歪な英雄 作:無個性者
セメントス先生によって会場の真ん中に作られた闘技場。
そこへ出久と切島の二人が相対した。
『一回戦! 此処まで超好成績!ヒーロー科、A組クラス委員長もやってるスーパーボーイ!!緑谷出久!!
マイク先生の言葉を尻目に、二人はじっと見つめ合う。
お互い良く知るクラスメイト、情報は他のクラスの誰よりも集まっている。
(自損が前提とはいえ、巨大ロボを一撃粉砕したっていう力はやべぇよな‥つっても、俺にやれることなんて一つだけなんだ。やれるだけやってやらぁ!!)
出久の超パワーに関しても人づてに聞いているだろうから、100%も警戒されている。
(切島くんの個性はインターバルが狙い目だ。大体30秒から40秒、一分保ったところを見たことが無い。あの身体を殴るのは、危険‥)
切島の個性、硬化だってよく分かっている。ガチガチの体はまるで鋼のようだとノートにも書いた。
(この闘技場という限られた場所で逃げ回るのは‥‥可能、だけど)
―観られている。沢山の人に、親しい人に、そうでない人に、憧れの人に。
勝ちたい、だから手段を選ぶべきで勝算が高い方法を取るべきだ。理性はそういう風に語ってくる。
でも観て欲しいのなら、逃げ回って隙を見つけるやり方はあまりとりたくないと、出久は思った。別にその手段が愚かだとか格好悪いとかじゃなくて、切島の個性から考えてもきっとこうする方が誰よりも
『レディィィィ!!スタート!!!』
「だから――」
「!」
合図された瞬間に、
その一瞬の間に驚きながらも切島は硬化で体を固め終わっていた。
それでも出久はその拳を握りしめ――ガチガチに硬くなった切島を殴り飛ばした。
「おぉ!?」
とっさに腕をクロスして防いだ切島にダメージはそこまでない。だが、防ぐのに使った硬化した腕からはジンジンとした痺れが彼に伝わっていた。殆ど防ぎきれていない。
(一発で、コレかよ‥‥!)
明らかに成長している、一対一で闘うとこんなにも相手の成長具合が分かるのかと切島は驚いた。
毎日の授業で段々出久の動きが速く、そして巧くなっていくのは遠めから見ても分かっていたことだったが、やはり体験するのは違うなと切島は思いつつも体勢を整えた。
「ハハ、爆豪を才能マンって上鳴の奴は言ってたけどよ、お前も十分才能マンだと思うぞ!」
「そうでもないよ」
一発殴って痛む拳を摩りながら会話をする。今ので場外に出来たら良かったのだが、さすがに
(真正面から受け止められたのに大したダメージ無し、か)
本当に才能マンなら、きっと放った衝撃を余すことなく伝えきれていたはずだ。
格闘技を経験したこともある出久だが、極めてはいない。ヒーローになるための体作りと、なった後で身体を上手く動かせるようにと多岐に渡って教わっても修めてはいない。
(中途半端だなぁ)
スーパーボーイなんてマイク先生は紹介してくれたけども、それは色々な人の好意から色んな経験をさせてもらったからだ。
今此処にいる自分は他の人によって象られたもの。そんなことは分かっている。
(今日、
緑谷出久は此処にいるぞ、自分という
人々の視線を集めろ、脅威を伝えろ、安心感を与えろ!
「…やっぱ、すげぇな緑谷」
「え?」
「拳痛ぇんだろ?なのにもう構えてオレを殴る気満々って」
「え、あいやその」
狼狽える出久を見て、思わず苦笑してしまう切島。
脳裏に浮かぶのは腕を犠牲にして巨大ロボを破壊したという武勇伝や、USJ事件の際に速く駆けつけるために指一本犠牲にした上に、紫の協力の元痛々しい強化をして脳無を取り押さえた光景。
(あぁいう痛みに飛びこむ勇気。ホントすげぇよ‥こっぱずかしいから言わねぇけど)
だけど
見ているだけなんて嫌だ、立ち尽くすだけなんてまっぴらゴメンだ。
「真正面からきてくれるってんならオレはそれに応えるだけだ!行くぜ緑谷、今の俺の最高硬度をみせてやらぁ!!」
硬く、堅く、固く……自分の個性はそれしか出来ないのだから。だったら誰よりも何よりもそれを極めよう。
それが切島がこの大会が始まるまでの間、悶々と考えた結果至った結論だった。
「オォォォォオオオオ!!!」
ギシギシと身体が軋む音が聴こえた。
此処まで固く出来たのは切島自身初めての事だった。緊張感が生んだ火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか。
今まで以上に固く鋭利になる切島に対し、出久は一瞬気圧されたが拳を握りしめ覚悟を改める。
(勝て、勝つ、絶対―――!!!)
出力を
「ッラァァアアアアアアア!!!」
殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る――!!!
両者の拳がぶつかり合い、弾け、血が舞い散る。
一撃一撃放つ度に出久の拳から血が滴り、切島は一撃一撃受け止めるたびに最高硬度の硬化を超える衝撃を受け止め、割れながらも殴り続け殴られ続ける。
攻撃速度からしても出久の方が速い、簡単に自分の硬化を割ってくる!
そう判断しても、切島は退きはしなかった。
「ガァアアア!!!」
「―!」
割れた傍から固めていく彼は一歩も動かないどころか、前へ詰めていく。
自分の拳が届く距離から逃がさない、殴るなら殴ればいいと。
「―ぁ」
殴り合っていた最中、唐突にボッと拳が空ぶったのを感じた。
今まで切島の攻撃は全部出久の拳によって弾き飛ばされていたが、それが空ぶった。
(あぁ、くそ)
出久の顔が目の前にあった。
そう、避けられた。両者ともに猛攻し続けていたからこそ、熱狂していた頭から抜け落ちていた
ゼロ距離になった出久に組まれ、殴った勢いを利用されそのまま体が宙に浮いた。
(つえぇなぁ)
自分の身体が投げられるのを全く止められず、そのまま彼は場外へと投げ飛ばされた。
「切島くん場外!勝者、緑谷くん!!」
『一試合目から熱い戦いサンキュー!!燃え滾る戦闘から勝利をもぎ取ったのは、緑谷出久だぁあああああ!!!』
うぉおおおおおお!!!という歓声をどこか遠くに聞きながら、彼は医務室へと運ばれていった。
☠
「まったく無茶したねぇ」
「「すいませんでした、ありがとうございます!」」
出久は両拳、切島はほぼ全身を治癒し終わり、小言を貰いつつ頭を下げた。
観客席へと戻りながら、二人は言葉を交わす。
「ッカー、負けた負けた!やっぱ強ぇな緑谷」
「えっと‥‥」
何か言おうとしたが、何を言うにしても自分が言うべきではないと言葉が脳裏に浮かんでは消えていった。
そんな出久を分かっている切島は、ただ一言だけ告げた。
「後頑張れよ」
「‥うん!」
「よし、行こうぜ!」
バンっと力強く背中を叩かれ、出久はA組の観客席へと戻っていく。
背に残るその衝撃を誇りに思いつつ、試合は進む。
☠
『さぁーって第一試合の熱が冷めねぇうちに次行くぞ!
第二試合、他の競技で活躍していた一風変わった個性持ち、常闇踏影!
「んー、失礼☆」
「…」
変人というキーワードに煌びやかに反応する青山に対し、静かに構える常闇。
元々日光で弱っている自分の影に頼るのは危険と考える。
(だが、この一対一の戦い。想定していなかったわけではない‥‥!)
個性
常闇が一度戻し、彼の中で回復することができるのだ。勿論一定値の上限があるし、外に出せばあっという間に弱ってしまう。
だが、何時までも光に弱いからというのを常套句にした言い訳にはしたくなかった彼は彼なりに個性の扱いを工夫することにしたのだ。
(イメージだ、重要なのは想像だと六道は言った)
マイク先生の『スタート』という言葉を聞いた瞬間に、常闇は
常闇が居た場所を光線が通り過ぎていく。
この日光の中アレを受け止めるのは不可能だっただろう。
(無論、今のままでも危ういことには変わりないが)
『お、おぉこれはなんだー!?常闇、背に翼があるぞ!!』
『また繊細なコントロールが必要なことを‥』
『なんだなんだ、分かるのかよイレイザー!?』
『まぁ想像だがな』
飛翔し光線を避ける常闇の個性に関して二人が説明を始めた。
『見ろ、常闇の体が黒くなってるだろ』
『ん?‥‥おぉ、お前よく見てんなぁ』
『まぁ個性柄観察は得意だからな‥‥恐らくだが、黒影と一体化しているんだろう。変幻自在で物理現象に縛られない黒影の力を纏うのではなく、
『なぁるほど、それで黒い翼が』
自分達の教師は優秀だな、と考えつつもそれに補足することを脳内で思う。
この個性の使い方は強力だが、あまりに危うい。
なにせ自分の闇、凶暴性の塊と一体化するというのはすぐに暴走しかねない危険性を孕んでいるのだ。
一度夜中に試してみれば、次日光が出るまで暴れ続けてしまったという汚点がある。
(あの時は誰もいないような山中で良かった‥‥それはさておき、そろそろ決めるとしよう‥!)
この力は同化しているだけあり、闇の力が尽きることが無い。日光程度ならばプラスマイナスゼロにすることができる。
だからこそ更なる光は弱点になる。光速を避けるのは相手の動きを予測した結果であり、光速を越えているわけではない。
だからこそ、避けられている今のうちに速攻で終わらせなければいけない。
「この―」
「新技――
一瞬、自分の内に潜む闇を
上限値をそのまま内側から吹き出しその身を包みこみ、さながら黒い烏のようになる。
「
外に出してしまえば日光によって弱ってしまう。その前に全てを飛翔の瞬発力に変え、青山が何かをする前に突撃する。
「クッ」
「―――!!!」
ギリギリ反応した青山が放った光線。
一直線に突っ込むという行為は他の行動をするのがとても難しい。
だが盾にするような力は残っていない。日光の中では突撃し、一発攻撃するのが限界だった。
身体を捻り、無理やり光線を避ける。結果片翼が光線に貫かれるが、既に加速した身体は止まらない。そのまま常闇は青山にタックルし、吹き飛ばした。
「……はぁ、ハァ」
「う‥‥」
青山を吹き飛ばした常闇は息を荒くし、これ以上の攻撃が不可能なのを隠す余裕もなかった。
対する青山はギリギリ場外を免れ立つが、ベルトが壊れてしまっていた。
その上吹き飛ばされた際に頭を打ったのだろう彼は、それでも試合続行しようと前へ一歩踏み出した所で数度体を揺らし‥‥その場に倒れ伏した。
「……青山くん戦闘不能!勝者常闇君!!」
「ふっ」
こうして息を荒くしながらも不遜な態度を取ろうと取り繕う常闇。
青山が医務室へ運ばれるのを見送ると、すでに黒影を出す力もない彼はフラフラと観客席へと戻って行った。
常闇くんの厨二っぽさを出すのがとてもとても難しい…!