落ち着け、先ずは鋏を下ろそうか。   作:赤茄子 秋

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くっそ…激しい戦いだった…

だが、私は生還した…!!

引っ越しが忙しく遅れましたが、よろしくお願いします!


19話 ひばな散る

「…編集長、これは?」

 

城戸が見たのはいつもあわただしく電話や声が飛び交う職場では無かった。扉を開けて直ぐ、目の前には編集長を含めた全員が整列している。そして、整列の先にあるのは編集長のデスク。だが、OREジャーナルの社長である編集長は目の前だ。

 

では、誰に向けて整列しているのだろうか。

 

「真司…今日から、あい…」

 

編集長である大久保が指差す方向には一人の青年が居た。一目で上流層の住人だとわかる灰色のスーツ、整髪料で逆立つように整えられた黒い髪、遊び心を忘れない純粋な双眸、と言えば良く聞こえるがその遊びの方向が人道的とはとても言えないだろう。

 

その瞳がギロリと大久保を睨む、だがその睨みは威嚇とは違う。「わかってるよな?」という嫌らしいアイコンタクトだ。

 

「…彼が、社長だ。」

 

その言葉を聞いた真司は少しだけ頭を整理する。

 

目の前には社長であるはずの大久保編集長、だが社長は芝浦。つまり、大久保が社長を芝浦に譲ったという事である。

 

「はぁっ!?て、あり得ないですよ!何が起こったんですか!?」

 

無論、そんな事が起こるはずが無い。

でなければ元編集長である大久保も、整列している桃井も苦虫を歯で噛み潰したような顔をする筈が無いのだ。

 

「お宅のお客さんのデータ…全部、俺が盗んだの。セキュリティ甘過ぎ、今時こんなんじゃ簡単に盗られちゃうからね?」

 

そしてその原因を軽くデスクに足を投げ出しながら手元で何かを弄る芝浦、言葉の軽さとは裏腹にとんでもない事を言っている。流石のバカでも、城戸でも事の重要性を理解した。

 

「は!??は、犯罪じゃないですか!?」

 

芝浦は顧客情報を人質に、会社を乗っ取ったのだ。

 

芝浦自身、パソコンでクラッキングが可能な程の技術を持っている。だがOREジャーナルを狙ったのは仮面ライダーである真司が所属してるというだけでは無い。

 

「これから面白くなるよ~楽しみにしといてよね。」

 

歳に不相応の無邪気な笑顔、それは真司達には嫌悪感と不安感しか感じることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

外回りも大変だ。

 

そんな感想を抱きながらラーメン屋に押し入った強盗犯を引きずる須藤。

頬は大きく腫れ、目は白い。

この強盗の不幸は須藤がその店でラーメンを食べていたことだろう。

モンスターに慣れた男が人間など怖れる事は無かった。腹を抉る拳、その後に脳を揺らすように頭を殴打、そこで手錠をかけるというかなり刑事らしいのか刑事らしくないのかわからない日常を繰り返している。

 

「おい、しっかり歩け。(餌と勘違いされるから。)」

 

少し外に出るだけで引ったくりや食い逃げがそこらに溢れている。

 

調書や尋問等のよく分からない仕事は同じ刑事科に所属する若い刑事に全て押し付ける。成果も全部渡す、成果なぞ挙げて仕事が忙しくなると困るからだ。

 

なので若い刑事に渡すのだ、強引に。

 

須藤は他の刑事に嫌われている(と思い込んでいる)。

 

なら距離を近づけるべきではないかと思うだろう。

 

だが、須藤の場合は違う。外回りはモンスターのハンティングの時間でもある。正直に言うと、須藤は特命係等の自由な職場に居たいが、そんな事をしていれば職を失う可能性もあるだろう。

だが、クビになっても構わないと須藤は考えている。

 

このバトル・ロイヤルに巻き込まれた時点で、須藤は人生のドン底に居るのだから。

 

「よろしく」

 

「あ、須藤さ…」

 

本日三人目の犯罪者を押し付け、また外回りに向かう。

 

まだ昼を少し過ぎただけの空は青く澄みきっている。

こんな空を見上げていると煤けた心が少しだけ洗われていく、そんな気分だ。

 

「(あー、天気が良いなぁ…良いことあれば良いなぁ…)」

 

そんなフラグを回収するかの如く、プルルルと須藤のスマホが鳴り響く。

嫌な予感を感じながらも、画面を開くと【手塚】と表示されている。

 

「(いや、まだだ。まだご飯一緒に食べないか?とかのお誘いかもしれない。)」

 

ふぅ、と一息吐く。気持ちを少しだけ集中させ、何があっても動じない準備をする。

 

「(そんな、毎回ライダー関係とは決まってないよね?)」

 

そんな淡い期待を抱きながら通話をonにすると。

 

「もしもし」

 

「須藤、俺だ。城戸のカードの件だが…進捗はどうだ?」

 

ライダーの話であった。

 

だが、須藤はここで疑問に思う。話では皆で取り返す話だった(と思い込んでる)はずだ。

それが何故、須藤個人に進捗を尋ねてくるのか。

 

「(あ…あぁ…)」

 

そこでふと、須藤は気づく。

昨晩、自分は話を半分も聞いていなかった事に。

ここで素直になんの事だっけ?と聞くのも1つの手だろう。

だが、須藤はそんな事はできない。あの真剣な話し合いをしてた時に、何も聞かずに「問題無い。」と答えたのだ。

これで失う信頼は計り知れない。

 

「(…もしかして。俺はなんか準備とか頼まれてたのかな?)」

 

この場合、何を準備するかはわからない。

だが、自分に何かを頼んでいたのだろう。

その何かを聞き返すのもありではあった。

 

 

だが、須藤が導き出した答えは。

 

「明日までになんとかしてみる。」

 

当たり障りの無い回答をする事であった。

 

後に、激しく後悔することになるのである。

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

秋山が訪れたのはとある大学、その校門であった。大抵の生徒はここを通り、通学と帰宅をする。周りには活動が終わったサークルがチラホラと帰りはじめているが、人は少ない。

 

「…お前か、新しいライダーは。」

 

そこで門を横切ろうとする男の前に立ち塞がる。

長身に鋭い顔つきをした、黒いコートを着た男が立ち塞がれば普通なら萎縮してもおかしく無い。

 

だが、目の前の男。芝浦はそれどころか無邪気にわらっている。

 

「うん?そうだよ。君がスドウ?」

 

「…違う」

 

スドウという単語に秋山のこめかみがぴくりと動く。心なしか、不機嫌な表情が更に不機嫌さを増したようにも感じる。だが、そんな事を目の前の芝浦は気づかない。

 

少なからず残念と思っては居るが、目の前の秋山がライダーなのは雰囲気を見てわかる。

ゲームが無ければつまらない世界からリアルファイトの面白い世界に入り込む、これから楽しい遊びができるのに純粋な悪戯っ子が喜ばないわけがなかった。

 

「貴様程度、須藤が相手するまでも無い」

 

「良いね、やろうか」

 

お互いにデッキを見せ合い、蝙蝠とサイを表すエンブレムがキラリと光る。そしてどちらの目も秋山は静かに、芝浦はギラギラと滾らせていた。

 

 

二人は校内の外れにある男子トイレに向かった。

 

監視カメラも無ければ、人が通ることもない。

 

そしてひび割れた鏡を前に、二人は示し合わせたようにデッキを掲げる。

 

「「変身!」」

 

漆黒の鎧を身に纏う蝙蝠使いのライダー、仮面ライダーナイト。

 

赤い角を持ち、重厚なる白い鎧を纏うサイ使いのライダー、仮面ライダーガイ。

 

ミラーワールドに入ればただでさえ静かだった場所が、小鳥のさえずりさえなくなってしまう。

 

【SWORD VENT】

 

【STRIKE VENT】

 

二人は互いにメインウェポンを取り出す。

秋山は身の丈ほどの長さを持つ巨大な漆黒のランス。

須藤では持ち上げる事すら困難なそれを両手で構える姿は、歴然の槍使いである。

対して芝浦はメタルゲラスの頭をそのまま腕に装着しており、龍騎の【STRIKE VENT】に比べて頭は大きく感じる。

なにより、鋭く長い角は簡単にライダーの装甲を貫いてしまいそうだ。

 

「じゃあ、始めようか」

 

 

戦いが、始まった。




Q.遅かったけど、失踪しない?

A.受験忙しかった、今書いてる二作は完結させたいです。
ただ、評価が6よりも下がったら打ち切ると思います。
私の作品の拙さと、需要が無いと判断するからです。
なので、出来る限り頑張りますよ!!

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