落ち着け、先ずは鋏を下ろそうか。   作:赤茄子 秋

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いつも誤字の報告ありがとうございます。

処理が追い付いてませんが、修正していきたいと思います。




17話 激動で異動で移動

「今回も助かった、ありがとう。」

 

いつものように須藤が守り、城戸と秋山がモンスターを倒すという作業をこなし、三人は仲良く帰宅していた。

 

「いやいや、須藤さんがあそこでバシッと攻撃を防いでくれたからですよ!」

 

「須藤も大変だな。足手まといのフォローは。」

 

「あぁ!?んだとごらぁぁぁ!!」

 

この流れもいつもの事であり、この場に居る全員のルーティーンのようなものであった。

 

そんな日常を見ながら秋山はふと考えていた。

 

秋山蓮にとって、須藤雅司は城戸真司程の熱意を持っている存在という訳ではない。

 

実力は未知数、目的も満たしたい欲望も不明、表情の薄い顔からは何を考えているかはわからない。

そんな理解ができない男であるが、それでも一つわかっている事があった。

 

それは眼だ。無表情であっても、眼に意思を感じないのはロボットだけだ。須藤の眼には意思がある。燃えるように眼を光らせる事もあれば、氷のように冷えきった眼をしている時もある。だが時折あるのだ、彼の眼が狩人の眼になり、直ぐに収まるような時がだ。

 

城戸は気づいていないと確信できるが、秋山は理解した。

 

須藤が常に何かを警戒しているのを。

 

何と戦っているのか?何を見据えているのか?何が見えているのか?自分とは違う何かを見ているのは確かだが、それ以外には何もわからない。

 

秋山は須藤との実力の差は理解している。それは以前の一騎討ちがやはり大きいだろう。あしらわれ、見逃され、あまつさえ協力関係を結んできた。

 

理解できない。自分の命を取ろうとしてきた人間に、積極的に協力を仰ぐなんてのは普通では無い。バカの代名詞とも言える城戸真司等の例外はあれど、普通はありえないのだ。

 

裏がある。そうとしか思えなかった。

敵意は感じないが、何かしらの意思を感じる。

悪意か善意かはわからない。まだ…いや、これからも須藤を理解できる時が来るとはわからない。それ程の存在だとはわかっている。

 

それでも城戸や北岡等と等しく、倒すべき敵でしかないのも変わらない。

 

自分の欲望を叶えるため、必ず…

 

「秋山君、どうかしたのか?」

 

「…いや、何でもない。」

 

考え込んでいたようで、いつの間にか自分のバイクの前で棒立ちしていた。できるだけ自然を装うように、黒いヘルメットを被り、直接眼を合わせないようにする。

 

須藤ならば、眼を見るだけで全てを読み取られてしまいそうだからだ。

 

「おい、蓮!早くしろよ、今日は俺の餃子だぞ!」

 

「知るか…さっさといけ。」

 

こんな非日常な日常を過ごしながらも、必ず…恋人を生き返らせる為、秋山が剣を下ろすことは…下ろせる事は無いのだろう。

 

この日常を壊す。

 

それがいつになるかは、まだわからない。

 

 

 

★★★★★

 

「…すいませんが、警視監。それはどういった事でしょうか?」

 

刑事歴30年を越えるベテラン。岩元警部は行方不明者事件について呼び出された。

 

事件の解決に補充の人員を寄越さない等の不満はあった。だが危険な仕事であるのもわかっている。覚悟ある人間が入らなければ事件の解決は不可能。そう考えているからこその自分なりの少数精鋭でのチームであった。

 

山下は資料等の作成に長けた女性刑事である。僅かな疑問を拾い上げ、それが事件の解決に役立ったのは1度や2度では無い。

 

須藤は全国警察空手道大会、全国警察柔道大会に2度出場、共に2連覇した程の実力者である。特にあの極悪犯、浅倉威の逮捕をした刑事であるのも有名だ。

 

そんな優秀な人材を渡されているだけマシなのだ。

 

どうせ小言を小一時間言われて解放される。そしてまた事件の捜査を続けて、いつか結果を出してみせる。

 

そんな甘い考えで向かったのだ。

 

「文字通りだ。君たちは明日からこの件に関わらなくて良い。」

 

須藤達行方不明事件を担当する刑事は当然だが、成果は挙げられていない。

鏡の世界に連れ去られ、化け物に捕食されてるなど普通は誰も思わないからだ。

 

「待ってください。成果は無くても、俺達刑事にはできる仕事はありました。それを急にやめろと言われて、納得いきませんよ!」

 

だが、岩元警部は納得がいっていなかった。自分たちがやっていたのは見つからない犯人を追うことだけでない。行方不明者のリストの作成や被害者や現場の関連性についての考察を纏めた資料の作成、行方不明者の家族の対応。最低限の仕事は行っていた筈なのだ。

 

一人や二人の人員の補充や入れ替えなら理解はできた。だが、全員を入れ替えるのは考えられない。今までの捜査を否定されるような、そんな気分になるのは必然である。

 

「会議で決まったことだ。資料を来週までに纏めて提出してくれ。君たち三人の辞令は追って告げる。」

 

「幹部会議…ですか。」

 

上からの命令。警視監は上から2番目の階級だ。今回の事件について、警察官のトップ達が会議をする程に重要な事件なのだろう。

だが、それならば尚更おかしい。自分はベテランだと岩元は自負しているが、今回の事件に自分が外されても部下の二人は優秀な上に若く、実績も積んでいる。

やはり、外されるのはありえないのだ。

 

「じゃあ、捜査の引き継ぎはどこがやるんですか?場所は?人員は?」

 

では、この後の行方不明事件はどうするのか?そう岩元は聞くが。

 

「捜査を離れる君に関係無いことだ。」

 

「…っ!!」

 

もし自分が冷静でなかったら、このまま上司に詰め寄っていただろう、「関係無いわけ無い!」と。だが、現実は冷酷であり、上からの命令には逆らえない。それが社会であり、逆らえば首を切られてしまうだけなのだ。

 

現に目の前に居る自分の上司は話を終わりと言うように、自分のデスクで資料を読み始める。

 

行方不明者の家族はどうなるのか、それを思うと心は苦しくなる。だが、自分にも養う家族が居る。家族を道連れにしてでも反抗することはできない。

 

自然と握り締めていた拳からゆっくりと力を抜き、軽く深呼吸をする。理不尽な辞令なんてのは今に始まった事ではない。だが幹部会議で決まったのなら、この手の捜査に優秀な人員が補充されるだろう。政府が秘匿してる特殊部隊なんかも出るかもしれない。停滞しているこの事件に進展があるかもしれない。

 

「…わかりました。ですが、若い二人の召集は考えてください。」

 

納得はしていない、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、そのまま部屋を退室し、自分のデスクへと向かうのであった。

 

 

 

★★★★★

 

突然の辞令は恐ろしい。

明日からは資料を纏めて、来週からは別の仕事にゴー。

刑事ってこんなことが起こるのか。公務員も大変だな。

特命係とかに配属されたらされたで面白…くはないか。これからは仕事をサボれないなぁー。

そんな考えをしていた。

 

「…すまない。俺の、力不足だ。」

 

「警部、頭を上げてください!私が事件解決に役立たなかったんです。だから、頭を上げてください!」

 

この光景を見るまではだが。

 

上司は頭を下げ、後輩は全力で上司のフォロー。自分はどうだ、何にもしていない。これだけの熱意を持っていた二人とは違い、事件の真相を知り、黙っている。なので、自分がたった一言。「鏡から化け物が来ている」と言えばこの二人を救えるのだろうか?いや、救えない。むしろ奈落の底へ突き落としているだろう。

 

だから自分には何もできないのは当たり前なのだが。

 

「須藤…君を活かせない私を許してくれ。」

 

「活かせないのは私です!私がしっかりとフォローをしていたら…!!」

 

「ちょっと落ち着「すまない、本当に!」わかりましたから。とりあえず、お茶でも「まっさぁぁぁぁん!!」(めんどくせぇぇぇぇぇ!!)」

 

上司と後輩の謝罪に対して、申し訳なくなるのは何故だろうか?自分は仕事という事は見回りで何の成果も挙げてない。なのに二人して何を謝っているのだろうか?

 

自分を活かしきれないとは、何を言っているのだろうか?仕事の成果を挙げるどころか、自分はまともに働いてないのだが。

 

「…力不足は俺です。何の成果も挙げられていないですから。二人は謝「私の責任だ。」だから「私の責任です!」わかりました、ちょっとトイレ行ってきます。」

 

感情が高ぶっている時に一番効果的なのは時間を置くことだ。頭に回った血が少しずつ抜けていき、冷静になるからだ。

 

そして、須藤はそのままトイレに二時間籠って時間を稼ぐのであった。

 

その後、積もった資料を纏めるのに初めて仕事らしい仕事をするのであった。

 

★★★★★

 

明林大学ゲームサークル 【マトリックス】

 

そこに在籍する気弱に背中を丸めた青年。心の中もその様子から察するに、マイナスな気持ちに包まれている

 

わけではない。

 

むしろ、逆である。

 

━━━ライダーのバトル・ロワイアルか、面白そうだ。

 

そんな新作のゲームを遊ぶような軽い気持ちで、彼はライダーを始めた。

 

芝浦淳(しばうら じゅん)

 

天才的な頭脳と楽しければ人の命も簡単に取ってしまう残忍かつ凶悪な男。

芝浦コーポレーションの社長の息子でもあるが、そのせいか子供のように自分の考えが上手くいかない事が大嫌いである。

 

「こんにちは、明林大学のマトリックスの皆さんですか。ちょっと、取材よろしいですか?」

 

そして、芝浦の予定通りに餌に飛び付くマスメディア。ここからが、芝浦のゲームの始まりである。

 




Q.最近の悩みは?

A.パソコン作りたい、小説書きたい、時間が足りない。

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