歪な英雄 作:無個性者
轟と芦戸が引きずり込まれた先は、二階だった。
一階の天井を破壊し、そこから骨の巨手が伸びていたらしい。
数秒と掛かっていない回収速度に驚きながらも、骨を急速冷凍し、砕いて降りた。
隣では芦戸が衣服を溶かさないように、器用に骨の一部を溶かして滑り降りていた。
(……落ちずに、降りれた?)
さっきまで大穴があいていた場所は、骨が幾重も重なり合い、絡まり合うようにして埋められていた。
急いで飛びのき、慣れ親しんだコンクリートの床に移動するが、さっきの埋め方は上にかぶせるのではなく、まるでシャッターのように穴の側面から骨が突き出ていた。
(もしかしなくても、囲まれてるって考えたほうがいいか)
轟がビルを丸ごと凍らせたように、二階部分のコンクリ内部に骨を刺し込むことで、自分たちを骨の檻に囲みいれたのだろう。ただ骨で囲まれただけなら、全て凍らせて砕くことは容易だったのだが、こうしてコンクリに阻まれてはそれを一瞬でこなすのは困難だ。
一見すればコンクリートの壁にしか見えないが、何処から骨が飛び出るか分からない緊張感が二人を圧迫する。
「……出来ればおとなしく捕獲されて欲しかったんですが」
「そう簡単にやらせねぇよ」
「あぁびっくりしたー。凄いね六道さん!」
一人何やらテンションが違うと思いながらも、お互いを観察する。
まず紫。二人を前にして、巨大な手を関節を外し落とすことで切り捨て、新たに籠手を創造している。先日の授業で見せたのより右が大きく、左が小さめだ。
(恐らく右で範囲攻撃、左で近接ってことなんだろうが……)
気になる点として、脚。脚甲を纏ったそれは地面にピタリと癒着したまま動く様子がない。
落とした巨手は動く様子がない……つまり。
(アイツは脚から創造した骨を地面に突き刺すことで、2階の壁と地面内部に骨を入り巡らせたまま、操ることができる。だが、恐らく動けない)
なら、遠距離から攻撃すれば勝機がある。
「……ここで大人しくしてくれるなら、攻撃しません」
「勝機が少しでもあるんなら、諦めねぇよ」
「え、マジ?勝機見つけたの!?」
「芦戸、少し離れろ。壁には近寄りすぎるなよ。………おそらく、六道は動けない」
「マジか!?」
轟の推測と芦戸の驚きに対し、紫は無反応で返した。
それが正解かどうか覚らせないためだ。
「俺の失敗でペース持ってかれたんだ………悪ィが汚名返上の為にも倒させてもらうぜ」
パキパキパキと冷気を右から放出する轟に対し、紫がとった行動はシンプルだった。
「よ、っと」
「な?!」
「おぉーなるほど」
足元を伸ばしたのだ。足裏から骨を新たに創造し、竹馬のように立ったままジャンプした。
「轟さんには悪いけど、此処は私の空間です。……勝機なんて、与えませんよ」
更に紫の背後の壁や天井から、関節が幾重も連結した細い骨が何本も生え、紫の背中に突き刺さった。
コンピューターで言えば、新たに配線を増やしたのだ。
伸ばした骨を外し、脚甲を何時もの状態に戻す。
「――ごめんなさい」
地面に改めて降り立った瞬間――轟と芦戸を、全方位から骨が襲った。
「こ、の!」
「わ、わわわ!?」
凍らせようとする轟と、どうにか避けようとする芦戸。
だが無意味。無限に増殖し続ける骨は避けようと思って避けられるものではない。
凍らせ、砕いた端から新たに作り出され、あっという間に二人を霜の降りた骨の檻が囲んだ。
「
「……チッ」
轟の体には、霜が降りていた。
彼が使える凍結力には限界がある。使いすぎれば自身を凍らせてしまう諸刃の剣。
「昨日の授業で少し使っていた左を用いれば、まだ戦えるはずですよ?」
「……そうだな。だが、この密閉空間で、しかもこうも分かり易く命を握られちまうとどうしようもねぇよ」
左の熱を使えば確かに体温は戻せるが、この密閉空間で無暗に炎を扱うわけにはいかないし、氷を溶かすことになり、芯まで凍らせ無効化した一部の骨が全て復活することになる。
降参だ、と轟が呟き、無理に避けようとして変な体勢になった芦戸も同じくと辛そうに呟いた。
「六道さんー、助けてー、この体勢キツイー」
「……取りあえず、テープ巻くまで待ってください」
「はやく~」
芦戸と轟に確保テープを巻きつけ解放する。
「これ見よがしな籠手も、脚甲も俺の意識を集中させる陽動か。流石だな……昨日のことで分かってたことだが」
「つよすぎー」
圧倒されてしまった二人は文句を呟くが、紫は無言を通した。
何を言えばいいのか分からないのだ。
取りあえず一階が気になるが、行くわけにはいかない。
「……頑張って」
紫は少し下を向いて祈るように、静かに呟いた。
☠
――BOOM!!
一階の戦闘は、爆豪が僅かに優勢だった。
爆豪の縦横無尽な動きに対し、昔からの癖を知り尽くしている出久は彼の動きを分析、予測し避ける。
対する爆豪は天性の戦闘センスに任せ、避ける出久を追い詰め、時折予測を超えた動きをして少しずつ圧しはじめていた。
「どぉしたよ!そんなもんじゃねぇんだろ!!」
「ぐぅゥッ!?」
避けきれない爆破を両腕でガードするが、衝撃が体を通り抜けて何度も行えることではないと判断する。
(ダメだ、今のままじゃかっちゃんの動きに追いつけない……!)
身体を鍛えていたし、本を読みこんで得た格闘に関する知識は人一倍持っている。その知識を組手と称した実戦形式で紫相手に試したことだってある。
だからこそ、
地に足を付けた闘い方ではダメだ。
「なぁデク!いや、緑谷出久!!」
「!?」
急に蔑称から本名で呼ばれ訝しむも、その間も猛攻を防ぐのに必死で、怒号に耳を傾けるしかない。
「今まで面白かったか!?愉快だったかヨ!ずっと俺を騙して、ひ弱なフリしやがってよォオ!!!」
「ぐっァッッ!」
違う、違うと心の中で否定するが、言うだけの暇も余裕もない。
このままじゃなぶり殺しである。
「ガキの頃からずっと、オレを舐めてたんだろ!!ずっと、ずっとよぉ!!」
「――ぅ」
「なぁ、どんな気分だったよ。俺も
右の大振り。爆豪の一番分かり易い攻撃の癖が来た。
タイミングとしてはばっちりだった。さっきまでの調子ならあたっていた。
だが、爆豪の叫びに応えようと必死だった出久は弄ばれている間に新たなステージへと跳びこんだ。
「――違うよ」
爆豪の目の前から、出久の姿が一瞬消えた。
優れた動体視力がギリギリ彼の影を後追いし、
「スマッシュッ!」
「ガッ!?」
天井を蹴り、上から落ちるように降り下ろした拳は、防がれることなく爆豪に直撃した。
「騙してなんかない。この間まで、僕は無個性だった」
「こ、の」
「キミを舐めたことなんてあるもんか!ずっと、ずっと凄いと思ってきたんだ!!ずっと、身近なキミだから憧れてきたんだ!!」
爆豪の叫びの全てを否定する。
トリッキーに空中を爆破で飛び回る彼に対し、天井、床、壁の全てを発着点とした、まるでゴムボールのように跳ねまわる動きをする出久。
出久はこの短い間に、爆豪の動きを吸収し、取り入れていた。……否、
「そんなキミだから、勝って超えたいんじゃないかバカヤローー!!!」
届け、届けと必死に声を荒げる出久。
何処までも真っ直ぐで、真摯で、今まで無視しようとしてきたそれらが、自分とキミは同格なのだと目の前で輝いていた。
その全てが目障りで、爆豪も叫び返していた。
「その
爆豪の左手が、右の手榴弾の形をした籠手のピンへと向かって行った。
耳元のマイクからオールマイトの静止の声が聞こえた気がしたが、爆豪の頭の中に入っては来なかった。
一方出久も、彼の籠手のギミックについては想像がついていた。どれだけ彼を見てきたと思っている。どれだけ、彼の個性に魅せられてきたと思っている。
「「――!」」
振り上げた腕に力が籠り、
今の出久にはとても耐えられない力が右腕へ込められていく。
――次の瞬間、ビルどころか仮想街を大きく揺らすほどの衝撃が巻き起こった。
☠
モニタールームでは、そんな彼らをハラハラと見守る教師とクラスメイトが居た。
スタートと同時に凍りついたビルを見て、決着があっさりついたと思っていた数分前が嘘のような緊張感が場を包んでいた。
「ちょ、死んだ!?」
「くっ!緑谷少年、爆豪少年!!聞こえてるか!?」
一階にあったカメラは軒並み吹き飛んでしまったらしく、全てが砂嵐に包まれていた。
たまらず手元のマイクに大声を上げるが、返事はない。
「六道君!一階に確認を」
『……まだですよ』
「なに?」
『まだ……終わってないんでしょう? 私は邪魔しないって約束したうえで此処にいます。オールマイト、クラスの皆、ごめんなさい。私は授業より彼らを優先します』
「……」
絶句するクラスメイトと違い、オールマイトは紫の言い分に共感してしまっていた。
出久がヒーローになる事以外で見せた、初めての感情の爆発。これは彼にとって、絶対必要なことだと、感情的な部分が叫んでいたのだ。
「な、何言って」
『ごめんなさい』
最後にそれだけ言って、紫は耳に着けていた無線機を取り外してしまった。
「ど、どうするんだこれ?」
「現場に行くしか……あ、アレ!」
耳郎が一つだけ奇跡的に残っていたカメラ映像を見つけた。
地面に落ちても配線がギリギリ繋がっていたらしく、時折画面がブラックアウトしかけるが、どうにか現場を映していた。
「ば、爆豪しかいねぇぞ」
「というか、爆豪君の背中しか見えないね」
息を切らせたように呼吸を荒げる爆豪。
目の前には籠手に溜まった
彼の目の前は壁も柱も吹き飛び、吹き抜けになっていた。
出久の姿は見えず、彼が居た場所には大きな穴が空いていた。
「少年……」
モニタールームに居た全員の心が沈みかけたその時、カメラに動きがあった。
『――SMASH』
無線機からギリギリ聴き取れた、小さな呟きと共に爆豪の背後に現れた出久は、彼の首筋にトンッと軽い衝撃を放ち、彼を気絶させた。
☠
爆豪の最大火力が放たれる直前、出久は腕の力を解いていた。
(違う、ダメだ)
真逆の意味で使われるようにと与えられたのだ。なら、ここでこんな風に使うべきじゃない。
腕に込めていた力を、右足に集中させた。
爆豪の籠手から力が放たれた直前、身を限界まで屈めて脚に籠めた力を解放する。
出久の、まるでオールマイトの様な超速移動の痕跡は、爆発の閃光と爆音によって見事に隠された。
地面に穴を空けてしまったが、爆破の影響だと思った爆豪は気付かなかった。
そして、残った左足を使って彼の背後に一足飛び。
「――SMASH」
気付かれないように小さく呟き、彼を気絶させることに成功した。
「痛ってぇ……!!」
だが、出久も倒れ込んで動けない。着地の衝撃に加え、跳ぶときに10%を超えたのだろう、バキバキになった右足程じゃないが、左足も痛みを訴えていた。
『――そこまで!勝者、
動けなくなった出久を確認したオールマイトの声が、無線機から響いた。
「ってことは、轟くんと芦戸さんを攻略したんだ……やっぱすごいなぁ」
考えていた作戦では、爆豪を自分が抑え、紫を二人がかりで攻略してもらうつもりだった。
思っていた通りではなかったが、構図としては作戦通りになったから半ば安心して任せたのだが……相手のペースに持って行かれた時点で作戦は破たんしていたのだろう。
二人を見事捕えた紫を、出久は寝転びながら称えた。
「……負けたのか」
「あ、かっちゃん」
「……何だお前、そのザマは」
気絶していた時間は1分にも満たない。流石のタフネスだった。
座り込んだ爆豪は、倒れ込んでいる出久のバキバキに折れた右足を見て呆れた声を出した。
「………かっちゃん、僕は」
「あー、いい。何も言うんじゃねぇ。……勝者は勝者らしくしてろ」
「あ、いや一応チームではかっちゃんたちの勝――」
「るせぇ。お前に負けた時点で俺にとっちゃ負けなんだよ」
あれだけ感情を破裂した後だからか、何時もの彼らしくないしおらしさを醸し出していた。
「……
「……え?えぇぇ!?い、いまかっちゃん僕の名前……?」
「るせぇっつってんだろ!……いいから聞け、ボケ」
「あ、うん」
相変わらず口が悪い彼は、ぶっきらぼうに宣言した。
「もう負けねぇ、こっから俺は一番になってやる……お前もあの女も全員追い抜いてな」
これだけ好き勝手やったのだ。授業としてみれば最下位なのは自覚していた。
だからこそ。もう負けないと、今負けたとしても頂点に立つのは俺なのだと、爆豪は出久に宣言した。
「……僕も、負けない。今はこんな風にバキバキになっちゃう勝ち方しかできないけど、今度はちゃんと、この力を自分のモノにして……キミに勝つよ」
「ハッ!勝者が何言ってんだバカかよ」
そうしてそっぽを向いたっきり、彼らは言葉を交わさなかった。
言うことは言った。全てはこれからだと、顔も合わせようとしない癖に、彼らの心は一つになっていた。
お仕事忙しいと書けない、眠い‥‥そして難産だった!戦闘もそうだけど心象交えるとホント難しい!