいいいい!!??」」」」」

『お、おぉぉお!?骨の巨人だぁー!つーかあれどうなってんだおい!?』

『ポイント保持を選んだんだろう。ポイントが低かった最初はともかく、今はあれこそ合理的だな…‥周りが何で視えてんのかは分かんねぇが、流石だ』

「あ、あはは‥凄い言われよう」

「……勝つため、だから」

 

 骨の巨人。その中にいる拳藤には、外の様子は見えない。

だが、紫には分かっていた(・・・・・・)

 

(骨に半身が埋まっていた時も、視界が塞がっていたわけじゃなかった……どういう理屈かはわからないけど)

 

 骨の巨人には視界が存在した。骨で造った眼球がそのまま紫の視界として反映されているようだった。

元々自分の能力の感触は把握していたが、あの半暴走を経てから何かが紫の中で強くなっているのを感じていた。

 

「ん、来る」

「え?」

 

 身構えた紫。骨の巨人をみて大半が諦め、逃げ回る心操チームに群がっていく。

だが、心操チームは何をしたのか、群がっていた半数が反転し紫たちへと襲い掛かって来ていた。

その全ての個性を弾き飛ばしつつ、防衛していると――聞きなれた声が上から聴こえた。

 

「いっけぇ、てっちゃん砲!!!!!」

ガボゴボガボボボ(後で覚えてろお前ぇ)!!!」

 

 反射的に上を見た巨人の視界に映ったのは、水の分子運動を止め、氷の砲台を作り上げた黒水が、水の中に鉄哲を入れ、圧力で発射する瞬間だった。

 

「伏せて!!」

「わ!?」

 

 何が起こっているかわからない拳藤の頭を抱きかかえ、核の中で小さくなる二人。

砲門が解放され、鋼と化した鉄哲が骨の巨人を斜めに通過した(・・・・)

鉄哲は個性を解除し、下で仲間が作り上げた蔓のクッションに救われていた。

 

「覚悟!」

「!!」

 

 鉄哲が作った穴にとびこんだ黒水。

その手から放たれた粘度の高い水が、紫の鉢巻を狙う。

 

 

 

 

 黒水水舟は、六道紫と知り合う前から知っていた。

親から話を聞いていたのもあったが、それ以上に髪も肌も真っ白な彼女は、只いるだけで神秘的だったのを覚えている。

 

「水舟、我が黒水家はな――」

 

 只綺麗だな、なんて思えたのは少しの間だった。

ある日、六道家と黒水家は近所ということもあり、紫に会える機会があった。

機会と言っても、ちょっとしたお茶会みたいなものだ。

彼女たちの家同士はとても仲が良く、改まって何の話だろうと小首を傾げた昔の小さな水舟は、聞かされた話に驚いた。

 

「――六道家、その深淵が暴走した際に食い止め‥‥場合によっては討ち取ることを約束した家系なのだ」

「…‥‥‥は?」

 

 曰く、今まで個性や体を鍛えさせたのは、家柄もあるがそれ以上にその約束(誓約)を全うするための一環だという。

しかもその約束を覚えているのは黒水家だけだとか。

よく分からない黒水は、よく分からないまま紫に邂逅した。

 

「初めまして、ボク黒水水舟、よろしく!」

「…六道、紫、です」

 

 あの頃は自分と大して変わらない背丈だったのに、自分よりずっと小さな存在に見えた。馴れ馴れしく話しかけてはちょっかいかけてくる黒水を冷たくあしらいながらも、時おりふっと小さく楽しげに微笑むその表情が大好きで。

 

(あぁ‥ごめん、父さん、母さん。よく分かんないご先祖様)

 

 黒水は一つ、誓ったことがあった。

 

(僕は、この子を護りたいです)

 

 討ち取るなんてしたくない、争いなんてしたくない。

成らばどうすべきか、どうなるべきか。

 

(強くなろう。約束が何かは分からないけど、討つ‥‥殺すためじゃなく、護る為に)

 

 紫の個性の強力さと異常さには気付いていた。

自分の個性も強い方だと自覚していた。だからこそ、この自分勝手な誓いを自分にしたのだ。

 

(負けない、特に彼女には負けちゃいけない)

 

 護る対象に負けるなど、あってはならない。

だから――。

 

 

 

 

 

「――勝ち、たかったんだけどなぁ」

 

 黒水の水が届くよりも、紫の骨が彼女を追い払うほうが速かった。

当たり前だ、砕かれてもこの骨の巨人の内側は紫の支配領域(テリトリー)なのだから。

 

「くっそ、あぁチクショウ」

 

 骨に吹き飛ばされながら、黒水は心底悔しそうに呟いた。

 

 

 

 

「出来ましたわ!!」

「上鳴!」

「おう!!」

 

 絶縁シートによって可能になった上鳴の放電が、出久チームと爆豪チームを襲う。

 

「知るかァァァア!!!」

 

 爆豪は自分のみ爆破で飛翔した。

完全には逃れられなかったが、なんと痺れながら突撃する。

 

「任せて!」

 

 爆豪のチームメンバーの一人、芦戸が粘度の高い酸液の壁を作りだし、どうにか上鳴の放電を逸らした。

予選での黒水の粘度操作を見て、参考にしたのだ。

 

「バックパックが!?」

「ベイビーちゃん!?」

 

 常闇の個性に助けられながらもバックパックが壊れてしまった。

もう空に移動は出来ない。

 

「それ、でも!!」

「おぉらぁ!!」

「っ!」

 

 突っ込んでくる出久チームと、目の前で痺れながら爆炎を振るおうとする爆豪の気迫が轟を襲った。

 

(ッ、俺は、何を)

 

 思わず左腕を前に出した自分に驚きながら、二人の気迫に何か既視感を感じる轟。

 

(こいつは――)

 

 それに気づく寸前。

 

『そこまで、競技終了ーーー!!!!』

 

 第2競技が終了した。

 

 

 

 

1位 轟 チーム

2位 爆豪チーム

3位 拳藤チーム

4位 緑谷チーム

5位 心操チーム(内2名)

 

 以上の者達が、第3競技へと進む切符を手に入れた。




仕事行くギリギリになっちゃった、(´・∀・`)エヘヘ。
でも今書かないと今日明日は特に忙しくて考える間もなさそうなので‥orz
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