Bloodborne 露纏いの狩人と物狂いの教授   作:J.D.(旧名:年老いた青年)

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 なんか最近色々な作品にハマりすぎて話が進まない……
 そんな訳で今回は割と短めです。



Volume.6 Beasthunt within Misty Night.(1)

 

 

 

 ――霧の立ち込める夜のヤーナム。赤紫に焼けた空が雲の隙間から覗くおどろおどろしい光景の下、二人の狩人が診療所の玄関を開け放って出てきた。

 

 「要は襲ってくる連中と、目につく化け物を全て殺してきゃいいんだろ? シンプルな理由に行動だ、アタシは伸った」

 霞に乗って漂う暴力の気配に興奮しているのか、頻りに大鉈を閉じたり開いたりと威嚇のように繰り返すメリッサ。

 「そうだな……我々が行うのは怪物殺し(Monster Slay)だ。たとえ元は人間であれ、怪物であるならば容赦は必要なしか」

 それに対してライオネルは年長らしく、落ち着いた様子で身体の動きを確かめるように斧を持った右腕を振る。

 

 

 

 ……人殺し。ルールの中で生きる人間にとって、禁忌の最たる物と言える。記憶のないアタシでも、自らがその経験者だという事はうっすらと本能やら身体の記憶とでも言うべきもので判ってはいた。

 

 だが、それに対して罪悪感や嫌悪感などを抱いた訳でもなかった。そこに存在したのは、底知れない恐怖――そして、その奥底から仄かに感じる喜びに似た何か。

 

 「……ただのそれだけさ」

 「? 何か言ったかね?」

 「別にっ……とっとと行くよ、爺さん」

 自嘲に似た言葉が思わず口を突いて出たのをライオネルに訝しまれ、アタシは慌ててそれを隠すように騒がしい方へと走った。

 

 

 

 「招かれざる者め! 貴様の脳味噌を――ギャッ!」

 「失せろ! 失せ――アァアアッ!」

 「神よ、助けて――ギイィィッ!」

 此方を見るなり武器を構えて喚き出す群衆の懐へ飛び込み鉈を横薙ぎに一閃。腹を裂かれ噴き出す血液と臓物をその身に浴びながら潜り抜けると、負傷に喘ぐ民衆へ更に歪なハルバードの振り降ろしが襲い掛かる。

 

 一人、また一人と死ぬ度に身体の裡より溢れる僅かな充足感と、それを覆い潰すように這い回る不快感の相反した感情。全く以て穢らわしいったらありゃしない――アタシは刃に着いた血を死体の服で拭いながら死体達を漁り、僅かな輸血液と水銀弾を懐に入れる。他人の家や死体からモノを漁るのは、獣狩りで消耗していく狩人の物資を補給する手段として一応認められているらしい。

 

 「はっ、はあ、老い耄れに、走らせるとは、君は、鬼畜かね!?」

 「ははっ、否定はしないよ」

 後ろから腰を押さえてやって来たライオネルにそう責められても高揚した気分の中では些末な事にしか感じない……彼方此方から押し寄せてくる群衆を前にしては尚更だった。

 「ほらほら爺さん、死にたくなきゃ死ぬ気で抗わないと」

 「くっ、ふう、はあ……全く、仕様のない、お転婆な事だ――よっ!」

 次から次へと取り囲んでくる集団をハルバードの旋風が薙ぎ倒し、ノコギリの連撃が襲う。

 両側を高い建物で仕切られた谷のような大通り、閑散とした雰囲気の広場、足が怯みそうな高台……暴力は嵐のように狂った群衆を襲っていく。

 幾ら肉に血が通い人の言葉を話した所で、理性を失ったからにはそれは獣なのだ。狩人が獣を狩るのに何の躊躇があろうか。殺す度に快感が疾り、それを求めてまた狩る。狩人の常たる姿であると同時に、それは時として大きな災いを呼ぶものだ――丁度、この様に。

 

 

 

 「grrroooaaaaar!」

 轟音と間違うような雄叫びと共に前方から迫ってくる、襤褸を纏った2m半はありそうな恰幅のよい大男。その巨体から繰り出される突進は東洋の狂祭(ジャガンナート)のように荷車を砕き、馬車を容易く跳ね除け、更には慌てて逃げようとする群衆の一部も踏み潰していく。如何に人間離れした動きの出来る狩人とてその威力は致命傷になる程だ。

 

 「うるせェ木偶の坊!」

 だがこの女は黙っていなかった。

 左手の散弾銃から放たれる水銀の礫が顔面を襲った痛みに大男は仰け反り膝を着く。そこに一寸の休みも与えまいと拳を振り上げ駆けるライオネル。

 「ハアアアアアアッ!!」

 

 

 それは気迫の掛け声か、獣の咆哮か。

 

 

 でっぷりとせり出した無防備な腹を手刀の形に変えた拳が貫く。ぐちゅりと粘性の高い水音を立てて突き刺さる腕、痛みに悲鳴を上げる大男、内臓ごとそれが引き抜かれると同時に噴き出す鮮血、それに濡れる教授は何処か恍惚とした面持ちで肉片と臓物塗れの掌を見つめていた。

 「私にも、何がなんだか分からないが……これは、その、ああ、言葉が見つからないな……!」

 「お手々を真っ赤に汚して、そんなに愉しいかい? ……ようこそ此方(・・)側へ、教授殿」

 道化のようにおどけた口調でそう揶揄ってやると教授は慌てて取り繕おうとしていたがもう遅い、アタシには瞳の奥から僅かに覗くどろりと蕩けた『欲求』が手に取るように判る。それ(・・)が欲しくて欲しくて堪らないといった……それはとても悍ましく、それでいて危険な程に魅力的な表情だった。

 

 

 

     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 「おうおう、コイツは随分と人懐っこい犬コロ共だ」

 「余裕そうな口調だね、メリッサ嬢?」

 「馬鹿、コレは冗談って奴だ……よおっと!」

 更に進んで下街の上部に架かる大きな石造りの橋。そこに立ち塞がる狼に似た三匹の獣に二人は囲まれていた。

 

 一人に一匹ずつ距離を置いて警戒させ、それにかまけて隙を見せると霧に紛れた残りの一匹が襲い掛かる。此方が当て逃げ(Hit&Away)を繰り返す狩人の狩りならば、向こうも獣らしく群れの狩りといった様子でアタシ達を追い詰めてくれる。全く、獣は獣らしく知恵のない戦い方をしてくれた方が楽なんだけどね……!

 

 「爺さん、抜けるよ!」

 「あい分かった!」

 その合図と共に再び飛び掛かってくる一匹の鼻頭に散弾を喰らわせてやると残りの二匹も好機と判断したか素早く飛び掛かる。爺さんはタイミングを合わせた手斧の一撃を見舞い、アタシは放った長銃の反動に身を翻しその勢いに任せて鉈を振るう。

 

 

 毛皮を重い刃が裂き、筋を断つ。

 「ゴアァアアァアアアァッ!」

 「ッ!!」

 しかし、断てたのはごく表層の筋のみだったようだ。アタシの目前に広がる黒い毛皮と蕩けた瞳、そして噎せるような獣臭と血の匂い。喉から込み上げる鉄の味に咳を吐き、そこからボドボドと音を立ててドス黒い液体が迸る。

 

 

 ――ああ、また死ぬのか。

 

 

 石畳に倒れ伏した視界の端で襤褸切れのように食まれる老人の姿を眺めながら、アタシは再び息を止めた。

 

 

 

 

 

 死にゆく彼らの脳の片隅で、逆さ吊りの朧気なルーンが揺めきそれを終わらせる。その身に宿した血の遺志を吐き出しながら、傷も痛みも夢の如く曖昧に薄れさせ、二人の身体を灯りより降り立った時にまで遡らせる。目覚めたときには、全てが悪い夢のように消し去って。

 

 

 

 ――狩人はその意志の限り、この一夜を駆け続ける。

 

 『血の遺志』を奪いながら狩り、獣のもたらす血の『悦び』を求めて嗤い、常ならぬ『智慧』を啓蒙されて狂い、果てに狩りを全うする。永遠に続くそれは呪いか、それとも救いか――それは己自身に問う他ない。

 

 

 

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