“魔星”と“悪魔払い”を継ぐ者   作:ZERO(ゼロ)

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mission:03“Demon Summoner”

―――フェニックス、と言う存在を知っているだろうか?

恐らく知らぬものは少ないだろう……神話や小説、はたまたゲームにまで登場する超が付く程に有名な存在だ。

 

曰く、不死と転生に再生を司る幻獣。

この世界においてもその認識はそのままに、七十二柱と呼ばれる冥界の上級貴族の中にその名を冠する一族が居た。

 

不死と再生を司ると言う事がこの世界においてどれ程に強力なものかなど説明する必要はあるまい。

その力を以ってフェニックス家は冥界で名を轟かせ、魔族の中でも有数の名門貴族となっていった。

 

 

しかしながらそんな中で蔑まれる人物が居る事を知る者は少ない―――

名門フェニックス家に生まれ、他者が羨む様な不死に等しい力を持ちながら、自らその力を捨てた者が居た。

ある禁術を自らに施したその人物は明らかにフェニックスに劣る不死性のみを残し、それ以外の全ての力を悉く失ってしまったのだ。

 

元々、親族に対する情に熱いフェニックスの一族。

だがまさか誰もが羨む力を自ら捨てるような愚者が出て来るとは思わず、その人物の所業を恥じて蔑んだ。

そもそもその人物が何故、禁術を行使してまで力を捨てたのかなどと言う事は当事者にしか分かるまい。

まあ、彼を卑下し忌み嫌った者達が力を失った理由など言うものに固執する訳がない。

彼を擁護したのは父と母、兄妹だけであった。

 

……噂とは誰もを残酷に追い込む。

蓋をしようとしても人の口には蓋など出来ず、正にそれは流行り病の如く人々に伝染する。

誉れ高きフェニックス家から愚か者が出た、自ら力を欲したが失敗して力を失った、元より軽薄な若造だった、力に溺れて道を踏み外した―――どれ程の誹謗中傷が囁かれた事か。

 

―――フェニックスの面汚し。

 

―――誇り高き血統に泥を塗った下種。

 

―――身の程を知らぬ下劣な畜生。

 

人は本来持ち得ているものを持たぬ者や本来存在する筈のものが無い者を忌避する。

それは勿論悪魔にとっても同じ事―――いや、寧ろそう言った『差別』は悪魔の方が何倍も強いだろう。

取り分けフェニックス家は他よりも強大な力を持っていた事から“嫉妬”と言う感情をぶつけられても間違いではないし、家族以外の親族からすれば目障りな存在である事は間違いない。

だからこそ“必然的”に誹謗中傷は彼を庇う家族にも向けられ、彼自身はフェニックスの親族から命を狙われる結果となってしまった。

 

やがて―――フェニックス家から彼の姿は消えた。

噂の元が消えれば寂しいものだが、事態とは落ち着いてきてしまうものである。

『人の噂も七十五日』などと言う諺もあるように、時の流れによりフェニックス一族の騒動は沈静化したのだ。

 

彼が何処に消えたのかを冥界の者達は誰も知らない。

噂では自ら命を絶ったとも、フェニックス家の親族が処刑したとも言われている。

だが少なくとも“彼”と言う存在が何らかの理由を以て自らの力を捨て、それが切っ掛けで姿を消すに至ったと言う事だけは変えられぬ事実だろう。

 

 

真相は一体どうだったのか、それを知る者は本人だけだ。

いや、違う……正確に言えば真相は彼と、彼を護ろうとした家族だけが知っている。

姿を消して長き年月が経った今尚、彼の家族は息子が息災である事を願っていた―――

 

彼の父も母も、兄達も妹も、決して身の保身の為に庇おうとした訳ではない。

その根底にあるのは何よりも純粋な想い、唯真っ直ぐに彼が貫こうとしたたった一つの想いがあった。

軽薄と呼ばれ、快楽的に惰性的に生きていた青年が得た想い―――それは“真摯な愛”。

 

惰性的に、刹那の快楽に生きていた不死鳥の青年はある一人の少女に恋をした。

最初の切っ掛けなど些細なものだ……フェニックス家と懇意にし、許嫁として勝手に決められていた人物を見舞う為に人間界に姿を現した際に出会ったのがその少女だった。

許嫁の統治し始めた場所が今一分からなかった彼が偶々見つけた少女に俺様口調で案内させようとした際にキレられ、頬に思いっきり張り手をくれられたのである。

 

女など所詮は『快楽の道具』などと考えていた。

其の筈なのに、事もあろうかフェニックス家の跡取りとも言える己の頬を張るなど到底理解出来る筈もあるまい。

男にとっての所有物程度にしか考えていなかった存在が己に楯突くなどと言う事がプライドの高い青年には看過出来なかった。

 

気に入らない、女など全て自分に靡くものなのに。

地位も、力も、富もある、凡そ女共が惚れる要素は全て持っている―――そんな自惚れが彼にはあった。

今迄だってそうだった、少々愛の言葉を囁いてやれば女の方から尻を振って近付いてくる……それなのに、何故この女は靡かない?

 

凡ては己の思い通りだった、最初は頑なな態度をとってようが所詮は女だ。

其処から青年は色々な画策を繰り返し、自らに無礼な態度をとった少女を堕とそうとするが……全てが悉く裏目に出るという結末を迎える。

 

―――思えばそれは“一目惚れ”と言う奴だったのかもしれない。

刹那的に、快楽の身を求め、唯惰性に生きていた不死鳥の青年が一人の女に心血を注ぐ。

しかも相手は『人間』―――本来ならば悪魔の足元にも及ばない矮小な存在の筈だ。

 

だがそんな事はどうでも良かった―――

最悪な出会い、最低な思惑から始まった不死鳥の青年の想いは時を重ねるにつれて変わっていく。

 

彼は与えられるだけで、自ら欲した事は無かった。

当然だろう、冥界において純粋な悪魔の血筋は希少だ……何でも与えられたし、初めから何でもあるのだから自ら何かを欲する事も無い。

望めば何でも得られるのを喜ぶのは幼い稚児の頃のみ、年を重ねていくにつれそんな人生は退屈になっていく。

愛も、富も、何もかもが苦労せず得られる現実などは所詮、無間地獄と変わらない。

故に彼は刹那的に、快楽的に生きていただけだった。

 

しかし―――欲しても得られぬ存在との出会いが彼を変えた。

口が悪く、偉そうに、俺様主義の言動はあまり変わらなかったが、少女に己を見て欲しいと願うようになった。

 

他愛のない事で少女が笑ってくれるのが嬉しかった。

少女と共に町を散策する事がどうしようもなく楽しかった。

本来は空気の汚さから嫌っていた人間界でさえ、少女に会う為であれば全く気にならなかった。

やがて不器用ながら紡いだ愛の告白は少女の心に届き―――不死鳥の青年の『本気の想い』は成就したのだ。

 

唯毎日が楽しかった―――

意を決し、己の正体(悪魔だと言う事)を告白した時も少女は気にせずに受け入れてくれた。

本来ならば血筋だの純血だのと言う事に拘る筈の彼の両親も、兄達も、そして妹も少女の事を温かく受け入れてくれた……惰性に生きていた青年を変えてくれたのが少女だったと理解していた故だろう。

まあ相手が人間である故に冥界に連れてくる訳にもいかず、少女にも生活がある故に『通い妻』ならぬ『通い夫』の状態になっていたが。

 

少女のお陰で変わった不死鳥の青年。

その変化は思いもしない人物と友誼を結ぶ事となり、人間界ではその友人と共に仕事をする事もあった。

愛する者と共に生き、心許せる友人と共に笑っていられる事―――それこそが青年にとって掛け替えの無いものとなる。

 

やがて長き歳月を経て、かつての少女は大人の女性へと成長し、年を重ねていく。

悪魔である青年は長き時を経た所で年を取る事は無い―――若き夫婦のような様相だった二人は親子の様に、祖母と孫のような姿へと変わっていった。

 

冥界には『転生悪魔』と言う存在がある。

ある種の方法を使えば人間であれ、別の種族であれ、悪魔に転生させる事が可能な技法だ。

それを行えば永遠に一緒に居られる―――そんな青年の提案を老婆となり、人生に終わりを迎えつつあるかつての少女は辞退した。

 

 

人間の人生は有限だから、天に召される最後まで輝いていられる。

ずっと一緒に居たいという想いはあるけど、人間に生まれたんだから最後まで人間の誇りを抱いて全うしたい。

 

ありがとう―――貴方に会えて、幸せだった。

私は先に逝くけれど、私の想いはずっと貴方と一緒に居るから……だから、泣かないで。

 

笑って私を送って、私も笑って逝くから。

―――だって、思い出の中に居る私が笑顔の方が良いでしょ?

 

 

その日、青年が心から愛した少女は天寿を全うした。

悪魔であった青年に人間として生きた誇りを語り、己の矜持を貫いて―――

 

後に青年は禁術を自らに施し、結果的にフェニックスの力を失う事となる。

果たしてそれは偶然だったのか、それとも必然だったのか―――

 

 

★★★★★

 

 

「父上、母上―――愚かな息子をお許し下さい」

 

小さく呟く青年―――彼の眼に映るのは自らが育ったフェニックス家の宮殿。

 

「大兄上(長男の事)、兄上―――お二人がフェニックス家を益々栄えさせる事を信じています」

 

炎の様に逆立っていた髪は垂れ、伸びてしまった部分を結った姿。

その片手には凭れ掛かるように体を預ける一本の杖―――それが無ければ立っていられないのだろうか?

全身に傷のようなものはないが、明らかにかつての彼に比べれば全身から放たれる魔力が弱い。

 

―――そう、これは代償だ。

彼の使った禁術は彼自身を蝕み、不死鳥の力を失わせた。

一応フェニックスとしての不死性は辛うじて残ってはいるが、それは所詮“死なない”と言うだけの事。

不死鳥の転生の如く、受けた傷を炎で癒す事など出来はしない……だがそれでも彼はその事に対して後悔の念など無かった。

 

「レイヴェル―――不甲斐無い兄を許してくれ、こんな兄でもお前の幸せを願っている」

 

心から尊敬する長男・ルヴァルの元に残してきた手紙で想いは察してくれるだろう。

静かに館に背を向けると、青年は杖をついて歩き出した―――彼は去るのだ、家族を護る為に。

父も母も、兄達も妹も、彼の想いを知り、禁術を使った“本当の理由”を理解しているが故に幾ら蔑まれようとも青年を護ろうとした。

 

だが誹謗中傷は増していく一方だ。

このまま更に増え続ければ、それを大義名分に父や母の親族達が挙って地位も名誉も奪おうと画策するようになるだろう。

だからこれで良い……蔑まれる当の本人が居なくなれば直に騒ぎも収束する、両親や兄妹達には辛い思いをさせる事になるだろう。

痛みは何時か消える、それが自分を護ってくれた家族に出来る数少ない事だから。

 

「オイオイ―――何処に行くんだフェニックス家の面汚しよぉ?」

 

暫く進んだ後に不意に囲まれている事に気付いた青年。

気配から察するに両親の親族であり、分家とも言える『フェネクス』の一族関係者だろう。

狙われている事は理解していたが……恐らく連中からすれば、家族に護られていた際は手出し出来なかった故にチャンスを狙っていたと言う事だろうか?

青年は小さく溜息を吐くと口を開いた―――

 

「やれやれ、叔父上方の手回しの早さには感服するよ。

どうしても私を始末したいと言う事か……まあ純血の上級悪魔の面汚しを殺せば、父や大兄上達の失脚に繋がるとでも思っているのだろう。

だが実に狭量な考えだ、私一人を殺した程度で地位を奪い取れる程にフェニックス家は甘くはない―――その視野の狭さが分家に甘んじる事になった理由だと理解出来ない程愚かではないと思ったのだが」

 

唯静かに、見ようによっては諭すかのように言葉を紡ぐ青年。

しかしそんな彼の言葉など、フェネクスの使い達には届く訳があるまい。

当然だ、何故なら彼らの目の前で静かに語る青年はフェニックスの力を失っているのだから。

分家のフェネクスからすれば目の上の瘤であるフェニックスの嫡男が力を失って惰弱な人間とほぼ同じような状態となっているのだから、積年の恨みを晴らすには充分過ぎる。

弱者を虐げる事で強者としての愉悦に浸れる―――そんな思いもあったのだろう、その手に炎を灯してじりじりと距離を詰め始めていた。

 

だが、彼らは勘違いしている―――

確かに青年はフェニックスとしての力を失った、これは紛れもない事実だ。

しかし彼は一度も“戦えなくなった”等とは言った覚えはない……所詮、器の小さい小悪党程度の分家では理解出来はしないだろうが。

 

青年は迫り寄る分家フェネクスの追っ手を一瞥し、小さく呟く。

何処から現れたのだろうか? 彼の手には一冊の古びた本のようなものが握られていた。

 

「―――来たれ、魔界の爪牙達よ。

汝らが力を以て我が眼前に集いし者達を狩り尽くせ―――」

 

瞬間―――青年の持つ本が開き、辺りに禍々しき光が放たれる。

彼の全身、露わにされた腕や胸元に浮かび上がるタトゥー……やがて光が止み、眩さに目を閉じていたフェネクスの追っ手達が目を見開くと其処には何体もの怪物達が姿を現していた。

 

明らかにそれらが放つ覇気は震えが走る程―――

呆気にとられるフェネクスの追っ手達を尻目に、青年は再び静かに口を開いた。

 

「―――私を殺しに来たのならば、逆に殺される覚悟もあったのだろうな?

まあ良い……お前達、好きに暴れろ……この程度の輩共では至極退屈だろうが、退屈凌ぎ程度にはなる」

 

青年の言葉に、怪物達の目付きが更に獰猛なものへと変わる。

呆気に取られていたフェネクスの追っ手達も構えるが時既に遅し―――背を向けた青年の耳に凄まじい戦闘音と悲鳴が飛び込んで来たのであった。

 

 

その後―――辛うじて生きて帰ったフェネクスの追っ手達はまるで拷問を受けたかのような傷が全身中に刻まれていたという。

フェネクスの当主達がその傷について触れても恐れを浮かべるばかりで何も語る事は無い……唯、まるで取り憑かれたかの如く『フェニックス家』へと関わる事を拒否し続けていたらしい。

そのあまりの恐怖に怯えた追っ手達の姿に恐れをなしたのか、それとも別の理由があったのか、フェネクス一族はフェニックス家への手出しを禁じたそうだ。

 

後に冥界でフェニックス家にて姿を消した青年の簡単な葬儀が行われた―――

 

 

 

 

かつて冥界でも有数な一族、フェニックス家において不死と再生の力を自ら捨てた青年が居た。

禁術を以て力を失った青年を人々は忌避し、愚か者だと蔑み、力を求めて道を踏み外したとまで噂した。

 

しかし―――真相は違う。

青年は一人の人間の少女を心の底から愛し、彼女が天寿を全うした後に自らに禁術を施した。

その禁術の正体は『肉体と魂の融合』―――唯愛した少女と共にずっと生きようと願った青年は、自らに少女の亡骸を融合させたのだ。

行為がどんな結果を生むかも理解した上で、全てを受け入れて―――

 

悪魔の身体に亡骸とは言えども人間を融合した事で、彼は悪魔の力の殆どを失った。

だが、幸か不幸か青年の愛した少女は発現しなかっただけだったのだが『神器(セイクリッドギア)』と呼ばれる力をその身に宿していたのだ。

―――しかも『神滅具(ロンギヌス)』と呼ばれる、扱い方によっては原初の神々や魔王すらも殺せる極めて剣呑な力を。

 

悪魔は本来ならば神器を所有する事は出来ない。

しかし彼の場合、悪魔でありながら人間と融合した事で本来の力と引き換えに神器を行使出来るようになったのだ―――これもまた、真摯な愛と言うものが生み出したイレギュラーと言う事だろう。

青年は新たな力を手に人間界へと向かう、かつて友誼を結んだ人物と共に戦う為に―――

 

 

青年の名はライザー・フェニックス。

誇り高き再生と不死と転生を司るフェニックス家の三男。

己は既に家名も名も捨て、持って生まれた力すらも自ら捨てて生きる事を願った。

 

彼は唯、今は亡き大切な女性の為に歩み続ける。

彼女が愛した刹那に生きる人間と言う存在の行く末を、人間と言う存在の矜持を。

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