落ち着け、先ずは鋏を下ろそうか。   作:赤茄子 秋

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14話 違う、そうじゃない。

「(凄ぇ…)」

 

城戸は感嘆していた。

 

今迄の人生で武器を使って争う事が少なかったのも普通の人は当たり前だ。だが、それでもわかるのだ。どれだけレベルの高い戦いが目の前で繰り広げられているかを。城戸を一方的に倒した秋山が身の丈ほどもある巨大なランスを振りかぶり、それを須藤が盾で全て受け流している。

 

先程は一撃で剣が飛び、二撃目で自分を吹き飛ばしたランスを完璧に受け流しているのだ。

 

一朝一夕でできる物ではない。いったい、どれだけの鍛練をしたのだろうか。城戸には想像もつかない。そして一度として反撃もしていない。

まさか、自分が逃げる時間を稼いでいるのでは?と城戸は考える。

 

その思惑通りに、城戸はこの場から立ち去るタイミングをバイク越しに伺う、そして城戸は気づいた。

 

「(まさか…流れ弾とかから守るため…?)」

 

目の前に止まっているバイクはまるで城戸を守るように停められている。最初にバイクをここに停めたのは戦闘が起こっても負傷した城戸を流れ弾から守る為に、対応できるように、先手を打っていたのだと何故かわかった。

 

だが、それだけではない。

 

「(…須藤さんって、やっぱり凄ぇ。)」

 

このバイクの置かれた隠喩、それは「ここで俺の戦いを見ていろ。」だ。つまりは、ライダーとして新米である城戸への実践のレクチャーである。

 

あの秋山蓮を手玉にとるとは…驚きを隠せない。

 

すると、後ろからモンスターの気配を感じとる。新手か?と振り向くと。

 

「キチキチキチ」

 

城戸は更に気づく。須藤を見守るボルキャンサーの存在にだ。

 

木々の間から見守るその姿は堅牢に見える黄金の鎧を纏っている。ボルキャンサーが参戦すれば、あっさりと勝負はつくように見える。いや、間違いなくつくのだろう。

 

だが、ボルキャンサーは戦いに手を出すようには見えない。見守るだけで、じっと須藤を見つめている。あの目は野獣の目なのだが…それは理性で止めているこの戦いに参加したい心が現れてしまったのだろうと感じとる。

 

主を信じているのだと、城戸は感じとる。なんて忠誠心の高さなのか、とまた彼の中で須藤の立場が1つ上がったのであった。

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

「(こいつ、さっきから盾での防御しかしていない。…あくまでも、戦わないつもりなのか。)」

 

秋山も少しづつ苛立ちを隠せなくなっていた。向こうからの攻撃は無い、だがこちらの攻撃は全て受け流されている。盾の扱いの上手さはドラグレッダーに襲われた時に確認していた。だが、ここまで盾だけで武器も持たない上に戦うつもりも無いのには秋山も限界が来ていた。

 

「何のつもりだ、戦え!」

 

乱暴にランスを振るう秋山。当たれば大ダメージはさけられない。巨大な漆黒のランスを何度も振るう。

 

「甘いよなぁ…」

 

それを溜め息混じりの嘲笑をしながら、また盾で受け流す。

 

「くっ、いい加減にしろ!!」

 

まるで井戸に居る蛙を上から見下ろす人間のように、須藤は秋山を相手していると感じとる。

そんなふざけた事をされて煽り耐性の低い秋山が怒らない訳が無い。

 

一度距離をとり、ランスを地面に突き刺して立てると。腰に装着されているバイザーにカードをセットする。

 

『NASTY VENT』

 

秋山が発動したのは超音波で敵を混乱させるカードだ。空を飛ぶダークウィングの超音波により須藤は地面を転げ回る

 

「何故、効いていない!?」

 

事も無く、一瞬で距離を詰めて来たのだ。

 

これは想定外であった。どんな敵でも間違いなく地面をのたうち回るだけの力を持つこのカードならば、大きな隙ができると考えていたのだから。

 

「くっ!!」

 

そして、反射的に須藤に向けて地面に突き刺していたランスを抜き取り、須藤を貫こうと穿つ。

 

咄嗟の反応によりモーションも大きく、ワンテンポ遅れた攻撃になってしまった。今度も今までのように受け流す

 

「なっ…」

 

だけでは終わらなかった。そのまま盾を器用に使い、そのままランスを上に打ち上げる。

だが、武器を1つ失った程度では秋山も勝負を諦めない。そのまま腰にあるバイザーで首を貫いてやろうと引き抜こうとした時だ。

 

「うっ…」

 

「…」

 

いつの間にか、秋山のランスは須藤の手にあった。しかも、それは今自分の目の前にある。完璧な敗けである。

 

「…(俺は、死ぬのか。)」

 

そして、時間にして5秒も無いのだが…秋山には永遠にも近い時間が流れた。このライダーバトルへの参加は未だに目を覚まさない恋人を救うために参戦した。神崎士郎に勧められたこの戦いで必ず生き残り、恋人を救う。そう決心していたのだが、とても今の状況を覆せる手を思い浮かべられなかった。

 

一歩でも動けば、それだけで自分の寿命が縮むだけだ。

 

走馬灯のように恋人との思い出が頭を流れる。ずっと一人でいた自分に声を掛けてきた時、笑顔を浮かべながら浜辺で夕日を眺めた時、蓮と初めて名前を呼ばれた時。悪くない気持ちだが…彼女を救えないのには悔いが残る。

 

このまま彼女を先に待っても悪くないのかもしれない、だがそれは自分が許さない。秋山は決意をあらたにし、最後まで足掻こうとした時だ。

 

それはガシャンッ!という地面に何かが落ちた音で急に冷静ないつもの秋山蓮に引き戻された。

 

「…どういうつもりだ。」

 

その時が来ると感じた時にはランスは須藤の手には無く、地面にはランスが転がっている。いつでも止めは刺せただろう。だが、頭の中がこんがらがり、秋山はフリーズした。

 

「…」

 

須藤の事を秋山は知らない。どんな思惑があり、どんな考えがあり、どんな理由でライダーになったのか。秋山は知らない。

 

「(俺は弱い…少なくとも、あいつよりも。)」

 

無言で去る須藤の背中を見ながら、秋山は己の弱さを嘆いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

「(俺の求めてた展開と全然違うんだけど!?どこで間違った!?)」

 

須藤は激しく後悔した。原作では神崎優衣が窓ガラスを割ることで何とか冷静になり、秋山は矛を引いた。須藤は最初は直ぐに襲われてミラーワールドの塵となると思っていた。が、よくよく考えれば「原作で神崎優衣がやっていた説得を代わりにやればいいんじゃね?」と途中からは軽いつもりでやって来た。

 

「甘いよなぁ…(少し前の俺を殴りたい。)」

 

結果は戦うことになってしまった。

 

だが、須藤も最悪の事態は想定済みである。しっかりと盾を装着してやって来たので、突進してきた秋山蓮のランスを的確に後ろに受け流せている。

 

「(あ、そういえば1話だと止められなかったら普通に殺ろうとしてたような…どうすればいいんだ!?そこまでかんがえてなかった。)」

 

何度もランスが横に縦に、薙ごうと、貫こうとするが、全てを盾で受け流す。

 

正確には受け流すことでしか渡り合えないのだが。それを秋山が知るわけがない。

 

『NASTY VENT』

 

「うぉぉ…!!なんだこれ!?」

 

そして、ライダーとして戦わせる為に契約モンスターの蝙蝠型モンスターの超音波を須藤に浴びせる。

それは少し離れた場所に居る城戸ですら地面にのたうち回る程の威力を持つ。一定時間は相手の足止めを確実にできるカードなのだ。

 

「貴様、何故効いていない!?」

 

だが、須藤に対して有効打にはなっていなかった。秋山蓮の契約モンスターであるがゆえに、秋山に超音波が効かないのは当たり前だ。

 

では、須藤には何故この超音波攻撃が効かないのか?それは須藤が最悪の事態、仮面ライダーナイトとの戦闘を想定していたからだ。

 

気づいた人も居るかもしれないが、須藤は一度として秋山と会話のキャッチボールをしていない。

 

「(何も聞こえねぇ…)」

 

トイレでペーパーを水で濡らして耳に嵌める、即席の耳栓を作っていたからだ。水は音をよく吸収する、超音波も音だ。原作を知っていたからこそできた対策であった。

 

戦いにおいて対策があるかないかでは勝率は格段に違う。須藤はそのまま突撃する。

予想外の行動をされた秋山は一瞬だけフリーズをするが、ランスで貫こうと穿つ。

 

「(隙ありだぜ、その武器貰った!)」

 

そして、慣れた手つきで盾を器用に扱ってランスを打ち上げる。

秋山はこの攻撃で更に一瞬反応が遅れていた、勝機。

 

「(…勝った。第3部完!)」

 

そして、須藤は秋山の顔の前にランスの先を向けた。間違いなく、須藤の勝ちだ。須藤はこれからの戦いでも相手の武器を奪う戦法が扱える。

 

そう確信した。

 

「(うぉ…!?お…重てぇ…!!)」

 

一瞬でその確信は消えさったのだが。

 

心無しか、片手で構えるランスは小刻みにプルプルと震えてるように見える。顔は見えないが、身体中からは汗が吹き出している。

 

「(待って、おかしい。重い。俺の鋏の何倍も重い!くそ、そりゃそうですよね!あれはハリボテで、こっちはしっかりした武器だもんね!)」

 

須藤は5秒もたたないうちに武器を落とした。ダンベルを持ち上げて空中で静止させる筋トレが思い浮かんだが、今はそんな事を考えている場合ではなかった。

 

「(やば、急いで逃げ…ん?)」

 

このままではじり貧なのは目に見えている。須藤は走り去ろうとした瞬間に気づく。

 

秋山がまったく動かないのだ。何を考えているのかわからないが…これはチャンスである。

 

「(…無言で立ち去ろう。なんか秋山君は放心状態だ。今なら逃げれる。音をなるべくたてないように…ひっそりと…逃げる。)」

 

須藤はそのままなるべく音をたてないように気をつけながら、ミラーワールドを去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

神崎優衣に三人の男がこちらへ向かってきている。

 

「あ、須藤さん!」

 

「あぁ城戸君か。怪我は大丈夫かい?」

 

「須藤さんのお陰で大丈夫っす。」

 

どうやら怪我もなく、無事に戦いを止めてくれたらようだ。

 

「刑事さん、ありがとうございました。」

 

それに気づいた神崎優衣は須藤の元に駆け寄り、そのまま頭を下げた。ここで須藤がダメだった場合は窓ガラスをぶち壊す予定だったので、弁償代を払う必要も無くなった。なお、須藤個人では城戸と秋山の借金の絡みを見たかったので残念である。

 

「いやいや秋山君は強かったから。また戦ったら負けそうだよ。ところで話は変わって提案なんだけどさ。」

 

謙遜にしか聞こえない、神崎優衣にもミラーワールドを認知する力はある。あれほど秋山を一方的に倒したのだ。だが、今はそんな言葉を返す前に彼女は提案が気になっている。

 

「なんですか?」

 

それは城戸も秋山も同じである。そして、須藤は手を差し出しながらこう言った。

 

「これからは協力してモンスターを倒さないか?」

 

モンスターを倒すための協力関係を結ぼうと、須藤は提案したのだ。

 

「それはこちらこそよろしくですよ!ご教授よろしくお願いしまっす!」

 

最初に反応したのは城戸だ。すぐに両手で差し出された手を握り返していた。

 

「…秋山君もどうかな?」

 

その状態のまま秋山の方を見ると

 

「良いだろう。このバカが足を引っ張らない事を除けば、問題無い。」

 

どうやら問題無く協力関係を結べそうである。

 

「あん?なんですか、須藤さんにボコボコにされてなかったかこの野郎?」

 

だが、バカに反応した城戸は秋山にくってかかっていた。

 

「俺にボコボコにされてた奴が何を言っている?」

 

それを事実で返しながら嘲笑う秋山。

 

「んだとぉぉぉぉ!!」

 

これから先に何度も見るであろう記念すべき第一回目の喧嘩が始まった。

 

「(…同士討ちに捲き込まれないように気を付けよう。)」

 

須藤はそんな事を思いながら、仕事に戻った。




Q.須藤さんのボルキャンサーは人を食べますか?

A,須藤さんの頑張りによってモンスターのコアの食事だけで、人間は襲いません。まぁ、毎日1~3匹を献上しなかったら大変な事になりますね。

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