歪な英雄   作:無個性者

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最終競技 始

 一時間の休憩をはさみ、午後の部が開始される。

皆が昼食を食べに行く中、出久と爆豪は轟に呼び出されていた。

関係者しか入れない人気のない場所に呼びだした轟に対し、出久はおどおどと、爆豪は不遜な態度で構えていた。

 

「……最後の最後、お前ら(・・・)に気圧されたよ。思わず自分の誓約破っちまいそうになるくらいにな」

「え‥?」

「……」

「飯田も上鳴も八百万も常闇も麗日もあのサポート科の奴も、何も感じちゃいないようだったけどな……どういうわけだか、あの一瞬。脳無と殴り合うオールマイトの気迫を想起しちまった」

 

 暫しの空白を挟み、出久と爆豪をしっかりと見つめる。

 

「お前らが俺には持ってない、No.1ヒーローの何か(・・)をもってるなら俺は、お前らにだけは勝たなきゃいけねぇ」

「そ、それってどういう‥というか、なんで?」

「……個性婚って知ってるか」

「う、うん」

「個性が発覚してから、第二第三世代で問題になったやつ。自分の個性をより強化して継がせるためだけに配偶者を選び、結婚を強いる。うちのクソ親父は金と実績は有り余らせてたからな。このご時世に母の親族を丸め込んで、母の個性を手に入れた…」

 

 全ては自分の子にオールマイトという伝説を越えさせる為に。己が越えられないという屈辱を認めた男の、倫理観を無視した欲望の叶え方。

 

「記憶の中の母はいつも泣いている。お前の左側が憎い、そう言って母は俺に煮え湯を浴びせた」

 

 顔の左側にある火傷痕はその時のモノなのだろう。

家庭崩壊を起こして尚、彼の父エンデヴァーは止まらなかった。

 

「ざっと話したが、俺がお前らに突っかかってんのは見返すためだ。クソ親父の個性なんざなくたって……いや、使わず一番になる(・・・・・・・・)ことで、奴を完全否定する」

 

 今日まで、出久も爆豪も家族には恵まれていた。

だからこそ世界観が違うと言える話を聞かされ、少し頭の整理が必要だった。

少しの思考の後、先に口を開いたのは出久だった。

 

「‥…僕は、ずっと、小学生のあの時からずっと、助けられてきた」

 

 出久は他人に恵まれた。隣人に恵まれた。

 あの日、紫と出会わなければ体を鍛えはじめることは無かっただろう。きっと無個性なのを言い訳に、もしくは周りの嘲笑に押し潰されて何も出来なかったはずだ。自分も母もあの無個性が発覚した日からずっと、暗い雰囲気を引きずることになったかもしれない。

 あの日、オールマイトに出会わなければ自分は雄英に合格できなかったはずだ。無個性のまま受験して、落ちていただろう。無力を嘆き、受け入れ、全て諦めていたかもしれない。

 

「誰かに助けられて此処にいる」

 

 強く、そう想う。

誰かが欠けても今の自分は居ないのだと、皆によって創り上げられたのだと。

 

「オールマイト‥彼みたいに、笑って人を救ける最高のヒーローになりたい。そのために一番になるくらい、強くなくちゃいけない……他の人からはずっと笑われてきたこの目標を、応援してくれた子がいる。頑張る自分を見守ってくれた家族がいる。雄英に来てからは、そんな人が増えていった」

 

 そんな人たちに応えたい。だから、彼は負けたくないのだ。

 

「応えるためにも‥‥勝ちたい、いや、勝つ。僕は僕の為にも、一番になる。

轟君の話は正直ビビったけど、同情とかしない。――前言撤回はしない。僕は勝つよ、キミにも、皆にも」

 

 それが轟の想いを受け入れつつも、出久の出した答えだった。

そして良くも悪くもそんな出久と正反対の爆豪も……。

 

「ハッ、くっだらねぇ。結局やる事なんざ変わんねぇだろうが」

「かっちゃん、そんな言い方」

「黙ってろ」

「―!」

 

 出久を一瞬睨んだ爆豪の瞳は、別に轟を嘲るだとかそういう物は入っていなかった。

強い、とても強い気迫に出久が思わず黙り込む。

 

「ただ言うなら、気にいらねぇ(・・・・・・)

「なにがだよ」

「No.2のクソ親父を見返すっつぅのは別に構わねぇよ。ただやり方が気にいらねぇつってんだ‥力を使わず一位になる? ――舐めてんのかテメェは!!!!!」

 

 握り締めた拳が小さく爆破を起こした。

思わず個性を使ってしまう程、今の爆豪はキレていた。

 

「クソ親父がムカつくってんなら、テメェの力で捻じ伏せればいいだろうが!!テメェのそれは、立ち向かうのを止めた腰抜け野郎のただの言い訳だ!!」

「‥‥」

 

 目つきが鋭くなっていく轟。自分の信念を否定されれば彼も頭に来るのだろう。

爆豪と違い、冷酷に轟の怒りは増していく。

 

「万年No.2の雑魚なんざ目じゃなくなるくらいになりゃぁいい!クソヤロウのモノ全部お前が塗り潰しちまえばいいだろうが!!No.1になって見返すっつぅのはそう言う事だろうが!履き違えてんじゃねぇぞ!!!!!」

「かっちゃん……」

 

 出久とは真反対。拒絶からの怒声を轟に浴びせる。

だがそれは、彼の実力を認めているからこその怒りだった。

お前ならできるんだから、やれ、逃げるなと。

 

「左側、使って来い。その上で俺が全部ぶっ潰す!

 一番になるっつぅのがどれだけ厳しいか、テメェに教えてやるよ舐めプ野郎」

 

 三人以外誰も知ることのない宣戦布告が交わされた。

 

 

 

 

「アー、きっちぃ」

 

 上鳴電気は昼食を食べ終え、気分転換に少しの間会場の外に赴いていた。

外は露店が賑わっており、まさにお祭り騒ぎとなっている。

 

「……」

 

 自分なりに、かなり無茶をしている自覚があった。

特に磁力操作なんて道具が無い状態で行うのがこんなにキツイとは思ってもいなかった。今でも過度の集中力を使った精密作業のせいで少し頭が痛むほどだ。

 

「よっ」

「おわ!?」

 

 座り込んでいた彼の首筋に、何か冷たいものが当てられた。

背後を振り返ると、悪戯っ子の様な笑顔を浮かべた彼女が居た。

 

「ひ、ヒヨ!?」

 

 冷えたコーラの缶を持った彼女の子供の様な笑顔に少し赤くなりながら、隣に座る彼女に何も言えず上鳴は驚きを隠せずにいた。

 

「はいこれ。頑張ってるご褒美」

「さ、サンキュー‥‥来てたのな」

「ん、まーね」

 

 正確には鬼門の中からずっと見ていたのだが、そんなこと知らない上鳴はそっかーと何でもない様にコーラを飲む。

角を隠しているとはいえ、上鳴の近くには自分の姿を直に見た八百万と耳郎がいるため、今の今まで会場に侵入できずにいたのだ。

 

「どう、調子は?」

「まぁ、任せとけって!この俺の活躍を目に焼き付けるといいぜ!」

「アハハ、見栄っ張りだなぁ。さっきまで暗い顔してたくせに」

「うぐ」

 

 あっさり見破られ、思わず言葉に詰まる上鳴。

ナンパ慣れしている自覚がある上鳴は、前回同様彼女に振り回されていた。

 

「まぁ、皆強いからな。しょーじきいって、結構一杯一杯なんだぜ」

「素直なのは良い事だよ。……あー、上鳴?」

「ん?」

 

 疲れた様子を見せる彼を見て、彼女は何かをしてあげたくなった。

だから声を掛けたのだが、何を言ったらいいのか分からず無言になってしまう。

彼女にとって、こうして異性と普通に語り合うのは、もうずっと過去の話だったから、尚の事戸惑ってしまう。

 

「どうしたよ?」

「あーえっと…‥えぇい!」

 

 女は度胸!と色々もやもやを振り払うように立ちあがると、彼の目の前に立った。

 

「頑張ってくれて、ありがと……カッコいいよ」

 

 目線を逸らしながら顔を真っ赤にした彼女に見惚れながら、ああもうドストライクだコンチクショウと心のフォトフォルダに全力保存していた。

 

「でもまだ頑張ってね」

「おう、約束だからな!」

「うん……応援してる」

 

 大活躍をする。絶対に、その約束を果たすのだと上鳴は改めて誓っていた。

 

「よ、よーっし、まだ時間あるよね、ちょっとまわろ!」

「え」

「お祭りってテンション上がるよねー!」

 

 完全に羞恥を誤魔化そうとしているのがバレバレだが、突然のデートの誘いに上鳴が乗らないわけもなく、彼は時間ギリギリまで彼女と一緒に露店を巡って行った。

 

 気付けば、頭痛は消えていた。

 

 

 

 

 休憩終了し、全員が会場へ集合する。

 

『最終種目発表の前に!予選落ちへ朗報だ!こいつはあくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してあんぜ!なんと、本場アメリカからのチアリーダーも呼んでいっそう盛り上げ‥ん?ありゃ?どーしたA組!!?』

 

 A組の女子面々は、何故かチアリーダーの格好をしていた。

 

「皆がチアの格好をしないとって‥‥」

「私は先生がそうおっしゃったと聞いて準備を…」

「人づての伝言はダメね…」

「ごめん、峰田からの言葉だということにまずウチが警戒すべきだったわ…」

 

 各々が反省しつつ、はめた峰田はA組のみならず他の組からも称賛を受けていた。

 

「い、出久くん。あんまり見ないで‥」

「ハッ‥! あ、いや、ごめん!!」

 

 真っ白な紫は性格もそうだが個性の扱い方からして、基本骨に覆われたりしている。

そのため、腕も足もこんなに人前に見せることは余りなかった。

綺麗で恥じらう姿がとても可愛らしく、一瞬で脳内に保存した出久を誰も責めることなんて出来やしないだろう。

 

「……」

「って上鳴が静かだな。オーイ、どした?」

「‥ん?え、あぁ‥って何でチアァ?!」

「今かよ!?」

 

 瀬呂によって正気に戻った上鳴。

勿論考えていたのはさっきまで一緒に居た彼女の事であり、ぶっちゃけ今の今まで彼の思考はどこか遠くへ飛び去っていたのだ。

 

『あー、まぁ祭りだしな!そのままチアしてもらうか!』

 

 おっしゃーという歓声が客からも響いた。

此処に集まっているのはほとんどヒーロー職の者だと思うのだが、大丈夫なのだろうかこんな調子で。

 

『レクリエーションが終われば最終種目、進出5チームから16名からなる、トーナメント形式!一対一のガチバトルだ!!』

 

 例年形式は違うが、最終種目は一対一というのがお決まりなのだ。

慣れた様子でくじ引きを出すミッドナイト。

 

「それじゃぁ、組み合わせのクジ引きしちゃうわよ。決まったら、レクリエーション挟んで開始になります!進出者はレクに参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も、温存したい人もいるだろうからね。そういえば、心操チームは面子決まったかしら?」

 

 心操チームは4名だが、人数の都合で二名までしか参加できない。

 

「はい、大丈夫です」

「……」

 

 心操以外、特に二人は何やら暗い雰囲気だが決まったのならいいと1位チームからくじを引かせる。

 

 

 

 

一組目 緑谷VS切島

二組目 常闇VS青山

 

三組目 飯田VS発目

四組目 六道VS心操

 

五組目 上鳴VS芦戸

六組目 麗日VS八百万

 

七組目 瀬呂VS轟

八組目 拳藤VS爆豪

 

 

 

 

 トーナメントが決まり、各々が散っていく。

紫は羞恥に耐え切れず全速力で着替えに行ってしまい、出久は切島との戦いに向けて個性を記載したノートを読み返していた。

他の者もそれぞれが緊張を解きほぐすため、集中するために行動していく。

 

 レクリエーションが終了するのは、そんな彼らにとってはあっという間だった。




 トーナメントの組み合わせめっちゃ悩みました‥。書かねば‥!
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