激しい打ち合いが続く。
互いの重量級の武器は重みのある金属音を何度も響かせている。芝浦の一撃は地面を大きく抉るが秋山に届かない、秋山の攻撃は芝浦の装甲へのダメージを与えられない。両者は拮抗している。
だが、秋山は優勢だった。
「はぁぁ!!」
「ぐっ!」
長く、重く、使い慣れた獲物の秋山。
対して芝浦の片手に着けた獲物は片手で振るには重い、重すぎる。秋山のランスとさほど重量は変わらないだろう。
だが、バランス型のライダーである秋山と違い芝浦はガード型、パワー型と呼ばれるタイプであり。耐久力のあるライダーだ。そして、重い一撃を放つことのできるライダーだ。
スピードは無い、がパワーと耐久力ではナイトのスペックを遥かに凌ぐ。
それでも秋山が優勢なのは、上手く立ち回れてるからだ。バランス型とは器用貧乏とも言えるかもしれない。
だが、どれにも特化してないからこそ応用力が高い。
「くそっ…!」
「はぁっ!!」
秋山の攻撃には尖ったところがないからこそ、どんなに尖った相手にも勝機を見いだせる。
早くも無ければ、パワーも無い。だが、着実に相手へのダメージを蓄積させることができる。
3分がたつ頃には、芝浦は当たらない攻撃に腹をたてていた。芝浦が望むゲームは気持ちの良い戦いだ、常に命のやり取りが行われ、駆け引きがおこなわれる。
だが、これは駆け引きはない。淡々と作業のように攻撃してくるのはAIと変わらない。
攻撃されたダメージは大したことはないが、それでもストレスは溜まっていた。
つまらない戦い、駆け引きが無い戦い。
そう…思わされていた。
「うぉぉぉぉぉ!!」
そしてこの無茶な攻撃は芝浦の駆け引きの敗けを表してした。
最初から駆け引きが起こっていたのに、芝浦は気づいていなかった。焦りが体を惑わせた。
「ふんっ!!」
「ぐはぁっ!!」
大振りの攻撃を最小限の動きでかわし、全体重とスーツのパワーを乗せた攻撃を放った。
大きな隙を見せた芝浦に対処は不可能。
勝敗は決しただろう。
穿たれた衝撃は芝浦の足腰では吸収できず、そのまま大きく吹き飛んだ。
だが芝浦にダメージは大した事は無い。
胸部の装甲には少しだけヒビが入った程度のダメージだが、体への衝撃をふせいだわけではない。
背中から着地した芝浦は更なる大きな隙を見せていた。
「…終わりだ」
それを見逃す、秋山ではない。
即座に移動し、起き上がろうとする芝浦の首にランスを構える。狙うのは、当然であるが装甲が無いところだ。
芝浦は即座に反撃しようとするだろう。だが、どう足掻こうがこちらの攻撃の方が速いのは明らかだ。
「…はは」
乾いた笑いが木霊する。
自身と秋山にあった違いは経験の差と、見据えた相手の差だ。
須藤という規格外の存在との戦いを経験しているか、須藤という規格外の存在をどう感じているか。
この勝負は
「…っ!」
「はっ」
秋山の敗北である。
ランスを押し込むように首に穿つ、しかし刃先は他の装甲に比べて柔らかい首を貫くことはなかった。
僅かに逸れたのだ。胸部の装甲にランスは刺さったのだ。秋山は何故かわからない。使い慣れたランスで、少しだけ力を込めて貫くだけの動きなのに、外したのを。
秋山は理解していなかったのだ。人を殺すとは何か、恋人の為にライダーを、他人を殺すことを。
深層心理の中では、人殺しの自分は恋人と一緒に居ても良いのか?と。恋人に人殺しの秋山は、隣に居るべきでは無いのではないかと。葛藤していたのを、本人は気づいていない。なぜ外したのかを、気づいていない。
唖然としているのがその証拠だ。
そして、その大きな隙を逃す芝浦では無かった。
ランスを払い除け、立ち上がると同時に秋山の装甲を穿った。秋山には防御をする余裕は無かった。
自身の余りの想定外の行動に、心と頭は追い付いていなかったのだ。
そして、この瞬間に秋山の敗北は確定した。
秋山の与えたダメージは微々たる物だ。芝浦の装甲が全てを受けきったからだ。
では、秋山はどうか。ダメージは無かった。
だが、この一撃は秋山には致命的だった。
ライフが0になるまで戦いは終わらない、だがダメージはバトルの動きに比例していく。
局所的でも、そうでなくても、ダメージとは負わないに越したことはない。
秋山の受けた攻撃が致命的なのは、足や腕に当たらなかったことでは無い。腹に当たったことだ。柔らかいそこには内臓が詰まっている。内臓のダメージとは計り知れないものであり、大の大人でもうずくまり、動けなくなるものだ。少し小突かれただけでも余韻が残るのに、あの重い鈍器で穿たれたのだ。
秋山は動けない。
致命的なダメージを受け、地面に落ちたカナブンの様に手足が動いても立ち上がる気配が無い。
立場が逆転し、今度は芝浦が秋山に歩み寄る。
まだ時間はたっぷりと残っているからだ。
「君さぁ…覚悟もないのに、何でライダーなんかやってるの?殺す覚悟も無い人に、ライダーはやって欲しくないんだよねぇ…」
覚悟とはいつしたのだろうか。
ダークウィングとの契約をした時か、恋人が事故で目覚めなくなった時か、神崎士郎からデッキを受け取った時か。どれも、自分の覚悟があった筈だ。
だが、人を手にかける覚悟を…経験したのは初めてであった。
「ぐっ…ふぅ…がっ…」
秋山には反論する余裕は無い、ただただ痛みが収まるのを待つことだけである。
「終わりだね…」
そんな秋山を終わらせるため、ゲームを終わらせるために芝浦は大きく武器を振り上げ…
★★★★★
神崎士郎とは、何者なのか。
それを調べるのは妹である神崎優衣である。
調べると言っても、情報は皆無に等しい。
どうやってライダーやモンスターを、ミラーワールドを作り上げた。もしくは、ミラーワールドへの扉を開いたのか。
神崎優衣は何も知らない。
どこで研究をしていたかも、どんな実験があったのかも、何もかもがわからない。
そもそも、幼い時に両親が亡くなって別れてから出会っても居なかった。そして、いつの間にか行方不明になっていた。
だが、手掛かりは一つだけあった。
その手掛かり…何処かの洋館とそれに写る子供の写真を片手に街をさ迷い歩く。
これは神崎優衣が暇な時にやる事であり、今も暇だからさ迷い歩いていた。
だが、今回は違う。
「…ここだな」
「そうみたいですね」
手塚海之、占い師である彼は写真を占う…ような事はできない。できるのは人の運命を見ることだけである。
だが、それでも占い師とは人を見破る職業の人間だ。
洞察力は高く、それはこの僅かな証拠からも見つけ出していた。
写真に写る窓、そこには緑色のラインが入った電車がある。更に、ネットでこの電車は何処を走っているのかも判明した。とあるサイトで即座に分かるのに神崎優衣は驚いていた。
運行年数や、場所の考察までしてくれるのだから圧巻である。
そして導かれたように、向かったのは古びた洋館だ。
外観も老朽化した点以外は差ほど変わらず、違うところは窓が全て割れ、その代わりに新聞紙で覆われていることくらいだ。
「…行くぞ」
だが、二人は少しだけ覚悟している。
写真の日付は10年以上前、対して写っている電車の運行が開始されたのは2年前。おかしな順序だ、それと聞いた話ではずっと昔からここの洋館は変わってないらしく、窓は無かったのだ。
近所の子供が入り込んだ時の物ではない。更に他のサイトでこの写真について調べて貰うと(何故かその道のプロが居り)、この写真は合成では無い事もわかった。
つまり…これは、真実を写している。
だが、矛盾している。
ならば…ここには何かある、そう確信せざるをえないだろう。
「はい」
見学ということで鍵を借りたのだが、何故かここの敷地を所有する不動産は二人だけで行かせた。
何故かはわからないが、特別な理由でもあるのだろう。
中は開放的で、しばらく手入れをされてないようで埃まみれで。クモの巣も張っている。
「油断しないでくれ、何が起こっても不思議じゃない」
そう言うと、二人は二階と一階で探索を分かれた。
何かが起こっても、この距離ならば1分もかからないので心配無いだろう。
手塚は優衣を見送りながら、一階の小部屋へ向かう。
これから探索が始まる、だが手塚の頭から払拭できない物が残る。
人の運命を見ることができ、見てきた本物の占い師。それでもわからないのがある。最近では須藤が一番だろう。
だが、また新しい奇特な運命を見てしまっていた。
「(神崎優衣…君は何者なんだ)」
★★★★
北岡は拘置所に来ていた。
死刑確定者が居る場所、または刑事被告人と呼ばれるまだ刑務所に送られる前の犯罪者等が居る場所でもある。
古びたパイプ椅子をギイギイと鳴らし、足を組みながら手元に写真や法廷で使われた書類が綴じられた資料を閉じる。
閉じる間際に中からチラリと見える赤い一色の凄惨な写真も見えるが、北岡の目の前に居る男は死刑確定の犯罪者…いや、北岡が死刑にしなかった犯罪者だ。
「懲役10年…良い落とし所でしょ。」
浅倉威(あさくら たけし)、数々の悪逆非道の事件を起こし、やっと捕まえる事ができた極悪犯罪者である。
今回の事件も、ナイフでコンビニの店員を襲い惨殺した。彼に人生を狂わされた人間も少なくないだろう。
「何で無罪じゃない?弁護士だろ?」
だが、目の前の浅倉はキレていた。
10年、たった10年だ。数々の犯罪を起こし、数々の人を殺し運命を狂わせた犯罪者がたったの10年である。
何処に不満があるのか。
それは認識の違いだろう。弁護士ならば無罪にできて当たり前という事、自身が犯罪を起こしてるはっきりとした自覚も反省も無いことだ。
「俺以外なら死刑だから。結構グレーな事もしたし、これ以上は高望みじゃないの?」
北岡も大きくため息を吐く、両者に価値観の差がありすぎるのは北岡も自覚していた。
かと言って、この差を埋めるつもりは無いのだが。
「第一…イラついたからって、理由も意味わかんないし。」
理解はできない。こういう奴だと納得はできても、理解する事はできない。
ここで話すことはもう無い、そして意味がないと素早く判断した北岡は荷物を纏め始める。
元々少なかった荷物は直ぐに鞄に仕舞われ、椅子を立ち上がるとドアに向かって真っ直ぐに歩き始める。
「今はお前にイライラしてるぞ…俺を捕まえた刑事よりもなぁっ!あぁっぁ!!」
怒声をあげ、両者を隔てる透明な壁を大きく揺らす。ギシギシと音は立てているが、それを壊す前にその怒声に警官達が駆けつける。
北岡の後ろでは激しい揉み合いになっているだろう、そうわかるだけの怒声と騒音が響いている。
「お前とは2度と会いたくないね。」
後の事は警官に任せ、北岡はそう呟いてから部屋を後にするのであった。
★★★★★
「ああっぁぁぁぁ!!」
監獄で暴れる、無茶苦茶に暴れる。
だがどれだけ蹴りつけようが、殴り付けようがコンクリートでできた監獄に傷はつかない。
精々、僅かな染みが残る程度だ。
「イライラする。刑事も弁護士も。あぁぁぁぁ!!」
だが何度も何度も自分の鬱憤を晴らすために、暴れまわる。毎度の事なのか、それとも休憩でもしてるのか。止めさせに来る人間は居ない。
だが、突如としてピタリと浅倉の動きは止まる。
拳を下ろし、牢屋の外。誰も居ない筈のその方向に向く。
「…誰だ」
野生の勘とでも言うのだろうか。
何かが居るのは把握していた、だが何かもわからないし、何も見えない。しかし、瞬きをした次の瞬間にその男は居た。
茶色いコートを身に纏う、彫りの深い男だ。
しかし、その男は一人だけでそこに居た。
面会ならば付き添いは居る筈だ、牢屋の中から攻撃されても対応をできるように、万が一にも脱獄しても対応できるように。
ならば、刑事か?そう浅倉は考えると晴らした鬱憤が溜まり始める。しかし、目の前の男は…いつの間にか、隣に居た。
浅倉は僅かに驚くが、男の発した言葉で更に驚く。
「ここを出してやる。」
「…何だと?」
浅倉にこんな奴の面識はない。面識があるからといってフレンドリーになる浅倉ではない。そして、浅倉はきれていた。何故なら【刑事っぽく見えてイラついた】からだ。
「ふっ…あぁぁぁぁ!」
浅倉の不意打ち気味の拳が襲いかかる。
自分をイラつかせたそのモノに制裁を加え、自身の鬱憤を晴らすために。
ドスンッ!と鈍く思い音がひびきわたる。
この力で殴られれば、顔は歪み骨折は免れないだろう。
しかし、浅倉の手にあるのは鈍いコンクリートを殴った痛みだけ。そして目の前に居た男は。
「…出れるのか?」
浅倉の真後ろに居た。
浅倉にはわからないが、こいつは妙な力を使う。
この妙な力は何かはわからないが、そんな事はどうでもよかった。
ただ、浅倉を貶めた奴等に復讐できるのではないかと。脱獄すれば、逆恨みの復讐を果たせるのではないかと。
本人に逆恨みの自覚が無いのは質が悪いが。
「俺がここに居るのが、その証拠だ。」
Q.何話までで完結しそう?
A.100はいかないかなぁって感じてます。
★★★★★
人物紹介
須藤雅司(すどう まさし)
仮面ライダーシザース、に憑依してしまった主人公。余りのスペックの弱さに絶望しながらも健気に戦います。
城戸真司(きど しんじ)
原作の主人公、仮面ライダー龍騎。人を守るためにライダーになるが、他のライダー達の戦いに自分はどうすべきかと苦悩する。須藤の舎弟1号。2号はまだ居ない。
秋山蓮(あきやま れん)
仮面ライダーナイト、原作で須藤を倒した男。
須藤には警戒し、実力を認めている。
神崎士郎(かんざき しろう)
ライダーバトルのゲームマスターであり、原作でも黒幕。須藤に対しては対して接触はしてないし、警戒もしていない様子。
神崎優衣(かんざき ゆい)
士郎の妹で、兄について独自に調べている。
手塚海之(てづか みゆき)
仮面ライダーライア、奇特な存在感を放つ須藤に興味を持っていると、後にライダーとして知り合う。
北岡秀一(きたおか しゅういち)
仮面ライダーゾルダ。職業は弁護士であり、彼が白と言えば白、黒と言えば黒となるほどの腕前である。
須藤に惨敗してる。
芝浦淳(しばうら じゅん)
仮面ライダーガイ、金持ちのボンボン。楽しければそれが非人道的でも法に違反していても行う。
現在は須藤を新たな遊び相手として狙ってる。
浅倉威(あさくら たけし)
仮面ライダー王蛇、まだ本編にライダーとしては出てない。原作では最もライダーを殺したライダー。非常に危険な犯罪者であり、とある人物に復讐を誓う。
桃井令子(ももい れいこ)
OREジャーナルに所属するジャーナリストで、行方不明事件について調査している。