歪な英雄 作:無個性者
集められた演習場βは試験でも使われた会場の一つだ。
仮想街が造られており、かなり広い上に建物も本格的である。
そんな場所で何をするのか、また試験の様な演習をするのだろうかという疑問を飯田が投げかけると、オールマイトは首を横に振った。
「今回の授業でやるのは、屋内での対人戦闘訓練さ!」
監禁、軟禁、裏商売etc……ヒーロー飽和社会で
「基礎訓練も無しに……?」
「基礎を知るための実践さ!」
確かに百聞は一見に如かずというが、かなり無茶なことだ。
怪我を瞬時に治せるリカバリーガールが居るからこそこなせるギリギリを見極めている感が強い。
「君らにはこれから「
「勝敗のシステムはどうなりますか?」
「ぶっ飛ばしてもいいんスか」
「また除籍とかあるんですか………?」
「どのような分かれ方をすればいいのでしょうか!」
「このマント、ヤバくない?」
オールマイトの簡単な説明に対し、様々な質問が返ってきた。
一つ自慢が混ざっているが、気にせずスルー。
「んんん~~聖徳太子ィィ!!」
幾重もの声を聞き分けたという偉人を羨ましがっているオールマイト―――先生をやるのは初めての事だし、慣れないんだろうなぁと温かい視線を何人かが送った。
オールマイトがカンペを取り出した辺りから人数が増えたのは言うまでもない。
「状況設定は、
状況設定が意外にアメリカンだった。オールマイトは金髪だが、確か日本人のはず‥‥まぁ着ているスーツからしてそう言うのが好きなのだろう。
「「ヒーロー」は制限時間内に「
そして、コンビおよび対戦相手はくじ。
但しクラス人数が21で奇数になり一つチームが三人になるが、そこは―――
「〝Plus Ultra〟さ! 不利な状況を乗り越えてこそヒーローの真価が問われるってね。逆もまた然り、有利な状況だからと言って
そうして別れた結果は、以下の通り。
A「緑谷出久」「轟焦凍」「芦戸三奈」
B「障子目蔵」「飯田天哉」
C「麗日お茶子」「八百万百」
D「爆豪勝己」「六道紫」
E「峰田実」「青山優雅」
F「口田甲司」「砂藤力道」
G「耳郎響香」「上鳴電気」
H「蛙吹梅雨」「常闇踏陰」
I「葉隠透」「尾白猿夫」
J「瀬呂範太」「切島鋭児郎」
「え……?」
「チッ」
思わず爆豪を見る紫と、紫から視線を逸らして舌打ちをする爆豪。
あからさまにチームワークに欠けている。
「よ、よろしく二人とも」
「おう、よろしく」
「よろしくね~。三人一組なんて、ラッキーだね!」
「ア、アハハ。そうだね」
「……まぁな」
三人一組になったAチームは、意外と和気藹々としていた。
入試で三人一組を経験済みの出久はそこまで緊張していない。陽気な性格の芦戸が、軽く緊張をしている出久と、悪く言えば無関心の轟の間をうまく取り持っている感じだ。
陽気な性格をしており、軽い緊張をしている出久と悪く言えば無関心の轟の間をうまく取り持っている感じだ。
「続いて最初の対戦相手は……こいつ等だ!!」
ヴィランとヒーローの二箱に分け入れた英単語の書かれた球を、オールマイトが左右の手で引いた。
「ヒーローチーム、A!ヴィランチーム、D!! ヴィランチームは先に入ってセッティングをするようにね!五分後に潜入でスタートだ!他の皆はモニターで観察するぞ!」
響き渡るその声に、出久と爆豪の視線がかち合った。
☠
所定の位置に着くようにと言われ、ビルの建物へと入っていくDチームの二人。
物静かだが、決していい意味ではない。ギクシャクしていると丸わかりである。
爆豪と紫に接点はあまりない。出久のことで喧嘩を売る爆豪を諌める役目を負ってはいたが、何時も間に入れば意外なほどに爆豪はすぐ引いていた。
「……オイ、六道」
「へ?な、なにかな?」
だから紫は彼から話しかけられたのは、これが初めてだった。
「デクは個性があるんだな?」
「……らしいね。最近発現したんだって」
「最近……ハ、冗談だろ。あんな分かり易い個性が、最近発覚するかよ! あの、クソナードが……!」
「……出久くんを随分敵視するんだね。彼は努力家で、誠実だよ?私よりずっと前から知ってるんだから、わかってるでしょ、それくらい」
出久のことを悪く言う彼に、ムッと少し苛立った紫は珍しく反抗的な口調で返した。
「気に入らねぇんだよ……!アイツも、勿論お前もな!!!」
「……」
睨み付けながら怒号を上げる彼に対し、紫の瞳はあくまで冷め切っていた。
「いいか!№1になるのは俺だ!お前らなんかには負けねぇ!!」
「……なんでそんなに」
「言ったろ、気にいらねぇんだよ!!!!!」
幼い頃から知っている。
何でも持っていた自分と、何も持っていなかった出久。
―「大丈夫?立てる?」
誰もが慕ってくれた自分と、自分についてくるしかなかった出久。
―「君が、救けを求める顔してた……!」
石ころ同然だった。簡単に蹴り飛ばせる、そんな軽い存在のはずだった。
なのに、いつもいつも「ヒーローになる」「オールマイトは凄い」と、自分と同じことばかり言っていて……それが真似じゃなく本心だったのが、尚の事苛立ちを感じさせる要因になった。
それを加速させる原因になったのは―――
―――「キミがヒーローになったら、きっとナンバーワンになれるよ」
目の前の、白い少女だ。
よりによって何故出久なのだと、自分を軽くあしらっておいて、何で無個性の出久なんだ。
――丁度いい機会だ、あの時は怒りと痛みで言えなかったことを、今言おう。
スッと大きく息を吸って、堂々と爆豪は紫に宣告した。
「俺がナンバーワンになる!アイツじゃねぇ、アイツより……俺が上だ!!!」
「………」
これは、ダメだと思った。
彼がダメではなく、紫自身のことだ。
爆豪の想いはあくまで出久に向いている。その過程で自分が引っ掛かっただけなのだ。
怒りの欠片でこれなら、出久と彼を遭わせるのは避けたほうがいいかもしれない。……でも。
「出久くんは、貴方を凄い人だって言ってたよ」
「ア"ァ!?だからなんだ!加減でもしろってか!?」
「違う、全然違う。頭が良い貴方なら分かってるでしょ、そんなのを求める人じゃない。……露払いはしてあげる。堂々と真正面から
「言われねぇでも、アイツは真正面から叩き潰す……!」
その言葉が強くて、どこか出久に似てるなんて紫は思ってしまった。
(……あぁそっか)
何処までも真っ直ぐに何かを見つめて自分の感情を露わにするその憤怒の姿は、同じように、どこまでも愚直にヒーローに憧れる出久のそれと同質のモノなんだ。
自分にはない出久との共通点を見つけてしまった。
この時点で、紫が爆豪に協力しない理由が消えた。
☠
「えっと、二人の個性は半冷半燃と濃度調整が出来る酸だね」
「あぁ。ただ、戦闘で
「え?」
「勝つ気はある。安心しろ」
「う、うん………よし、作戦だけど」
「いや、大丈夫だ。それより外出てろ、危ねぇから」
「「え?」」
声を揃えて疑問符を浮かべる彼らをおいて、ビルの前に立つ。
「向こうは防衛戦のつもりだろうが、俺には関係ない」
そして、スタートと同時に
「足元滑るし、後は俺が――」
「ダメ!
「?」
出久の言葉に、頭より先に身体が動いた。入口に向けて跳びこむ。
同時にBOM!という大きく派手な音が、先程まで自分のいた辺りから響いた。
爆豪だと理解した瞬間、前方から伸びてきた骨の腕に轟と芦戸が捕えられ、屋内に引きずり込まれた。
「デェェクゥゥゥウウウウウウウ!!!!!」
「かっちゃん……!」
屋内に引きずり込まれた二人の心配は一瞬だけ。轟の個性なら凍らせて砕くことも可能だろうし、芦戸なら自分ですり抜けられる。
そう判断した直後、視線を巡らせ状態と状況の確認をする。
そして少し火傷した裸足の爆豪を見て、一瞬で状況を理解した。
(凍った足を靴ごと爆破したのか‥‥!)
爆破した直後、窓をぶち破り落下、加速して真下に居た轟を狙ったのだろう。
紫が無事な理由は考えるまでもない。彼女は全身に骨を纏って戦う。
脚が凍っていたとしても、自分で纏った骨を砕いて解除すればすぐ動けてしまう。
更に、内側から骨が生える彼女には、生える際にあいた穴が直ぐに塞がるという、一種の高速治癒があることも把握している。恐らく、轟と芦戸相手に万全の状態で迎え撃ってくるはずだ。
「まずっ」
迎撃しようとすると、爆破を器用に使い空中で方向転換される。
背後に回られた直後、ビル内に蹴り込まれた。
(あくまで
恐らく、轟と芦戸を中に引き入れるまでの流れは、紫との作戦通りなのだろう。
このまま外で戦えば授業の内容にそぐわないから中止をくらうかもしれない可能性を、ギリギリ逃れるためだ。
「やっぱ、強いなぁ……!」
あんなに怒号をあげているのに、頭の中は意外とクールだ。
一周回って冷静になっているのかもしれない。なら尚のこと強敵であると判断して――笑った。
「ンだよ、ヘラヘラとよォ!」
「かっちゃんだって、知ってるだろ」
――「私が来た!!」
「ヒーローは、笑顔で皆を救うんだ……!」
「そんなの――――! やっぱ、ムッカつくなぁ!!!」
一階にて、爆豪と出久の戦闘が始まった。