落ち着け、先ずは鋏を下ろそうか。   作:赤茄子 秋

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私は何をしているのだろうか?




16話 お先真っ暗

人と車で溢れかえる交差点。反射した世界から獲物を狙う捕食者が居るなんてのは気づかない。だが、それは知らない方が平和だろう。防ぎようのない災厄は人に余計な恐怖を煽ることしかできないのだから。

 

そして、これからその捕食者の存在を認知してしまっても、それが運命なのだから。

 

そんな事を道路から眺め、考えているのは1人の青年だ。

 

手塚海之(てづか みゆき)

 

彼は占い師だ。外した占いは無く、見えた運命は全て的中してきた。今もボンヤリとだが、町行く人々の運命が見える。

コインや炎を使えば更に細かく運命を見ることができるが、それをするのは基本的には奇異な運命を持つものと客だけだ。

 

「ちょっと、いいかな。」

 

だが、今回声を掛けたのはそのどちらでも無かった。

 

「私は占い師をしている。今回はサービスでどうだろうか?」

 

「あ、いいですよ。ちょうど暇してたので。」

 

運命が全く見えない男、これが手塚の須藤との最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

★★★★★

 

「…何も見えないのかぁ。」

 

須藤は占いをされた。その占い師の名前は手塚。仮面ライダーライアである。

 

出逢えた事はラッキーである。間違いなく今後の須藤の運命を左右する存在になるだろう。

 

だが、御近づきの印に渡された占いの結果は須藤が一人でベッドでくるまる程には酷かった。

 

手塚曰く…

 

「須藤の寿命、運命はもう終わってるはずだ。」

 

「今後の運命が全く見えない。」

 

「こんな事は初めてだ。」

 

 

比喩抜きでのお先真っ暗である。どうすればよいのだろうか。しかも「君はとっくに死んでる筈なのに…」と、おっしゃる。

 

死んでてもおかしくない。それを聞いた須藤には心当たりが多すぎる。

 

興味本位で名刺を交換してきた彼と、今後はどう交流をすれば良いのか。須藤は一晩中悩み込むのであった。

 

 

 

★★★★★

 

とある山中の廃屋。本来なら誰も来ないであろうこの場所には、人が詰めかけていた。一人は青いジャンパーを着た青年、手には三千万円の入った茶色い鞄を持っているが、それは他の青い制服を着た、市民の味方に回収されてしまう。

 

「13:14 城戸真司、拉致監禁の罪で逮捕する。」

 

「俺は、無実だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

これからの人生で経験はすることは無いであろう。

 

警察官に囲まれ、城戸真司は連行された。

 

パトカーのサイレンと、一人の青年の嘆きだけがコダマするのであった。

 

★★★★★

 

時間は経ち、三日後。とある警察署の面会室だ。

 

「須藤さん…助けてください。俺、本当に何もしてないんですぅ…!!」

 

若干涙声が混じった声で懇願するのは、面会に来た茶色いコートを来た男。

 

「まぁまぁ…俺も頑張るから、刑期は短く「やってないんですよぉぉ!!」冗談だから、落ち着いて。」

 

表情の変化が乏しい…いや、殆ど無い顔で言われても冗談には全く見えない。

いつも通りに淡々と答えているのが、自分を救う術があるのがあるから冷静なのだと信じたい。

 

「でも状況証拠だけを見たら、城戸君だね。」

 

「そ、そうですけど…」

 

今回捕まったのはちゃんと理由がある。

 

先ず、城戸真司の勤めるOREジャーナルで、同僚の島田奈々子の誘拐事件が起こった。犯行に至った理由は自分の妻の医療費を手に入れる為と、記事で自分の人生を無茶苦茶にしたOREジャーナルへの復讐であった。そして身代金が要求され、その身代金を届けたのが城戸だったのだが。

 

「犯人は…モンスターに襲われて、俺が倒したんです。」

 

両者を遮るアクリル板の壁に顔を近づけ、小声で話すのは二人だけの、いやライダーだけに話せる本当の理由だ。

秋山には茶化され、編集長や同僚からは何故犯行に及んだのかと本気で問いかけられ。複雑に感情が入り交じってしまい、疑心暗鬼になっていた。そんな心は高速で磨耗していた時に現れたのは刑事の須藤だ。自分に真摯に向き合う少ない人物、なんとか自分の無実の証明ができる…そう、城戸は信じている。

 

「大丈夫だ。既に、先手は打っている。」

 

「流石は…流石は須藤さんです!!俺、このまま一生牢屋暮らしかと…!!」

 

そして、期待通りであった。信じるものは救われる。この言葉がこれ程身に染みた時は無いだろう。

 

同時に、須藤の後ろの扉が開き一人の男が部屋に入る。

 

「北岡さん、後は頼みますよ。」

 

「えぇ。このスーパー弁護士に、任せてくださいよ。」

 

「ありがとうございます、期待してますね。」

 

そう言うと、須藤はそのまま外へ出ていった。

 

だが、今は須藤が出ていった事よりも重要なのは目の前の男だろう。

 

北岡、城戸には聞き覚えがある。北岡秀一、どんな黒い事でも白にしてしまう凄腕の弁護士であり、主に先輩の桃井が担当しているが、新米とは言えジャーナリストの城戸には北岡の凄さがわかっていた。

 

同時に須藤の偉大さを再確認した。

 

今回の様な事件は真犯人が見つからなければそのまま事件が終了してしまう事もある。

だが、もう犯人はこの世に居ない。死体もモンスターの腹の中。この事件で城戸が可能な事はアリバイの証明程度だが、現場には城戸と誘拐された島田しか居なかった。島田の誘拐時のアリバイも証明できない。

 

もはや、詰みである。だが、そんな事はこの弁護士には関係が無い。

 

やはり、須藤のカリスマがこのような人を呼び寄せたのだろう。もう城戸の無罪放免は確実となる程度には、安心できる。

 

「ふーん、君がライダーねぇ…まぁいいか。」

 

北岡は品定めをするように城戸を爪先からてっぺんまで眺めると、そのまま椅子に座り込み、資料やテープの準備を始めた。

 

「北岡さん…も、ライダーなんですか?」

 

「まぁね。」

 

なんてことも無いように軽く答える北岡。城戸自身に然程興味が無いようにも見える。

 

「…さてと、じゃあいくつか質問させて貰うから。」

 

「おっ、おっす。」

 

「先ずは、須藤雅司との関係から。」

 

「尊敬をしてる人です。」

 

「舎弟…と。じゃあ、彼の交友関係。」

 

北岡は録音テープを回しながら質問を続ける。最初は真面目に返答をしていた城戸であったが、そのどれもが須藤に対する質問だと気づくのに時間は掛からなかった。

 

秋山辺りなら一発で気づくのには触れないでおく。

 

「ちょっと、これ事件と関係無くないですか!?」

 

「あるさ、俺のモチベーションに繋がる。」

 

「待てよ!須藤さんに手を出したら、俺が許さねぇからな!」

 

城戸の感情は一気に燃え上がった。自分の慕う者であり、自分のライダーどうしの戦いを止めるという考えに共感をしてくれた同士でもある。

目の前にそれを脅かす脅威がある。もしここに二人を遮る壁が無ければ声を荒げるだけでなく、高価なスーツの襟首に掴みかかっていただろう。

 

「…」

 

逆に、北岡は冷めていた。まるで感情に一直線のバカの考えはお見通しであるかのような顔をしている。

 

その顔は城戸の燃え上がる感情にガソリンを注ぐだけであるのだが、二人を遮る壁が通すのは声とお互いの表情だけである。やがて城戸の頭から徐々に熱さがとれ始め、睨み付けはすれど先ほどまでの様に声を荒げる様なことは無くなった。

 

それを見計らうと、気持ちの切り替えに北岡は足を組み直す。さてと…と少し考える素振りを見せ、城戸に初めて自分から目を合わせた。

 

「龍の逆鱗って撫でたことはある?」

 

「龍のげ、げきりん?」

 

先ほどの事を訂正しよう。感情だけでなく、普通にバカである。北岡は大きく溜め息を吐くと、先生が生徒に教えるようになるべくゆっくりと話す。

 

「…龍という圧倒的な存在の急所、そこを愚かな人間が撫でる事の例えだ。」

 

「…つまり。」

 

城戸は今の言葉を聞いて察しただろう。北岡は須藤という龍に触れ、返り討ちにあったのだと。

 

だが、北岡の例えは少し間違っている。北岡の場合、余りの龍の大きさに逆鱗と気づかずに触れた。

故意か事故か、それだけの違いだが。どちらも愚者の行動に違いは無い。

北岡に後悔などのマイナスの感情が無いとは言えない。だが、顔はどこか晴れ晴れとしていた。

 

「初めてだったよ。俺が普通の人間なんだと実感し…いや、させられたのは。」

 

その顔を正面から見て、城戸も理解しただろう。北岡にとっての須藤はゲームで絶対に勝てないようなチートを使うボスのような存在。

ある種の不運なイベントにぶつかってしまったのだと。

 

「でも、北岡さんだって、凄腕の弁護士じゃないですか。」

 

「犬のやってるボール遊びと、人間のやってる球技を同レベルの事だと思うか?」

 

ただ追い回すだけの犬と戦術を練り、戦う球技。同じ球を使う事でも、やるのが犬と人では次元が違う。思考も技術も規模も、どれも違うのだ。

 

「けど…俺は諦めないよ。」

 

それでも、北岡の目には光があった。命を燃え尽きるまでに、必ず手に入れたい欲望への渇望。その為に須藤という絶対的な存在への挑戦をやめるつもりは無かった。

 

犬だけで遊ぶのは球技とは言えない。球技になるには人という存在が教育することによってのみ叶うことを北岡知っている。

 

今の自分で勝てないのはわかっているのだ。

 

だが自分だけで駄目なら自分以外ともやればいい、それで駄目なら他人をぶつけて漁夫の利を狙うのもいい。

 

技術で勝てないなら罠を、罠が駄目なら戦略を、戦略で勝てないのなら特攻をしてでも勝ちに行く。

 

「最後まで、抗うだけだ。」

 

その言葉を残すと、北岡は面会室から出ていった。

 

 

 




Q.前回の北岡戦がわからないよぉぉぉ。

A.須藤の持つハサミは遠距離武器で、勝手に暴発する暴れん坊。しかもほぼ無音。泡に反射した弾丸が北岡を襲いかかりました。須藤が北岡を倒しましたが、須藤はそんな事知りません。

北岡は絶好調の状態で須藤にボコボコにされて見逃され、脅されたと思ってビビっています。

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