東京の夜景は美しいと言われている、残業によってできたビルのまばらな明かり、そして聳え立つ塔のイルミネーション。これらを一望できる丘や遊園地の観覧車はデートスポットになっていると言われているが。空はどうだろうか、車やごみに工場から出てくる排気ガス、空を夜ですら灰色に染めている。輝きが強い一部の星は僅かに顔を見せる程度であり、夜の主役ともいえる月ですら濁っている。汚い空だ、汚れた空だ。そんな空を見ながら地面に倒れるのはボロボロになり、地面を転げ回って汚れた一人の男。
今の時代、月もスッポンも変わらないのだろう。
最近ネットで話題になっているリアルデッドファイト。
互いに鎖鎌やロングソードのような武器を持ち、仮面を被り、どちらかが倒れるまで戦いは続く。
まるで城戸達がやっているライダー同士のバトル・ロワイアルである。
それが、海沿いの廃工場で起こるとの情報があり。記者である城戸は単独でやって来ていた。理由は情報源が1つではなく、他の記者は別のポイントに向かったからである。
「うぐ…」
そしてやって来た城戸だったが、実際にはライダー同士の戦いは起こっていなかった。
生身の人間が武器をもって戦うだけのデスマッチであったのだ。だがそこまでだったら、城戸が簡単に地面に転がるような事にはならない。
モンスターが現れ、それを倒すためにライダーになると途中でライダーが乱入してきた。
そしてそのライダーが戦いを仕掛け、ライダーとの戦いを拒絶している城戸は一方的に倒されたのだ。
もはや体に力は入らない。ミラーワールドから弾き出され、時間経過で消滅しないのが唯一の救いだろう。
「だらしないなぁ、弱すぎない?」
その城戸に悠然と歩み寄るのは城戸よりも少し若い青年だ。
一目で高級だとわかる灰色のスーツ、悪戯をして喜ぶ無邪気な子供のような笑顔を浮かべ、転がっている城戸の側で屈む込む。
「お前…なんで、こんな事…」
城戸には不思議にしか思えなかった。自分を嬲った後でにやりと笑っているのだ。人を殴るだけで心を痛める城戸ならありえない。城戸もどちらかと言えば特種な感性を持っているが。それでも、目の前の男が正常には見えなかった。
「何を言ってるの?そういうゲームでしょ?」
そして、そんな城戸を嘲笑する。何を当たり前の事を言ってるのか?と。この男、芝浦淳はルールに則って普通にゲームをしているに過ぎないのだ。
芝浦にとっては城戸は異端。城戸にとっては芝浦は異端。どちらの意思もわかり合うわけがないのだ。
「こんな…ライダー同士の戦い、絶対に止めてやる。」
だからこそ、城戸は自分の意思を曲げるつもりはなかった。目の前の男が遊びで人の命を奪うようなこの戦いは絶対に止める、と。
「君にできるの?そんな弱っちくてさ。」
だが、今の城戸を見て脅威を感じる筈も無かった。目の前に居るのは城戸が戦う意思を持たなかったとはいえ、自分に負けた敗者でしかないからだ。
「俺じゃなくても…須藤さ…い…る…」
その言葉を残すと、城戸は意識を手放した。
この言葉も負け犬の遠吠え、そう切り捨てて城戸の命を奪うのも容易かった。モンスターに喰わせれば証拠も残らない。
「…良いこと思いついちゃった。」
が、自称天才のこの男はそうはしなかった。何故なら、こっちの方が面白いからだ。そして城戸の手にあるデッキケースから1枚、カードを抜き取った。
★★★★★
「…(もう嫌だ。本当に嫌だ。帰りたい。元居た世界に帰りたい。)」
心の中でぶつぶつと呟き続けるのは寿命が既に無いと言われた男、須藤雅司。芝浦にボロボロにされた城戸が見つかったのは想定内ではあった。だが、城戸のポケットから雑に入れられた紙切れが残っていたのは想定外であった。
内容は簡単だ。「カードは貰った。今度はスドウと遊ぶ。」である。須藤が自分の世界に引きこもる程度には絶望しか無いだろう。
「これは不味いな。」
そう呟くのは仮面ライダーライア いつの間にか秋山達と仲良く?なっていた手塚海之だ。
花鶏に集まって居るライダーは城戸を含めて四人。
「カードを奪われるとは、情けないどころか呆れるぞ。」
いつもクールに振る舞う男、仮面ライダーナイト 秋山蓮
「蓮、そんな事言わないで。早く真司君のカードを取り返さないと。」
この四人と神崎士朗の妹である神崎優衣だ。
不謹慎な言葉を使う秋山に叱咤するのはいつもの光景でもある。だが今日はいつもよりも怒気が入っていた、今の事態は深刻であるからだ。
奪われたカードはADVENTのカード、ドラグレッダーを召喚するカードだ。これはモンスターとの契約の印であり、これを燃やしたり千切ったりされればどうなるか。
「このままだと…真司君、死んじゃうんだよ?」
ドラグレッダーは契約があるから城戸を襲わない。契約が破棄されればまた城戸や他の人間を襲う。ライダーの力はモンスターに依存している。モンスターの契約が無くなって直ぐに襲われれば、城戸に死以外の道は無いのだ。
「俺には関係無い。むしろ…1人脱落してくれて助かる。」
そう言って秋山は自分の部屋に戻る。神崎妹はそのまま秋山を追う。無駄な事かもしれないが、秋山の説得に向かうのだろう。自然と、残るのは須藤と手塚であった。
「…須藤、どうするつもりだ。」
突然というわけではないが、ほぼ置物と化していた須藤は一瞬反応に遅れる。
「…あぁ(やべ、話し聞いてなかった。何の話をして…あぁ、カードを皆で取り返す話だったか。)問題無い。」
★★★★★
「…」
須藤雅司について、手塚はよくわかっていない。秋山の運命を覗きライダーと見破り、戦いの無益さを説きながら行動を共にしていると偶然にも再会した。城戸がボロボロで見つかり、神崎の妹が連絡した仲間が須藤。
彼もライダーであったのだ。
紙切れに次のターゲットとして書かれていたのは須藤。恐らく、どこかでこの手紙を置いていった人物は須藤に接触を謀るだろう。
「…須藤、どうするつもりだ。」
そして問題なのはこの後の須藤の行動だ。この挑戦とも遊びとも取れる相手に対してどう行動するのか。
早い話し、須藤と常に誰かが行動を共にすればこの相手に対応する事が可能だ。
そういった返答を予想していたが、それはある意味期待を裏切られた。
「…あぁ
(その程度のこと)問題無い。 」
問題無い。それだけの言葉だが、この場でこれ程力強い言葉はあるだろうか?
(謎の言葉の補完が発生したが。)
顔に焦りの表情1つ無い。感情が顔に全くでない人間でもない限り、少なからず表情に動きがある。
自分の命の危機の筈だ。だが、先ほどからこの状況にまったく動じていないのだ。まるで予期していたかのように、先ほど自分達の話し合いに参加していなかったのは、今思えば子供同士の議論会を見守る先生のようだった。
須藤はこの状況を脅威と感じてないのか?この状況を脅威と感じてないならば、何が彼の脅威となるのか?この先の脅威にこれを越える脅威をもう見据えてるのか。
須藤の顔はそんな自分の心配も見据えたように真っ直ぐとしていた。
まるで、自分を信じろといってるようだ。
「…わかった。健闘を祈るよ。」
彼には要らぬ心配であった。話が終わり、須藤はそのまま自分の家に帰る。その背中には見えない闘志を感じた。彼に任せて大丈夫だと安心するには十分な程に。
自分に彼の運命が読めないのは何故かわからない、しかしそれは自分の能力程度では読めないような存在、彼が運命の特異点だからなのかもしれない。
ならば、これから起こるであろう…秋山の死を回避できるかもしれないと。
★★★★★
突然の人事異動だったが、須藤は元の刑事科に戻されていた。他の二人は知らない。
行方不明事件もどうなるかは知らない。
「本日からここに配属された、須藤だ。皆、よろしく頼む。」
屈強な捜査官に囲まれた中身は一般人の男は、仮面のような顔をしていたが内心は緊張でガタガタと震えていた。この職場でやっていける自信が無いのもある。が、一番はそれでは無い。
「須藤です。皆さんのような立派な刑事を目指したいと思います。よろしくお願いいたします。」
至って普通の模範的な挨拶である。この後は新入りの今後の活躍を期待し、拍手が起こるところであろう。
しかし完璧な普通の挨拶をしたのにも関わらず、捜査官達はざわついていた。小声で話し合い、後退りしている者も居る。
「あれが…浅……警察官か。」
あれが経験の浅い下端警察官か。
須藤にはそう脳内変換された。
「あいつは…で、ダントツだ。」
あいつは役立たずで、ダントツだ。
ネガティブ思考の須藤にはこう変換された。
「(うっ…大丈夫だ、この程度…致命傷に過ぎない。)」
もうこの職場でやってける気がしない。須藤はいきなり心が折れかけていた。本人の前での陰口程心にダメージを与える事は無い。
仮面ライダーだけあり、顔には出てないがもし出ていたらなら恥ずかしさの余りにそのまま膝から崩れ落ちていたかもしれない。
だが、そんな者は些細な事だ。そんな事よりも重要な事が1つだけある。
「では須藤、向こうのデスクを使え。期待してるぞ。」
辞職にでも期待されてるのか、とも思いながら須藤は指定されたデスクに座る。一応、座る前に画ビョウとかの確認もしておく。画ビョウは無く、安心して座ることができる。そういった新人イビりは無さそうだ。だが、誰も須藤に近寄らない。チラチラと自分を見ては居るが、誰一人として近寄ってくる気配は無い。
「(普通なら新米刑事に対して先輩や同期が話しかけてくるんじゃ…?)」
刑事ドラマなどの経験で多少の誇張はあっても、ここまでドライだろうか?
須藤に関わりたくないのか。女性の刑事も居るが、目を合わせると直ぐに逸らす。
今日の挨拶もそうだが、須藤は他の刑事に話しかけられた時の練習をしていたのだ。
その時間、実に3日。
書類を纏めるのが早く、暇な時間が多かっただけなのだが。それでもこれはやるだけの価値はあったはずなのだ。初対面の相手のイメージは声と見た目で決まる。スーツは下ろし立て、髪も軽く整え、発声練習もした。
だが最初からマイナス方向に振り切れているなら、意味がなかった。
これはこれで須藤の精神に多大なダメージを与える、だが須藤の一番の悩みは違う。
こっちは死にたくはなるが、耐えれば生きてはいける。
問題なのはボルキャンサーへの餌の調達。モンスター狩りというもはや使命と化した最重要案件だ。
ふと、須藤はデスクにあるパソコンに目を写す。
「…どうするかな。」
そこにボルキャンサーの姿は無い。
最近は須藤の心情を理解したのか、ある日を境に署内には現れなくなった。
が、それが逆に須藤に不信感を募らせていた。
「(油断させてパクリ…普通にありそうだわ。)」
須藤に安息の時など無い。寝るときですら全ての反射する物を毛布で覆うのも日課だ。むしろ、寝るときが一番危険かもしれない。
「外回り、行ってきます。」
今はちょうど大きな事件が無い事や、初日という事もあってか、須藤には仕事が無かった。意図的に渡されてないのかもしれないと考えもしたが、それなら逆にありがたいのかもしれない。
誰かの静止の声が聞こえた気もしたが、自分に話しかける人なんて居ないだろうとそのまま出ていく。
その後、ボルキャンサーが警察署から離れた個人の駐車場で出待ちをしていたのに腰を抜かすのであった。
外出=食事 この蟹にはその方程式が完成されているのだろう。
★★★★★
「警部、彼が単独でよろしいんですか?」
今年から刑事になった川村は不信感を抱いていた。自分が初めて配属された時は捜査官全員から拍手で受け入れられ、孤立する時間なんて無かった。
だが、須藤はどうだろうか。
誰一人として腕を上げることすらなく、隣同士でざわざわと須藤について話していた。それは陰口…ではなく。浅倉を捕まえただの、空手や柔道で優勝しただの、むしろ優秀な事はわかった。
が、何故彼を皆が敬遠するのかが、わからなかった。
今の行動もそうだ。刑事は普通、二人以上で行動する。だが、彼が一人で外回りに向かった時は自分を除いて誰一人として彼を呼び止めることはなかった。
「川村君、彼は一人で大丈夫だ。」
「……え?」
川村はまだ話が続くと思っていたが、予想外な方向に裏切られた。川村への問いに山田警部は一言で済ませたのだ。驚きのあまり、そのあと数秒の間ができてしまうほどに。
動揺した心を落ち着かせ、再度問う。
「いや、いくら優秀でもそれは…」
「必要無いんだよ。」
今度も一言で終わらされた。この説明だけで納得しろと?新米であり、純粋な正義感を持つ川村には理解できない。だが、周りの刑事は誰一人として警部の発言に異論を唱えていなかった。
やがて、大きな溜め息を吐くと「川村」と呼ぶ。
「彼のパートナーの大抵が彼の足を引っ張るだけ引っ張り殉職。もしくはパートナーを辞退している。彼が相手にする犯罪者のレベルが悪いというのもあるが…彼とチームを組んだ者は大抵殉職している。この意味がわかるな?」
「それって…え?」
頭の中で突然の理解できない情報が駆け巡る。あまりに唐突で、あまりに意味不明。川村の刑事としての常識が崩れていくのがわかった。
一人で二人以上の仕事をこなし、パートナーは殉職。
彼は…刑事と犯人の死神のような存在なのかと。
「だから、必要無いんだ。彼一人で十分…いや、過剰だからな。気にするな。理解しろとは言わん、納得させろ。わかったな?」
「…わかりました。」
よく分からない言葉でまくし立てられ、ショート気味の頭では上手く言い返すこともできず、川村はそのまましぶしぶとデスクに戻るのであった。
Q.須藤って強いの?
A.須藤のスペックは高い 須藤のスペックは。
クトゥルフの能力値で表すとこんな感じです。
str:18 dex:18 luck:???
app:13 pow:?? con:??
siz:15 int:?? edu:??