落ち着け、先ずは鋏を下ろそうか。   作:赤茄子 秋

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あらすじを編集しました。



8話 真っ白に…燃え尽きたよ。②

「…まっさん、ケンカでもしたんですか?」

 

山下の前には何故かボロボロの姿の先輩刑事が居た。ここ最近、彼は精神的にも身体的にもボロボロのように見える。

 

顔が死にかけてるように見えるのだ。

 

というか、もう生きる屍を通り越して某ボクサーマンガのように真っ白に燃え尽きている。

 

「いや…階段から転んでな。…大丈夫だ。」

 

須藤雅史は仮面ライダーだ。

 

ライダー同士の戦いに参加したくない、モンスターを狩るだけのライダーだ。

 

モンスターから人を守る為だけに変身する仮面ライダー龍騎と似てはいるが、根本的には違う。

 

城戸真司、仮面ライダー龍騎は人を守る為、他人を守る為にライダーになる。

 

対して須藤雅史、仮面ライダーシザースは自分を守る為に変身する。

力を備える為に、モンスターを狩る。自分をライダーから守る為に戦う。ボルキャンサーの餌の確保の為に戦う。

 

そもそも人を守れるだけの力が無いので仕方ない事でもあるのだが。

 

「はぁ…。」

 

そして他人からでもわかると思うが日に日に、須藤は消耗していた。仙豆や薬草があれば回復する世界でも無い、某マンガの龍玉も無い、人間の傷は治るが、今の須藤にとっては治るのが遅過ぎる。

 

毎日のボルキャンサーの食料確保は常に命懸けだ。

ボルキャンサーにはもっと働いてほしいが、それで倒されてしまったら須藤を待つのは死だけだ。

今は耐えるしかなかったのだ。

 

「えーと…あっ、そうだ!まっさん、今回の行方不明者事件の取材が来てたんですけども、まっさんはどうします?」

 

山下はそんな須藤を気遣うが、本人の表情に変化は無い。変化させるだけのパワーが残ってないのだ。

 

「…やめとくわ。ちょい、疲れぎみでな。(少しでも体を休めないと…ストレスと過労で死んでしまう。)」

 

「…そうですか、わかりました。あまり気を詰めないでくださいね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…死んでしまう。」

 

今日も日課のモンスター狩り、あれから何日もモンスターを倒してはパワーアップしてを繰り返していたのだが…

 

「…シザースピンチが役にたたない。」

 

STRIKE VENT、シザースピンチは仮面ライダーシザースのメインウェポンだ。

なのに、今ではもはやただの飾りである。

 

個人的にはカッコいいと思っていたこの鋏の攻撃力は700から上がらない。原作では1000だったのだが。

 

これは他のライダーのメインウェポンの3分の1程度である。

 

例えるならば周りが真剣やピストルで戦ってる中で、彼だけは檜の棒どころか、うまい棒で戦ってる気分だ。

 

むしろ食べ、れるだけ、うまい棒の方がマシかもしれない。

 

「…」

 

自然と流れそうな涙を須藤はぐっと我慢する。

 

そんな彼のメインウェポンは全ライダーの標準装備、ライドシューターである。もう涙が出てきそうである。

 

「キチキチキチ」

 

そして、またバイクで轢き倒したモンスターに嬉々として貪りつくシザースの契約モンスター、ボルキャンサー。

 

だが、ここで疑問に思うかもしれない。

 

バイクで戦ってるなら、体にダメージは無いのではないか?と。

 

たしかに、普通のモンスターにはバイクの戦術は有効だ。

単体で動くモンスターの最善の攻撃なのは、須藤にとっては間違い無い。

 

まぁ、たまにあるボルキャンサーとの戦闘もモンスターさえ渡せればなんとか満足してくれる。

 

「…まだ欲しいのかよ。」

 

「キチキチキチ」

 

蟹は鋏を振り回しながら、須藤に高速で接近する。

 

それに盾を構えながら後ろに下がる。

 

「満足してくれ…頼むから。」

 

だが、世の中には常に例外が存在する。

その戦いの一部始終をお見せしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…居たな。変身。」

 

須藤はデッキを鏡に掲げ、慣れた手つきで現れたバックルに嵌め込む。

そして、仮面ライダーシザースに変身する。

 

今回のモンスターは一番最初に倒したモンスターであり、鹿のような角を頭を持つモンスターだ。

 

「さて…前みたいにはいかないぞ。」

 

以前はバイクの轢き方をよくわかってなかった須藤。だが、何度もモンスターを倒すうちにあることに気づく。それは「あれ?これ、側面で打てば壊れないな。」と。

 

ライドシューターは前の装甲が薄いので、正面から轢き倒す方法ではバイクが壊れてしまっていた。

正確には、後輪の辺りの装甲が硬いのに気づいたのだ。

なので、今の側面でバットのようにドリフトをして当てるこの方法では何度もモンスターを轢き倒せるのだ。

 

今回もそうしようと、いつも通りにライドシューターを動かそうとした。

 

動かせていた。

 

「…ふぁっ!?」

 

「ッ!ギジャァ!!」

 

タイミングは完璧だった。バイクの技術力が足りないだとか、ライドシューターの地力が足りない等では無かった。

 

モンスターは跳躍し、バイクに飛び乗った。

 

「って、うぉ!!?」

 

そして、バイクに乗ったまま須藤を引きずり出すとそのまま投げ飛ばす。バイクはそのまま壁に衝突してめり込む。この戦いでまた使うのは難しいだろう。

 

勘の良い人は、もうお気づきだろうか。

 

「痛…マジか、バイク避けるのか。」

 

跳躍力と瞬発力のあるモンスターにはこの戦法がまるで通じないのだ。

 

この前はたまたまモンスターが鏡に自分から近づいてきたのでバイクで轢き倒せた。

一言で言えば、運が良かったのだ。

 

「ギジャギシャ…ギジャァァァ!!」

 

「くそ…俺も成長してるんだよ!」

 

『STRIKE VENT』

 

だが、バイクだけが彼の戦法では無い。(メインではあるが。)

右腕にあるバイザーにカードをセットすると、原作でのシザースのメインウェポン『シザースピンチ』を左腕に召喚する。

 

「やっぱり、駄目ですよね!!知ってるよ、くそが!」

 

素のスペックはライダーの戦いに大きな影響を与える。

須藤は何故かわからないが、武道の心得があり、それを扱えていた。

なので上手くモンスター相手に立ち回れている。

 

だが、武道とは常に対人を想定して作られているのが当たり前の事だ。

剣道、柔道、空手、まだまだ挙げればキリがないが。どれも、モンスターを想定して作られてないのが当たり前だ。

また、使い手が人間であるのも当たり前であり、ライダーの身体能力を前提とした武道なんてのは存分しない。

 

「ギジャギシャ」

 

「ガハッ…くそっがぁぁぁぁ!!(こいつは…やっぱり、強い。)」

 

何度も切りつけてもモンスターにダメージがあるようには見えない。

単純に考えれば、他のライダーの一撃≒シザースの三撃なのだから当然であった。

なのでモンスターは余裕綽々であり、周りをジャンプしながら飛び回り蹴りを須藤におみまいする。

 

高速の動きからその高速の動きをこなす足から放たれる強烈なキック。

いくら武道で蹴りの受け流しを心得ていても、完璧に受け流す事は須藤にはできなかった。

こんな人外の動きを想定してない武道は、役にたっていなかった。

 

「は…はは…(上手く動けないな、てか殴り合うのが久しぶりだからな…きっついんですけど。)」

 

そのまま何度も地面に寝そべる須藤に飛んでは蹴り、飛んでは蹴りを繰り返す。

 

 

 

「や…やばい…(速すぎる…不意打ちを避けられただけでボロボロなんですけど。おかしくないか?普通はライダーが普通のモンスターにここまでボコボコにされるのか?されないよな?何で俺は、こんなに弱いんだ!?憑依したんだろ?憑依なんて主人公の特権だろ?主人公補正を少しでもよこせよぉぉぉぉぉぉ!!)」

 

シザースピンチは役にたたない、バイクは壁にめり込み、ライダーとしてのスペックは最低ランク。

バイザーにカードをセットして盾を召喚する余裕も無かった。

 

もう、打てる手が見当たらない。

 

その時だった。

 

「ギジャァァァ!!」

 

モンスターがダメ押しの為にサスマタのような武器を召喚したのは。

 

「…うぉぉぉぉぉ!!!」

 

そこからは、早かった。

 

『GUARD VENT』

 

腕についた鋏を投げつけるとそれはサスマタで弾かれて粉々になる、いつも役立たないこの鋏だが、明確な隙を作る事に成功する。

 

「武器を寄越せぇぇぇぇぇ!」

 

「ギジャッッ!?」

 

そのまま慣れた手つきで盾を使って武器を奪い取る。

 

 

そう…これが仮面ライダーシザースの唯一無二の接近戦闘術だ。敵が武器を出した時に勝負は決まっていたのだ。

 

「逃げんな!!」

 

「ギジャギシャァ!!?」

 

そして早くも戦況が悪そうと感じ、逃げようとするモンスターの足をサスマタで地面に縫い付ける。

突然の事に飛ぼうとした反動でそのまま地面に頭を打つ、意識が朦朧としてるようだ。

 

『FINAL VENT』

 

「ギジャァァァ!!!」

 

そして、空中に現れたボルキャンサーが空中に跳躍した須藤を投げ飛ばす。

必殺の飛鳥文化アタックだ。

 

「…倒せたか。」

 

クリティカルヒット、モンスターは爆散。エネルギーコアは流れるようにボルキャンサーが食らいつく。

 

前回と似た形の勝利…のはずなのだが、須藤にはまるで喜びの感情が現れていない。

 

そして、コアを貪るボルキャンサーを見ながらふと口からこぼれる。

 

「…俺、成長できてるんだよな?」

 

盾を拾うのも忘れた須藤は、そのまま呆然とボルキャンサーがコアを貪るのを眺めていた。




Q.須藤に救いはないのですか?

A.須藤?まぁ、5月頃から狂いますね。

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