アクア様とカズマって何だかんだで一番結婚した後が想像しやすい組み合わせだなって思って書いた。
それだけの話。
頭おかしい爆裂娘ともドMとも出会う事も無く
そんな世界でのあの二人の話。
※砂糖控え目で甘過ぎず美味しいを目指した
「ねぇねぇ、今日が何の日か知ってる?」
「しってるー!おとうさんとおかあさんが結婚した日!!」
「そうよ。私とお父さんの結婚記念日よ。ふふ、流石私の子ね。ちゃーんと覚えててくれてお母さん嬉しいわ。今夜はあなたの大好きなシチューにするから、楽しみにしててね!」
「わーい!おかあさんだいすき!!」
そう言って、抱きつく娘の頭を撫でた。青色の髪と青い瞳こそ私譲りであるが、眉の形とか、顔つきとかに夫の面影を感じるこの子こそ、今の私達の一番の宝である。
頼りなかった少年が、気がつけば地に足着けて必死に働く『男』の顔を見せるようになって。気がつけば隣にいるのが当たり前になって。
そうなれば、神だの人間だのの前に男女であった私達二人が結婚しない理由にはならなかった。これが頭の固いかつての後輩ならば認めなかったかもしれないが、今の私は立場的には一介のアークプリーストでしかない。今だと中々無いが、昔なら神と人の結婚位いくらかあったことなのだからいいではないかと私は思うのだ。
今の伴侶は器用であるし、運もいいが決して冒険者として大成するような質でもない。むしろ小物で、いつまでも少年のいたずら心を持ち続けそうな、そんな人だった。悪知恵も良く回るし、それなりに良心があるなら実行しないだろう外道と言われそうな事も、やらなきゃいけないならする。度胸があるかと思えばヘタれてるし、カッコいいと思える所なんて少ない。
でも、そんな彼だからこそ私は選んだのだ。
弱いし、ヘタれるけど、最後の最後で彼はいつも意地を見せてくれる。
もうダメかと思ったとき、すんでの所で自分も震えてるのに崖っぷちから手を掴んでくれる。
引っ張れるかは別の話だ。でも、そんな掴んだら彼は離さない。悪態付きながら一緒に谷底まで落ちてくれるような人。
それで、思いがけない方法を思い浮かんで、なんだかんだで生き残る手段を手に取ってしまう。悪運を自分の幸運で味方につけて、最後には笑えるような結末を掴み取ってしまう。私の夫の、サトウ・カズマという人はそんな人だ。
そんな彼だから、お金もツテも、親族も無かったこの世界で一緒に頑張って生きてこれた。
そんなカズマだから、私は彼の手を取った。
もう二人で居ないことなんて、考えられなかったから。
そうしてこの世界で暮らして、もう結構経つ。今はもう二人揃って冒険者は引退していた。今は冒険者時代に手にしたお金を使って建てた家に住んで、冒険者時代のツテや経験で得た仕事をして稼いで生きていた。かつては暴利な冒険者への税金に悩まされていたが、二人揃って冒険者カードを返却した事により、今ではただの市民扱い。家もあるし、仕事もあった。そんな訳で、ある程度安定したささやかな稼ぎでも三人で十分に暮らせていた。
今日はあのいけすかない仮面の悪魔が持ち込んできた商談の為、夫はあの魔法店に足を運んでいる。正直信用も出来ないし、女神としては信頼したくない相手だった。
それでも、敵ではない。悪魔は契約内容はちゃんと守ることは確かだ。あの抜け目の無くずる賢い夫なら、契約内容を隅から隅までちゃんと見通して、そこそこいい条件で稼ぎを持ち帰ってくれるだろう。
私たちが住む、この家に。私たちのこの居場所に。
「……おかあさん?どうしたの?」
「う、あ、あはは。なんかね、色々あったけど今は幸せだなぁって思っただけ。……そうね!シチュー一緒に作ろっか?一緒に作ったんだって、お父さんを驚かせよう!」
「……!!うん!!」
右手の薬指に収まっている指輪と、自分と夫の面影がある娘の笑顔を見て彼女は、アクアは改めて今の幸せを噛み締めた。
別に崇められなくてもいい。
贅沢な豪遊が出来なくてもいい。
夫と娘と、こうやってささやかに暮らせる日々が過ごせるならそれでいいと。
「ふむ、ポンコツ女神の夫よ。本当にこの契約内容でよろしいのかな?今や貴様は完全に引退して冒険者ではない身。商才の無い所かマイナスを降りきってるこの店の店主のように暴利な税に苦しむことも無いのだぞ?」
「そら、昔の俺なら月々入るお金よか一気に手に入る大金を選んだかもしれないがな。大金狙ってくる変な輩にまとわり着かれるのも嫌だし、今の『俺達』には娘がいるんだよ。それに今の生活も結構気に入ってるんだ。そんな大金手にした所で、それが崩れたら元も子も無いだろ。んなもん手にしたら確実に身を持ち崩すわ」
「ふはは、相変わらず小心者だな貴様は!あの小僧が今や子持ちの三十路とは、時間が流れるのは早くてかなわんな。我々からしてみれば人間で言う一月前位の感覚でしか無いのだがなぁ。これだから、人と関わるのは止められない物だ。飽きが来ない」
そう言って、仮面をつけた男は契約書を纏めた。勿論これらは彼が確認済みの物である。悪魔は契約内容に厳しいのだ。悪魔という存在の柱であるが為に、どんな悪魔でも契約はきっちり守る。
悪魔__元魔王軍幹部の上級悪魔『バニル』はさらさらと自分の商売上の名前を書き込み、それを彼に渡した。
「此方が貴様の分の契約書だ、ポンコツ女神の夫よ。しかし、仮初めの体である私にすらこれは良い物だと一瞬で判断出来たぞ!コタツと言ったか。全く魔力を感じないのになんらかの魔法でも掛かっているのではないかと自分を疑った程だ。これであの店主の赤字を少しはカバー出来そうで我輩は満足である!あの店主がよく仕入れてくる紅魔族の魔道具職人の品も、こう、このように誰もが使える便利な代物であれば少しは砂で出来ている筈のこの体の胃が痛む錯覚を覚えずに済んだのだがな……ままならんものよ」
「……いつも苦労してんだな。その話もう飽きるほど聞いたぜ」
「ふはは、いつもいつもいっつも同じような話ですこしイラッと来てる悪感情ご馳走さまである!……いやぁ、マジな話少しはマシにならんかと悩んでいるのであるがなぁ」
「まあ、これとかのアイディアが金になるのはありがたい話だからな。こちらこそありがとな。冒険者時代に手にいれたツテじゃ結局手出しできなかったんでこっちとしても助かる。んじゃ、俺帰るな。意外と確認に時間掛かったし」
「うむ、それでは来月から入金を開始するので楽しみに待っているが良い。このような商品のアイディアが他にもあるならば、儲かると判断でき次第いくらでも買い取ろう。では、家族が待つ家に帰るがいい!ポンコツ女神の夫よ!」
「言われなくても帰るっての。ウィズによろしく言っといてくれ。また売れそうなのが出来たら持ってくるなー」
そう言って、魔法店から外に出る。
昼に家を出てこちらに来た筈なのだがコタツの試作品の運搬や契約書の内容の確認で大分時間を使ってしまったようだ。もう夕焼け空だ。
「あっちゃぁ。思ったより本当に時間食ってたか。帰りに町で色々買って帰るつもりだったんだがなぁ。この時間帯じゃもう閉まるな……」
娘が出来て大好きだった筈のお酒を控えるようになった妻に今日くらいはと良いのを買ってこようと思ってたのだが、この分じゃ無理そうである。控えた理由は『娘に酔いつぶれた情けない姿見せられない』からだそうで。
その話を聞いたときはレベルアップしても改善されることの無かったアイツの駄目っぷりが酒癖限定とはいえ改善されるとは親になるというのは素晴らしい事なんだなと涙が出そうになった。いや、本当に。
まあだが店が開いてそうに無いのでは仕方ない。今日は真っ直ぐ帰ろう。幸い明日仕事は休みだ。久しぶりに家族揃って一緒に街で買い物にでも出かけるとしようかなー。なんて……
(……父さん、母さん。死んだ俺の事なんてもう忘れてるかもしれないけどさ、なんとかやって行けてるよ、俺)
赤く暮れてく夕日を見てセンチメンタルな気分にでもなったのか、もう二度と会えないであろう散々迷惑を掛けた両親の事を思い出した。
……ダメだなぁ。折角のめでたい日なのに。歳を取ると涙腺が緩くなるって話は本当だったのだろうか。
ちゃんと思い出そうとしたのに。ぼやけた顔しか思い浮かばなかった事が、経った時間を感じさせてしまってダメだったのかもしれない。
「……っと!さあ、帰るか!!」
目を拭って、俺は自宅への道を歩き始めた。
何一人で湿っぽくなってるのやら。折角の結婚記念日だ。早く帰って、アクア達と一緒に過ごそうか!
自然と足取りは早くなっていく事を感じながら、真っ直ぐ家への道を歩き始めた。
「おかえり、おとうさん!」
「おーただいま。ちゃんといい子にしてたか?」
「うん!えっとね、きょうはね、おかあさんといっしょにシチューつくったよ!それとねそれとね」
「こらこら、お父さん帰って来たばっかなんだから話は後にしなさい。さ、もうご飯にするから、手を洗ってきてね」
「うん、わかった!」
そういって娘は台所へと駆け足で向かっていく。やれやれ誰に似たのやら……
「ただいま」
「お帰りなさい、あなた。取り敢えず念のため解呪の魔法を使「おいちょっと待てや駄女神」なんでよ!?アイツは確かに変な奴だけど悪魔なのよ悪魔!!それぐらいしとかないと安心できないわ!!」
「お前のそれは強力すぎて普通は効かない筈のマジックアイテムとか商売の契約に使われる魔法もたまに消え去るだろうが!?別に俺だけに掛けるならいいけどその前に持ってるマジックアイテムとバニルと結んだ商談の契約書を隔離させてくれって!!……なんか久しぶりだな、こんなやりとり」
「……ふふ、そうね『カズマさん』
なんか、久しぶりねー。あの子が生まれる前までは結婚した後もいっつもこんな調子だったのに。ほんの少し前の事なのに、随分前の話に思えてくるわねー」
「なあ、アクア」
「……なぁに?」
……いや、こんなこと言うのは無粋だな。
「あ、いや、何でもない」
「そう?変なの。さ、ご飯にしましょ!」
「ああ、娘の手料理かぁ……嬉しくない訳がないなこりゃ! 父親として嬉しい事でも上位に入る事だしな!娘が料理作ってくれるなんてさー」
「あ、私だって作ってるんだからね!女神の手料理食べれるなんて幸せ者なんだって事、忘れちゃイヤよ!!」
「そりゃもちろん。いつも感謝してるって」
「ふふん、分かればいいのよ、分かれば」
今幸せか、なんて……そんな事、顔見れば分かるもんな、アクア。
色々あったが__なんだかとっても幸せだ。
尚その日の夜。
一家揃って川の字で寝ようとした時の事……
「ねぇねぇおとうさん、おかあさん」
「何だ?」「なぁに?」
「おとうさんとおかあさんって、どこでであったの?」
「そりゃぁ……」「もちろん……」
「「……あっ!!」」
(やっべぇよアクア、魔王の事忘れてた……!!)ヒソヒソ
(わ、私も……!?日々の忙しさにかまけてそんな事頭の片隅にも残って無かったわ!?)ヒソヒソ
「?どうしたのー?」
((……まあ、いっかー……))
娘に自分達の出会いを聞かれ、本来の目的を思い出したアクアとカズマ。
だが可愛過ぎる自分達の娘に毒気を抜かれてしまい、今さら思い出した魔王討伐の使命の事はまた暫くの間忘却の彼方へと行ってしまうのであった。
かくして、この事を後に思い出すのは彼らの娘が育ち、彼女が魔王を倒したパーティーの一人になった後の事だったという。
「……結婚したとか娘ができた事は素直に祝福したいけどっ!!いい加減帰ってきてよアクア先輩ィィィィィィ!?」
尚その後は、アクアが数十年もの間不在であった影響でその分の仕事もこなさればならなくなった女神エリスの労働環境の極悪化を除いて、大体の事は丸く収まったそうだ。
グッショブエリス様。フォーエバーエリス様。
働き続けたその果てに、彼女の安息があらん事を……
「ふふふ……過労死はイヤだなぁ……」
めでたし……めでたし?
アクア様がヒロインとして本領を発揮するのは結婚後。そんな気がしたんだ()
この二人、いいよね。原作からして既に熟年夫婦の貫禄あるけど、実際結婚したらすっごくお似合いだとおもうの。そんな思いを書き綴った一作がコレである。
続かない。というか続けられない。初めてマトモなカップリング書いたけど、ガリガリ精神が削られる……矢吹神や河下水希先生はやっぱ神やったんやなって(遠い目)