歪な英雄   作:無個性者

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少年少女たちの特攻受験

 この一カ月間、オールマイトと出会ってから二カ月足らずの短い期間だが、出久は個性を得た。

ワン・フォー・オール。聖火の如く引き継がれてきた、ヒーロー()の力。

未だ最大出力は1割ちょっとしか出せない上に、ブレが酷く加減しようとすれば5%から10%をフラフラとして安定しない。

 

(で、でもどうにか身体がバキバキにならないようにはなった……)

 

 早朝、もしくは深夜の海岸での地獄の特訓。

加減を間違えて海を割っては泣き叫び、治療。小学生からずっと鍛え続けてきたおかげで身についた体力が尽きるまで繰り返した。

リカバリーガールが居るからこそできた無茶である。

 

「と、ともかく入試、が、ががんばばばばるるるぞぉ……!」

「出久くん、一回深呼吸して落ち着こうか。ガクブルだよ、特に足」

「いや、だって……緊張しない?」

「し過ぎって言ってるの。出来ることはやったんだから、入試に集中しよ?」

「う、うん」

 

 そう、ここで結果を出さなければオールマイトにもリカバリーガールにも顔向けできない。一度頬を叩いて気合を入れ直し、会場へと赴いた。

 

 その際結局足を滑らせ、名も知らない同じ受験生の少女によって助けられ、紫の機嫌が少し悪くなるのは蛇足である。

 

 

 

 

『今日は俺のライヴにようこそ―!!!エヴィバディセイヘイ!!』

 

 めっちゃ声量の大きいヒーローが実技試験について概要を説明しだした。

彼は“ボイスヒーロー”プレゼント・マイク。毎週ラジオ放送までしてる一風変わったヒーローだ。

 

『入試要項通り!リスナーにはこの後10分間の「模擬市街地演習」を行ってもらうぜ!持ち込み自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!

演習場には仮想(ヴィラン)を三種、多数配置してあり、それぞれの難易度に応じてポイントを設けてあるぜ!各々なりの個性で仮想敵を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが君たちの目的だ! 勿論、他人への攻撃等アンチヒーローな行為は御法度だぜ!?』

 

 そこまで聞いて、出久は疑問が浮かんだ。

まず、持ち込み自由。これは個性に応じた武器や装備を持ってきていいという事だろう。無個性の者や戦闘向きではない者でも、武器を持ち込めるのだとしたらチャンスがあるということ。

次に「行動不能」。ロボの破壊ではなく、行動不能。つまり動きを止めてしまえば何でもいいということ。無理に破壊することは無い。

最後に、アンチヒーローな行為は御法度……つまり。

 

(協力プレイは、ありってことかな?)

 

 初対面でライバルに囲まれる中、酷く難しいことだがチームプレイも許容されている。少なくとも、故意に他者を傷つけなければ何でもいいのだ。

 

 最後に0点の仮想敵を「ギミック」と説明し、最後にこう付け加えた。

 

Plus Ultra(プルス ウルトラ)!! それではみんな、良い受難を!!』

 

 

 

 

 

 さて、困ったと出久は頭を抱えそうになった。

周りの人たちは皆個性に合わせた装備をしており、対する自分は素手。

 

(メリケンサックでも準備しておけばよかったァ―!!)

 

 ロボを相手にするとは思っておらず、これから彼は素手で鉄板をぶん殴らなければいけない。後悔するも、全て後の祭りである。

 

(あ、あの人)

 

 ふと、足を滑らせた自分を「浮かせて」助けてくれた少女を発見する。

 

(……態々受験のライバルである僕を助けてくれたし、お礼ついでにちょっと話を……)

 

 緊張でがちがちになりながらも歩み寄って行こうとすると、ガッシリと体格のいい眼鏡の男子に止められた。

 

「その女子は精神統一を図っているんじゃないか?」

「え?」

「妨害目的ならやめたまえ」

「いや、そんなつもりは……」

 

 悪いことをするつもりじゃなかったのに悪者扱いされ、思わず視線が下を向いてしまう。そこで、彼の脚が普通じゃないことに気付いた。

 

(……エンジン?)

 

 そこで周りの視線が一気に気にならなくなった。

深い思考をするために集中力が増し、スローモーションの様な錯覚を覚えながらあることを思いつく。

 

「ねぇ、ちょっといいかな!」

「?」

「試験前に話したいことが出来たんだ。出来ればキミにも」

「……え?私???」

「うん。……あ、ちょっとこっちに」

 

 隅っこに移動し、こそこそと内緒話へ移行する。

 

「時間がないから手早く用件を言うね。――この実技試験、組まない?」

「「……ハ?!」」

「何を言ってるんだキミは?」

「そもそも、協力とかって良いの?」

「アンチヒーローな行為は禁止されてるけど、お互い助け合うことについては何も言ってなかったから大丈夫」

 

 ここで、「多分」とか「だと思う」のような不安要素がある言葉は使わない。

自分を何時も鼓舞してくれる純白の少女を思い浮かべ、説得する。

 

「そもそもこの実技じゃ戦闘に関する個性が圧倒的に有利だと思わない?」

「それは……」

「……! そうか、そういうことか!」

 

 薄ら出久が気づいていたことに眼鏡の少年も気づいたらしい。

 

「この学校はヒーローを選出する学校。なら、人助け(・・・)だって勘定に入れなければ寧ろおかしい」

「うん、だから――」

『ハイ、スタートー!』

 

 説得を締めようとしたその時、さっき説明していたプレゼント・マイクの声が響いた。

 

『どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねぇんだよ!走れ走れぇ!賽は投げられてんぞ!?』

 

 彼の言葉に他の生徒が一斉に動き出す。

だが、出久にとっての賽はとっくに投げられていた。

 

「時間がない。急いで決めて、組むか組まないか」

「「……」」

「キミと組めば、合格できるのか?」

「作戦はある。キミの脚と、彼女の力があれば多分……ううん、絶対合格して見せる」

「……私はいいよ。そこまで言い切るキミにかける」

「ふむ。……俺も乗ろう。で、作戦とは何だね?」

 

 よし、とガッツポーズをとった。

 

「時間がないから個性の説明をしてほしい。僕の個性は純粋な増強系。キミは多分加速だよね? で、貴女は多分浮遊とか重力操作とか?」

「俺の個性はおおむねそれで合っている」

「わ、私は重力をゼロにできるというか、そんな感じ。人数関係なくキャパ以内なら重さを無くせるけど、自分にかけるのは気分が悪くなるから、ちょっと無理かな」

「OK、大体あってればいいよ」

 

 出久の考えがまとまり、二人に概要を伝えた。

 

 

 

 

 

 監督室であるモニタールームにて。

 

「おいおいおい、嘘だろなんだEブロックの二人!?」

「相性が良すぎるな。……もしかして知り合いだったか?」

「かもな」

 

 紫と水舟のコンビネーションに舌を巻く教師陣。

 

「恐らく救助活動P(レスキューポイント)に気付いたんだろう。チームを組めば互いに助け合うことでポイントは効果倍増だしな。合理的判断だ」

「お、B地区のほうも気づいたやつがいるみたいだぜ。こっちは三人一組(スリーマンセル)だ!」

 

 言われた画面に映っているのは出久達三人だった。

 

 

 

 

 B地区を疾走する影。

眼鏡の少年、彼に背負われた出久と少女の三人組だ。

 

 ――「まず、彼女の個性で僕達の重さを無くしてもらう。それだけだと浮いちゃうけど、彼女ごと背負えば彼女の重さで走れるはず。それで、仮想敵のいる場所を駆けまわってもらう」

 

 そのうえで、仮想敵が居る場所に後から駆けつけ、離れすぎないように散開。

仮想敵を破壊しながら地区内を駆けまわる。

 

 ――「仮定が正しいなら、人助けも何かしらのポイントになるはずだから、困ってる人が居たら積極的に手を貸そう!」

 

 ロボに囲まれていたり、がれきに道を塞がれているような人たちを助けていく。

更にお互いの助け合いもすることで、相乗効果を狙う。

 

「よし、これなら!」

「うんうん、いけるんじゃないかな!?」

「……いや、まだ一つ忘れているぞ、二人とも」

 

 試験が終わる3分前。

巨大仮想敵、0Pの大型ロボが現れた。

 

「アレはどうするの!?逃げる?!」

「ダメだ!アレは少し動くだけででも街を破壊する!」

「うむ、ヒーローなら放ってはおけないな! しかし、俺の攻撃だけではとてもじゃないが‥‥」

 

 眼鏡の彼は驚異的な加速を生み出せる。距離に比例してエンジンが温まって強力になっていくが、今は生身の脚にスパイクだ。

脚がエンジン内蔵という事もあって頑丈なため、そこらのロボなら蹴り抜くことが出来たが、巨大ロボとなるとそうはいかない。

 

「私は流石にキャパオーバーだよ……」

「……」

 

 思考時間は10秒。

だが、そのほとんどは決心を固める為だった。

震える身体を無理やり抑え込み、静かに覚悟を決める。

 

「僕がやる」

「え!?」

「出来るのか?」

「うん。……ただ、普通に壊してもダメだ。真上から潰す(・・)

「そんなこと、出来るの?」

「比較的脆く作ってあるらしいから、少なくとも壊すことは可能だと思う」

 

 真後ろに倒れても横に倒れても迷惑だ。

理想はその場で沈黙だが、殴り壊すことしかできない出久は、上から叩き潰し、なるべく被害を抑えるしかない。

普通に殴り飛ばすよりはマシだという判断からだった。

 

「普通にやっても無理だと思う。……えっと」

「そういえば、自己紹介をしていなかったな。飯田だ。飯田天哉(いいだ てんや)

「あ、私は麗日お茶子(うららか おちゃこ)

「‥緑谷出久。よろしく」

 

 改めて自己紹介をした三人は、視線を真っ直ぐ巨大ロボへと向けた。

 

「飯田君、まず真後ろに回って。それから麗日さんは僕を無重力状態にして。ロボの頭上を越えたら解除してほしい」

「了解した」

「わかった」

「それから、僕、着地は出来ないから、二人に頼むことになるけど、大丈夫かな?」

 

 スッと二人が目を合わせ、頷いた。

 

「大丈夫!絶対受け止めてあげるよ!」

「安心してくれ」

「よし、行こう!」

 

 改めて二人を背負い、全力で駆けだす。

ばれないように少し大回りに背後に移動し、麗日によって無重力状態になった出久が手加減した脚力(ランダムパーセント)で跳びあがる。

加減しても無重力なら引力の減速が存在せず、体重も関係ないのであっという間に頭上を取った。

 

「ワン・フォー・オール、100%(フルパワー)……!」

 

 ググっと拳を握りしめる。筋肉が膨れ上がり、体操着が右腕だけ吹き飛んだ。

 

 

 

DETROIT(デ ト ロ イ ト) S M A S H (ス マ ッ シ ュ)! ! ! ! !」

 

 

 

 重力と引力が戻った出久の右拳により、巨大仮想敵の頭が押し潰され、胴体まで減り込んだ。地面に罅が入ったが、ロボは奇跡的に崩れず沈黙した。

 

「いっッッ()ぇえええええ!!!!」

 

 代償は大きい。右腕は腫れあがり、骨はバキバキに折れてしまっている。

そのうえ撃ち抜いた衝撃でロボの真上から逸れて、このままでは地面に真っ逆さまだ。

 

「飯田君、お願い!」

「あぁ!!」

 

 飯田が加速し、ジャンプするその瞬間に麗日自身の重力をゼロにした。

結果二人で大ジャンプし、墜ちはじめていた出久に追いつく。

 

「キャッチ!」

 

 出久を捕まえ、同じく無重力にする。

同時に麗日のみ重力を戻し、彼女の重みで落ちる。

だが飯田の大ジャンプの推進力は残っており、そのまま向かいのビルの窓へと勢いよく突入。ガラスに当たる前に三人の重力を戻し、勢いよく蹴り割って入った。

 

「……い、生きてる?」

「あぁ‥‥」

「い、痛いけど」

「わわ、緑谷君大丈夫!?」

「これは酷いな」

「あ、アハハ‥まぁ試験が終わったら病院かな」

 

 リカバリーガールが居ることを話すわけにもいかない出久は苦笑いを浮かべた。

この会話の直後、試験が終わり地区内に入ってきたリカバリーガールに治療されるついでに、軽い御小言を戴いたのは蛇足である。




紫と水舟のコンビが範囲攻撃台風なら、出久天哉お茶子は高機動バイクな特殊部隊。
容赦のなさ的な意味では前者が、人を助ける割合なら後者が上。
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