歪な英雄   作:無個性者

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ヒーローの卵たち

 出久と紫はいつも二人だった。小学、中学の朝の登校時間から下校時間、つまり放課後まで。

 

「それが、それが……!」

「出久くん気持ちはわかるけど泣かないで……?」

「えっと、どうしたのかな?」

「どこか悪いなら保健室に行くかい?」

「ううん、大丈夫!ありがとう、本当にありがとう!」

 

 出久が感動している理由。それは麗日、飯田の二人が放課後の帰宅を共にしてくれるという事実に他無い。

ずっと二人だった。寂しくはなかったけど虚しくはあった。周りに人が少ないというのは、それだけ自分が見られていない、認められていない証拠のようで。

さらにそれを覆す出来事はまだ止まらなかった。

 

「あれ、六道?」

「……――」

「え?」

「紫ちゃんの、知り合い?」

「……ん?」

 

 紫はチラッと少しだけ背後を見て、動きを止めた。

そこに居たのは黒水水舟。今日の今日まで同じ学校ではなかったが故に、出久にはその存在を教えはしたものの会わせたことのない人物。

小柄なのに良くも悪くもインパクト抜群の彼女は、やはりこうした再会もインパクト抜群だった。

 

「……黒水さん、それ(・・)どうしたの?」

「ん?あぁ()か」

 

 なにやら一人の少年の襟首を引っ掴んでズルズル引きずって来ていた。おなじB組なのだろう。

 AとBで違うことはあまりない。先生が違うくらいで、あとは試験の順位が平均的になるように割り振られている。A組には1位から4位までが勢ぞろいしているが、その分合格した中でも下の成績の者が複数いる。

そういう点で言うなら、A組がピーキーで、B組はすぐれ過ぎた者がいないが落ちこぼれと言われる可能性を持っている人材が最も少ないと言えるかもしれない。

 

「えっとねー、もの、モノ……物?」

「も・の・ま、だ!!物間寧人(ものま ねいと)!」

「おぉーそれだそれ。おはよーモノ」

「この……!」

 

 黒水は興味のある人間以外をあまり覚えようとしない。

だから(・・・)今まで出久とは極力会わせることを避けてきた。

無個性の彼に惹かれた紫に興味を抱いていることは知っていたけど、無個性の彼を見て知って、何をしだすのか紫にも予測できなかったからだ。

 半端な興味を抱かれた結果が目の前のコレ(・・)なのだろう。

 

「そんなに嫌がることないだろー?」

「帰る方向が一緒だと言ったが、誰が一緒に帰ると言ったよ?そもそも様子を見るにA組に知り合いがいるようじゃないか。態々こんなポイント稼ぎなんてせずに、仲良しこよしな奴と帰ればいいだろう?」

「そんなこと言うなよー、ボクとモノの仲だろー?」

「僕はキミと仲良くなった覚えはないんだけどねぇ。いや、仲良くするのはいいけども、自己紹介と数回会話をしただけでこんなにアプローチ強いってさ、なんなの?尻軽でもこんな軽率な行動とらないよ?」

 

 なにやらポイント稼ぎとか兆発的だったり、後半セクハラ案件スレスレだったりと、どこか嫌味な少年らしい。

それこそ水舟の興味を引いた一因かと付き合いの長い紫は理解した。

 制服の上からではあるが、それなりに身体を鍛えはしているらしい。それでもどこか細い印象を受けるのは、ひとえに彼の見かけが一見すれば優しげな好青年だからだろう。

口を開けば印象ががらりと変わるようだが、そう言った個性(能力外)に惹かれられたのだとすれば、これから彼は酷く苦労することだろう。

 

「オイ、なんでキミは僕に合掌しているんだい?」

「上手く言えないけど……ご愁傷様」

「酷く不穏だ止めてくれ……!!」

 

 取りあえず水舟が気に入るなら悪い奴ではないと判断し、自己紹介を交わすことに。

 

「A組の六道紫。これから頑張ってね……」

「その憐憫の眼差しを今すぐ止めるか彼女の手を放させるかしてくれないか」

「先人として言わせてもらうね……諦めて」

 

 学校以外での付き合いが長いため、黒水の性格を詳細に知っていた。

だからこそ、合掌も眼差しも止めない。

 

「えっと、A組の緑谷出久です」

「同じく、飯田天哉だ」

「麗日お茶子です!よろしくね」

「B組の黒水水舟!六道とは昔馴染みなんだ」

「紫ちゃんと……? あ、もしかして凄い人って」

「わー!出久くん、待って変なこと言っちゃダメ……!」

「え?」

 

 必死に出久の口を止めようとしたが、時すでに遅し。

そもそも出久に興味があった水舟は引きずったまま彼に近づいていった。

 

「ふむ、遠目に見たことはあったけど、二人の会話を聞いたことは無かったなそういえば。参考にどんなこと言ってたのか聴いても?」

「え、えっと」

 

 水舟は興味が向くと一直線な面があるが、あくまで一般常識は持っている。

お嬢様だからこそむしろその辺は重要視しており、空気を読んだ結果として休日出久と一緒に居る紫を見かけても関わろうとはしてこなかった。

 性格のバリエーションが豊富な雄英に来るにあたって、どこかでその縛り(・・)を解いたのだろう。その結果が、放課後話しかけてきたことと、彼を引きずっている理由。

詰まる所、今まで家柄で固められていた彼女は、彼女なり(・・・・)を重視することに決めた。……もしくは決めていたということ。

 

(だからって初日から……!)

 

 顔を近づけられた出久がちょっと右往左往しているのにも苛立ちを感じつつ、強引に間に割り入った。

 

「ほら、今日は入学記念でマックに寄るんでしょ!行こう、三人とも!」

「え?寄るってそんな、ってわわ、引っ張らないで紫ちゃん?!」

「待ってよ二人ともー、それと私そんなお金ないよー?」

「驕るから、いこ」

「えっと‥‥失礼する」

 

 出久の手を握って小走りで去っていく紫たちと、その彼女達を追う麗日と飯田。

そんな彼らに、水舟は笑顔で手を振り見送った。

 

「うんうん、六道にも友人が出来たようでなによりだ」

「………それは、興味対象の観察が深まるからかい?」

「んー?言ったろう?昔馴染みなんだ」

 

 観察という意味ではとっくの昔に済んでいる。

彼女の性格は把握しきっている。だからこそ。

 

「あの子が馴染めるか不安だったけど、一安心かな」

「随分不器用だねキミは」

「そんな褒めるなって。それにモノほどじゃないよー」

「褒めてないしその渾名は気にいらないし、いい加減手を放せ……!」

「アハハ、そーだ六道たちがマック行くならボクらはカラオケにでもいかないかい?今ならクラスに人も残ってるだろうし、イイねよし行こう」

「オイコラ待て、自己完結するなっていうか引っ張るな、歩くから自分で歩き、えぇい歩かせろ……!!」

 

 くるりと180度体の向きを変えた水舟は楽しげにB組へと戻って行った。

その後、学則に引っかからない程度にカラオケで騒ぎまくったのは言うまでもない。

 

 

 

 次の日から、学校生活が始まった。午前は普通授業、昼は大食堂でクックヒーロー「ランチラッシュ」の料理を戴き、そして午後は念願のヒーロー基礎学。

 

「 わ ー た ー し ー が ー !!」

 

 大きなその声に出久を含めた数人がワクワクし始めた。

そう、この声の主こそ№1ヒーロー。

 

「普通にドアから来た!!!」

 

 オールマイト(最高峰の英雄)である。

 

「すげぇ、オールマイトだ!本当に先生やってるんだな」

「画風違いすぎて鳥肌が……同じ人間だよな?」

「銀時代のコスチューム、カッコいい……!」

 

 各々が騒めく中、オールマイトは大きく響くその声で授業を開始した。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う科目だ!単位数も最も多いぞ!」

 

 いまさらではあるが、雄英は単位制である。高校にしては珍しいほうだが、怪我などで授業を受けられなくなる人もいることを考えると、合理的なだけなのかもしれない。

 

「早速だが今日はコレ!戦闘訓練!!」

 

 戦闘という単語に数人が反応した。特に強い反応を示したのは、爆豪である。

紫は彼についてあまり知らないが、あの派手な個性は戦闘向きで楽しみなのも頷けた。

 

「そして、そいつに伴ってこちら!入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた、キミ達の戦闘服(コスチューム)だ!」

 

 壁からコスチュームを納めた鞄が出現する。態々ロッカーを壁に内蔵するとは、やることが一々派手(エンターテイメント)である。

 

「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!! それを着て自覚するといい、今日から自分たちは……ヒーローなのだと!」

 

 渡されたコスチュームの配色は、真っ白。

昔出久が言ってくれたイメージを重要視した結果だ。

 

(純粋、無垢……)

 

 ほど遠いと思う。人が成長すればするほどにかけ離れていく言葉だし、何より―――

 

(きっと私から、一番かけ離れてる色)

 

 昔から見る夢は変わらない。大きな髑髏の怪物が、自分の目の前に。

だがそれは段々近づいて来ていた。段々、力を使う事をよしとした彼女をまるで呑み込まんとするように。

聴こえてくるのは呪詛で、髑髏の向こう側に見えるのは血に沈んだ、誰か分からない、見たこともない人達。

 

(それでも……それでも、私は)

 

 出久が喜んでくれた、出久みたいな―――なによりも、出久が幻想してくれた英雄でありたいから。

 

(だから、頑張ろう)

 

 化物だと自覚はある。人でなしの怪物に堕ちてしまう可能性を、きっと誰より持っている。

でも出久の隣を歩くなら、歩きたいのなら、堕ちてはダメだ。呪詛に呑まれてはいけない。

他の人より頑張って頑張って、出久の隣を歩ける英雄(ヒーロー)になるのだ。

 

「……よし、行こう」

 

 純白のジーンズ、純白のシャツに純白の上着(ジャンパー)

難しい注文はしていない。通気性が良く耐衝撃、ポケットを多めにつくってもらえるようにと要望を出した。

装甲やら道具やらは自分の骨で瞬時に作成可能だからこそ、なるべく身軽でいたかったのだ。

 そして最後に、自分の顔をすっぽり覆ってしまえるフード付きの、大きなコートを羽織る。このコートは骨を出してもなるべく怖がられないようにと要望をしてある。

大きな籠手を作成しても大丈夫なように袖はぶかぶかを通り越してだいぶ長い。コートの裾は立っていても地面につきそうだ。

それでいて自分の身体を隠しながらも動きやすいように、要所要所に切れこみが入っている。

 

 

「さぁ、始めようか有精卵共!!」

 

 

 オールマイトの言葉に頷く。ヒーロー見習い(卵達)プロ(成鳥)ヒーローになる第一歩、ヒーロー基礎学がスタートした。




 コスチュームが分かりにくい人は、小柄な少女が成人男性の大きなコートをすっぽりかぶってほくほくしているイメージを持ってもらえれば‥‥え、イメージが危うい?ソンナー。
 ちなみに水舟ちゃんがB組なのは単純明快、誰も知り合いがいない空間に人見知り全開な紫ちゃんを放り込んだらどうなるか、先生の目に見えていたからです。
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