歪な英雄   作:無個性者

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一回戦、三組目&四組目

『よぉーし、次の試合行くぞー!第三試合、宣誓布告してくれた熱い入試主席、飯田天哉!対、サポートアイテムでフル装備、サポート科発目明!』

 

 

「飯田くん、気は変わりませんか?」

 

 試合開始前に軽く体をほぐす飯田に、幾つか発明品を持った発目が話を持ち掛けていた。

実は対戦が決まった直後にも彼女はこうして発明品を付けて戦ってくれないか、と打診していたのだ。

 

「挑戦する、そう言った手前そういうのを付けるわけにはいかない。それに、俺自身の力だけでどこまで行けるか気になるんだ」

「そうですか……まぁいいでしょう」

(マイク?)

 

 装備していない発明品を舞台外に出し、スッと彼女が取り出したのはマイクだった。

 

『試合、開始!』

 

 合図と同時に飯田が駆ける。

相手はサポート科でどんなアイテムを持っているかわからない。レシプロバーストで速攻を掛けても、それを事前に警戒されて避けられるとも限らない。だからこそ、彼はまず個性を使った加速で発目に近づく。

何をするにしても近づかなければ何もできないのだから。

 

『やはり速いですね飯田くん!加速しきってしまえばあなたの速度に追いつける人は早々居ないでしょう。しかし、私はこの「油圧式アタッチメントバー」で回避もラクラク!』

 

 彼女の腰の装備から勢いよく棒が飛び出し、あり得ない体勢で斜め横に避けた。

棒につっかえてコケてしまったあたり、レシプロしていたら間違いなく場外にぶっ飛んでいただろう。

 

(にしても、まさか試合を発明品の宣伝にするとは‥‥いや、彼女はサポート科。寧ろこれが目的だったのか)

 

 感心と呆れが混ざった複雑な心境を胸にどうするかを考える。

今自分が何をすればいいのか、その解を考え尽くす。

まず超加速のレシプロだが、却下だ。あの伸縮するバーは意外と速い。超加速には一瞬だが溜めが要るため、真正面から行くのは難しいだろう。

 

『更に前の競技でも使いましたが、このフロートシューズにバックパックで空中だって自在に動き回れます!そして遠距離はこの回収自在のゴムシューター!ゴム弾にも関わらず高威力且つ、ゴム弾に取りつけた糸ですぐさま回収可能!ちなみに鉄を織り込んだ特性の頑丈な糸ですので素手で切るのは諦めたほうがいいでしょう!』

 

 二丁銃から放たれる弾丸を避けつつ、彼女の観察を続ける。

アタッチメントバーで避ける、シューズとバックパックで跳ぶ、銃を撃つ、降りる。

この一連の動作は意外と隙が無い。バーで避けられた直後に跳ばれれば自分も彼女を一瞬見失うし、降りるときも銃弾を気にしないといけないのだ。

そして降りた時には距離が離されており、振出しに戻ってしまう。

 

(隙はもうこれくらいしか思いつかないか‥プルスウルトラだ、行け!)

 

 勢いよく走り寄り、避けられ跳ばれる。

その瞬間、跳んだ方向に全力で体の向きを転換し、レシプロを発動する。

 これは一つの賭けだった。レシプロの急加速に彼女の銃を撃つ速さと命中率が追いつくかどうかという。

そして、幾らなんでも跳びながら狙いを定めるのは無茶だったのだろう。飯田の体を一発だけゴム弾が掠り、降りて来るであろう場所に先回りを成功させた。

 

「僕の、勝ちだ!」

 

 降りてきた彼女を背後から羽交い絞めにし、そのまま場外へ。

 

『発目さん場外!よって勝者、飯田くん!!』

 

 ちなみに負けたが自分の発明品を見て貰えた発目は、幾らか満足感を得たのだろう。敗者とは思えないにこやかさで舞台を降りていった。

 

 

 ☠

 

 

『ほれほれじゃんっじゃん行くぞ!第四試合、競技連続好成績、騎馬戦の時なんてえらいインパクトだった骨っ()!六道紫!対、今のところは目立った活躍はないが、ここまで唯一残った普通科だァ!心操人使!!』

 

 歓声やどんな個性を使うのかという興味と期待の視線を受けた上に、想定以上の人口密度に紫は若干緊張していた。

というかマイク先生の声や歓声に隠れるようにして、若干チアコスの感想が混ざっているのだが、誰だ羞恥の姿が可愛らしかったとか萌えたとかお願いします忘れてください。

 

『準備は良いな?そろそろ行くぜ!試合――』

「えらい人気だなお前……なんならさっきしてたチアコスに着替えてきたらどうだ?」

『開始!』

「遠慮しておきます……アレはそもそも、――!?」

 

 それ以上言葉が続かなくなった。

紫の意思から外れ、身体はピクリとも動かなくなった。

 

『おぉーっと、六道動かない!?どうした?!』

「……だからあの入試は合理的じゃないってんだ」

 

 流石に入試に関するという事もあり、一時的にマイクを切ってぼやく相澤。

 

「完全対人個性、「洗脳」。そりゃ入試落ちるに決まってる」

 

 戦闘向きではない彼では加勢なんて出来ないだろうし、普通に救助しようとしても、彼の個性では応急手当すら行えない。そこらの瓦礫から鉄棒でも探し出して添え木にするくらいだろう。見つかるかわからない上に、どのみちそれだけではポイントは溜まらない。

 

「騎馬戦ではアイツの騎馬だけクラス入り混じってたからな。恐らく温厚かつプライド高い奴らを狙って騎馬を作らせたんだろうさ。操られただけで気づいたら残ってた、なんてまるで人任せの結果に乗りたくないっていうのは、まあ分からんでもないからな」

「な、なるほど」

 

 人心を操るだけあって流石の観察力ということだろう。

青山は気にせずトーナメントに挑んでいたが、それ以外の二人は実際何も言わず辞退だけを宣言していた。

 

「……悪ぃな、分かんないだろうけどこんな個性でも夢見ちまうんだよ。さぁ、そのまま場外へ行って負けてくれ」

「………――」

「?」

 

 数歩背後に歩いたかと思うと、突如ピタッと立ったまままるで動かない紫。

あり得ない。個性はしっかり掛かっていることは彼の感覚もそうだが、紫の虚ろな瞳からしても明らかなのに、命令に従わない。

 

(…………どうして?)

 

 疑問に思ったのは、彼だけではなかった。

 

(何で、助けてくれるの(・・・・・・・)?)

 

 がしゃがしゃと硬い物が鳴り合う音が紫にだけ聴こえていた。

虚ろな瞳は会場なんて映してはいなかった。目前にあるのは巨大な骨の化物。まるで自分を飲み込まんとする、巨大な力の塊だった。

 

 ――我ら、己で全てを選択せし傲慢者

 ――汝、我らの同胞なれば

 

 

 ―――己で選択するべし―――

 

 

 怪物の口に呑まれる幻影と共に、身体から数多の骨が勢いよく飛び出すと同時に頭が晴れた。

 

「なっ!?」

「……」

『お、おぉ!これは、六道とどまったー!!』

 

 歓声も驚きも、全て紫は遠くのように感じていた。

選択しろと云われ、思わず考えてしまう。

 

(ううん、違う。ずっと、考えてた……)

 

 力の特訓をしながらも、ずっと頭の隅に追いやっていたことが彼女の眼前に突き付けられたように感じていた。

 

「なんで……身体の自由は利かないはずだ!何した!?」

「……」

 

 背後を見ると、ここまで戦闘向きじゃない個性で必死に闘ってきた少年が居る。

周りを見ると、今日まで戦い、明日からも戦い続けるであろうヒーローたちが居る。

クラスの方を見ると、今日まで一緒に頑張って共闘してきたクラスメイトが……友達がいる。

 

(私は……)

 

 自分の力が化物だと自覚したのは、USJ事件の時だった。あの時からずっと、ずっと思っていたことがあった。

 

(此処にいるべきなのかな?)

 

 客観的に観ればきっと自分は討伐される側だと思う。

何がきっかけで暴走するのか、予測は出来ても未だハッキリとは分かっていないのだ。

ヒーロー以前の問題だ。もし、自分が誰かを傷つける可能性が‥‥否、傷つける未来しかない(・・・・・・・・・・)のなら、ここで降りるべきじゃないのか?

 

「何とか言えよ‥‥」

「……」

 

 警戒しているのもあるが、骨が邪魔で近づけないのだろう。彼は口を動かすことがそのまま戦うことに直結している。どうにかこちらの口を開かせようと、話しかけてくる。

 

「変幻自在、威力も迫力もあって羨ましいよ、俺はこんな個性でスタートから遅れちまった。恵まれた人間には分かんないだろ」

「……―ぁ」

 

 分からない、そう思った直後に一人だけ脳裏に浮かび上がった。

 

(……あぁ、もう。バカだなぁ私)

 

 その人も恵まれなくて、でも必死に頑張って頑張って、自分なりに戦い続けていた。

眩しくて、未だに直視するのがちょっと難しい。

でもそんな後ろ姿に憧れたんだ。そんな彼だから、大好きになったんだ。

 

(想うだけで、決めちゃうなんて……ううん、違うか。決めてたんだ)

 

 悩んでいたことに対し、改めて彼女は選択する。

 

(彼をずっと傍で見て居たい、そのために何でもする……だから)

 

 クラスメイトの中から彼の姿を見つけだし、そして目の前の少年を見て覚悟を改める。

 

(闘おう、私も)

 

 化物でもなんでも、六道紫は利用する。必要ならばコントロールして見せる。

……もし無理なら。

 

「その時は、彼や貴方みたいな人が、きっと如何にかしてくれるよね」

「ハ?なに訳わかんない事、言って‥‥」

 

 ――もし無理なら、その時は……大人しく、討たれよう

 ――出来ることなら、彼らの様な頑張って足掻き続けるヒーローによって

 

「ゴメンね」

 

 骨の脚甲を使った高速移動で心操の背後に移動し、巨大な骨の籠手で彼を掴む。

 

「それと、ありがと」

 

 きっと何を言われてるかなんてわからないだろう、それでもいいと紫は傲慢にも思っていた。

 

「……」

 

 何を言っているかなんて分からなかったけども、その微笑みはなんだか嫌だな、と心操は対戦相手にも関わらず、場外に投げられながらもそんなことを考えた。

 

『心操くん場外!勝者、六道さん!!』

 

 歓声や、彼の個性を理解した観客が色々と思う所があるのかざわつく中、二人はしばし見つめう。

 

「……私が言う事じゃないけど、貴方ならきっと、ヒーローに成れるよ」

「……ほんと訳分かんねぇな。…言われねぇでも、なるさ」

「うん」

 

 ガリガリと苛立つように頭を掻くと、彼は舞台から降りていった。

 

「……頑張る」

 

 そんな彼の背に、そして自分に言い聞かせるように呟くと、紫も反対側へと退場した。




 仕事忙しくて休みの日にしか書いてない!書くことは大体決まってるのにジレンマ!!
でもキーボード新調したのでなんだか新鮮な気分、そんな私です。

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