“魔星”と“悪魔払い”を継ぐ者   作:ZERO(ゼロ)

6 / 6
mission:05“belief”

―――彼の事を意識するようになったのは果たして何時からだったろう。

駒王学園生徒会長であり、同じくして古き血筋の悪魔であるソーナ・シトリーはそんな事を考える。

目を向けるのは自分と後輩であり生徒会執行委員である匙元士郎しかいなくなった学園の屋上―――ほんの少し前まではこの場所に何かと彼女が気に掛ける一人の青年が居た。

 

オズワルド・ペンドール・ベオウルフ―――

一見すれば授業をサボり屋上で居眠りして時間を過ごすだけの不良の問題児。

彼に初めて会った時、失礼ながらソーナも同じような印象を抱いた事は決して否めない。

まあ、由緒正しき駒王学園にて生徒会長を務める堅物な彼女からすれば清く正しい学園生活を送る事なく惰眠を貪っているだけの人物を見れば当然の反応だろう。

……しかもそれが己と同じクラスの生徒だとすれば尚の事だ。

 

そんな彼を世話を焼くようになった理由―――最初は生徒会長という立場からだったろう。

自分のクラスから授業や行事をサボり、留年コースまっしぐらな生徒を出すなど言語道断という思いがあった。

周りの生徒会役員(全員転生悪魔)から多くの反対意見が出たが、ソーナは自らの義務としてオズを更生させようと躍起になっていたのだ。

 

だが―――蓋を開けてみればオズは口だけは荒っぽいが、決して素行不良の問題児ではなかった。

授業をボイコットして昼寝しているだけの筈なのに、課題をやらせれば一問たりとも間違う事は無い。

目の前に困ってる相手がいれば何だかんだと悪態を吐きながらも手を差し伸べる、喧嘩を(匙に)売られても手を出す事も無く適当にあしらう……それは決して不良の素行ではなかった。

 

何度も何度も接していく内に最初は義務感しか持っていなかったソーナも次第に考えを改めていく。

そしてそんな中でソーナは気付く―――どういう理由かは不明だがオズは自ら他人との関わりを少なくしているのだと言う事に。

勿論訪ねて聞いた事がある訳ではないし、彼女の抱いた印象程度に過ぎなかったが、彼の時より見せる眼差しがソーナに今迄抱いた事のない感情を少しづつ芽生えさせていったのだ。

 

―――それはまるで年老いた老人の如く。

喪失感、空虚感、虚無感―――凡そ未来に夢を持つ学生が見せるような眼ではなかった。

しかしそんな眼差しがソーナの心に深く刻み込まれた事は事実である。

 

上級悪魔とは自ら眷属を得、それらを本当の家族の様に思い生きていく。

庇護欲、母性、慈愛などと言う感情が生まれる事は人間でも悪魔でも決して変わらない。

そんな感情がやがて日々の触れ合いによって少しずつ変わっていったとしても強ち間違いではないだろう。

 

彼女の幼馴染であり、駒王学園の実質の支配者にして町の統治者にも相談した事がある。

彼女はそんなソーナに『ならば自分の眷属にすれば良い』とアドバイスをくれた―――人間の一生とは短いものだから後で後悔しない様にと。

だが、どうしてもソーナにはオズを自らの眷属へという思いにはなれなかったのだ……ソーナは人の一生を尊いものと考えていた故に。

 

短い一生だからこそ人は輝いて生きる。

確かに自分の身勝手で眷属を増やした事もあったが、彼女は有限な命だからこそ輝くと思っていた。

それ故に彼女は迷う―――信念と想い、二つの相反する事柄を。

 

彼女が芽生えさせた感情は愛情、若しくは淡い恋心なのだろう。

しかし彼女は恐らくそれに気付いていないし、気付いたとしてもオズに対してそれを伝える事は無い―――持ち前の責任感の強さと人の一生を尊ぶ彼女は、自らの勝手な都合を他人に押し付ける事は無いのだから。

 

 

★★★★★

 

 

何故、そんな事が脳裏に浮かぶのだろうか?

いや―――その理由は彼女自身が誰よりも良く理解出来ていた。

 

「何なの、何なのよ……コイツは!? 明らかに伝えられてる情報と違い過ぎるわよ!!」

 

自らの親友であり、幼馴染であり、そしてお互い切磋琢磨するライバルが驚愕の声を上げる。

赤髪の殲滅姫―――冥界おいて一二を争う才能と実力を持つが故に呼ばれた通り名は決して飾りではない。

だからこそ彼女は現世に統治する場所を持つ事を認められ、今迄何事も無く今日を迎えて来た。

その間に統治する領土に侵入してきた『はぐれ悪魔』と呼ばれる力を得、主を殺して眷属で無くなった転生悪魔達を何度も狩って来たのだ。

 

今回も所詮は力を得たと粋がるはぐれ悪魔の一匹をいつも通り始末するだけだと、そう思っていた。

いつも通り自らと自分の信頼する眷属達で相手に実力の差を見せつけて消滅させる筈だった―――だがそんな彼女の思惑は脆くも崩れ去ったのだ。

 

周りを見渡せば自らが信頼する眷属達が傷だらけで地に伏している。

息も絶え絶えで、その状況だけで彼女が今まで満ちていた自信は跡形もなく砕かれた。

目の前に存在する異形の怪物、はぐれ悪魔・バイサーは全身中に殆ど傷一つない。

 

何も通用しなかった、それこそ笑える程に。

魔剣を創造する事が出来る青年の目にも止まらぬ速度による斬撃も、大木すら一撃で圧し折る膂力を持った少女の一撃も、赤髪の少女の次に強く彼女が最も信頼する人物の雷撃も―――そして赤髪の少女自身が行使する、全てを消し去る破滅の力を纏わせた魔力すらもだ。

 

有り得ない、赤髪の少女がそう叫ぶ。

そう、本来ならば在り得る訳がないのだ―――破滅の力を纏った魔力は文字通り全てを消し去る。

彼女の兄であり、冥界の王たる“魔王”である男の魔力に比べれば微々たるものであろうが、それでも相手に傷一つ付けられぬ程に脆弱なものではない。

 

「リアス、呆けてる暇はありません!! 兎に角このはぐれ悪魔を何とかしないと!!」

「わ、わかってる、分かってるわよソーナ!! でも有り得ないの!! バイサーは其処等辺の魔獣に毛の生えた程度の実力のはぐれ悪魔の筈よ!? それなのに……アレは一体、何なのよ!!?」

「そんな問答を唱えてる場合ですか!? このままじゃ私達全員皆殺しですよ!?」

 

勿論、落ち着いてるようだがソーナにとってもこの現実は到底信じられるものではない。

最初に親友にしてライバルである駒王学園の統治者、リアス・グレモリーから救援の連絡が来た時は耳を疑った。

何故なら件(くだん)のはぐれ悪魔バイサーは転生悪魔としては中の下程度の力しか持たない、彼女達からすれば“雑魚”に過ぎない存在だと情報を聞かされていたのだが。

―――だがいざ現場に到着すればリアスの眷属達は命はあれどほぼ全滅、当のリアスすら魔力の消費が多く限界が近いという惨状。

雑魚クラスの転生悪魔が冥界でも指折りの人物を追い込んでいる事、それ自体が異常な光景なのだ。

この時こそ、自分の眷属を連れて来なかったソーナは後悔していた。

 

しかし、そんな事を考えてる暇など無い―――

圧倒的な威圧感を放ち、周囲を破壊しながら暴れ回るこの怪物を止めねば駒王町は文字通り滅びるだろう。

この町には無力な人間達がかなりの数いる、彼らを護る事が統治する者や力を持つ者の役目だ。

 

けれど状況は最悪である―――

魔力の切れかかった親友に身動きをとれない彼女の眷属達、大した事は無いと高を括り眷属を連れずに一人で来た己。

更には冥界の王であるリアスの兄を呼ぼうにも今の現状では伝令を出す事すら敵わない、隙を見せてしまえば確実に殺されると容易に理解出来る異形の怪物バイサー。

絶体絶命の状況下、ソーナの下した決断は―――

 

「リアス、こうなっては仕方ありません―――私と貴女が今持てるだけの魔力を全開で放ちますよ!!」

 

曲がりなりにも己もリアスも“現魔王”の血筋を引く者だ。

二人で全力で魔力を解放して撃ち込めば……そんな思惑を理解したリアスも魔力の切れかかった身体に鞭を打ち、必死に歯を食い縛って立ち上がる。

目の前には迫るバイサー、これが通用しなければ確実に“死ぬ”、そんな恐怖心が無かった訳ではない。

しかしそれ以上にリアス自身は自らが信頼し切磋琢磨してきたライバルであるソーナと二人でなら乗り越えられるという強い自信があった。

 

手の平をバイサーに向けて重ねる二人。

周囲に大きな被害が出るかもしれないがそんな事を気にしている場合ではない。

此処こそが、彼女たち二人こそが今の駒王町の最終防衛線だ―――壊れたものは治せるが、奪われた命は決して取り戻せない。

 

ゆっくりと歩くバイサー、魔力の枯渇で今にも倒れそうな二人。

逃げはしない、彼女達には護りたいものがある―――リアスも、ソーナも、この町に住む人々を護ると。

限界まで手の平に溜め込んだ魔力がまるで別の存在かの如く脈動する、自ら達すら恐れを感じる程に練り込まれた魔力の奔流は気を抜けば自分達すら吹き飛ばしそうだ。

 

機は熟した―――目を合わせ頷き合う二人。

必死に地に伏しそうになる身体を奮い立たせ、バイサーに向かって二人は叫ぶ―――

 

「喰らいなさい、はぐれ悪魔バイサー!! これがグレモリーの“滅びの力”と……」

「シトリーの“レヴィアタンの激流の力”です―――っ!!!」

 

放たれた魔力は渦を巻き、周囲の木々を巻き込みながらバイサーを飲み込む。

全てを消失させる巨体な魔力の激流は天へと巨大な光の柱を打ち立て、やがて立ち昇る煙幕へと姿を変えたのだった……。

 

 

★★★★★★

 

 

「……終わっ、た……のよね?」

 

息も絶え絶えに呟くリアス、ソーナも肩で息をしながら目を向ける。

視線の先には胴体に大きな風穴を開けたバイサーが居た、あれだけの魔力を撃ち込んで骸(ムクロ)が形を残しているなど理解しがたい事だが―――

しかし胸に大きな穴が開いている事を目視して途端に気が抜ける……当然だ、例えどんな存在であっても胸に穴が開いて生きていられる者は居ない。

 

「ええ……そうですね、リアス……何とか、なりました、ね……」

 

そう呟きながらソーナは力無く地に膝をつく、リアスもそうだが彼女も限界だ。

足はおろか、全身に力が入らない―――全力で魔力を放った影響が出ているのだから当然だろう。

力の入らない手でソーナは必死にスマホを取り出そうと懐に手を伸ばす、眷属達に連絡を取る為に。

 

「……う、ウソ……でしょ……ッ!?」

 

だが、それは叶わなかった―――親友の驚愕の声と怯えた視線。

絶対に有り得ない、そんな事はある筈が無い、そんな思いとは裏腹にソーナが親友の視線の先に目を向けると其処には―――

 

『グゥゥゥゥ、グアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!』

 

胴体に風穴を開けながら咆哮を上げるバイサーが居たのだ。

更にその鈍重そうな巨躯からは想像出来ない程の速度で地を蹴るとリアスとソーナの前に現れ、ボロボロになった剛腕で二人を弾き飛ばす。

行き成りの事に面食らっていた二人はバイサーの一撃に吹き飛ばされ叩き付けられる、辛うじて急所は護れたが背をしこたま打ち付けられて地に伏した。

 

ソーナの手からは眷属達に連絡を取ろうとしたスマホが落ち、歩いてきたバイサーに踏み潰される。

怪物は目の前のリアスを前足で蹴り飛ばす―――再び叩き付けられるリアス、そのまま意識を失ったのだろう力無く大地に倒れ込む。

しかしそんなリアスに執拗に攻撃を仕掛けようとバイサーは前足を持ち上げた―――

 

「……や、やめ……やめ、なさい……っ!!!」

 

自分に何処にそんな力があっただろうかと思う程にソーナは渾身の力で地を蹴ると必死でリアスを庇う。

振り下ろしてきた一撃からは何とか庇う事が出来たが、意識を失ったリアスを抱きながら魔力のほぼ切れた身で逃げ切る事は叶う訳があるまい。

バイサーは生気を失いながらも獰猛な眼をリアスを抱くソーナにゆっくりと向ける。

 

一歩、ただ一歩と歩みを進めるバイサー。

一瞬が永遠かの如く―――ソーナの眼には残酷に、無慈悲に、そして静かにゆっくりと絶望が迫る。

 

 

死―――人間よりも遥かに長い生を持つ悪魔にとってそれは縁遠い。

取り分け上位の悪魔や純血種の希少な悪魔達は多かれ少なかれ力を持つが故に死とは最も懸け離れている。

だが悪魔も長き命を持つだけで呆気なく死ぬ、それは人間であれ何であれ変わる事は無い。

 

 

死にたくない、生きていたい―――

嫌だ、こんな所で死にたくない、私は自分の夢を叶えていない。

 

 

大地を踏み締める地鳴りが大きくなる。

肌で感じる恐怖、顔を向けるまでも無い―――奴はもう近くに居ると理解出来てしまう。

しかしこの場にソーナを、リアスを救う事の出来る者など居まい。

 

 

「……お願い……もう止めて……」

 

 

口から呟かれる小さな言葉―――

誰が聞いてくれる訳でもないだろう、だがそれでも彼女は―――

 

 

「……誰か……」

 

 

脳裏に浮かぶ不愛想な青年の姿―――

聞こえる筈も無い、出来る筈も無い……何故彼が浮かんだのかも理解は出来ない。

しかし……ソーナは親友を抱いたその手に力を込め、力の限り叫ぶ―――

 

 

「……誰か、助けてぇぇぇぇぇ―――――――――ッ!!!!」

 

 

踏み下ろされるバイサーの前足、リアスを抱きソーナは衝撃に目を閉じる。

周囲に響く轟音―――だが、其れに続く衝撃も激痛もソーナは観世る事は無い。

 

己は死んだのか? ソーナは恐る恐る目を開けた。

そして目に飛び込んで来た光景は、恐らく生涯彼女は忘れる事は無いだろう。

 

 

「―――――――待たせたな、会長」

 

 

大きな背中、響く力強い声、納刀された鞘でバイサーの前足を止める黒衣の青年。

何故此処に居るのか、しかしどこかソーナは“彼”を普通の人間ではないと思っていた。

滲む風景、それが双眼から溢れるものだと気付くのに少しの時を要す。

 

 

「助けを呼ぶ声、確かに聞こえたぜ会長―――良く一人で耐えたな、後は任せろ」

 

 

静かに呟くその人物を流れる涙を拭い見つめるソーナ。

背に背負った大剣、足元まで伸びる長さの黒いコートに片腕を覆うアームガード。

片手に携えた納刀された日本刀―――そして何より、ソーナの脳裏に浮かんだその顔―――

 

唯静かに、悪魔狩り(デビルハンター)・オズがバイサーを見つめていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。