オズの相棒とも呼べる少女“アーシア”は欧州のとある地方に生まれ、両親に捨てられた。
理由はなんて事も無い……彼女が生まれた地方は貧困に喘ぎ、その日を食うにも満足に食えない程の貧しい農村だった。
彼女の両親は生きる為に、命を繋ぐ為に泣く泣く『口減らし』として教会の前に彼女を捨てたのだ。
実質の所はアーシアを生かす為に教会の前に捨てたのであろう思われるが、真相は解るまい。
何処の世界にも富み肥える者が居れば貧しく飢える者も等しく存在する。
幼い頃から信仰深く育てられたアーシアにとって、両親のした事を憎む事など出来ない。
そんな神への祈りと感謝を欠かさずに日々を過ごしていた彼女に力が宿ったのは、彼女が八つの頃だ。
偶然に負傷していた子犬を不思議な力で癒した姿をカトリック教会の関係者に見られたのである。
最初は嬉しかった、自分の得た力で多くの人々を救える事が。
自分の意思とは関係なく治癒の力を宿した『聖女』として担ぎ出されたとしてもだ。
元々怪我をした誰かを癒す事は嫌いではなかったし、教会の関係者も良くしてくれた。
―――自分の力が人の為に役立つのがどうしようもなく嬉しかった。
『口減らし』と言う理由、つまり存在に価値が無いから捨てられたという『勘違い』から、人の役に立つ事こそが自分の生きる意味だと感じていたのだから。
だが、少しだけ寂しかったのは否めない。
自分自身には心を許せる友人が一人も居なかった事、誰もが大事にしてくれて優しくしてくれても、彼女の友になろうという者は一人もいない。
その理由も理解は出来ていた―――裏で自分の事を異質な、悪い言い方をすれば『化物』を見るような眼で見て居たと言う事を。
彼女は『人間』としてではなく、一種の『人間の形をした別の生き物』と言う感じで周りから見られていたのだ。
……そして転機は訪れる。
偶然だが彼女は自分の近くに現れた悪魔を、何の疑問もなく癒してしまったのだ。
彼女とすれば傷を負った存在ならば例えそれが悪魔であろうが何であろうが関係ない、見捨てるなどと言う選択肢は最初から無い。
生来の優しさ、そして何の価値も無く捨てられたという勘違いが彼女を駆り立てたのだろう。
(尚、この悪魔が最初の話でオズに呆気無く殺されたディオドラだと言う事は説明するまでも無かろう)
だが、それこそが彼女の人生を反転させる結果となった。
癒しの力とは神の齎せた産物、故に悪魔を癒す事など出来る筈が無いと言う考えが常識として認知されていたからだ。
過去、その様な力が存在しなかった訳ではない。
しかしそんな神の加護を受けない悪魔や堕天使を癒す事の出来る力、それはあまりにも異端過ぎる力故に恐れられていた。
人から闇に傾倒した存在―――『魔女の力』として。
この事が切欠で彼女は呆気無くカトリックから捨てられた。
かつて聖女として崇められていた少女は悪魔が治療出来ると言う、高がそれだけの理由で必要ないモノとして捨てられたのだ。
間違っても神への祈りを一度も忘れた事は無い。
間違っても神への感謝も一度も忘れた事も無い。
なのに彼女は捨てられる羽目となった、あれ程信じた神は救いの手を差し伸べてはくれなかった。
結局、彼女は『聖女』から『魔女』などと蔑まれると共に行き場を無くしてしまったのである。
生きる意味を奪われ、生きる価値すら存在しない。
全てを失った彼女がそう考え、絶望から神に仕える者の禁忌である“自死”を望んだのも仕方ない事なのかもしれない。
そして“魔女”と呼ばれた哀れな少女は失意の果てに辿り着いた美しい眺めの丘から身を投じた。
―――それが聖女と持て囃され、利用された挙句に神から見放された少女の末路である。
だが、彼女は死ねなかった―――
決して常人ならば助かる事のない高さから身を投じた筈なのに、その身には傷一つ無かったのだ。
何故死ねなかった? 自分には死ぬと言う事すら許されないというのか?
更に絶望に打ちひしがれたアーシアは乾いた笑顔を浮かべながら自嘲し続ける。
何時しかその感情が絶望から憎悪へと変わったとしても誰も彼女を責める事は出来まい。
神は祈っても救いを与えてくれる事は無い。
神は感謝の念を忘れずとも助けの手を差し伸べてくれる事は無い。
いや、そもそも神など存在しない―――万物に平等な神が序列をつける事などしないだろう。
そうだ―――そもそも神が存在するのであれば、何故多くの人々は救われない?
何故不平等に人は死んでいく? 何故死ぬべきではない幼き命が無残に散っていく?
祈りが足りない? 信仰心が足りない? その者達は其処で死ぬべき定めだったのだから仕方ない?
違う、それは間違っている―――
無慈悲に命を奪われる事が救済? 神と言う不確かな存在に殉じる事が信仰?
人の人生も、人の未来も、行く末も、それら全ては“人そのもの”が決めるべきものだ。
其処で彼女は漸く理解した、人は神の意志に左右されて生きる存在ではないと。
神を盲信する事は救いではない。
神に祈るだけで現実など変わらない、自らの意志で歩まなければ今は変わらない。
その答えに気付いた時、彼女は人を導こうとする神と言う存在の“歪さ”に気付いたのだ。
―――それと共に彼女は自らの内に存在する“何か”にも気付く。
彼女の脳裏に湧き上がる記憶、何時しか奥底に封じられてしまった本当の記憶。
考えれば当然の事だった、己は神に祝福されるような存在ではない……寧ろ神に弓引く存在だ。
自ら命を断とうと願っても叶う筈が無い―――そういう存在なのだから、と。
絶望と神への脱却を切っ掛けに、アーシアは漸く全てを思い出すに至ったのである。
思い出した記憶を胸に、虐げられる人々を救うという決意を信念とし―――彼女は姿を消した。
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時は現在―――白い修道服を纏ったアーシアは静かに祈りを捧げていた。
目の前には粗末な墓碑、言うなれば無縁仏と言う存在に近いかのような寂れた墓を前に彼女は一体何を祈っているのだろうか?
「―――Our Father in heaven,hallowed be your Name;
your kingdom come;your Will be done on earth as in hearven.
Give us today our daily bread.
Forgive us our sins as we forgive those who sin against us.
Lead us not into temptation;but deliver us from evil.
For the kingdom, the power, and the glory are yours now and forever―――Amen」
(訳:天にまします我らの父よ 願わくは御名(みな)を崇めさせ賜え。
御国(みくに)を来たらせ賜え 御心の天になる如く、地にもなさせ賜え。
我らの日用(にちよう)の糧(かて)を今日も与え賜え。
我らに罪を犯すものを我らが赦(ゆる)す如く、我らの罪をも赦し賜え。
我らを試(こころ)みにあわせず、悪より救いいだし賜え。
国と力と栄えとは、限りなく汝(なんじ)のものなれば也―――アーメン)
『主の祈り』を口遊むアーシア、場所がこんな寂しげな墓地でなければもっと似合っていただろう。
目を瞑り、祈りを捧げる姿は流石にシスターだと言うべきだ……不意に気配を感じ、閉じていた眼を開ける。
彼女の視線の先には明らかにアーシアには不釣り合いな怪しげな人物が立っていた。
いや“立っていた”という比喩は相応しくない。
その存在は祈りを捧げていたアーシアの後ろに浮いていた、その背に純白の翼と天使の輪を浮かべて。
天使―――その存在を言い表すならばそれが一番妥当だろう。
柔和な笑みを浮かべ、まるでアーシアを抱きしめようとするかの如く。
このような暗い墓所に現れた天使の放つ暖かな光は周りを照らし、神の従僕に対して無償の寵愛を表していた。
神に仕える者ならば、このような状況に無上の喜びを感じるだろう。
教会から見捨てられ、忌み蔑まれたアーシアであれば特にその感情は計り知れないものだ。
事実、抱擁をしようと手を広げる美しい天使にアーシアは微笑みながら歩み寄っていく。
そして――――――
「残念ですけど私、抱きしめて貰いたい人は一人しか居ませんから」
その天使の脳天を、手に携えた拳銃でぶち抜いた。
行き成りの事に血を吹き出しながら大地に叩き付けられる天使―――だがその姿は、今迄のような柔和な笑みを浮かべた存在ではない。
何と表現すれば良いのだろうか?
その姿は人ではなく、寧ろ言い表す言葉があるならば“バケモノ”であろう。
柔和な表情に見えたソレは罅割れた仮面であり、その下から現れた素顔は人ですらない。
獰猛な牙を生やした、まるで獣と猛禽種の合成したかのような不快な存在であった。
『――――――――ッ!!!!』
響く声にならぬ声。
天を見上げれば其処には大量の天使のような姿の怪物が現れていた。
手に武器を携え、獰猛な獣かの如きうなり声をあげてアーシアを見下ろしている。
そんな化物達を一瞥し、アーシアは大きく溜息を吐く。
「……随分と団体様のお着きですね。
まあそうでしょうね、貴方達からすれば私の存在は目障りでしかないでしょうし。
しかし随分と今の天界を率いる大天使様方は節穴なのですね、自分達の勢力に貴方達のような怪物が居る事に気付いていないなんて―――それとも、主の死を認めたくないんでしょうか?」
その姿はオズの如く、唯淡々と呟くアーシア。
彼女は既に知っている―――この世界に神が存在しない事を。
かつて出会い、自らのパートナーであり愛している青年からこの世界の歪みの正体を聞かされた。
己自身の血筋が天界に巣食う者達にとって目障りな存在である事も。
血筋は既に己を残して絶えている。
正確に言えば己の“本当の母”は生きているらしいが、何処にいるか解らない。
しかしそれでも別に良い―――本当の母の想いを知り、義理の両親の想いを理解出来た今となっては。
この力は“諸刃の刃”だ―――
今はまだ大丈夫だとしても何時か『代償』を払う時が来るだろう。
だがそれでも、己の持ち得た力が虐げられる者達を少しでも減らす手助けになるならば。
主よ、我らが父祖よ……存在しない事は既に理解しています。
居わしたとしても穢れたこの身が捧げる祈りなど決して届きはしないでしょう、それでも祈ります。
今を切に生きる人々に安寧を、救われなかった命に救済を―――
昔の癖で主への祈りをするアーシア、静かに十字を切るとその両手に携えた拳銃を天使紛いの怪物達に向ける。
しかしよく見てみればその両手の拳銃はあちらこちらがボロボロでとても使えるような代物ではない。
まあ当然だろう―――彼女が使っている拳銃は所詮『既製品』に過ぎず、彼女自身の力に耐え切れないのだから。
少々困った表情のアーシアが拳銃を投げ捨ててどうしようかと考えを巡らせていると、彼女の近くに大きなアタッシュケースが投げ込まれた。
『―――どうやら間に合ったようだな。
そいつはお前のママからのプレゼントだお嬢ちゃん、少しばかり骨董品だがモノの良さは保証するぜ。
お前用に改造して調整・整備もバッチリだ、大事に使いな―――』
響いた声にキョトンとするアーシア、だが直ぐにアタッシュケースを開く。
中には四丁の六連銃口が特徴的な大型の拳銃―――それぞれに騎士の絵柄の装飾が施されている。
ケースに刻まれた名は“Four Horsemen”、それがこの四丁拳銃の名だろう。
手に取って感じる……まるで遥か昔から自らの相棒であったかのように。
使った事も無いのに使い方が解る……心に込み上げる暖かい何か、それがまだ見ぬ本当の母からの愛情だと気付かない訳がない。
込み上げる思いを押し殺し、四丁拳銃を携えた少女は不敵に笑う。
「―――ありがとう、ママ。
私、戦うよ―――大好きな人と一緒に、自分の想いを貫く為に。
何処にいるか解らないけど、私の事を見守っていてね」
拳銃を構えたアーシアに天使の姿をした怪物達が武器を手に迫る。
恐怖など無い―――天界に潜む者達に刻み付けてやろう、古き血筋は絶えていない事を。
人々に偽りの信仰を刻み、逆らう者達を滅しようとする『虚構の天使達』に思い出させてやろう―――『アンブラの魔女』と呼ばれた、天使を狩る者(エンジェルハンター)の生き様を。
閑散とした墓所に響く銃声―――
黙示録の四騎士の名を冠した拳銃を手に少女は華麗に舞う。
やがて銃声が鳴り止み、静寂を取り戻した墓所に存在するモノは何もない。
唯その場所に風化していく大量の光輝く羽根が落ちていた事が、先程までの状況が幻想ではなかった事を如実に表していると言う事だろう。
少女の名はアーシア・アルジェント。
かつて『聖女』と持て囃されながらも教会から裏切られ、忌み蔑まれた『魔女』。
絶望と憎悪の果てに虚構の信仰から脱却し、力無き人々を守る為に其の手に銃を取った。
その身に宿るのは魔界の淑女“マダム・バタフライ”の愛娘。
ヨーロッパの辺境ヴィグリッドに存在した滅びた一族、月と魔界の力を操る『アンブラの魔女』の当代にして唯一の血統。
偽りの天使達よ、泣き叫び許しを請うが良い。
彼女は『天使を狩る者』―――偽りの楽園を破壊せし者なり。
キャラ解説 アーシア・アルジェント
当代最強にして最凶たる『アンブラの魔女』と『ルーメンの賢者』の血を受け継ぐ唯一の血統(正確に言うと唯一ではないが、先代が行方不明の為)
大魔獣を操る、時の流れを操るなどと言った『魔導術』と四肢に携えた武器や銃器を操る『バレットアーツ』と呼ばれる格闘術を駆使して戦う
元は欧州の貧しい片田舎に住む夫婦に拾われ育てられたが、訪れた飢饉によりその日を生きる事すらままならぬ状態へと陥った事で義親により泣く泣くカトリック系の教会の前に捨てられたという過去を持つ(その後に義親は飢餓を起因とする病により死亡、生まれた村も飢餓と流行り病により村人が全滅し廃村となる)
自らに流れる『ルーメンの賢者』の血を起因とし物心ついた頃から軽い治癒術を使う事が可能であった為にその力より『聖女』などと呼ばれていたが悪魔(ディアドラ)を癒してしまった事により状況が一変、彼女は『魔女』という烙印を押されて教会を追放される(尚、これはディアドラの目的の為の行動だったのだが、彼はそれを成す前に悪魔狩人に殺されているが)
追放された後に紆余曲折し、神への盲信と脱却により自らに眠る『アンブラの魔女』の血と力に目覚める
更にその後に悪魔狩人との出会いを経、共に戦うようになり現在へと至る(実際に魔女の血筋だったのは皮肉と言えば皮肉な話だが)
実は歴代の『アンブラの魔女』とは違い、術式の教育を受けたり契約の儀式を行った訳ではない為に魔女としては半人前に過ぎない(基礎は神への盲信を捨てオズと共に戦場を渡り歩くようになった後にロダンから叩き込まれたのだが)
その為に本来ならば魔女の力の源とも言える“契約のブローチ(※)”を持っておらず、歴代の『アンブラの魔女』に比べて魔術の素養は低い(とは言え自ら古文書などを調べて独学で一部の魔術を体得してはいる)
※)アンブラの魔女が契約の儀式を終え、大魔獣と契約する際に渡される代物
アンブラの魔女の力の源のようなものであり更に戦い抜く為に必要なもので、言ってしまえば魔女にとっての心臓そのもの
これがなんらかの理由で破損・破壊された場合、ほぼ魔女は死亡する(というか魔界に引き釣り込まれる)
上記の理由により実は大魔獣との契約はされていない
つまりは魔術と格闘術を使えるだけの“只の人間”なのだが彼女の身には歴代魔女達を優に超える膨大な魔力・更にとある大魔獣が宿っており、それが彼女の不死性へと繋がっている
武器解説 “Four Horsemen”
“War”“Fury”“Strife”“Death”の四丁から構成される大型拳銃
砲身が六連装になっており大型の片手銃でありながらM134(小型ガトリングガン)のような驚異の連射速度を誇る
その分、攻撃力は歴代の『アンブラの魔女』の血統が使っていた物に比べると極めて低いものとなってしまってはいるが、発射弾数の多さでカバーされている
また魔力をチャージする事で銃身が展開、チャージした魔力量に応じて“バジリオンズ”と呼ばれる光線銃のような攻撃法も可能
更に極めて頑強な作りとなっている為に『アンブラの魔女』達の駆使する“バレットアーツ”に最も適した銃器と言える
元々はある『アンブラの魔女』が使っていた得物を依頼を受けて魔界のガンスミス・ロダンが改造と調整を施した一品
改造の際に砲身の追加、更にバジリオンズと呼ばれる光線銃の部品も組み込んだ為に歴代の銃に比べるとかなり大型になっている
ただし重さは大型の見た目からは想像出来ない程に軽く、一丁一丁がハンドガン程度の重量しかない
この銃には“魔界の淑女マダム・バタフライ”の愛娘(血の繋がりがあるかは不明だが)である“魔界の蝶姫レディ・パピヨン”が宿っており、その力を行使する事が可能
本来、大魔獣は契約の儀式を行い契約する事で使役が可能となるのだが彼女はアーシアと契約をしている訳ではない
しかしながらアーシアと彼女との連携は歴代のアンブラの魔女に匹敵(若しくは凌駕)する程に絆が深い
名前の由来はアメリカのヘヴィメタルバンド“メタリカ”のファーストアルバム『Kill Em All』の楽曲『The Four Horsemen』より
黙示録の四騎士という意味で世界の終末に現れるとされる存在、其々が支配・戦争・飢餓・死(又は疫病)を司る
大魔獣紹介:レディ・パピヨン
魔界の淑女マダム・バタフライの愛娘と称される存在
蝶の翅を生やした幼い少女の様な外見をしており、大魔獣としては珍しくそこまで好戦的という訳ではない
だが“魔界の蝶姫”などと二つ名を付けられている事から想像に容易いが、その本質はマダム・バタフライに引かず劣らぬ程の残忍さを持つ
しかもマダム・バタフライとは違い幼さから来る残酷さも併せ持っており、まるで玩具で遊ぶかの如く敵を惨殺する事から魔界で一目おかれている
上記したが本来は契約をしなければ大魔獣の力を行使する事は不可能なのだが、彼女を含む大魔獣達は己の意志でアーシアに協力している
その理由は不明だが、歴代のアンブラの魔女の中にも大魔獣と契約以上の高い絆の結び付きがあった者達も居り、アーシア自身の何らかの事情も相まって協力をしているのではないかと思われる