Bloodborne 露纏いの狩人と物狂いの教授 作:J.D.(旧名:年老いた青年)
随分と遅れてしまいました、本当に申し訳ない(メタルマン並感)
期末テストが近いのにPUBGが面白すぎるのがいけなかったんや……
「呪われた獣め! 正体を現せ!」
「よそ者が! お前が災いを持ってきたのだろう!」
落ち行く夕陽が陰影濃く照らし出すヤーナムの市街、その大通り。十数人の群衆が口々に罵倒を浴びせかけながら、雑多な武器を手に一人の老人を追っていた。
「死ねえッ!」
「ぐぁ……っ!」
群衆の一人が猟銃から放った銃弾が老人の腿を深く抉り、彼は血飛沫を飛ばしながらもんどりを打って石畳の上に倒れ込む。
路地で焚かれる篝火に照らされた老人――ライオネルの顔に焦燥が浮かぶ。慌てて古びたリボルバーを群衆へ向かって構え、立て続けに引き金を引く。
空気を震わせる破裂音とそれに反応する群衆、発射される鉛の弾丸とそれに散らされる命。
しかし仲間が死んでも群衆は止まらない。殺戮の興奮に心を呑まれ、熱狂に身を任せながら友の血を浴びても怯まずそれどころか獣のように雄叫びを上げる始末だった。路には夕陽によって、人真似をする獣達の影が落とされる。
「気狂い共め!」
それを言う権利があるのかどうかは知らないが、彼はそう叫びながら恐怖に震える指で銃に弾を込めていく。数多の靴底が石畳を打つ音をベースとして弾丸が装填される度にシリンダーで擦れる音が音楽を刻んだ。
再び大通りの一角を照らす
――しかしそれはライオネルから放たれたものではない。
群衆から再び放たれた銀の礫が装填の終わった銃を構える彼の無防備な胴を穿ち、臍上に大穴を空けたのだ。喉から込み上げる塊に堪らず咳き込み、彼は銃を取り落とすと口から唾液と共に胃の内容物を吐き出してしまう。
銃弾が与えるのは何も突き刺さる外傷だけではない。金属の塊が高速で身体にぶつかれば当然衝撃が着弾点及びその周囲に及ぶ。重金属の圧力は私の臓器の幾つかを押し潰し、骨を折り、完全に行動不能させしめたのだ。
じわりと傷から湧き出す大量の血液が服を次々と汚していく。視界がぐわんぐわんと船に乗っているように大きく揺れた。どこからか吹く辻風がやけに肌寒く感じる。
ああ……これが、『死』なのか。
群衆が倒れている私を取り囲み、罵詈雑言を並べ立てながら各々の武器を振り下ろす。年代物らしい舶刀が、農業用のピッチフォークが、間伐用の手斧が、私の身体を鈍い痛みを伴いながら破壊していくと共に、私はそのまま意識を失ってしまった――。
「――い、爺さん。おい!」
……誰だ、私を呼ぶのは。
たった今、素晴らしい経験をした夢を見たばかりなのだ……今暫く眠らせておくれ……
「死ぬにはまだ早いよ、ホラ!」
「いだっ!?」
唐突に両の頬を張られた衝撃に、私は両の眼を開き苦悶の声を上げる。誰だ、私の至福のひとときを邪魔する愚か者は!
思わず怒鳴り付けそうになりながら犯人を探そうと周囲を見回すとそこに居たのは二人の奇妙な男女。
「ほれ、起こしたぜ『助言者』殿? あとはアンタに任せるわ」
片や私が眠りに着く前にあの診療所で先に眠っていた、外套姿の女性。目覚めている今は猛禽を思わせる鋭い瞳に粗暴さを滲ませながら、嘲りと皮肉の混じる表情を私へと向けている。赤くした掌を振っている様子からして、私の頬を張ったのは彼女で間違いなさそうだ。
「やれやれ、随分と荒っぽいな君は……ご老人、調子は如何ですか?」
そしてもう片や、車椅子に乗った壮年に差し掛かりつつある黒髪の男性。まるで女性とは対局に位置するような柔和で優しげな眼差しを眼鏡の奥に湛えながら地面に倒れている私へ向けて手を差し伸べていた。
「あ、ああ、万全とまではいかないが……助かるよ」
頭を振りながら男性が差し伸べる手を取り、立ち上がりながら教授は礼を言う。ここが何処であれ、それを考えるのは後だ。今は彼らと交流を図ることが吉だろう。
「で、この夢とやらに来たって事は……あの爺様もか」
「恐らく、ね……そうだ、良い機会だし君が彼に『狩人』としての心得を教えてあげなさい。さっき教えられたそのままを彼に話してあげれば大丈夫だから」
「はあ? ――分かったよ、だからその有無を言わさない眼を止めてくれ」
ライオネルを起こし、精巧な女性人形の置かれた石段に腰掛けさせると彼から一歩引いた位置で密談するメリッサとハンス。話の大部分は距離の問題からライオネル自身にも聞こえているのだが、その内容がどうにも理解できなかった。
無理もないことだが、銃で撃たれた挙げ句に袋叩きにされて死に。かと思えばいつの間にか見も知らぬ場所へ移動していて、素性の知れぬ人間二人に囲まれ訳も分からぬ話をされる……教授ほどの肝の据わった(あるいは知識欲に取り憑かれた)人物なら兎も角、一般人にとっては恐怖でしかないだろう。
話は終わったのか女性の方が此方へと歩み寄ってくる。鋭い眼差しを向けてはいるがそれは彼女の生来のものなのだろう、敵意や害意のような悪感情は感じられなかった。
「あーっと……アタシはメリッサ。アンタの名前は?」
「ライオネル、ライオネル=コナーだ。宜しく
「……
「……わ、分かった」
私がお嬢さん、と言った所で彼女のただでさえ恐ろしい瞳に殺意が混じる。明確な敵対行動に移らなかっただけマシな部類なのだろうが、銃という対抗手段を持っている私が無手の女性に恐怖を抱いたのはこれが初めてだった。
「それと一言、アタシに向かって
……女性扱いされる事が苦手などという規模の話ではない、のか。粗暴な振る舞いをする事で男性と同列以上に扱われたがっている? それとも根本的に男性と相容れない性格なのか、或いは――私はそこで大河のように流れ続ける思考を塞き止めた。全て憶測で考えようとするのは私の悪い癖だ、学者として推測と事実の区別はキチンとしなくてはならない。
私は緊張を解す目的で一つ天を仰ぎ見、咳払いをした。空には乱れなく漂う無数の雲とぼんやりとした色の空、そして淡くここを照らす月の姿。
――狩人よ。汝は一抹の悪夢に何を見出だし、何を求めるか。
唐突に月が紅く染まり……そして其処からあの“月の魔物”が舞い降りる様をライオネルは幻視し、更に焼き鏝を無遠慮に突き込まれたように頭を灼く激痛が突き刺さる。古い象形文字やルーン文字にも似たそれ――逆さ吊りの図形と、もう一つそれを逆さにした“天に伸ばす腕”に似た図形が忌まわしい雰囲気を放ちながら脳に刻印される。
「……おい、爺さん。大丈夫か? ひょっとしてボケちゃいないだろうな」
「んむっ!? ぁ、あぁ。平気だ……始めてくれ」
僅かな間を呆けていたのだろう、メリッサと名乗った女性が眉を顰めて此方を見遣る。棘のある言葉が僅かに心を刺すが気を取り直して佇まいを直し彼女の話を聞く姿勢を取った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
彼女の語った話は、彼女自身にとっても筆舌に尽くしがたい内容だったようだ。
――ヤーナムには人が『獣』へと変貌してしまう『獣の病』と呼ばれる風土病が存在する。そして獣に成り果てた者達が人々を襲う前に滅する存在として、人であった者達を狩る『狩人』という役職が生まれた。その中に、我々が今宵の狩りへ『狩人』の一員として招かれてしまったという事実。そして『狩人』はこの場所、『狩人の夢』に訪れる事ができる限り死を悪夢として跳ね除ける事ができるという狂言。
人が獣に変わる? 夢を見る限り『狩人』は死なない? どれもこれも荒唐無稽な話であったが、先程までの私の死亡体験と彼女の『獣』と相対した体験談も含めると全く信頼に足らない話という訳でもない。
勿論全てを信用するつもりはないが――私自身、喉元過ぎればと言うように『死の感覚』という未知に欲求を強く刺激されたためか彼女達の話へ乗る事にしたのだ……つまり、『狩人』として『獣』を狩る道に。
「どうやら決めたようだね。メリッサ君、ライオネル殿。では改めて……『狩人の夢』へようこそ、新しき狩人達よ」
彼はいつの間に移動したのか。すぐ上方にあった建物、木と鉄と油と……僅かな血の匂いを漂わせる『夢の工房』の大扉を開きながらそう挨拶した。
[狩人の夢]
『狩人の助言者』が座する、狩人達にとって安息の地。
立ち並ぶ多くの墓碑は悪夢と化したヤーナムの各地へと繋がっており、強く念じる事で悪夢と夢を行き来する事が出来る。
唯一の建物である工房は嘗て多くの工房道具が失われた状態であったが、現在は過去の狩人達の尽力によって全て取り戻している。
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[天へと伸びる腕(仮称)]
ライオネルが『月の魔物』より授けられた、未知のカレル文字。
『狩り』のカレル文字を上下に反転した図形であり、天へと腕を伸ばすように見える様はまるで上位的存在からの拝領を表すようだが――?