須藤伝説の序章です
15話 須藤vs北岡
5月1日
城戸君達と良い感じにモンスターを狩れてる。メイン盾として活躍できてるよ。やっぱり、火力は大事だな。ポジション的にはチュートリアルとかで主人公を守る仲間だな。一人で狩るよりも圧倒的に楽だ。
5月2日
なんか城戸君に秋山君がカードの作り方を教えてた。え?作れるの?隣でしっかりと聞いて作り方を覚えた。
…さて、作るか。
だが、作るにもどのようなカードにすべきか?自分の能力をあげるバフ系か、相手の能力を下げるデバフ系か。
バフ系のカードには何人も増えるトリックベントや武器をコピーするコピーベントがあるが…俺が増えたところで大した事無いし、コピーしても他のライダーの武器が重くて扱えないとか笑えない。
デバフのカードを作るか。
5月4日
やっとカードを作れたよ。名付けて【BUBBLE VENT】だ。能力は単純、泡だらけの世界を作るカードだ。遊◯王で言う所のフィールド魔法だった。泡だらけの世界ができた。以上。使えねぇ!!
5月5日
ボロボロの北岡さんを見つけた。ここら辺にヤバイのでも居んのかな?注意しておこう。
あと、なんか鋏の暴発が起こったけど、この鋏って遠距離武器なのか…?
5月10日
刑事として仕事をしてる時に…うん。城戸君が捕まった。何を言ってるかわからないかもしれないけども、城戸君は捕まった。
まぁ、原作でもあるシーンだから問題無い。少し励ましといた。
5月15日
あ、手塚さんだ。仲良くなっとこ。
5月17日
芝浦来たか…来ちゃったかぁ…。とりあえず、あいつとは絶対に関わらないようにしよう。
5月19日
この世界には回復アイテムは無いと言ったな。
あれは嘘だ。
5月20日
泣きたい。涙が少し出た。
5月24日
泣きたい。涙がでない。
5月28日
泣きたい。涙が枯れた。
★★★★★
北岡が須藤と出会ったのはこの時が初めてであった。
それは何の変哲もない休日、強いて言えばいつもよりも気分が良かった日だ。だが気分が良いのは特に理由は無い。気分が良かったから彼は車を走らせていたのだ。
「ふっふふーん…中々見当たら無いねぇ。」
鼻歌混じりに車からとある場所に訪れる。それはここ最近になってモンスターの数が激減した駅の周りのエリアだ。
彼はただ車を走らせていたわけではない。北岡も何を隠そう、仮面ライダーなのだ。
だが仮面ライダーでも今回は狩るのはモンスターではない。
手頃なライダーを観察もしくは倒すために彼は車を走らせていた。
体の調子は良く、ゴロちゃんからの最高の手料理で精神的余裕もある。間違い無くベストコンディションであった。
「おぉ…本当にいたね。」
その機を逃す北岡では無かった。最近やけにモンスターが静かなエリアにライダーが出る可能性が高いのを見越し、普段ならしないであろう。わざわざ彼から出向いたのだ。
これは彼の性格からすれば考えづらいのだが、それを無視できるほどに調子が良かったのだ。
そして、ライダーと一度は戦いたかったからなのだが。
「一人か…良い感じに先手をとれそうだね。」
北岡の前には窓ガラス、だがそこには普通の人間には見えない者が見えている。
金色の装甲、右手には巨大な鋏のライダーが何をするでもなく一人でポツンと立っていた。全体的に見ると金属の部屋だ。換気扇のファンが回るこの空間はパイプに囲まれ、障害物に囲われ、本来ならば視界の悪いそこに居る理由はモンスターも見当たらないので、倒した後で少しだけ放心状態なのだと北岡は推測する。
そして、北岡には絶好の好機に見えた。
ただでさえ視界の悪いフィールド、更にそのライダーの周りには無数の泡が浮かぶそのフィールドは視界を自分から潰し、どうぞ奇襲してくださいといってるようにしか見えない。
北岡は仮面ライダーゾルダ、銃器を使い戦うライダーだ。
射線さえ通れば攻撃は可能。だが、目の前のライダーは大きな鋏を持ってることから近接戦型のライダーだと確信する。
「じゃあ…先ずは記念すべき一人目、行ってみようか。」
須藤や城戸達とは違い、彼のデッキは緑色だ。そこには牛の頭蓋骨のようなマークが特徴的であり、事実彼の契約するモンスターも牛と戦車を掛け合わせたようなモンスターである。(マグナギガ AP6000)
「変身!」
鏡にデッキを掲げ、いつものようにライダーに変身する。そこには緑色に銀の仮面と装甲をしたライダーが現れる。
腰には巨大なハンドガンである召喚銃マグナバイザー。
これから行われるであろう圧倒的な力での蹂躙。おそらく戦いにすらならない。そんな事を目の前のライダーのスペックを確認できるならそう確信するだろう。
「夕飯までには帰れるかな?」
だが、まだ北岡は知らない。ここでこのライダーに立ち向かい、どれだけ悲惨な結果になるかを。
★★★★★
「(うーん…どうしよか。)」
須藤一人悩んでいた。それはカードの事だ。
須藤の手には三枚のカード。どれにも何も描かれては居ない。作る前のカードだ。
ためしに作ったカードは泡の世界を作るだけで逃走の際の目眩ましには使えるかもしれないが、モンスターとの戦いではまるで役にたたない。
須藤は弱い。どうしようもなく弱い。須藤の体は高スペックだ。だがライダーのスペックは間違い無くドベである。
勝ち残るには知恵を絞らなければならない。なので紙屑を作らないように、須藤は1枚も無駄にしないように、ミラーワールドで考え込む。既に一枚をゴミにしたのだ、1人で没頭するにはミラーワールドは最適の場所だ。
それに、場所は誰も来ないであろう閉鎖空間。そんな場所だが、既に狩りのノルマをこなした須藤の頭はエネルギーが足りないのか妙案はでないでいた。
「…なんだ?」
そんな中、突然須藤は思考を止める。誰も近づかないであろう、この空間に、何かが居るのに気づいたのだ。
「はぁ…またか。(うわぁ…モンスターだよ。最悪だわ。)」
そして須藤は大きな溜め息を吐く。今日は既に2匹のモンスターを狩り、疲れも残っている状況で、自分がモンスターに襲われそうになっている、と経験から考えたからだ。
通常なら周りに餌がたくさんあるので須藤を狙うメリットは少ない。が、須藤は脳を酷使してたからか、その考えには至らなかった。
★★★★★
「はぁ…はぁ…はぁ…」
━━━━━どういう事なんだ!?
泡の溢れる世界で、北岡は絶望していた。既に身体中は傷だらけ、今もどこから攻撃が飛んで来るかもわからない。
━━━━━なんなんだ、なんなんだ!?
時は数刻遡る。
北岡は1人で黄金のライダーを狩るために、こっそりと影から狙っていた。マグナバイザーを構え、確実に先制攻撃を仕掛けるために。
北岡の頭の中では既にプランはできている。
①マグナバイザーによる狙撃で相手を撃つ。
②撃った直後に直ぐに隠れ、狙撃ポイントを変えて撹乱。
③この①②を相手が弱るまで繰り返す。
④弱った所をファイナルベントで吹き飛ばす。
北岡は慎重な男だ。確実に倒すため、確実にこのライダーの息の根を止めるため、回避や防御も出来ないほどに痛め付けてから仕留める。
「(あんな鋏ぶら下げて、近接型って分かりやす過ぎ。)」
北岡のプランは確実性を考えれば完璧だった。
「…っ!?」
相手が近接型のライダーと仮定をしていればだが。
北岡は突然の右肩の痛みに即座に狙撃されたであろう場所に向けて障害物に身を隠しながら構える。
「…どういう事だ。」
そして構えながら思い出す。
ここは閉鎖空間だ。それこそ北岡を狙撃するポイントなんて物はない。外へ直接繋がる出入口も位置的に狙撃は不可能だ。
黄金のライダーは何故か部屋の中心に棒立ちなので、北岡が狙撃はできるが逆は不可能だろう。
となると、何が北岡を襲ったのか。
「(それに、なんだこの違和感。何か気づいてない事があるのか…?)」
言葉に表せない違和感を感じながらも、北岡は音をたてずに、迅速に狙撃ポイントを変える為に壁を背にしながら動き出す。
既に襲う前から狙撃ポイントは全て把握している。
新たな狙撃のポイントは目の前の複数のパイプによって身を隠すことができるスペースだ。銃弾を遮るものはなく、確実に狙撃が可能だろう。
「ぐっ…(また、どこからだ!?)」
だが、北岡の右肩にまた弾丸が飛んで来る。しかも、今回は3発。全てが北岡の右肩に着弾したのだ。
そして4発の弾丸を受けてからやっと、北岡は違和感に気づく。同時に大きく戦慄する。
「(どういう事なんだ!?)」
これでも仮面ライダーゾルダは銃の扱いに長けたライダーだ。マグナバイザーでもどんな銃でも同様だが、必ず発砲音は出るのだ。
サイレンサーを付けてるなんてレベルじゃない。ファンが回るだけのこの部屋だが、サイレンサーでも音は少なからず出てしまう。あくまでと分かりづらくしてるだけで来ると分かっていて、かつこのような狭い空間なら気づける筈だ。
全く銃音のしない銃なんて、存在しないはずだ。
「ぐふっ…!?」
だが、そんな考えを邪魔するようにまた弾丸が北岡を襲う。右肩、左足、背中、マグナバイザーに1発ずつ着弾した。どれもダメージとしては少ない。だが、ダメージは蓄積する。特に右肩のダメージは大きい。これでは正確な狙撃は不可能だろう。
だが、何だろうか。北岡にはまだ違和感がある。
透明人間などが居るわけでもない。居ても何度も攻撃されていれば足音や気配で感知できる。間違い無く、北岡ともう1人のライダーだけだ。
「(撤退…しかないか。)」
北岡は最短距離で出口へ向かう。
初陣としては最悪だろう。だが、北岡の心は負けているとは思っていなかった。何かトリックがある。この空間で狙撃のできる方法がある。
空間と空間を繋ぐなど、方法は思い付く。しかしそれは無いだろう。そんな事ができるなら足元から落とし、その先を直接上空に繋げて落とせば良い。
弾丸程の小さな穴しか開けられないカードを使ってるかもしれないが、それならこんなチマチマしたダメージは与えない筈だ。
「ぐ…ふぅ、がぁ…!!」
だが、そんな北岡を嘲笑うように弾丸の雨が降り注ぐ。そう、弾丸の雨だ。先程までとはまるで違う。全てが北岡に殺意を向けた弾丸だ。
数十を越える弾丸を受けた北岡は地に伏せてしまう。全身を満遍なく痛みが襲う。
だが、あるのは絶望では無い。
「そうか…あいつが撃ってたのか。」
これだけの弾丸が撃たれて、ほんの少しの、僅かな銃音。それは狙っていたライダーの方向からだ。
北岡の心はまだ折れていない。最後の力を振り絞り、立ち上がる。出口は目と鼻の先だ。あと、数歩だけ。そこから飛び降りれば逃げられる。
今度は確実に仕留める。そんな決意を持ち、一歩を踏み出した時だ。
1発の弾丸が北岡の前で直角に曲がり、北岡を撃ち抜いた。
「はぁ…はぁ…はぁ…(どういう事だ!?なんなんだ、なんなんだ!?)」
北岡は何とか踏ん張るが、心は間違い無く折れた。
黄金のライダーが北岡を狙撃するには2つの越えなければならない障害がある。
①北岡に弾丸を届かせること。
②北岡の居場所を認識すること。
残っていた違和感の正体はこれだったのだ。
北岡は2度目の攻撃の際にバラバラの方向から狙撃されたのだ。
これは直角に曲がった弾丸からわかった事だが。弾丸は全て泡を反射している。
どういう原理かはわからない。だが、泡を使ったこの場所は奴のフィールドであり、テリトリーだ。
次に北岡の位置をどう認識するかだ。
これははっきり言って、ありえないとしか言えない。だが、今の北岡にはこれしか思い付かない。
北岡の位置を、泡を通して把握している。
鏡のように反射させた泡でこちらの位置を視認しているのだ。直接視線を遮っても意味が無い。この空間には泡が溢れており、隠れ場所などは最初から無かったのだ。やはりここは奴のフィールドであり、テリトリーなのだ。
だがこれらを全て踏まえて、ありえないとしか言えない。
仮に北岡が同じ能力を持っていても、こんなことは不可能だ。泡を利用した遠見と泡を利用した跳弾。
泡を通して立体的に相手の位置を把握するなんてのが不可能。そしてそれから泡の配置や角度を演算し、弾丸を放つ。誤差数%の…いや、1%以下の精度でなければここまで正確な狙撃は不可能だ。
何度も言うが、人間技じゃない。ライダーだって中身は人間なのだ。だが、これはもう違う。
「間違いだったんだ…あいつと戦うことが…」
━━━━━次元が違う
北岡の心を染め上げるのは暗く青い絶望。ライダーバトルの初陣で、最初に化け物と出会ってしまった事による絶望。
「はぁ…はぁ…」
北岡は何とか出口に辿り着く。ここを一歩踏み出す。それだけで、逃げれる。
北岡は残った力で外に飛び出る。
着地の事は考えていない。地面を転がるよるに、スマートさの欠片も無い着地だ。
だが、今の心を埋め尽くすのは生きていることによる安堵だ。
「…帰らないと、帰らないと。」
立ち上がる力も当然だが、残っていない。地面を這って移動する事しかできない。
だが、それでも生きていることだけが何とか北岡の心を保っていた。
カタン
だが、そんな心を粉々に砕くように。
「あ…ぁぁ…」
黄金のライダーが、北岡の前に舞い降りた。
★★★★★
「…(北岡さんじゃないですか。)」
須藤の目の前にはボロボロのまま地面を這う仮面ライダーゾルダ。
恐らくモンスターに襲われたのだろう。
「大丈夫か、肩を貸そう。」
返事を待たずに肩を貸し、そのままミラーワールドを出る。
名刺を交換した後も終始無言であった北岡だが、体調が悪かったのだろうか。須藤はそれとなくそんな事を聞いてみるが、どうやら本当に体調が悪かったようだ。
ここら辺にはモンスターも出るし、体調はしっかりと管理しないといけませんね。と言って別れた。
これが北岡と須藤の最初の出合いである。
北岡「悪魔だ…俺をボコボコにして何であんな発言ができるんだ…」
須藤「ボロボロの北岡さんを介抱したし、友好的な関係を築けてるな!」